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32、呪文を唱えたい悪役令嬢です
しおりを挟む私の提案はぶりっ子には却下されたが、ベルシュ様やゾルゼンスにはアリと思われたようで。へたってるぶりっ子親衛隊を除いた全員が臨戦態勢に入った。
勿論、本気で死んで良いとは思ってないけど、怪我してもオッケーな態勢だ。まあ怪我くらいなら治癒できるからね……少しは痛い思いした方がいいと思うのよ。そもそも魔王封印しなかったぶりっ子聖女の落ち度なんだし。ちったあ反省しろ。
そんなこちらの動きに気づく魔王、そして配下のゴブリン・ガーゴイルたち魔物。
いくらベルシュ様やゾルゼンスが強く、勝てる戦いと分かっていても無傷で居られるわけはない。犠牲が出るのは必須だ。知らず汗が伝いゴクリと喉が鳴る。
背後では結界に入った人々の避難が始まっていた。また、何も知らずに眠る国民の平和を守るべく動く者たち。
魔王との衝突の気配に、その場がピリ……と張り詰めた空気で支配された。
ここで冷静になる。
……いや私、一般人なんですけど!
ぶりっ子に色々技かけたり物ぶん投げたりしてますけど、基本無力ですから。剣も魔法も使えない素人なんですけど!え、何これ私ここで死亡なの?あ、父と兄が手を振りながら去って行く。えええええ、それでも家族かあ!
ベルシュ様とゾルゼンスというこの国最強二人の側が一番安全て?いやいや、ぶりっ子より巻き添え死する可能性高いんですけど!
え、異世界転生した悪役令嬢って普通は優秀で強い能力持ってるだろうって?そんな普通知りませんがな!
なんで異世界転生した悪役令嬢の方々って優秀な人多いんだ!私みたいな無能はどうすれバインダー!……いかん、錯乱して思考が意味不明になってるわ。
とりあえずこの動きにくいドレスどうにかしたい。散々動き回ってビリビリのボロボロだけど、まだドレスの形を保っていて邪魔なことこの上ない。どうすれバインダー。
「ちょ、これ着替えないの!?」
テンパって馬鹿なことを聞いたら
「あるよ」
「あるの!?」
まさかのゾルゼンス即答!なんで?どこに隠してる!?
「そんなの魔法で──はい」
言うが早いか、女性騎士が着るような、動きやすくかつ丈夫なパンツスタイルの服になった。やだカッコイイ!剣でも腰に差して形だけでも女騎士になりたい!剣無い?どっか無い?無いね、うん知ってた!
この世界は純粋なファンタジー設定かと思ってたけど!まさかの少女漫画世界の魔法設定!?
「もしやゾルゼンス様は魔女っ子……」
呪文で変身してる魔女っ子じゃないよね!?
奇異な目で見てたら「何言ってんの」と一笑に付された。スミマセン、妄想が暴走しました。もーそーぼーそーよーそろー。可愛い魔法の杖とか鏡無いのかな。
「呪文はパンプ…か、テク…か「ゲフンゲフン!」ラミ…か、ムーン…「ゲエエッフンンッッ!!!」……なんだ、うっさいな」
「ゲエッホゲホォッ!!!ちょっとそこのイカレ悪役令嬢!自由人にも程があるわ!削除されたらどうすんのよ!?」
「削除てなんだ。そもそも私が出すネタ元がなぜ分かる?さては貴様、実は結構いい年だな!?」
私は前世、それなりの年齢で永眠したんだ!よく覚えてないけど!若く見えるが実はぶりっ子も……
「あたしは純粋な17歳よ!名作はいつまでも名作として残るから知っててもおかしくない……って、なんの話よおぉ!?」
自分がふったんじゃないか。でもそうかぶりっ子は生粋の17歳か、そうかそうか若いね、羨ましいね、そのまま爆ぜてしまえ。まあ私も今は純粋な17歳だけどな。爆ぜないけど。
「みな陣形を整えろ!魔王も魔族も全て逃がすな、殲滅するぞ」
そんな私達の馬鹿なやり取りは放置でベルシュ様の指示が飛ぶ。スミマセンね緊迫感無くて。
「ちょちょちょ!ベルシュ様、あたしは!?」
「聖女ならば自分の身は自分で守りなさい」
「嘘おん!?」
ベルシュ様の冷たい言葉にさすがのぶりっ子も悲鳴をあげた。ムンクになってるムンクに。
「大丈夫だ我が妻よ。其方は我が守る」
「い~やぁぁ~!!」
もうイケメンな台詞吐く魔王にキュンしとけよ。お似合いだよ、それで世界は平和になる。
「ちょっと魔王!あんた世界を滅ぼす気無くなったんでしょ!?だったら和平交渉しなさいよ!」
「滅ぼさぬが人間は我ら魔族の糧だ。苦しみこそが我の空腹を満たしてくれる」
「んのおぉぉぉ!!」
うっさいやっちゃなあ……誰かあのぶりっ子黙らしてくれんかね。
何かもういい加減この騒動に飽きてきたので(ひどい)、そろそろ収拾つけたいんですけど。バトルするなら早く終わらせてください。眠い。
完全に他人事で成り行き見守っていたら。
どうやら私の願いが届いたようだ。
バサリ……
黒い翼をもった男性が、突如降り立ったのだ。
魔王と人間の間に。
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