ぶりっ子男好き聖女ヒロインが大嫌いなので悪役令嬢やり遂げます!

リオール

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番外編-恋愛end~ゾルゼンスver.(中編)

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(見事に攫われたなあ……)

 私の呟きは、馬車のガラガラ音にかき消される。というか、声に出せない心の呟きだから誰にも聞こえない。

 貴族令嬢からただの旅人になったアンナシェリです、こんにちは。

 わたくし只今──誘拐されてます!




 まあフラグは立ったし。
 そりゃこういう展開にもなるよね、うん。

 ガラガラと響く馬車の音。
 私はというと目隠しされて猿ぐつわされて。でもって両手両足共にロープで拘束されてたりする。イリュージョンなら種も仕掛けもありますが。残念ながら何もございません。
 何の特技も能力もない私には脱出不可能ってやつですね、はい。

 魔が差したってわけじゃない。
 村を出て。
 次の目的地目指してたんだけど。
 教えてもらったロフイン山脈って、たしか美味しい泉が湧き出る事で有名らしい。

 などとガイドブック(…)片手にゾルゼンスと話してたんだ。てかなんでか結局一緒に行動してたし。

 でも危ないって話だからどうしようか……と悩んでいたら。

「じゃあ俺が汲んできてあげようか?」

 とゾルゼンスが素敵な提案をしてくれたのだ。

 とはいえ、付いてくるな!と何度も言った手前お願いしにくかったりする。
 しかもそれって何かいいようにゾルゼンスを利用してる感じがして、どうにも嫌だったりもした。

 だけど。

「いいんじゃないの?利用できるもんは何でも利用しとかなきゃ」

 と、何だか経験者というかそれが常なのか?と思うくらいにおっそろしく飄々と言われてしまえば。

 なんだか難しく考えるもんでもないかな?と思えてきてしまうから不思議なものである。
 なのでお願いした。

「お願いしゃす!」
「いいよ~。その代わり何かご褒美頂戴ね?」

 などとのたまってニヤリと笑って去って行くゾルゼンスを見て。激しく後悔したのは直後のことだけれど。

 しまったなあ、まずったなあ。何お願いされるんだろう?
 一生下僕とか笑えない!

 山脈が目の前に見える森の中で。
 ゾルゼンスに「ここから動かないでね?」と言われたその場で待ちつつウロウロしていた私は、多分考えすぎて警戒心が抜けていたんだと思います。

「きみ、こんな所で何やってるの?」

 突如茂みから現れた人物に心臓飛び出しそうなくらいに驚いて。──多分半分くらいは飛び出てたと思う。
 悲鳴を上げそうになったら、慌てて口を押さえられてしまった。

「わわわ!ごめんごめん、怪しい者じゃないから!俺はこの森で仕事してる木こりなんだけど。こんな所に女の子が一人で居るなんて……どうしたの?迷った?」

 見れば人の良さそうなべそ眉に柔和な目をした優し気な青年だった。
 確かに顔に似合わず筋肉ムキムキ、マッチョな風体も木こりっぽい姿をしている。

 緊張の後の脱力感に襲われて、思わずその場にしゃがみこんでしまった。

「ああ、いえ……連れが居るんですが。ちょっと色々心配なことがありまして」
「お連れさん?どこに?」
「いや、今はあそこのロフイン山脈に行ってまして……」

 言って目の前の山を指差したら、凄い顔で驚かれてしまった。

「ロフイン山脈に!?あそこは盗賊の巣窟だって知らないの!?俺でさえあそこには絶対近づかないし夜はこの森にも入らない。危ないんじゃないか!?」

 いやまあ知ってるんですけどね。
 何せ世界最強の魔法使いが向かってますもんで。
 むしろ奴が帰って来てからの我が身が心配です。

 などと言えるわけもなく。

「まあ……腕っぷしは強い人なので大丈夫かと」

 だがそれでは木こりの青年は納得してくれなかった。

「大丈夫なもんか!あの盗賊は普通の盗賊とは違うんだよ!?なんでも元は魔塔に所属していた魔法使いなんかも居るらしくって、相当な手練れの集まりだと聞くよ!討伐隊が何度向かっては全滅させられたことか……!」

 噂を思い出したのか、青年は青ざめた顔でブルリとその身を震わせた。

「悪い事は言わない、キミはすぐに近くの村へ避難するんだ。連れは俺が探しに行くから。大丈夫、俺は盗賊の行動範囲は経験上知ってるから、どの辺が安全かも熟知してるからね!」

 そう言って向かおうとするので慌てて止めた。

 いやいやいやいや!
 それでもゾルゼンスに万一の事なんてないから!むしろ貴方が危ないです!

 と言っても納得してくれないよなあ。
 どうすればこの人を納得させられるだろう?

 悩んで、ふと私は肩にいるカルスの存在を思い出したのだ。

「あ、そうだ。この子……えと、使い魔みたいなもんなんですけど。この子を連れのとこに呼びに行かせます。きっとこの子が連れを私の所に戻してくれるだろうから」

 そう言えば、怪訝な顔をされてしまった。

「使い魔?キミも魔法使いか何かなの?」
「いや、正確には私のじゃないんですけどね……」

 ぶりっ子が呼んだんだけど、なんでか私に懐いて……ってめんどくせーなぁもう!!!!

「とにかく!私は村に戻ります!連れはこの子が呼び戻します!それでオッケー!?」

 やけくそになって叫んだら、やっとこさ納得してくれた青年は「お、おっけー……」と頷くのだった。

 ああもう!早く戻ってゾルゼンス!!!!




「行ってらっさーい!」

 心配げに振り返りつつ飛んでいくカルスに手を振って。
 私は木こりの青年を見た。

「さ、これで大丈夫です。私は村に戻りますね」

 そう言って青年とはサヨナラ~とするつもりで歩きだしたのだが。

 その手をハッシと掴まれてしまった。え、なんで。

「待ちなよ、危ないから村まで俺も付いて行くよ」
「いえいえ、そんなお手間をとらせるわけには。木こりの仕事あるんでしょ?」
「いいよいいよ、そんなことよりキミの方が心配だからさ」
「とんでもない、お仕事の邪魔をするなんて申し訳ないですよ!来た道戻るだけなんですから私は大丈夫!」
「そんなわけにはいかないよ!」

 あーでもない、こーでもない。
 うおおお、めんどくせえ!もうこの人ほっぽってダッシュしてやろうか!?

 足場の悪い森で早く走れる自信は無かったが、なんか嫌なので早くこの青年と別れたい!私はそう思って焦っていた。

 何でだろう。どう見ても人の良さそうな木こりなのに。
 何でか不安で。
 カルスが居ないから?
 それとも……ゾルゼンスが居ないから?

 言い知れぬ不安に襲われながら。
 私はダッシュしようと足に力を入れるのだった。

 けれど、それは一瞬遅かった。

「あ~あ、仕方ないなあ」

 それは目の前の、人の良さそうな木こりが発した言葉だろうか?それとも背後から?

 分からないまま視界が暗転したのは、その直後。




※ ※ ※




 で、今に至ると。
 目を開けると、もうそこは馬車の中。
 手足は拘束され、見えない話せない。耳だけはどうにか機能するけれど、ガラガラと馬車の音だけで何も分からない。揺れが半端ないので、整備されてない道を走ってるんだろう……ってくらいは、何となく予想できた。

 そして揺れは不意に止まった。

「おら、降りろ!」

 その声と共にグイと引っ張られた。いたたた、ちょっと力緩めてよね馬鹿力!

 文句は言いたくも猿ぐつわが邪魔で相変わらず言葉を発する事が出来ない。……まあ出来た所で、力を緩めてくれるような優しい連中では無いだろうけど。

 視界が塞がれたまま、見えない道をフラつきながら歩かされ。どうやら何処かの建物?小屋?に突き飛ばすように入れられた。いったいなあ、もう!

「おい、大事な商品だ、あんまり手荒にすんなよ」
「へい、お頭!」

 遅いよその台詞!手荒にされてから言われてもね!

 お頭と呼ばれた男。その声には聞き覚えがあった。

「さてお嬢さん、目隠しと猿ぐつわは外してやるが、大声出しても無駄だからな?分かったら頷きな」

 言われてコクコク頷いたら、目と口が解放された。

 久々の光が眩しい!

 そして目の前に現れたその人物に。
 まあ当然だろうな、と溜め息を送るのだった。

「やっぱりあなたですか、木こりさん……」
「ああ、危険だって俺のアドバイス、確かだったろ?」

 ニカッと笑うその顔を、出来ることなら今すぐ殴らせてくんないかなあ?




「お前らは明日の取引で商人に売り渡す。良くてどっかの金持ちの愛人、最悪奴隷だな」
「な……!」

 ふっざけんな!
 そう怒鳴ろうとしたが、言葉を発することは出来なかった。

 なぜって、なぜって……!

 黙り込んだ私を見て怖がってると思ったのか。満足げな嫌な笑みを残して、木こり改め盗賊お頭は出て行った。

 私は閉じ込められた室内をグルリと見回す。どこから攫ってきたのか、十人くらいの女性が居た。みんな泣き疲れてる感じだ。

 そしてその中の一人に視線を止める。先ほど言葉を失うほどにビックリした存在がそこに居たから。

 私は、んしょんしょっ!と、ズリズリとお尻を床で滑らせながら移動する──足、縛られてるからね!間抜けだけどしゃーないのよ!

 そしてその女性の横に座り。
 顔を見ないでポツリと呟いた。

「──なぜお前が居る」

 その問いに、やはり相手も私を見ることなく答えるのだった。

「それはこっちの台詞よアンナシェリ。なんであんたがこんなとこに居んのよ!」

 それは懐かしくも、会えてもちっとも嬉しくない存在。

 前世の世界を思い出させる、この世界には存在しない黒い髪と瞳の持ち主。

 聖女ぶりっ子、その人だったのだ──


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