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第四章〜戦士の村
18、
しおりを挟む戦闘は終わった。
女魔族サティは水に飲まれて気絶、戦闘不能。ボスが倒れりゃ下っ端が動く道理はない。
「はあ、やれやれ……」
思わず床にへたり込んだ俺は、はあと大きく息を吐いた。昔ならこの程度で疲れを感じることはなかったんだけどなあ、歳は取りたくないものだ。
疲労を感じる体でもって、顔を上げれば視線の先には俺を見つめるシャティアとアリー。二人はいまだ鉄格子の中だ。出してやるかと立ち上がったところで、何か音が近づいているのが聞こえて、俺は動きを止めた。
「なんだあ?」
それはドドドドド……と、重たい何かが走る様な音。次の瞬間。
「どぅわっ!?」
ドッカンと音を立てて、壁が壊れて何かが部屋に入って来た。
なんだなんだと目を丸くする俺の前で、「っしゃあ!」と、壁をぶち壊した奴が叫んだ。
「戦士ガジマルド参上! アリー、パパが来たからには、もう大丈夫だぞお!!!!」
参上というか、惨状だよな、という言葉は呑み込んでおいた方がいいのだろう。
目が点になる俺の前に現れたのは、戦士ガジマルドだった。もっと静かに入ってこれないのかお前は。
呆れる俺やシャティア達の視線に気づいたのだろう。
「あれ?」
とか間抜けな声を出して首をかしげる、図体だけでかいオッサンが一人。
「もう全部終わったよ。おせえんだよ、お前は」
「な、なんだとお!?」
水浸しの床、その中に横たわる女魔族。
水をよけて座っている俺の姿に、ポカンとした顔のアリ―達を見て、状況を察したのだろう。大きな声で、「父親のかっこいい姿を見せようと思ってたのにい!」と叫ぶのであった。
「ずいぶんと時間かかったな。何やってたんだ」
「べ、別に。道に迷ってたんだよ!」
俺の問いに歯切れの悪い答えを返してくる。絶対何かあったなこのやろう。
目を細めていぶかしむ俺の前に、ガジマルドと行動を共にしていたエリンが現れた。
「よお、エリン。遅かったな」
「ガジさんが途中で腰を痛めたのよ。しばらく動けなくて、回復に時間がかかってたの」
「うおおおお! それは内緒だって言っただろお!?」
「黙っていると約束した覚えはないよ」
俺の問いにアッサリ答えるエリン。青ざめながら叫ぶガジマルド。ほんと何やってんだお前は。あとガジさんってなに、すっかり仲良くなってるし。それはそれでいいんだけどさあ。
「まあいいさ。こっちも無事にサティを倒せたからな」
「なんだその"サティ"ってのは」
「魔族の名前」
「私の名前はサティスティファイリュイだ! 勝手に略して呼ぶな!」
「あ、起きた」
ガジマルドの問いに答えたら、凄い勢いで魔族がガバリと体を起こした。殺してはいないが、結構なダメージ与えたと思ったんだがね。さすが上位魔族、頑丈でいらっしゃる。
しかし起きたはいいが、やはりダメージはでかかったらしく、サティはその場にガクリと膝をついた。
「無理しないほうがいいと思うぜ?」
「く……!!」
俺の気づかいに、悔しそうに歯噛みするサティ。ま、それだけ元気なら、明日には動けるだろう。だが今は無理だ。
邪魔できないと判断して、俺はゆっくりシャティア達の元へと歩みを進めた。
「パパ!」
「きゃー! ダーリーン! やっぱりあなたは私の旦那様となるべき人なのねー!」
シャティアはともかく、アリーは何を言っとるんだ。ほら見ろ、ガジマルドが血相変えて「俺は認めんぞ!」とか言ってるじゃないか。認めてもらわんでいい、俺だってダチの娘と結婚する気はないのだから。
が、娘をもつ父親のサガなのか、ガジマルドは凄い形相で俺の喉元を締め上げた。ちょ、苦しっ。
「俺は認めんぞお、レオン! お前だけは、お前だけはー!!!!」
「パパ、それ以上やったら、今後一切口をきいてあげない」
「すみませんでした。レオン、よくやったぞ、褒めてやる」
このまま俺は意識を失ってこの世とオサラバなのかなと思ったら、アリーの一言でガジマルドは俺を解放した。その嘘くさい褒め言葉を、今すぐ口の中にツッコミ返してやりたい。物理的に無理な話だけど。
喉を押さえてゲホゲホしてたら、シャティアが俺に抱きついて来た。よしよし可愛いやつだ。
「恐かったか?」
「ううん。アリーが一緒だったから」
「そっか」
「それに」
「?」
「助けに来てくれるって信じてたから」
「そうか」
ギュッと抱きついて来る小さな体は、かすかに震えている。それに気づかないふりして、俺もギュッと抱きしめ返した。震えが止まるのは直後のこと。
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