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婚約破棄
しおりを挟む「ジュリアン公爵令嬢、きみとの婚約は破棄し、僕は聖女ミリーと婚約する」
「そんな……!どうしてですか、バルト様!私の何がいけなかったのでしょう!?」
婚約者として共に過ごした10年は何だったのか。学園を卒業するめでたき日に、私は王太子から婚約破棄を宣言されてしまいました。
ですが分かりません、どうしてなのでしょうか。
確かに聖女ミリー様は金色の髪と瞳を持った神々しいまでの美しさをお持ちです。そしてその癒しの力は教会に属するどれほど高位の神職者よりも強いものです。
けれど私とバルト様はうまくやっていると思っていたのです。婚約してから10年、18歳になる今の今まで仲良く出来ていたと思っていたのに……。
私は悲しみに打ちひしがれ、その場に崩れ落ちました。
きっかけは政略によるものでも、私は心からバルト様を愛していたから。
「だってきみは無能じゃないか」
そんな私に心無い言葉をバルト様はかけてきました。
無能?自分が有能だと思った事はありませんが、無能と言われるほどだとは思ってませんでした。ショックで呆然とする私に、バルト様は追い打ちをかけてきました。
「ミリーは癒しの力で国民を救ってくれる。だがきみは何が出来る?ただ僕のそばでニコニコしてるだけだろう?そんな無能、要らないよ」
要らないよ。そんな簡単に私のことを捨てられるのですね。
その言葉で何か──私の中の何かがプツンと切れてバキンと音を立てて壊れました。もう……いいです。分かりました、全て受け入れましょう。
流れる涙を拭い、私は立ち上がります。卒業パーティの場ですから、他の生徒が見てる前でこれ以上情けない姿は見せられません。視界の隅には親しい学友たちが心配そうに私を見てるのが確認できました。
ああ、情けない姿を見せてしまったわ。
私は公爵家が令嬢。醜態を晒すわけにはいかない。どのような時でもうろたえることなく、毅然とした態度で……と教えられたではないの。王太子妃としての教育に、幼いころからの公爵家令嬢としての教育で。
しっかりしなくちゃ……。
私は一つ息を吐いて、目を閉じ……次に開いた時には王太子を真っ直ぐ見据えた。その目は自分でも分かるくらいに強い光を持っていたと思う。
「分かりました、バルト様。婚約破棄、お受けいたします」
「ジュリアンが受ける受けないを決めるんじゃない。王族である僕の言葉が絶対だ。そんなことも理解できないなんて、本当にジュリアンは馬鹿だな」
その言葉で私のバルト様への思いはゼロとなりました。いいえマイナスかもしれません。
卒業パーティ会場の空気がザワリと動いたことを、この王太子は気付いたでしょうか。自分の発言の愚かさを、この王子は理解できてるのでしょうか。
──きっと理解できてないのでしょうね。
王族を絶対と思ってる輩はろくでもないものである。それはこの国では誰もが理解していること。
王族のために国があり国民が居るわけではない。
国のため民のために王族が居て貴族が居るのだ。
勘違いし、王族を絶対と言ってしまったこの王子に……はたして明るい未来があるのだろうか。
愚か者との婚約が無くなった事を、今は内心喜ぶ。
「お話は終わりでしょうか。せっかくのパーティですので皆が楽しめるよう、空気を入れ替えて……」
「終わりじゃないぞ。ジュリアン、お前は国外追放だ」
「……え?」
まさかの呼び捨て。そして国外追放の言い渡し。
言われた事を理解するのに少し時間を要してしまった私は、間を置いて王太子に問い返した。
「国外追放、ですか……?」
「そうだ。無能なくせに聖女を害することだけは出来るようだからな。そんな奴はこの国には不要だ。即刻出て行け」
「……害する?」
なんのことか分からず首を傾げる私を、心底嫌なものでも見るような目で……目を細め、眉間に皺を寄せて王太子は言った。
「ミリーの悪口を言いふらし、水をかけたり服を破いたりの嫌がらせをしたそうじゃないか。更に階段から突き落としたそうだな」
「そんなことはしておりません」
「嘘をつくな。彼女は聖女で癒しの力があるから怪我は治せたが、心の傷は治らない。彼女は涙ながらに僕に訴えてきたんだぞ」
「ではミリー様の嘘でしょう」
「聖女が嘘をつくはずがないだろう!!」
全く身に覚えのないことなのでミリー様の嘘だと言えば大声で怒鳴られてしまい、体がビクリと震えた。
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