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第四章〜戦士の村
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しおりを挟む魔族の中でも特に上位の強い奴は、自分の城を持っていたりする。大抵は人里離れた僻地にあったりするわけだが、今回の女魔族の城もそう。砂漠のど真ん中、およそ人が住むような場所ではない。浮遊魔法が使える魔族ならではだろう。
とはいえ低級魔族や魔物は飛べないから、この場所は女魔族の好みで選ばれたのだろうな。配下の連中は苦労していることだろう。
などと、他人事ながらちょっと同情する。
魔王城ほどではないにしろ、それなりに立派な城がドンッと建っているのを、俺とガジマルドは馬から降りて見上げていた。背後ではエリンが白馬から魔族の姿に戻っている。
「なんか思い出すなあ……」
「そうだなあ」
ガジマルドの言葉に頷く。何が、とは聞かない。だって俺も思ったから。
かつて四人で冒険していた時、何度こういった城に入ったことか。
普通の冒険者ならば洞窟に入ることのほうが多いかもしれないが、魔王とその配下魔族を倒すのを目的とした俺達は、圧倒的に城が多かった。まあジメジメしている洞窟より、女性陣には城のほうが人気高かったけど。
「トイレあるかな」
「お前はなんでそう雰囲気ぶち壊すの?」
腹をさするガジマルドを思わず白い目で見てしまった。
「さっき食った握り飯が、どうも悪さしているみたいでよお」
「そのまま悪ささせておけ」
「嫌にきまってんだろ」
「知るか阿呆」
なにこの低レベルな会話。俺達一応40代、男は永遠の少年。少年とはそれすなわち、お下品な会話も平気でする。多分。
「とりあえず入るか」
アリーとシャティアを探すにしろ、女魔族と戦闘するにしろ、トイレ(…)探すにしろ、城内に入らんことには話が進まん。
俺とガジマルドは、いつでも抜刀できるように身構えながら城の門をくぐった。
ちなみに結界は普通に張られていた。その結界のせいでまず常人ならば城を見ることすら叶わない。
気配を探ることに長け、城を目にすることができたとしても、その結界を通ろうとすれば容赦なく細切れになる。それほどの恐ろしくも強い結界。
なるほど、俺の前からシャティア達を攫っただけのことはある、あの女魔族はなかなかの手練れだ。
魔王を倒し魔族と魔物が弱体化しているとはいえ、まだまだ強い魔族は生き残っているのだ。
改めて痛感する。
現在活躍している冒険者達でも相手にできるだろうレベルだが、ガジマルドを虎視眈々と狙い続けるような奴だ。俺達でなければ苦労するだろう。
「ま、俺にかかればこの程度、なんのその、だけどな」
呟く俺。
なんたって、俺らは魔王城にすら侵入できた勇者一行なのだ。魔王城の結界なんて半端なもんじゃなかったぞ。俺とエタルシアとハリミ、魔力のある三人で協力してどうにかこうにか突破できたのだ。特に結界術に長けているエタルシアが、活躍していたっけ。
僧侶じゃないにしても、俺だってそこそこできる。
そして魔王以外の魔族が作る結界程度、俺様の手にかかればチョチョイのチョイ。
というわけで、俺達は結界を破壊して、難なく城に入ることができた。
「おお、広いなあ……」
扉をくぐって玄関ホール。正面にでっかい階段があるわけだが、とにかく城内は広かった。玄関ホールで、ダンスパーティー開けるんじゃない?
「さて、シャティアとアリーはどこだろうな」
二人の気配はない。まあそんなすぐ分かるような場所にはいないだろうが。
こういう城ならば地下牢があってもおかしくない。地下か、それとも城主である女魔族の部屋……つまりは最上階か。さてどこだ。
キョロキョロと周囲を見回し、神経を集中させる。俺の足元では犬コロなビータンがクンクンと匂いを嗅いでいる。
「シャティアの匂い、分かるか?」
聞いても首を傾げるビータン。そうか、駄目か。ならしらみつぶしに探すしかないかな。
「トイレ、どこだあ?」
「……お前な、折角の俺のシリアスモードぶち壊しにすんなや」
「それどころじゃねえんだよ。いよいよもって限界が近づいて……」
「気合いでケツの穴閉じろおっ!」
「年取ってそういうの難しくなってんだよ!!!!」
俺の声の倍以上の大声で怒鳴り返さんでもいいわい。どんだけ切羽詰まってんだ。……真っ青だから、相当切羽詰まっているらしい。
「ったく。あっちじゃねえの?」
いくら魔族だって出すもんは出すだろう。そうでなくとも魔族の城は人間仕様だ。トイレくらい複数あって当然。
あっちじゃねえの、と玄関ホール左手に伸びている廊下を指さした。
「そ、そうだな。ちょっと待ってろ」
「ちゃんと拭いてこいよ!」
ここで先に行くなんて言おうものなら、あいつ適当にして出てきそうだからな。
ドタドタと走っていくガジマルド。ポリポリと頭を掻きながらそれを見送って、深々と溜め息をついた。
「は~あ、緊張感の欠片もねえなあ」
魔王討伐の旅してた時は、常にピリピリしてたってのに。モウロクしたもんだ。
「あいつが戻るまで、一階を散策しておくかね」
まさか一階にシャティア達が居るとは思わない。だがいきなり何かしらの魔物が出迎えると思ったのに、あまりに城が静かで俺の警戒心はビンビンだ。見回っておいて損はあるまい。
「? どした、エリン?」
ふと見れば、エリンがガジマルドが向かった方角、正面向かって左手を見つめている。
「何かあるか?」
それとも何かいるのか?
聞けば、振り返ることなく壁面をペタペタ触っているエリン。
「ううん、何もないんだけど……なんか、あった気がするのよねえ」
「昔捕まったときの記憶か?」
「そうそう。昔すぎて内部のことはほとんど覚えてないんだけど……ここ、何かあった気がするのよ」
振り返れば正面向かって右手廊下では、ビータンが床をクンクンしている。
「おいビータン」まずはこっちを調べるぞ。そう言おうとした瞬間。
カチッ
「あ」
もうね、こういった時の「あ」がロクなことにならないこと。
誰もが知っているんだよな。
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