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バチーンッ!と実に小気味よい音が部屋に響いた。
頬を赤くしたカルシスが呆然と私を見て。
そしてそれから。
「い、嫌だ……」
涙をボロボロと流し始めるのだった。
「嫌だ嫌だ嫌だ!ミーシャ!ミーシャ、俺を助けて!どうか俺を……」
「それ以上ミーシャの名を呼ぶな、不愉快だ」
なおも縋ってこようとするカルシスに、不快感をあらわにしたテルート様。
そんな彼はパチンと指を鳴らすのだった。
その瞬間。
「え!?」
驚いて思わず声が出てしまった。
だってどこからともなく人が複数人現れたのだから!黒装束の人が!
「王家の影だよ。──連れて行って牢に入れろ。然る後、先ほどミーシャが言った刑を執行する」
「かしこまりました」
「──!嫌だ、放せ!嫌だああああああ!!!!!」
カルシスの絶叫は。
遠ざかりながらもしばらくは続くのだった。ミーシャミーシャと私の名を呼び続け……非常に耳障りで不快な叫び。
それはテルート様も同様だったらしい。
「罪人の分際で公爵令嬢の名を連呼するとは……不快極まりない。おい、舌を切り落とせ──死なないように気を付けて、な」
その言葉に残っていた黒装束の人が頭を下げて、すぐさま姿を消した。
その直後。
「ぐえっ!?」
遠くでカルシスの叫びが聞こえ。
そして静かになるのだった。
──何が行われたか。そこは考えないようにした方がいいのかもしれない。
だってもうカルシスは私とは関係の無い人なのだから。
「これでカルシスとの婚約は破棄されたのでしょうか?」
「そうだね。後で一応の書類は出して貰うけど、俺が証人となるのだから。今この場をもって破棄でいいと思うよ。というか、これ以上継続する事を俺は絶対に認めない」
ニッコリと微笑みながらも、背景に黒いものが見えそうだ。
そんな笑みをテルート様は私に向ける。
そしてすっと手を伸ばして……私の頬を撫でるのだった。
「て、テルート様?」
「婚約破棄したばかりのキミにこんなこと言うのもあれなんだが……」
王子は言いにくそうに一旦言葉を切って。
そして意を決したように私の目を見つめて口を開いた。
「次のキミの婚約者の椅子。俺が座ってもいいかな?予約しとかないとまた別のやつに取られそうで……恐いんだ」
今しがたカルシスの舌をちょん切れとか言った人とは思えない。
そんな不安そうな顔で私を見て来るテルート様に。
潤んだ熱い眼差しを向けてくる彼に。
NOとか言える勇者が居るなら出てきて欲しい!!
残念ながら私はそんな勇者ではないのです。
子供の頃の初恋は──最強なのです!!
私は頬に添えられたテルート様の手に、そっと己のそれを重ねる。テルート様の手が、小さくピクリと震えた。
「婚約者に浮気されるような魅力ない女です。婚約破棄した傷物の女です。……それでも宜しいのですか?」
「キミは魅力的で穢れなき美しい女性だ。キミでなければ嫌だ」
その言葉が、カルシスの裏切りで傷ついた心を癒してくれる。
乾いた心に潤いを与えてくれた。
「ありがとうございます。私は──テルート様と共にありたいです」
そう言って。
私はポロリと涙を零すのだった。
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