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第一部
2、逃げられちゃいましたかそうですか
しおりを挟む「俺には母親の異なる弟がいる」
「あーいましたね、結婚する時……三年前に一度だけお会いしましたね。旦那様とはあまり似てない、二歳下の弟君」
「ラウルドは母親に似たからな。同じく俺も母親に似たから、俺達兄弟が似てないのは当然だ」
どちらも父親には似なかったんですね、先代様可哀想。
「お父君はさぞやあの世で悔しがってるでしょうねえ」
「勝手に殺すな。両親共に引退の地である田舎で、楽しくやっている」
「知ってます」
貴族夫婦と愛人の三角関係なんて、ドロドロの愛憎劇を想像するだろうが、このフォンディス公爵家の先代はちと変わっている。
旦那様のお母様と、愛人である元メイドの女性と、そして先代の三人はとても仲良しで、いまもって三人仲良く同じ屋敷で暮らしているんだとか。そこらへんは、愛人もつ余裕もない下位貴族出身の私にゃ分からんわ。
まあそれはおいといて。
「で、そのラウルド様がどうかされましたか?」
「子供ができたんだ」
「あーなるほど。それは本当におめでたいですね」
いきなり「子供ができた」なんて言うから、旦那様が妊娠したのかと思ったじゃないですか。そう言ったら「そんな発想になるのはお前くらいだ」と言われてしまった。そんな馬鹿な。
「で、うちの養子にするから、突然で悪いがメリッサ、母親代わりとして育ててくれ」
「うん、なんだって?」
「……え?」
「間違えました。何を突然言い出しやがるんですか、このやろう」
「め、メリッサ?」
突然のことすぎて、私の口調がさだまらない。考えるより先に口をついて出る悪態に、苦笑で誤魔化す。
いまいち理解できないので、質疑応答といこう。
「ええっとですね、弟君は昨年結婚されましたよね?」
「そうだな。相手が庶民ということもあって、式は挙げなかったが」
「で、子供ができたと。それってまだ妊娠の段階ですか? それとも……」
「先月無事に出産が済んで、現在生後一ヶ月とのことだ。忙しくて連絡し忘れていたらしい」
「うん、そうですか。お祝い贈らないとですね。で、どうしてうちの養子に?」
たしかに公爵家当主であるクラウド様は、後継がいない。私達は子作りしてないのだから当然だ。
結婚当初、私が15歳だったから……という理由ではない。れっきとした理由があるのだが、まあそれは今はどうでもいい。
「旦那様の後継として、弟君のお子をお迎えするんですか?」
でも弟君だって、後継が欲しいだろう。公爵家は継がないが、彼はたしか功績が認められて伯爵ではなかったか。
「育てられないから、助けてくれと連絡がきたのだ」
「なんで」
「育てられないから」
「いやだからなんで」
「母親がいないそうだ」
「なんで!?」
お産というものは命がけ。お産で命を落とすという話はたしかに聞いたことはある。だが先程「無事に産まれた」と言ったではないか。
「産後の経過がよろしくないのですか?」
さすがに奥方が亡くなったなら、大変な話だ。だが旦那様は首を横に振った。
「いや、初産とは思えないくらいの安産で、産後の経過もよく、ピンピンしていたらしい」
「では?」
「逃げられたんだ」
「……はい?」
「弟、妻に、逃げられた」
なぜそんな区切って言うのか。私が理解できないと思ってる?
できませんよ!
「いや、唐突すぎて意味がわからない。……あ、ひょっとして、不貞の子だとか?」
「それはない。弟と同じ、非常に珍しい緑髪碧眼らしい」
「ああそうなんですか」
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旦那様は夜のように美しい黒髪だし、私はそんなに珍しくもない金。微動だにせず立っている執事のアラスは空のような青。
でも意外に珍しいのが緑の髪を持つ人。青髪と金髪の夫婦の間にできるこは緑髪……と、そう単純な話でもないのがこの世の不思議ってね。緑は特に遺伝性が強く、ラウルド様の母親である元メイド長もたしかに緑の髪だった。
そしてラウルド様の奥方は、黒髪。
18年生きてきて、私は未だに緑髪は、ラウルド様を含め両手で足りる人数しか見たことがない。それほどに希少。
「ではどうして逃げられたんでしょうか?」
「まあ元から好きだった男がいたらしく、それが庶民で……」
「ふむふむ」
「子を作るという義務は果たしたから、あとは好きな男と生きると言って……」
「言って?」
「弟から貰った宝石とか金目になるものを持って、姿を消したそうだ」
「不憫!」
結婚以来会ったこともない義理の弟ではあるが、その可哀想な境遇に思わず叫んでしまった。
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