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第二章〜娘との旅路
8、
しおりを挟むよっこらせと御者の息子とおぼしき成人男性を、馬に乗せる。心なしか馬が心配そうにしている様子から、確かに間違いなく御者の息子なのだろう。
落ちないように紐で縛ってから、さてととシャティアを振り返る。
「歩けるか?」
「うん」
別に怪我してないもんな。とはいえ、結構な距離だ。俺だけなら早く行けるが、子供の足だと時間がかかるな。
面倒だなと思っていたら、「私に乗る?」という声が。
見れば魔族の女が自分を指さしていた。
「え、いや、そりゃ乗りたいけど、こんな真っ昼間のそれも外で? それ以前に子供の前ではちと刺激が……いでえっ!!」
美女に「私に乗る?」とか言われたら、そりゃ想像するよな。想像するよなあ!?
思わずモジモジしながら言ったら女に殴られた。「キモイ!」の言葉つきで。なんで!?
涙目になって頭をさすっていたら、ふと視線を感じて下を見……たら、すっごい冷たい目でシャティアが睨んでいたから、慌てて上を見ました、まる。
「そういう意味じゃないわよ、このスケベ親父!」
「スケ……じゃあどういう意味だよ!?」
「こういう意味よ!」
そんなに怒らんでも、と理不尽に不満を漏らせば、目の前で妖艶な美女が姿を変えた。その途中のグロさは置いておくとして、完成系は見るも感動、あっという間に目の前には美しき白馬が一頭。「黒い馬じゃないんだな」と言えば、「私は白が好きなの」と馬がしゃべる。さいで。
「すげえな……魔族って全員変身できるのか?」
「稀にだけど居るわよ。ウサギなんかに変身できる子も居るわ」
「そりゃ可愛いけど……意味あるのか?」
「空腹時に人間の家に行って、可愛い子ぶりっ子したら、野菜が貰えたってさ」
「魔族のプライドよ」
「プライドより食べ物でしょ」
そりゃそうですけどね。なんか真面目に話してるけど、内容はすっごいくだらねえなと思っていたら、シャティアの体が浮いた。ギョッとしていたら、スッと馬になった魔族の背に乗る。
「ああ、その『乗る』ね」
「どの『乗る』を想像したのよ」
「……ご想像にお任せします」
これ以上いったら墓穴を掘りそうで、そこは濁す。でもいいよな、白馬にまたがる美少女とか。シャティアは黙っていれば文句なしに美少女なんだよ。さすが俺の遺伝子。母親候補二人も美人だもんなあ。
「俺も乗っていい? 白馬の王子様を実演して……」
「歩け」
言って、白馬はカッポカッポと歩き出した。待って冗談、嘘だから乗せて。
しかし俺を無視して白馬は早足で歩き、御者のオッサンの馬もなぜか早足。
その後を「待ってくれよおお!」と半泣き状態で追いかける俺であった。40歳に全力疾走はキツイ!!!!
街に着く頃には、苦しくて俺の顔面崩壊してた。
「ぜはー! ぜはー!」
「うっわ、汗だくのオッサンキモイ」
「ぜはー! み、みず……」
「ミミズなら土の中に」
そういうのいいから! 白馬はしゃべらず黙ってろ、そして頼むから水くれ!
声にならぬ悲鳴を上げたら、シャティアが水筒を渡してくれた。俺の娘、マジ天使!
「……って、一口しか残ってないし!」
「飲んじゃった」
訂正、俺の娘、マジ小悪魔。
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