8 / 23
8、
しおりを挟むあの母娘が屋敷に入ってから、私の私物などほとんど無くなった。
売り払える宝石類は全てロアラに奪われた。お金があれば、とりあえず何処へなりとも逃げれたのに──
全て仕組まれていたように、私には何もなかった。
少ない荷物をまとめる手は止めない。
怒りが私を支配し、それが体を動かしていた。
糞のような父に義母、ロアラは言うに及ばずだが。
それ以上に、私の怒りはテルディスに向かっていた。
あの男、あの男、あの男!!
ほんの数日前まで私に愛を囁いていたというのに!あの変わりようは一体どういうことか!
ロアラとの様子から察するに、どうやら二人の関係は長いものと思われた。
つまり、あの男は。
私とロアラ。
二股かけていた、ということだろう。
ふざけるな!
怒りで目の前がチカチカする。けれどこの屋敷から早く出たい思いが、私を突き動かしていた。
先ほども述べたように、私物なんて大して無い。それよりも当面生きていけるだけの食料が必要だと思った。
水に、長持ちしそうなパンを手に入れるため、キッチンに向かった。
その時。
屋敷の扉が開くのが聞こえた。使用人の誰かと話す声がして。
そしてツカツカと響く足音が、私の居る方へと向かった。
バンッ!
開け放たれる、キッチンの扉。
私は水とパンを持ったまま、その主を迎える事となった。
「あら」
そして、予想通りの人物をそこに見出した。
「まだ居たの、魔女さん」
「ロアラ……」
左手を腰に、右手甲を口元に当てて。
「あーはっはっは!惨めね、惨めねえ!公爵令嬢がパン片手に何してるの!?惨めったらないわぁ!!」
と、高らかに笑うのだった。
ギリッと唇を噛み締め睨むが、どこ吹く風。まったくロアラには響かない。
むしろ喜ばせている。
「いいわあ、その負け犬の目!ゾクゾクしちゃう……!最高だわ」
頬に手を当て、うっとりした顔に嫌悪感を感じて。私は無言でその横を通り過ぎようとした。が、その腕を掴まれる。
「なに……」
「どうだった?」
何をするの!
その言葉はロアラに遮られる。
どうだった?何が?
怪訝な目で見ると、ニヤ~と不気味な笑みを浮かべてきた。
「私と王子のキスシーンよ!あんた王子とキスもしたことなかったんでしょ!?あっはっは!王子ったらねえいっつも言ってたのよ!リーナは固すぎて面白くないって!つまらない女だって!」
「!!!!」
そんな……あんなにも愛してると言ってくれてたのに!それなのに……そんな事を思っていたというの?
「結婚するまで肉体関係もてないなんて酷い!ってさ」
「!!ロアラ……あなた、まさか……まさか!」
「んっふっふ~」
血の気が引いた。その言葉の意味を理解して。
その汚い笑みを目にして。
「テルディス様って激しいんだ~。なかなか解放してくださらないの。私の体は最高だって、愛してるって何度も何度も褥で繰り返し囁いてくださるのよ~」
もう駄目だった。
私は我を忘れて。
おもいきり、ロアラの頬を引っぱたいたのだった。
14
あなたにおすすめの小説
聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした
天宮有
恋愛
グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。
聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。
その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。
マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。
わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました
柚木ゆず
ファンタジー
より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。
「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」
現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
【完結】わたしの欲しい言葉
彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。
双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。
はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。
わたしは・・・。
数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。
*ドロッとしています。
念のためティッシュをご用意ください。
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる