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第二章〜娘との旅路
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しおりを挟む黒い髪、青い瞳……は、見る角度によって紫にも黒にも見える。不思議な色を宿す目が細められ、赤い唇が弧を描く。妖艶な美女は口に指を当てて「興味深いわ」と呟いた。
「畑を襲った魔物をけしかけたのは、お前か?」
「違うわ」
「では?」
「そこのお嬢ちゃん、いい勘してるって言ったでしょ。この洞窟には、子育て真っ最中の魔物がいるのよ。とはいえこの森は子育てには適していない……獣も少ないこの森は、食料があまりに少ない」
「だから畑の場所を教えたのか?」
「まあ、ね。私が昔から可愛がっている子の、その子供が生まれたんだもの。手出しはせずとも助けてやりたいと思うのが情ってもんでしょ」
「魔族がよく言うぜ」
「魔族にだって感情はあるわよ」
言って細められた目の中に宿る感情を見て、俺は剣をおさめた。
「パ……レオン!?」
シャティアが驚きの目で俺を見る。対して俺は「大丈夫だ」と答えた。てか、お前またパパって言いかけただろ。
「あの目に敵意はない。もちろん殺気も。俺達を殺す気なら、はなから話しかけてこない」
不安げに俺を見上げるシャティアを安心させるように言えば、ギュッと俺の腕にしがみついてきた。可愛いなおい!
「可愛いわね。その子、あなたの子供?」
「そうだ違う」
「どっちよ」
「どっちだろうな……いで! 俺の子だ」
思い切り腕をつねられて、非難の目を向けた先でシャティアはプウッと頬を膨らませている。
それに苦笑いしてから、俺は女魔族を見た。
「畑でさらった男……生きているか?」
「生きてるわよ。これは食べちゃ駄目って、止めたから」
感謝してよね、と言われたが、そもそも畑を教えたのはお前だろうが。
「どこにいる?」
「洞窟入ってすぐよ」
言われて驚く。バッと中に一歩足を踏み入れたら、なんのことはない、すぐそこに男が気絶して横たわっていた。影になっていて、見えなかっただけだった。
「あ!」
やれやれと男が息をしているのを確認していたら、シャティアが声を上げた。
「なんだ」
「あそこ」
シャティアが洞窟の奥を指差す。指し示す方向を見て、俺も「お」と声を上げた。
それはまるで獅子がごとき姿。ふさふさの黄金の毛を持つ獣……いや、魔物二頭が仲睦まじげに寄り添って座っている。その目にかすかに不安げな色があるも、襲いかかってこないのは魔族の女が背後に佇んでいるからか、そもそも気性の荒い種ではないのか。まあ野菜食う草食だものな。
どちらにしろ敵意のない魔物夫婦の足下には、子供と思われる小さな獣……のような魔物が三頭。あれが子供か。
襲ってくることは無いだろうと判断して、俺は男を担いで洞窟の外に出た。と、何を思ってか、シャティアがタタッと魔物に向かって駆けていく。
「おい!?」
なにする気だとさすがに焦る俺の目の前で、シャティアは「ごめんね」と言って、カバンからパンを差し出した。
「これあげる。……もう、街の畑を襲っちゃ駄目だよ」
言って、これまた警戒心なく魔物のオスの頭を撫でる。魔物はそれを目を細めて気持ちよさそうに受け入れているではないか。
「あの子……モンスターテイマー?」
「の、ようだな」
こんな状況を見せられては、もう疑いようもない。
俺の娘はモンスターテイマーであることが確定した。
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