引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?

リオール

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第二章〜娘との旅路

6、

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 やっぱり馬は早いなと、あっという間に目的地である森に着いて、しみじみ思う。街に着いて早々にオッサンに掴まってしまったから探せていないが、あの街にいい馬が売っていたら良いのだが。でもって、子供でも扱いやすい馬が居ることも同時に願う。
 俺の腕の間には小さな体がスッポリ収まっている。一人で旅してしっかりしていても、まだ九歳。子供なんだよなあ。
 随分と生意気なことも言ってくるが、守ってやらんとな。……これははたして元勇者としての正義感からなのか、それとも父性というやつなのか。
 どっちなんだろうなあと首をかしげていたら、腕の中のシャティアが「あ」と声を上げた。

「レオン、あれじゃない?」

 ようやくパパと言いかけることは無くなったかと、なんだか寂しいなと天邪鬼なことを考えつつ、俺は彼女が指差す方角を見やった。そこには大きな洞窟がポッカリ。いかにも『何かが住んでます』的な洞窟だ。
 魔族ならともかく、魔物ならばこういった場所に住んでいてもおかしくない。農作物を荒らすような奴なのだ、知能の低い獣レベルな魔物なのだろう。もしくは本当に獣で、驚いた住人が勝手に魔物だと思い込んだか。
 どちらにしろ、いくら腕が落ちているとはいえ、俺の相手ではなかろう。

 俺は馬から下りて、洞窟の中へ向けて手をかざす。

「なにするの?」
「わざわざ虎穴に入る必要もないだろ。こっから魔法をぶっ放す」

 言って手のひらに魔力を集めたら、「ちょ、ちょっと!」と慌てた様子でシャティアが声をかけてきた。
 それから危なっかしい様子でどうにかウンショと馬から下りたシャティアは、俺の手を掴んで邪魔をする。

「おい危ないぞ、なにするんだ」
「駄目よ! もしかしたら男の人が生きているかもしれないのに、そんな危ない魔法、絶対駄目!」
「いやでも、生存の可能性は低いだろ」
「低くてもゼロじゃないなら、駄目!」
「ちっ、めんどくせえなあ」
「なにさ、魔物が恐いの!?」

 そんな下手くそな挑発に誰が乗るか。肩をすくめて、さてどうするかと思案する。
 獣だか魔物だかが男をさらってから時間は随分経っている。生存の可能性は限りなくゼロに近い。とはいえ、確かに生きている可能性も否めない。シャティアの言っていることは、至極真っ当だ。だがゼロに近いのに、わざわざ魔物の巣に入るのは嫌だな……と思うのは、なんか洞窟の中が汚そうだから。
 俺、こう見えて綺麗好きなのよ。冒険中は風呂なんて入れないから、真冬に氷で体拭うのとかマジ地獄だったっつーの。

「入らなきゃ駄目?」

 後ろを振り返れば、シャティアが恐い顔で「駄目」と言ってくる。それを見て深々とため息をつく俺。そんな俺の様子に「それに」とシャティアが言葉を続けた。

「もしかしたら、魔物にも何か事情があるかもしれないでしょ?」
「事情ってなんぞや」
「例えば、魔物には幼い子どもがいて、育てるためにやむを得ず農作物を奪ったとか」

 実に子供らしい純粋な発想である。たとえそうだとしても、人間さらうのはまずいだろ。

「育てるために人間さらうか?」
「そ、れは……」
「人間も餌ってか?」

 うわ、考えたらグロいな。まあ魔王統治時代は、残虐な手で人間を殺す魔物や魔族は大勢いたけど。魔王を倒してからは、そういった行為はとんと聞かなくなった。トップがいなくなるだけで、随分変わるものだと思ったものだ。

 とはいえ、今回のようにちょっとした衝突はやはり各地で起きている。だからこそ冒険者という職業は無くならないのだが。

「子育て、ねえ……」

 そういう可能性もあるのかね。そう思った時だった。

「あら、いい勘しているわね、お嬢ちゃん」

 声が聞こえた。

「誰だ!?」

 誰何の声を上げ、同時に剣を抜き放つ。間を置かずに、声のしたほうを見上げる。そう、声は頭上──生い茂る木々の上から聞こえたのだ。
 案の定、そこに一人の女が見えた。

「お前……魔族か」
「そう言うあんたは冒険者ね」

 木の枝の上に器用に立つそいつは、そのまま下へと飛び降りてきた。背にある翼を使って、文字通り『飛んで』下りたのだ。もうこの時点で、相手は人間でないことは明白。
 だが下りて目の前に立った魔族に、俺は思わず「わお」と声を上げてしまった。
 なぜって、ものすごい美人だったから。

「こりゃまた随分とお綺麗な魔族がいたもんだな。現役の時に会わなくて良かったぜ」

 魔王討伐の旅途中に会っていたら、倒さなくてはいけなかっただろうから。とは声に出さずに思うだけにしておく。

「現役? なに、あんた引退した冒険者なの?」
「まあな」
「たしかに随分老けてるわね」
「老け……納得してくれたかね」

 さすが魔族、グサリと胸にくる言葉を遠慮なく言ってくれるぜ。魔族関係ないか、女って恐い。
 魔王を倒した元勇者だってことは言わないほうがいいんだろうなと、なんとなく明言をさけた。
 さけたんだけど、「パパは魔王を倒した勇者なんだから!」とシャティアが暴露しちゃって全て水の泡。

「勇者?」
「わーお……シャティア、ちょっと黙ってろ」
「なんでよ! 隠す必要ないでしょ、パパ、きっとこいつは悪い魔族よ! パパッと倒しちゃって!」
「それはシャレか?」
「パパと一緒にしないで」

 それはつまり、俺はオヤジギャグを言うようなやつって言いたいのか。まあ言うけどさ。

「悪い魔族と決まったわけじゃないだろ」

 言いつつも、俺は剣を構えた。
 勇者時代に魔族とは嫌というほど対峙してきたのだ。魔族の多くは悪い考えを持っていたが、魔王支配下にあってなお、人と争うのを好まない、平和主義な魔族がいることを俺は知っている。
 魔王が倒れてからは、そういった連中が顕著に増えており、人間と魔族が共存している街や村もあると聞く。
 だから直ぐに斬りかかるなんてことはしないが、攻撃された場合はいつでも対処できるよう臨戦態勢に入った。

 女はそれを見て、「へえ」と面白そうに笑うのだった。
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