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「で?」
私を抱きしめながら、ヘンリー様は父を見やった。その声は既に冷たく冷え切っている。
「この手紙。誤解を生むような書き方をした、この嫌な手紙。誰が用意した?」
「そ、れは……」
「トラドスです!」
言いよどむ父。たまらず叫んだのはスザンナだった。
「す、スザンナ?」
泣きそうなトラドスを無視して、スザンナは言葉を続けた。
「先ほども言いましたが、計画したのはトラドスです。全て自分の欲望の為に、私達家族を唆して……!」
「あんまりだスザンナ!君が王子と結婚したいと言うから!俺は俺でアデラと一緒になれば楽できるだろうって言ったのは君じゃないか!直接的な手紙はまずいから、匂わすような端的なあの言葉を書けば、きっとアデラは迷うと、苦しむと君が言ったんだ!王子からの手紙も全て破棄するよう手を回して……。全部君の計画──」
「黙れ馬鹿!!」
もう醜いとしか言いようがなかった。
トラドスのせいだと言い張るスザンナに、全てを暴露するトラドス。そんなトラドスに本を投げつけるスザンナ。
「なんと醜い──」
私と同じ事を思ったヘンリー様は、顔をしかめて二人を見るのだった。
そしてこれ以上見ていたくない、というように父に目を向けて言う。
「公爵、もはや貴方たちの罪は言い逃れ出来ないレベルだ。公爵家は取り潰しだ」
「な──!!」
「トラドス、君もだ。君の家、侯爵家も同様となる」
「そ、そんな……」
スザンナと取っ組み合いの喧嘩になりかけてたトラドスは、その言葉を聞いてその場に泣き崩れるのだった。同情の余地はない。
「スザンナ、君の醜さはあの夜会の日から何ら変わってない。俺が君と結婚など万に一つもない事を覚えておくんだな。平民となる君とはもう二度と会うこともないだろう」
「そんな──!……じゃあお姉様はどうなるのよ!公爵家が潰れるなら、お姉様もまた平民よ!」
確かに。理屈ではそうなる。
そもそも私は被害者だが、王印を盗んで王子の手紙を偽造、などという大罪を犯した者達の親族だ。私にもお咎めがあって当然なのであるが……。
「アデラはこれまでの功績が認められた。彼女には新たに爵位が与えられる事になっている」
「え?」
驚いてヘンリー様を見れば、優しく微笑まれた。
「また改めて話すけど。そう決まったから」
「では──」
「公爵領は、そのまま君のものとなる」
私の領地。
その言葉が意味する事を考えて胸がつまる。
やる事はこれまでと変わらない。けれど、それでも。
嬉しさがこみあげて仕方ないのだ。
「俺も勿論一緒に統治していくから。君だけにやらせることはない。共に頑張ろう」
そう言って、また抱きしめてくれる。もう、私の胸はいっぱいだ──
だが、それを良しとしない存在が、この場には居たのだ。
「そんなの嘘よ!!」
スザンナだ。
常に私を小馬鹿にし、見下していたスザンナ。
自分の方が愛され、大切にされるのが当然と思っていたスザンナ。
その愛らしい容姿は、今や醜悪なものへと変貌していた。怒り狂った顔でこちらを見ていたのだ。
「スザンナ、もう──」
「黙れ!!」
もうやめて。
そんな言葉は届かない。
怒りに顔を真っ赤にした彼女には、もう何も届かないのだ。
「愛されるのは私よ!全ての望みが叶い、全てが私にひれ伏す!私こそが幸せになるべき存在、美しく光り輝くべき存在なのよ!あんたなんか、あんたなんか……!!」
叫ぶや否や、どこに隠し持っていたのか。
スザンナの手に光るは短刀。
「スザンナ!?」
「あんたなんか、死ねばいいのよ!!」
そう叫んで、スザンナはその短刀を私に繰り出すのだった。
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