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3、全力回避一択でお願いします
しおりを挟む結果から言うと、私はなんらお咎めなしであった。
「いやあ、見事な一発だったねえ」
の言葉で終わってしまった。
伯爵、懐広いな。ポイントアップしてあげよう(謎の上から目線)
屋敷内の伯爵の部屋に通された後、伯爵のその一言で全て完結。
そして改めて伯爵は私や可愛い妹弟――アミュキューラとグリンマルトと、二人の母親や私の母に謝罪をしたのであった。
申し訳なかった、心から謝罪する、と。
そしてこれからはアミュキューラとグリンマルトに私、三人の子供を大切にしていきたいとも言った。
「アミュ、グリン……彼女を、アイシュラを……姉として迎えてくれるかい?」
伯爵が伺うように二人を見る。
11歳のアミュキューラと8歳のグリンマルトには酷な話だと思うし、私は経済的援助さえ貰えれば母と暮らしたあの家に戻っていいんだけど。いやむしろそうしたい、切実に。
やんわりとそう言ったんだけど、そんな事出来ないと伯爵に軽くあしらわれてしまった。
何でやねん、私がそうしたいと言うとるがな。
まあでも二人が反対したら家に戻れる……と期待して二人を見ると。
なぜかキラキラした顔で私を見ていた。
あれ?
「勿論ですわ!ようこそ我が家へ、お姉さま!!」
「ぼ、ぼく嬉しいです!お姉さま、よろしくね!」
はいきたー。
お姉さまきたー。
キラキラお目目が可愛すぎな子供二人きたー。
なんでか懐かれたー。
あれか、共に涙を流したからには戦友となるのか。
キラキラの目で見つめてくるの可愛いなくっそ。
これを諦めて一人寂しい家に戻るとか……出来ないわ。
ごめんねお母さん。
『あのクソ親父、今度会ったら絶対ぶん殴ってやるわ』
というお母さんの遺言は遂行したから許して。
私も下衆からクソ親父に昇格して、クソ親父から可愛い妹弟を守るためにこれからは生きていきます。
どうかあの世で伯爵の奥方様と喧嘩せずに見守っていてください。
……あの世で流血の喧嘩とかしてないだろうな。
ちょっと心配になったが、まああの世の事はあの世の事で。
私は目の前の可愛い妹弟が歪むことなく育つよう頑張ろうと決意したのだった。
私の記憶が確かなら――
二人はアイシュラの存在を憎み、ひたすら苛め抜くはずだったから。
※※※※※
前世でお気に入りだった小説があった。
何度も読んで読み返して、登場人物の名前は全て把握していた。
この世界観に自分の名前や境遇、そして伯爵家の状況――全てが、かつて読んだ小説の世界だと告げていた。
私はその世界の主人公……ではない。
小説はいわゆる「ざまぁ系」で、不貞の子である私は伯爵家で散々冷遇され、異母妹弟にいじめぬかれて性格がかなりこじれてしまう。
そんな状態の私は、後に入学する学校で王子や他の貴族男子やらなんやかんやを誘惑して惚れられて……。王子の婚約者を悪役令嬢に仕立て上げ、自身を王子の婚約者の座につかせることを目論む。
目論み通り王子は悪役令嬢を断罪するのだが、あっさり論破されざまぁされて。国家転覆を図った魔女として処刑されるのであった。
ありえない!
本気でありえない!
何それ!
いや、ざまぁ系好きだったから面白くて何度も読んだよ、その小説。
でもそれはあくまで読者だったから。ざまぁが気持ちよくて読めたから!
ざまぁされる側になって嬉しいわけがない!
思い出したからには、私がやるべきことはただ一つ。
全 力 回 避 !!!
幸い、私は前世の記憶がある。
そして狙ったわけではないが、なぜか憎まれるはずだった妹弟に好かれている。
「お姉さま、このお菓子美味しいですよ!」
ニコニコと愛らしい笑顔を向けて、クッキーが盛られた器を差し出してくるのは、可愛い妹のアミュキューラだ。
「ありがとう。……モグモグ……うん、美味しい!」
そう答えると
「良かったですわ!それ、私も大好きなんです!」
パアア……と効果音が聞こえそうな輝く笑顔が向けられた。
おおう、眩しい。
12歳にして34歳のおばさんになってしまった私にとって、彼女たちは本当に可愛い妹……というより娘のようだ。
この笑顔を守り抜かねば!
そう心の中で握りこぶしを作った時だった。
「お、三人ともここでお茶してたんだね」
広い庭で毎日のように行うお茶会は、日々場所を変えていた。
もうすぐ夏という事もあり、日差しが強い中探していたのか、伯爵は少し汗をにじませていた。
使用人に探させず自ら動くのは、なかなか殊勝な心掛けだね伯爵。
そんな父親に椅子とお茶を進めるグリンマルト。
が、伯爵はそれを手で制して
「まだ仕事があってゆっくり出来ないんだ、ごめんね。ちょっとみんなに紹介したい人がいるんで探してたんだ」
そう言って背後を振り返った。
気付かなかったがそこに一人の少年が立っていた。
銀髪碧眼、女の子のような綺麗な顔立ちの、けれど雰囲気から少年と分かるその人は、表情なくコチラを見ていた。
「彼の名前はメンテリオス。僕の知り合いの息子さんだ」
父がそう紹介すると、メンテリオスと呼ばれた少年は軽く会釈をした。声は出てないけど。
「実はその知り合いのご夫婦が事故で先日亡くなられてね。身寄りもない彼をうちで引き取る事にしたんだ。とてもお世話になった方のご子息だし、行く当てもないようだったから」
何とも気の毒な話で同情の目を向けた私たちに、メンテリオスはけれど無表情を貫いた。
「表向きは使用人見習いだけど、彼はまだ12歳の子供だ。見習い勉強もしてもらうが、それ以外の時間は仲良くしてあげてくれないかな」
父親の依頼に否応もなく。
私達は勿論、と頷いたのである。
でも、私の内心はーー穏やかではなかった。
きた。
原作小説において重要人物。
私が最後にざまぁされる時。
悪役令嬢に仕立て上げた(つもりで失敗に終わった)令嬢の横にいる人物。
それが彼メンテリオス……国王の隠し子にして第二王子であった。
応援ありがとうございます!
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