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第二章〜娘との旅路
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しおりを挟む「本当にありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」
「忘れていいから、良い馬売ってるところ、紹介してくんねえ?」
「喜んで!」
御者のオッサンに息子を引き渡したら、泣いて喜ばれた。背後では奥さんが慌てて旦那を介抱しているのが見える。目が合ったら、嬉しそうに笑って会釈してくれた。……うん、やっぱ良い事をした後は気分がいい。
オッサンは報酬とか言って金を出してきたが、丁重にお断り。俺は金には困っていない、だって元勇者だから。世界一の功労者である元勇者だからね。
その代わりにと馬の販売業者の情報を貰い、オッサンと別れを告げた。別れ際に「魔物はもう大丈夫でしょうか?」と聞くから大丈夫と答えといた。
どうやらあの魔物の子供も随分と成長したらしく、長距離移動も出来そうな状態になったとのこと。
「もっと資源豊かな森を教えてあげたから、大丈夫でしょ」
とは白馬に変身できちゃう、女魔族の言葉。
可愛がっていたんだから、お前も一緒に行かないのか? と聞いた答えが、今目の前で白馬な姿してる状態。つまり魔物との別れを選んだということ。
「で、お前はどうすんの?」
そんな立派な白馬を手に入れたのに、馬が必要なのかとオッサンに不思議がられた。俺のじゃないからと適当に濁しておいたが、まあ確かにずっとこの姿だったら助かるよなあ。でもこいつがずっと俺らと一緒にいるとは限らない。
「お前は……「エリン」へ?」
質問の途中に割り込まれた。突如告げられた言葉に首を傾げたら、「エリン」と繰り返す白馬。
「私の名前。エリンって言うの」
「あ、ああそう。ならエリンはどうするんだ?」
「どうって?」
「いやだから……」
「一緒に行くに決まってるでしょ?」
「え、決まってるの?」
いつ誰が決めたよと思うのだが、彼女の中では既に決定事項らしい。なんで。
「じゃ、俺らを乗せてくれるか?」
どうせ「嫌よ」と言われるんだろうなと思っていたら、「いいわよ」と予想外な答えが返って来た。
「マジで!?」
「しかも私、翼を生やして飛ぶこともできるの。移動速度、尋常じゃなく早いわよ」
「マジかよ! おいシャティア、お前のママたちがいる場所まで、思ったより早く着きそうだぞ!」
普通に馬で移動しても一年以上はかかると思われる道のりだったが、ここで光明が差す。飛んで移動ほど早い物はないのだ。
興奮気味にシャティアに言うも、なぜか少女は浮かない顔だ。
「別に……エリンさんが疲れるから、普通の馬でいいよ」
「へ? なんでだよ」
本人が構わないって言っているんだから、乗せてもらおうぜ! と言っても、シャティアはなぜか渋い顔。なんなんだ。
人目につくのはまずいからと、一旦街を出て、人目のない場所に行く。
そこで人型に姿を戻したエリンを前に、「俺らを飛ぶの大丈夫なんだろ?」と改めて聞いたら「大丈夫よ」と返って来た。
「ほらシャティア、大丈夫だって言ってるぞ。お言葉に甘えようぜ」
「……やだ」
なんなんだよ、めんどくせえなあ、お子ちゃまは!
「なんでだよ。飛んで行けば半年もかからないぞ、へたすりゃ一ヶ月でママたちと再会だ。嬉しくないのか?」
「それは……嬉しい。けど嫌だ」
「なんでだ!?」
子供心はオジサンには分からん! ましてや一緒に過ごした時間の短い娘の気持ちなど、分かるはずもない。
頭を掻きむしる俺とは対照的に、エリンは「あらあら」と何かを理解している様子。なんだ、女同士なら分かる何かがあるのか!?
「エリン、俺にはこいつの気持ちが分からん。とりあえず、俺だけ乗せて飛んでくれねえか」
「なんでよ」
「こいつが行かないなら、俺だけ行って母親連れてくるほうが早いかなって」
それに、と続ける。
「エリンちゃんと二人きりで旅とか、ドキドキしねえ?」
「私はイライラするわ」
「わお、ゾクゾク!」
「ムカムカ」
「ギラギラ」
「なにそれ」
「そりゃまあ、美女と二人旅ともなれば、男はみんなギンギンで……」
「死ねえ!」
「ほごお!?」
途中まではエリンとの会話である。最後の死ね、だけがシャティア。叫んで、俺のケツにそこらに落ちてた木の枝をぶっ刺してきたのだ。なにすんだこらあ!
「おま、俺のケツの穴を広げる気か!?」
「下品なこと言わないで、パパさいてー!」
「おーおー、最低で結構! お前みたいなワガママ娘に言われたところで傷つかねえよ!」
我ながら大人げないと思うのだが、半泣き状態の娘の顔に、しまったと思ってももう遅い。
見る見るうちに、たまった涙がこぼれ落ちる。
「あわわ……泣くなって!」
これが40歳の、元勇者の現状である。娘の涙を前にオロオロする、それが今の俺。
魔王を倒した最強勇者でも、娘の涙には弱いんだよなあ。
「ふーん、なるほどねえ……」
オロオロする俺と、泣くシャティアを面白そうに見ていたエリンが、一人納得したような顔をする。
無言で涙を流すシャティアの前にしゃがみ込んだエリンは、どこからか取り出したハンカチでその涙を拭う。
「シャティアちゃん、ヤキモチ妬いてる?」
「……やいてないもん」
「あはは、そうだよね。シャティアちゃんはパパ嫌いだもんね!」
「……別に」
「じゃあ好き?」
「……」
そこは無言なのな。ただ即座に否定しないってことは、それはもう肯定を意味する。
大人な俺達はそれを理解し、俺はなんだか鼻が膨らみ、エリンは満足げに笑う。
その笑顔の意味するところはとは?
「あ、なんだか体調悪いわ。シャティアちゃんくらいの軽さならいけても、大の男を乗せて移動は厳しいかも~。翼の調子も悪いから、飛べ無さそう!」
いきなり言い出したエリン。
「はあ?」
さっきと言ってること違わないか? と怪訝な顔をする俺に、エリンはウインクをする。
それからシャティアを見て、「シャティアちゃん、お姉ちゃんも一緒に旅の仲間に入れてくれる?」と聞くのだった。
「おい!?」慌てる俺を無視して話を進めるエリン。
「お姉ちゃん、調子悪いから飛べそうにないの。だからこれまで通りに陸路で旅しようか?」
その言葉に顔を上げるシャティア。涙は止まっている。
キョトンとするシャティアに、エリンはニッコリと微笑んだ。
「予定通り、一年以上の旅になるけど、いいかな?」
言われた途端、シャティアはパアッと顔を輝かせて「うんっ!」と頷くのだった。
なんなのだ、感情の起伏がサッパリ読めん。
首を傾げる俺を見て、すっかり仲良くなったシャティアを抱きしめながら、エリンは「鈍感」と呟いた。
なんなの一体。
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