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もう一つのエンド~ぶりっこ聖女のお話~(9)
しおりを挟む「この洞窟がゴブリンの巣なの?」
「そうよ。ほら、血の跡があるでしょ」
「なるほど、じゃあ頑張ってね──ぐえ」
手を振ってアンナは踵を返して帰ろうとするから、首根っこ引っ掴んでやった。蛙が潰れたような声ね。
「なに帰ろうとしてんのよ、あんたは」
「ふざけんな、戦いに関して私は完全に素人なんだよ!戦う術もたない私がゴブリンの巣に入って無事に帰れると思ってんの!?」
私には可愛い子供が居るのよ!
その叫びに対して反論はない。
だがしかし!ここで帰すわけにはいかないのよ!
「絶対帰さないからね!なんであんたを連れて来たと思ってんの!?」
「なんでだよ!?」
「恐いからに決まってんでしょうが!!」
でしょうが!
が!
私の叫びが木霊し、ヒュル~と冷たい風が吹いた。夜の山奥は流石に寒いわね。
「お前……何言ってんの?自分から進んで来たんでしょうが?」
「やるべき事は理解してるのよ。でも恐いもんは恐いんだから仕方ないでしょうが!!」
「胸張って威張るとこかー!」
だったらもっと人員連れて来いよ!
そう叫ばれて「ごもっとも!」と叫び返したらハリセンで殴られた。痛い。
「しょうがないでしょ!?もうみんなヘトヘトに疲れ切ってたんだから!アンナは何もしてないから疲れてないでしょうが!」
「普通に眠いわ!」
「帰ったら存分に眠らせてやるわよ!なんなら永遠の眠りにつかせてやろうか!?」
「やれるもんならやってみろお!!」
ゴブリンの巣である洞窟の前で、ギャーギャー喚く女が二人。誰か通りかかったら、確実に私らの方が襲われてたんじゃないかしら。
まあいいわ。こんな事に時間を費やしてる暇は無いもの。
「気を取り直していくわよ!」
「取り直す『気』なんて持ってないわい!」
「つべこべ言わずに付いてくる!」
「い~や~!人さらい~!誰かあ!ゴブリンが可愛い女の子を攫おうとしてます~!」
「誰が可愛い女の子よ!」
「突っ込むとこそことかwww」
連れて来といてなんだけど!
アンナが居ると話が進まない!!
***
ピチョンと音がして、水がどこからか滴り落ちる。その都度アンナが「うひょお!?」とか叫ぶので鬱陶しい。いつゴブリンに襲われるともしれないのに、そんな呑気な事でいいわけ?
──まあ結界張ってるから、声は洞窟内に響いたりしないんだけどね。
酷い悪臭を放つ洞窟の中を、恐る恐る進んだところで分かれ道に差し掛かった。
「どっち?」
アンナが聞いてくる。それに答えるべく、精神を研ぎ澄まし、気配を辿った。
そして感じる。ゴブリンの気配を。
ガッと私はアンナの手を掴んだ。
「ミサキ?」
「離れるんじゃないわよ」
「え?」
返答を待たずに私は走り出した。右の道へと!
「ミサキ!?」
アンナが叫んだと同時に、地面に突き刺さる何か。
直前まで私達が立って居た場所に短刀が突き刺さっているのを視界の片隅に確認し、私はひたすら走った。
その背後からゴブリンが叫ぶ声がする。
「え!?なんで背後から!?」
私達は確かに一本道を真っ直ぐ歩いてきたのだ。だというのに、背後から迫るゴブリンの気配。それを察知した私は、前方に敵の居ない右の分かれ道を選んだのだ。
「おそらく隠し通路でもあるんでしょ!ゴブリンの常套手段よ!」
「んなの聞いてない!」
「言ってない!」
恐いだろうに、それでも気丈にいつも通りの軽口を叩くアンナ。その存在に少し気持ちが軽くなるのを感じながら、私達はひたすら走った。そして行き止まる。
「うえ!?行き止まりじゃない!」
「だからいいんでしょ」
行き止まり。隠し通路が無ければ、の話だけど。
私はアンナを背に、振り返った。迫りくるゴブリンの気配。
狭い通路から押し寄せるゴブリンに対して、私は──
「聖女なめんなあぁっ!!!!」
思い切り聖力を叩きつけた!!
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