1 / 63
第一部
1、旦那様に子供ができたそうです
しおりを挟む「子供ができた」
「そうですかおめでとうございます。男性の妊娠は珍しいというか前例ありませんけど、だからって今後も永遠にないと決まったわけではありませんものね。世界初の男性による妊娠おめでとうございます」
二度おめでとうございますと祝福の言葉を述べる私に、旦那さまは「違うそうじゃない」と言う。
珍しく執務室に呼び出されたなと思えば、机上に両肘ついて両手をギュッと握るお祈りポーズの旦那様。
クラウド・フォンディス公爵。れっきとした私の夫で、結婚三年目に突入するも未だに子供はいない。
というか子作りしてない。
私ことメリッサの実家は子爵家で、どう考えても公爵家と釣り合わないわけだが、色々あって縁あって事情もあってで、私はここに嫁いだ。
条件はただ一つ。子作りしないこと。
私としては、子供どころか結婚願望すらなかったので、貧乏実家の助けになる白い結婚ならまあいいかってな感じで嫁に来た。
この三年、本当に旦那様は私に手を出すことはなく、それどころか寝室も完全に別。
でも夫婦仲はそんなに悪くない、お小遣いくれるしなんでも自由にしていいときたもんだ。
私の仕事は夜会なんかで旦那様のパートナーとして出席することくらい。
いやもう、楽すぎて最高な日々を送っているのですよ。
旦那様は実に有能な公爵様なので、夫人会とやらが開くお茶会で夫のための情報収集するなんて必要もない。
コミュ障万歳な私としては願ったり叶ったりな結婚。
そんなわけだから、旦那様の執務室なんて、この大きな公爵邸の中で唯一入ったこと無い部屋と言っても過言ではない状況。
その執務室に、朝食終わると同時に呼び出されましたよ、一体何ごと。
「今日はミラと庭でカマキリ探しの旅に出る予定なので、ご用件は簡潔に五秒でお願いします」
って言ったら、「子供ができた」と二秒で言われてしまった。さすが優秀な旦那様、出した条件を余裕で上回るし。
って、そういう話ではない。
よくわからんので、冒頭の言葉を返したわけだが、違うと言われてしまった。何が違うの。
「俺は人類初の妊娠した男になるつもりはない。そもそも子作りしとらんのに、できるはずがないだろう」
「旦那様が妊娠する方向での子作りとか、想像させないでください。相手は誰ですか、そこの優秀な右腕、執事のアラスですか」
「いやだから、俺は妊娠しとらんし、したとしてなぜに相手がアラスになるんだ」
「お二人、すごく仲いいですから」
言ってチラリと部屋の端に立っている執事のアラスに目をやった。
黒髪碧眼でこの世界の美を集約させたかと思うような美しい旦那様……と並んでもひけをとらない、それが美形アラス君。ちなみにまだ15歳。昨年先代執事である、彼のお祖父様から引き継いだばかり。
15歳でもおそろしく優秀で、天才すぎて恐いと言ったら「奥様は面白すぎて恐いですね」と言われました。どういう意味。
そのアラス君が、ものっそ恐い目で私を睨んでいるので目を逸らそうと思います。あれで本当に私の三才下なの?
なんとなく殺気を感じるので、クルクルと自分の金髪を指に巻いて気にしない風を装った。
が、目の前では殺気はないものの、すごく嫌そうな顔をしている旦那様がいるので、今度は紫眼を天井に向けてみた。
「どこを見ている」
「目の体操です」
どこ見ていてもいいじゃないですか、と思いつつ旦那様に目を向ければ、今年25歳になるとは思えぬ子供っぽい表情が私を見つめていた。
旦那様は、時々こういった幼い顔をする。
「なんだ?」
「いや、可愛いなあと思って」
「かわ……もういい、本題に戻すぞ」
褒め言葉は素直に受け取るべきですよ、といつも言っているのに、美形な旦那様は今日も私の言葉に照れて真っ赤になる。ううむ、可愛い。
今日も私達夫婦の関係は実に円満。
でも不穏になるまであと五秒。
488
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。
五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」
婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。
愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー?
それって最高じゃないですか。
ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。
この作品は
「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。
どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる