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19、真実は悪役令嬢だけが知っている
しおりを挟むキャーキャーと子供の元気な声が響き渡る。子供ってのは本当に元気だ。無限に。
そして私はいつの間にか子供への苦手意識が無くなっていた。凄いなあ、子供って。
「むぎぎぎ、い、いい加減降りなさいよ、あんた達」
「えーオバチャン聖女なんでしょ?体力なーい!」
「オバチャンだからかー、オバチャ~ン!」
凄いなあ、子供って。あのぶりっ子を振り回してるよ。
「聖女候補よ!」
「さっきは聖女だって言ってたじゃないか!嘘つきー!」
「嘘つき嘘つきー!嘘つきは聖女になんかなれないよ!」
「ムキー!うるっさいわよ、あんた達!」
もしもーし、子供に好かれると豪語してたそこの聖女候補~!素が出てますよ!ほら猫かぶってかぶって!
いや~ほんと子供って凄いわ。あのぶりっ子が聖女であることを否定したがってるセリフなんて初めて聞いたわ!あんな顔、初めて見たわ!
いやあでも凄いよ、ぶりっ子。体力あるもん。もう私はへばって休憩モードだってのに。
凄いなあ。
「ねーねーベルシュ様あ、もっかい肩車してー!」
「ああいいよ!」
「ずるーい、私も私も~!」
「いいとも!順番にね!」
無限に体力ある人その2、王太子。
凄いな、延々と子供の相手してるよ。
凄いな、いつの間に来て馴染んでんだ。ほんといつ来た。恐いわ。
「ねえベルシュ様、あのオバチャンが彼女なの?」
「おばさんではないよ、アンナは私の可愛く愛しい婚約者だ」
凄いな、もう子供にそこまで情報出回ってるとか!
「嫌だあ、ベルシュ様のお嫁さんは私がなるー!」
「違うよ私だよ!」
「え~僕だよぉ!」
凄いな、モテモテだよ!性別無視な声まで出てるよ、凄いわ!
「ほらアンナ、気を抜くと私を取られるよ?ちゃんと私のこと捕まえておかないと!」
何ちゃっかり私に自分を売り込んでんだよ!恐いわ!
凄い凄いと連呼してる凄くない私がいますよ。もうどれくらい子供の相手してるだろう?体力ある二人に感心していたら。
「お疲れ様です。子供の相手は大変でしょう?」
社会人のセリフよろしく、司祭様がやってきた。
「いえそんな……みな元気で可愛らしいですね。毎日子供達のお相手をされてる司祭様達を尊敬します」
「いえいえ、いつもはこれほどではないのですが。お客様が来られて子供たちも喜んでるのでしょう」
「お客様だなんて……私たちはお手伝いに来たのですから。どうぞいいように使ってくださいな」
ぶりっ子を。
と心の声は隠しておこうと思います。
「そうですか……実は少しお願いしたいことがあるのですが」
何気なく言った言葉に、司祭様が反応したのは直後のこと。
「これが鐘ですか」
「はい、立派でしょう?」
「そうですね、大きくて立派ですね」
目の前に置かれたのは教会の鐘。
教会の一室に置かれたどでかい鐘を目の前に、私と王太子とぶりっ子が立っていた。そして司祭様がその鐘を撫でている。大切そうに。
なぜ床に置かれてるのかというと、この鐘が変なのだという。
「どう変なのですか?」
聞いたのは王太子。子供たちはオヤツの時間ということで一旦離れた。一緒にオヤツを食べに行こうとしたぶりっ子は当然一発しばいときましたけど。
司祭様のお願いごと。それは教会の鐘を見て欲しいとのことだった。
鐘を見て欲しい?鐘ってあのゲームのタイトルにもなってる鐘だよね?ぶりっ子ヒロインが聖女となるのに重要な役どころのあれ。それが何で教会にぶら下げられてないでこんなとこにあるんだろう?
不思議に思って首を傾げていると。
「実は鐘が鳴らないのです」
と奇妙な事を言われたのだった。
「鐘が……鳴らない?」
はて?それはどういうことだろうか?見た感じ普通なのだが。
更に首を傾げてると、司祭様がおもむろにゴムハンマーを取り出した。どこに持ってたそれ。
司祭様はそれを思いっきり鐘に!
「せいやっ!」
いい掛け声と共に振り下ろした―!
が。
ゴッ
なんとも鈍い音がしただけで、鐘らしい音が全くしなかったのだ。え~なにこれ。
いくら床に置いた状態とは言え、これだけ思いっきり殴ったのだったら多少なりともゴンと鳴ってもいいものなのに。
なんか重たい物が床に落ちたような音がしただけなんだもん。
「ふむ……確かに鳴らないな」
「はい、この鐘は大昔、聖女様の祈りが込められた特別な鐘なのでございます」
はいピクリと動いた。横のぶりっ子が反応したよー。聖女って言葉には過敏なのね。
「この鐘は平和の象徴であり、とても不思議で特別なものなのです。別に吊るさなくても……このように床に置いた状態でも、叩けばとても美しい音が響くのですが──それが急に鳴らなくなってしまったのです」
ほほう、それは珍妙な。
「いつから鳴らなくなったのですか?」
「ここ数ヶ月でしょうか……」
「数ヶ月……」
まあ私には分かってるのだけど。
鐘が鳴らなくなったのはぶりっ子がこの世界に来てからだろう。そして──
「それはつまり、私こそが鳴らす事が出来るってわけね!」
こんな時だけ勘のいいぶりっ子が嬉しそうに前に出てきた。わざわざ私を押しのけて王太子にピトッとくっつくんじゃねーよ。
でもま、正解なんだけどね。
鳴らなくなった鐘──昔の聖女が特別な祈りを込めた鐘。まんまゲームの通りですよ。これを主人公ヒロインが触れた瞬間とても美しい音色が響いて、そしてぶりっ子は正式に聖女に……とまあなるわけなんだが。
ここは黙っておこう。ぶりっ子はこのゲームを知らない、だからイベントを知らない。
ここで本当に鐘を鳴らす事が出来たなら、聖女となるのだろう。それはけして私が手出しすべき事ではない。これは本当にぶりっ子の実力でやり遂げねばならないことなのだから。
そっと私は後ろに下がる。後ろからぶりっ子を見守る。
そうして見ていると、ぶりっ子はああでもないこうでもないと悩みだしてた。
「んっとぉ~、こうかな?」
ペトッと鐘を触ってみる。無反応。
「あれれぇ?こう?」
ガッと両手で抱きつくように触ってみる。無反応。
「うみゅ~、じゃあこれは?」
ソッとおでこを当ててみる。無反応。
「ふにゅう、これなら?」
チュッと口づけしてみる。鐘がショックで割れるんじゃないか?と心配になる。無、反応!
どうでもいいけど、いちいちぶりっ子語でキモイこと言いながらでないと出来ないのか?鐘が鳴る前にこっちの頭がガンガン鳴り出しそうなんだけど。頭痛になるわ。
「──何よこれ!鳴るわけないでしょこんなの!」
キレたぁ!王太子と司祭様の目があるんですけど。キレたよこの人!
「分かった、これは偽物よ!誰かがすり替えたの!はいこれでおしまい、万事解決!」
ええええ~!なんつー投げやりな!
呆然とする司祭様を置いて、ぶりっ子は部屋を出ようとした。
いいのそれで!?
このままだと正式に聖女になれないよ!?
いいの!?
──いいのか。
別にこの国、聖女が必要なひっ迫した状況でも無いし?居なくても困らないし?何となく居たらイメージいいよね~って国王の考え、あれが全てな現状だし?
てことはいいのか!要らないや聖女!
よし帰れ!もう帰っていいよ、ぶりっ子!
なんか清々しい気持ちでぶりっ子を見送れますよ私!
などと思ってぶりっ子が横を通り過ぎるのを黙って見ていたら。
「──なんか怪しいわね」
真横でピタッと立ち止まった。
怪しまれてしまいました。
「ここであんたが何も言わないなんて……さてはこれ、原作で意味のあるイベントね?そうでしょ!?」
い~や~!なんでこんな時にだけ鋭くなるかなあ!
「はて何のことやら」
「絶対怪しい!見てなさい、見事イベントクリアしてやるんだから!」
「二人とも、なんの話してるんだい?」
王太子が不思議そうに見て来たけど、ぶりっ子は無視だ。野生の勘か、これが重要であると完全に気付いている。ちっ。
「つまりあれね、この鐘を鳴らす事が出来ればいいのよね!」
「は~そうですかそうですか」
「……」
なぜ黙る。
「──この鐘を鳴らすのはわた~し~♪」
「うぉぉぉぉいっっ!!」
なに言うとんねんお前えぇ!!!!
沈黙はそれか!ちょっと考えてから言うな!!悩むなら言うな!
と、おもっきしドーンッ!と突き飛ばしてやった。ボケたんだよね!?じゃあこれツッコミだし!!
ここで突っ込まずにいつ突っ込む!と思いながら突き飛ばしたぶりっ子は。
勢いのままに鐘に突撃していって。
ゴ~~~~~~~~ンッ!!!!
「え」
「え」
「え」
どの順番に誰が言ったとかどうでもいいけど。
私も司祭様も王太子も呆然としてしまった。
あまりにいい音が鳴り響いたんだもんなあ。
「────!!っっっにすんのよぉっ!」
「やったじゃない!鳴ったわよ、鐘!!!!」
おでこを真っ赤にしてぶりっ子が突進してきたから。
ドーンとまた押し返してやったわ!
ゴ~~~~~~~~ンッ!!!!
う~ん、いい音!
=====作者の独り言=====
やばいのかな、このネタ。
注意が入れば削除or修正します(汗
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