婚約者が親友と浮気してました。婚約破棄だけで済むと思うなよ?

リオール

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23、

 
 
 バチーンッ!と実に小気味よい音が部屋に響いた。

 頬を赤くしたカルシスが呆然と私を見て。
 そしてそれから。

「い、嫌だ……」

 涙をボロボロと流し始めるのだった。

「嫌だ嫌だ嫌だ!ミーシャ!ミーシャ、俺を助けて!どうか俺を……」
「それ以上ミーシャの名を呼ぶな、不愉快だ」

 なおも縋ってこようとするカルシスに、不快感をあらわにしたテルート様。

 そんな彼はパチンと指を鳴らすのだった。
 その瞬間。

「え!?」

 驚いて思わず声が出てしまった。
 だってどこからともなく人が複数人現れたのだから!黒装束の人が!

「王家の影だよ。──連れて行って牢に入れろ。然る後、先ほどミーシャが言った刑を執行する」
「かしこまりました」
「──!嫌だ、放せ!嫌だああああああ!!!!!」

 カルシスの絶叫は。
 遠ざかりながらもしばらくは続くのだった。ミーシャミーシャと私の名を呼び続け……非常に耳障りで不快な叫び。

 それはテルート様も同様だったらしい。

「罪人の分際で公爵令嬢の名を連呼するとは……不快極まりない。おい、舌を切り落とせ──死なないように気を付けて、な」

 その言葉に残っていた黒装束の人が頭を下げて、すぐさま姿を消した。

 その直後。

「ぐえっ!?」

 遠くでカルシスの叫びが聞こえ。
 そして静かになるのだった。

 ──何が行われたか。そこは考えないようにした方がいいのかもしれない。

 だってもうカルシスは私とは関係の無い人なのだから。

「これでカルシスとの婚約は破棄されたのでしょうか?」
「そうだね。後で一応の書類は出して貰うけど、俺が証人となるのだから。今この場をもって破棄でいいと思うよ。というか、これ以上継続する事を俺は絶対に認めない」

 ニッコリと微笑みながらも、背景に黒いものが見えそうだ。
 そんな笑みをテルート様は私に向ける。

 そしてすっと手を伸ばして……私の頬を撫でるのだった。

「て、テルート様?」
「婚約破棄したばかりのキミにこんなこと言うのもあれなんだが……」

 王子は言いにくそうに一旦言葉を切って。
 そして意を決したように私の目を見つめて口を開いた。

「次のキミの婚約者の椅子。俺が座ってもいいかな?予約しとかないとまた別のやつに取られそうで……恐いんだ」

 今しがたカルシスの舌をちょん切れとか言った人とは思えない。
 そんな不安そうな顔で私を見て来るテルート様に。
 潤んだ熱い眼差しを向けてくる彼に。

 NOとか言える勇者が居るなら出てきて欲しい!!

 残念ながら私はそんな勇者ではないのです。
 子供の頃の初恋は──最強なのです!!

 私は頬に添えられたテルート様の手に、そっと己のそれを重ねる。テルート様の手が、小さくピクリと震えた。

「婚約者に浮気されるような魅力ない女です。婚約破棄した傷物の女です。……それでも宜しいのですか?」
「キミは魅力的で穢れなき美しい女性だ。キミでなければ嫌だ」

 その言葉が、カルシスの裏切りで傷ついた心を癒してくれる。
 乾いた心に潤いを与えてくれた。

「ありがとうございます。私は──テルート様と共にありたいです」

 そう言って。
 私はポロリと涙を零すのだった。


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