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第二章〜娘との旅路
2、
しおりを挟む「気を付けてな~!」
「達者でな~!」
「危なくなったらレオンを囮にして逃げろよ~!」
心配しているのかしていないのかよく分からん見送りを受け、俺とシャティアは旅に出る。俺にとっては実に五年ぶりの旅だ。
「さて、目的地はかなり遠いな。急がんとお前の母親が危ないんだっけか」
村が見えなくなったところで──つまりは静かになったところで、俺は少女に聞いた。
シャティアは俺の問いに静かに頷く。
「お医者様の見立てでは、もって二十年とか」
この世界の平均寿命60歳、俺40歳、多分あの二人も大差ない。
「それ、充分生きるんじゃないの?」
不治の病じゃないのかよ!
「命に関わるような病気じゃないんだって」
「……じゃあお前はなんで俺を探しに来たわけ?」
「それは……パパに会いたかったから」
会いたかったから
会いたかったから
会いたかったから
思わず三回リフレイン。
なんだろうな、こんな純粋な生き物と接するのどんだけぶりかってくらいに、感動が凄い。
「シャティア、お前……」
何を言うか決まってない、でも何かカッコイイこと(…)言わなくちゃと、少女を振り返る。
が、居ないし。
え、居ない? そう、シャティアが一瞬で姿を消したのだ。
「ななな、どうした、シャディアどこ行った!?」
俺は今までずっと夢を見ていたのだろうか? それくらいに突然あいつは姿を消したのだ。
しかし右を見ても左を見ても、シャティアの姿はない。そうか、あれは夢だったのか。子供欲しい願望なんて無かったのに、潜在意識では望んでいたのか。
なんて思ってたら。
「パパ!!」
「‼ シャティア!?」
夢ではなかった、あの子はやっぱり現実に存在したのだ。
声のしたほうを見上げる。そう、見上げる、だ。シャティアは俺の頭上にいた。
「──って、なんじゃその巨大な鳥は!」
シャティアはいた。ただし空を飛んでいる。飛行魔法ではない、巨大な鳥がこれまた巨大な足で、彼女の体を掴んでいるのだ。
「こ、この鳥、前に私をさらった……」
「ああ、あの、お前を遠くから運んだやつね。……って、ずっとお前を探してたのかよ」
なぜにそこまで固執する。魔物にとってシャティアは美味しそうなのだろうか。それにしてはすぐ食べないよな。
「助けてパパ!」
「お、おう」
あれこれ考えるのは後だ。おれは娘を助けるべく、すらりと剣を抜き放った。勇者の剣がキラリと光る。手入れ不要で常に万全の状態という、便利な剣である。さすが女神の剣。
その切っ先に魔力を込めてブンと振れば、巻き上がる強力な風。竜巻のようなそれが巨大な鳥に向かった。
鳥ってのは大きかろうが魔物だろうが、強風の中を飛ぶことはできない。案の定バランスを崩した奴は、掴んでいたシャティアを落とす。
「おっと」
落ちてくる少女を難なく受け止めたところで、ギイと叫び声を上げて俺に飛びかかってくる鳥の魔物。
しかし俺は少女を横抱きにしていて両手が塞がっている。ではどうするのかって? 答えは簡単。
ギロリと睨むんだよ!
「──ギッ!」
睨む先では、その鋭い爪が俺に届くことなく、戸惑うようにその場で羽ばたく魔物。その表情は明らかに怯えている。
「失せろ」
長いセリフはいらない。端的にそう言って、殺気を込めた視線を向ければ……「ギィアッ!!」魔物は叫んで逃げて行った。
「ふう、やれやれ……」
「凄い……」
一連の流れを見ていたシャティアは、俺の腕の中でそう感嘆の声を上げるのだった。
良かったあ、まだ勇者としての気迫残ってたあ!あれで去ってくれなかったらマジでどうしようかと思ったよ。だって俺、両手塞がってるし!
……と思ったことは内緒である。父としての威厳大事。
どうにか無事に、無傷で魔物を撃退できたと思ったわけだが。
ことはそう簡単には終わらない。
その後も、何度も魔物が襲ってきては、その都度シャティアをさらおうとしたのである。
なんなのこれ。
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