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「妹を虐げていた!?そんな事してません、嘘です、それは何かの間違いです!!」

 涙ながらに姉は訴え続けている。
 あ~滑稽だわ。
 大声出して笑い出したいところだけど、そうもいかない。
 私は必死で……今が一番肝心と、渾身の演技で涙を流す。そして言うのだ。

「酷いですわ、お姉様。私どれだけ辛かったか……」
「そうだ!イリア嬢がどれだけエルシーを苦しませていたか、我々は知ってるぞ!」

 涙ながらに訴える私に乗っかって来たのは騎士団長子息。名前なんだっけ忘れたわ、まあどうでもいいか。

 いいぞいいぞと内心思いほくそ笑む。
 すると他の男共も声を上げる。

「僕も知ってるぞ、エルシーに水をぶっかけたのを見た!」
「教科書を破いていたぞ!」
「その容貌に嫉妬して髪を引っ張っていた!」

 次々と姉が私を虐めていたと証言する男共。オロオロする姉。

 ──実に痛快だわ!

「そんな……私は何もしてません……」

 姉も私同様に、ポロポロと涙を流す。違うのは彼女のは本物の涙で、私のは演技による涙だということ。だがその違いに気付く者など居ない。

「お姉様……私はただ罪を認めて謝って欲しいだけなのです。大好きなお姉様に嫌われたのは辛いですが……どうか、謝罪を……」

 その言葉で、一斉に私へと向けられる視線。それは圧倒的に同情の色だった。

 ほらね。
 誰だって美人の言葉を信じるのよ。

 地味な姉と輝く私と。
 どちらを信じるか?答えは決まっている。

「やってない事への謝罪は出来ないわ!」

 涙を流しながらも毅然としてそう言う姉に向かって。

「ひどい!」

 そう言って涙を流して私は王太子の胸に顔を埋めた。

 その私の肩を優しく抱く王太子。顔を埋めたまま、誰にも見えないように私は微笑む。

 さあ場も盛り上がってきたわ。

 私は次にくる、王太子の言葉を予想して。
 そしてその予想はけして外れないと確信していたのだった。

「イリア、先ほども言ったが、君との婚約は破棄する」

 さあ、言いなさい。
 姉との婚約破棄を宣言したならば。
 もっと大事な次の言葉を。

「そして私はこの──」

 私と婚約すると。

「エルシー嬢と……」

 さあ!!

「婚約……」

 言いなさい!!!!

 顔を隠したまま。
 私は次の演技──私との婚約を宣言する王太子に驚いた顔を向ける。その演技に備えた顔をする。

 そして王太子は……

「しない!!!!」

 宣言した!!

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ……え?

「え?」

 思わず顔を上げて、声に出してしまった。

 今、なんて言った……?

 見上げた先。王太子の顔。
 それはとても厳しい顔つきで。

 まるで怒ってるかのように睨んで──否。本当に睨みつけていた。私を。

 王太子は私を睨んでいたのだ。

「の、ノルドス様……?」
「気安く名を呼ぶな」

 そう言って。

 王太子は私を突き飛ばすのだった。




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