悪役令嬢にざまぁされるのはご免です!私は壁になりました。

リオール

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13、けして甘いものではない。何だっけこれ……大岡裁き?

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 右手にヘルンドル。
 左手にメンテリオス。

 わーい、イケメンに手を繋がれてる~♪これぞ両手に花!?

……なんて喜んでる場合か!!!

 え、何これ何これ、何この状況。


・・・・・・・・・・


 たしか、朝のあの一件で妙な空気を感じた私は、全力でヘルンドルを避けていたはずだ。だが避ける必要もなく、その後ヘルンドルは来なかった。キュリアス様も来なかったから忙しかったのかもしれない。

 このまま下校時間まで過ごせるかな~。そう思ってたちょっと前の自分を殴りたい。

 時は昼。楽しい楽しいご飯の時間ですよ。

 貴族様によっては家のシェフが作るお弁当を持ってくるが(色々危険を伴うキュリアス様やシュリエッタ様はこれにあたる)、私のようなお気楽伯爵令嬢は学食で食べる。
 作るのめんどくさいとうちのシェフが言ってたとか何とかメンテリオスから聞いたが、きっと私の為を思って言ってくれたのだ。その日の気分で好きなものを食べれる、ラッキー♪と私が喜ぶと思っての言葉なのだ。多分。きっと。

 チェイシーはお弁当だったり学食だったりその日によって違うが、基本一緒に学食で食べる。

 今日はシュリエッタ様と三人で、女子会のごとく学内庭園で食べましょ~という話になり。チェイシーは今日はお弁当の日なので、私は単独で学食内にあるテイクアウトコーナーに向かった。

「あれ、アイシュラ様」
「おやメンテリオス君、奇遇だねえ」
「何ですかその話し方」
「貫禄ある紳士風に話してみました」
「恰幅いい感じのですか、素のままでいけますね」
「立派なお腹で悪かったな」

 同じ学園に通ってるのだ。会っても不思議ではないが、貴族だけでなく中には使用人も連れている者もいるため、なかなかのマンモス校状態。入学以来、メンテリオスとはあまり学内で会うことはなかった。

 ……あれ、メンテリオスって一応私の執事じゃなかったっけ。全然お世話になってない気がしますが。
 まあいいけど。居ない方が平和だ。

「おっと、早くお弁当を確保せねば」
「あれ、学食内で食べないでテイクアウトなんですか?」
「庭でデートなもんでね」
 可愛い彼女二人とね!

 メンテリオスと漫才してたら売り切れてしまうわ!慌ててテイクアウトコーナーに向かう。いや、向かおうとしたのだけれど。

 ガシッ

 腕を掴まれた。左の、腕を。若干痛い。

「メンテリオス?」

 早く行きたいんだけど。不思議に思って彼の顔を伺うと、なんか難しい顔してる。変な顔とか言ったら腕もがれそうなので言わない。

「…………」

 銀髪碧眼のイケメンが顔をしかめながら見つめてくる場合、ときめくべきなのだろうか。残念ながら性格知ってるのでときめかない。でもイケメン。そう、黙ってりゃイケメンなのになあ……せっかくなのでマジマジ目つめ返してやる。眼福ものだ。

 でも残念。早く買って行かないと、ご飯の時間が終わってしまう。

「メンテリオス、手を放してくれる?」

 私の言葉に、ようやく我に返ったようで、手を放してくれた。ちょっと痛い。赤くなってるんじゃないだろうか。

 腕をさすってても、まだ視線を感じる。何なのだ。
 顔を上げると、やっぱりこっちを見てる。

「何?」
 言いたいことがあるなら早く言ってよ。いい加減お腹空いた。

「デートって誰とですか?」
「へ?」
「今、デートって言ったでしょ」

 え、何それ。気になってるのってそこ!?
 なんか脱力してしまった。

「シュリエッタ様とチェイシーという、とっても可愛い彼女とランチデートなんだけど?」

 説明しなかった私が悪いのか?いやでも本気のデートって思うか、普通。いつ私に彼氏が出来たんだ。

 先ほど私が感じた脱力感以上のものを感じたのか。メンテリオスの顔から一気に力が抜けたのが分かる。

「それはデートとは言わないでしょう」
「何言ってるんだね、私の愛する彼女だよ。デートじゃないか」
「もう紳士はいいです」

 は~~~~、と長いため息をついてガックリとうなだれてしまった。

「何、羨ましいの?言っとくけど、男子禁制だから。あなたの分までキャッキャウフフしてきてあげるから、後で自慢してあげるわ」
「結構です」

 なんだ、せっかく幸せのお裾分けしてあげようと思ったのに。
 まあいい。手を放してくれたことだしもう行ってもいいだろう。
 本気で無くなりそうで心配になってきた。そう思いテイクアウトコーナーに足を向けたら。

「あ、アイシュラ……」

 はい、エンカウント~。ヘルンドルと出くわしましたよ!

 なんで急いでる今日に限って、出会うかね。この溢れかえる人混みの中で出くわすとか、スーパーレア、いや、SSRだと思うんだけど。

「あーどもども、ヘルンドル様」
 とりあえず、挨拶はしておこう。適当でも何でも、しないよりはいいだろう。
 挨拶もしたことだし、じゃ、そういうことで!

 足早に立ち去ろうとしたら。

 ガシッ

 腕を掴まれた。右の、腕を。若干痛い。

 ……いやこれ、さっきと同じ展開だし!

「え~っと……ヘルンドル様?」

 何度も言うが、ヘルンドルは私より上位貴族。無下に振り払うなんて出来るわけもない。
 顔を覗き込むと思いっきり背けられた。でも手は放してくれない。

「あの、買いに行きたいんですが……いい加減無くなりそうだし」
 お腹空いたし。
 庭でチェイシーたちが待ってるし。
 きっと彼女たちは私が来るのを律儀に待ってると思う。優しい二人が勝手に食べてると思えない。だから急ぎたいのに。

 放してくれない。
 さっきのメンテリオスといい、何なんだ。いい加減イライラしてきた。空腹は人の心を荒ませる。

「あの……」
「アイシュラ、朝のことなんだが」
「ヘルンドル様、アイシュラ様が困ってる。手を放してください」

 私⇒ヘルンドル⇒メンテリオス

 見事に言葉が重なる。
 私は何も言えてないし、ヘルンドルも途中だし。言いきれたのはメンテリオスだけか。

「あ、ああ、メンテリオス。居たのか」
「最初から居ました」
「私はアイシュラに話があるんだ」
「アイシュラ様は急いでるんです。放してください。……行きましょう、アイシュラ様」
「へ?」

 いや行きましょうってあーた、何で私の左手を握るの。どうして引っ張る。私はテイクアウトコーナーに、あんたはイートインでしょうが。方向が違う。

 その様子にヘルンドルがムッとした顔をする。

 そして握る位置を、私の右腕から右手の平に移動した。なぜに。

「少しアイシュラに話があるのだ。お前は先に行け」
「そうはいきませんよ、急がないとお昼の時間が終わってしまいます。アイシュラ様は昼食を抜いたら凶暴になるんですから」

 なったことねーわ!
 昼食抜くなんて不健康なことしないし、抜いても力が出ないだけで凶暴にならねーわ!!

 適当なことを言ってあしらおうとするメンテリオスと、彼自身を排除しようとするヘルンドル。

 なんで見えないはずの火花が見える気がするんだろう……。

 グ~~~~~

 ああ、お腹が空いたよう(泣

 
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