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しおりを挟む私の父は公爵にして、領地運営以外に国王の補佐をしている。
有能と名高い父は王の信頼も厚く。
今夜の夜会でも、王直々に声をかけてくださった。
「おお、ボルノ公爵!其方にはいつも感謝している。先日の策も功を奏し、あの地方の民がとても喜んでいたぞ!」
「ありがとうございます。試行錯誤して考えた策でしたので、民の為になり喜ばしい事でございます」
「其方の策はいつも奇想天外でありながら、実に理にかなっている。今後も国の為に頑張ってくれ!」
「精進してまいります」
「うむ。だがまあ今宵は政治の事は忘れ楽しんでくれ。それではな」
そう言って王は他の貴族と話すべく去って行った。気さくな王様は皆に好かれている。
頭を下げて見送った父は、王の姿が見えなくなると同時に頭を上げて。そして誰に見られるともない笑みを浮かべるのだった。
ニヤリと。したり顔で。
それを見たのはきっと私だけ。
娘の私だけ。
──父の功績の裏で、真に動いてる私だけ。
試行錯誤した?
どの口が言うのか。
私に現地へ視察に行けと強引にやったくせに。自分は現地の状況を一切見てないくせに。
帰った私にどうすべきか考えておけとほざいて、連日酒ばかり飲んでたくせに。酒を飲み、女を呼んで騒いで……怠惰な生活を送ってるだけの無能が。
今、有能ともてはやされている父は。
かつて無能と蔑まれていた。
先代の能力を何も受け継いでないと馬鹿にされ、公爵家は落ちに落ちていた。
だが数年前より、突然その力は向上していった。
突然父がやる気になって、能力を発揮し始めたと皆が言うが。何のことは無い、父に代わって私が動き出したからだ。
最初は父に意見をすれば殴られた。生意気だと暴行を受けた。
それでも諦めず、父が王城に参内する時にこっそり企画書を鞄に入れておいた。最初は気付いた父に破られた。だが何度も繰り返すと、偶然というものは起こるのだ。
偶然、その書類が王城務めの別の貴族の目に留まり。そして王の目に入る。
結果、良策が認められ、父は有能であると認められるようになったのだ。
本当は違うのに。
父は今も無能だ。
昨日もその前からも、今日も明日もきっとこれから先もずっと。
父は無能で。
私はその影武者として、今日も今日とて頭を働かせるのだった。
「お父様!」
不意に父を呼ぶ声。私ではない。
父は呼ばれた方を振り返り、顔をほころばせるのだった。
「おやスザンナ。どうしたんだい?」
スザンナ。それは私の二歳下の妹だ。今年16歳になる彼女は、幼さの抜けきらないあどけない笑みを父に向け、その腕を絡ませるのだった。
「あのね、あのね。スザンナね、シェリア様より立派な宝石のついたネックレスが欲しいの!」
その言葉に内心頭を抱えたのは──私だ。父はニコニコし続けているだけ。
「シェリア様がね、これみよがしに大きな宝石のついたネックレスを自慢げに見せてくるんだもの。スザンナ悔しくって!」
拗ねたように頬をプクッと膨らませるスザンナ。そこらの男ならイチコロな、可愛い容姿での仕草は本人も自覚あってのことだろう。
そして馬鹿な父親もやはり男だということ。
「そうかそうか、シェリア様がな。性格のねじ曲がったあの方のことだ、容姿ではスザンナに勝てないからと当てつけなんだろうね。よし、今度一緒に買いに行こう」
「やったあ!お父様、大好き!」
キャーッっとピンクの声を上げて、スザンナは父の首にかじりつくように抱きつくのだった。それに鼻の下を伸ばす父。……醜い、という感想以外出てこない。
ちなみにシェリア様とは、スザンナと同い年の第二王女様だ。どこで聞かれてるかも分からないのにそのような不敬発言をやってのける馬鹿な親子に、私は今度は頭痛ではなく吐き気がするのであった。
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