45 / 74
44、悪役令嬢だって超シリアス!
しおりを挟む『公爵令嬢アンナシェリ!貴様は大罪を犯した!よって斬首刑と処す!』
目の前には冷酷な宣言をするベルシュ様。
右手はバッと私に突き出され。
左手は──
『アンナ様、私にあんな酷いことばかりして……うう、酷いです』
ベルシュ様に腰を抱かれた、異世界より舞い降りし聖女──ミサキ。
彼女は王太子にしなだれかかりながら、よよよと涙を流していた。
「そんな!違います!私は何もしていない!」
そんな私の言葉など、誰も聞いては居なかった。
『酷い女だね、君は。ミサキに随分酷いことしたんだってね?階段から突き落とすなんて……一歩間違えれば死んでたよ?そりゃ処刑にもなるさ』
「ゾルゼンス!?」
『お前のような女が姉になるなど考えただけで吐き気がする!ミサキは処刑は酷いと言ってたけれど、これでも生温いくらいさ。苦しめてとことん苦しんでから死ねばいいのに』
「テリス、あなた……」
『おお恐ろしい。このような悪女は見た事が無い。もはや魔女ぞ。魔女が王妃になど考えただけでも恐ろしいわ!』
『そうですわね、あなた。この娘は生かしておけば何をするか分からない。早く──今すぐにでも処刑なさるのがよろしいわ』
「王──!……王妃様……!」
誰も私の話を聞いてくれない。
誰も私の無実を信じてくれない。
みんな私を悪女だと、魔女だと責める。ののしる。断罪する。
そうして絶望の淵に立たされた私の目の前に、ベルシュ様がゆっくり歩み出る。
その手には剣が握られていた。
「ベルシュ様!?」
『死ね、アンナシェリ!!』
私の叫びと。
王太子の叫びが交錯し。
剣が頭上に振り下ろされた────!!
※ ※ ※
「きゃあああああああああああああああああ!!!!!」
自身の叫び声で、私はガバリと体を起こした。
肩を揺らしながらハアハアと荒い呼吸。
額に髪が張り付いて気持ち悪い。汗びっしょりになってるのが分かった。
そうしてゆっくりと視線を周囲に向ける。
見知った屋敷の中庭。
夕焼けを背に、驚いた顔でコチラを見ている面々。
彼らは一様に、私を心配そうに見ていた。いや、実際心配してくれてるのだろう。
「アンナ!?大丈夫かい!?」
血相を変えて真っ先に走り寄ってきたのは、今は国王となったベルシュ様。政務はいいのですか?と聞こうとして、喉がカラカラで声も満足に出せない事に気付いた。
「お嬢様、これを」
すかさずメイドがグラスに入った水を差しだしてくれた。ありがとうとお礼を言って、それを私は静かに飲み干す。それをみんな黙って見守ってくれている。
飲み終わり、グラスをテーブルに置く。
ほう……と息を吐いた。
少し、落ち着いた。
まだドキドキしてる心臓を押さえて、目を閉じて。そして開く。
やっぱり見える景色は変わらない。
私を心配げに見つめる彼らが、そこに居た。
「大丈夫、アンナ?」
「はい、ベルシュ様。……あの、お仕事はもういいのですか?」
聞くと、ふわりと優し気に微笑まれた。
「もう今日は終わったからね。アンナに会いたくて来てしまったんだ」
その言葉に私も微笑みを返す。
「はい、タオル。どうしたんだ、悪夢でも見たか?」
頭にフワフワのタオルが乗せられた。以前服を出してくれたように、このタオルも出してくれたのだろうか。
ゾルゼンスの好意をありがたく受け取り、私はタオルで汗を拭いた。本当は全身びっしょりだから、今すぐにでも流しに行きたいところだけど。今は我慢しよう。
「ちょっと……恐い夢を見ました」
そう言った私の顔は、きっと弱々しい笑みになっていたに違いない。
ポンポンと頭を撫でてくれる優しさに、涙が出そうになった。慌ててタオルで顔を拭くフリをする。
「夢魔でも出たか?アンナに手出しするような愚か者には、私が厳しい罰を与えておこう」
そんな私からタオルを取って優しく拭いてくれるのは、魔王弟ケアミスだ。
「ぎゃう?」
心配そうに顔を覗き込んでくるのはカルス。
私はカルスをギュッと抱きしめた。現実だと実感したくて……その温もりが、これを現実だと教えてくれる。
抱き締めながら、何度も考えたことをまた考える。
終わったんだろうか。
本当に、全て終わったんだろうか。
ミサキは神殿に入った。学園は平和になった。
私は、もう、悪役令嬢じゃない。
それでも不安は消えてくれない。
何かあるんじゃないかと、ふとした瞬間に恐くなる。かつて死を覚悟した。その覚悟が、今なお私に纏わり付く。
そうでなければいけないと。
デスエンドにならなければいけないと。
心の中の誰かが呟くんだ。
だから本当は学校も辞めて、ひっそり田舎暮らしでもしたいのだけど。
「落ち着いたかい?」
優しい声のベルシュ様。
「今夜は寝るまで側に居るから安心するがいい」
柔らかな笑みをたたえるケアミス。
「何なら添い寝してあげようか?」
悪戯な笑みを浮かべウインクするゾルゼンス。
彼らの優しさが嬉しくて。温かくて。
「みんな、ありがとう」
私は少し安堵して、心からの笑顔を浮かべた。
のだけど。
「…………」
「…………」
「…………」
「え。な、何?」
なぜか黙り込んで凝視してくる三人に、なぜか胸がざわつき焦る。
え、私何か変なこと言った?どうしてみんなビックリした目で見てるのだ?
「……初めて見た」
「え、ベルシュ様何か言いました?」
「う~ん、確かに。アンナの満面の、心からの笑み……俺だけが見てたなら良かったんだけど」
「ゾルゼンス?」
「その笑みは魔族の私をも浄化しそうだな。何とも……眩しい」
「は?え?ケアミス?」
え、何言ってんの、この人達。目が腐ってんじゃないか?
妙なこと言う三人にたじろいで、立ち上がった私は後ずさる。何となくこの場を去りたいな~なんて。
「アンナ、今宵は私と過ごさないか?」
「何言ってんだ、お前は相手にされてないよ、王様。俺と一緒が一番安心だぞ、アンナ」
「人間界はどす黒く濁っている。闇一色の魔の国はむしろ安心できるぞ。私と共に来い、アンナ」
えーえーえー。
やだこの人達、変なスイッチ入ってる!なんで?どうして?
顔がヒクつくのが分かりながら、私はこの場をどう切り抜けようかと頭を悩ませていた。当然、誰の手を取る気もないからね!
三すくみならぬ四すくみ?
誰もが見えない牽制をしつつ、どう動くか悩んでいた。
その時だった。
ヒュルルルル……
「──!────!」
ん?何か聞こえるような?
「──いて!そこを退いてえぇ!!」
え、上?
突如降ってきた声に顔を上に向けて。
直後。
「ふぎゃああぁ!?」
衝撃と共に視界が暗転するのだった──
11
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる