【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール

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広谷一家

館の見る夢(11)

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 こんな暗闇の中、明かりも持たずに走るなんて、危険すぎる!
 慌てて追いかけたが、子を思う母の気持ちの強さゆえか、追いつけない。どんどん遠ざかる足音に、私の中に焦りが生じる。
 そもそも私は今、どこを走ってるのだろうか?階段を下りてすぐに広谷さんを見つけて、中を散策することはまだ出来ていない。道が全く分からない状況で走り回るなんて、自殺行為ではなかろうか。
 そんな当たり前の事を頭がようやく理解し、気付いて立ち止まった時には時すでに遅し。手元の携帯以外頼る明かりのない状況で、私は既にどこから来て今どの辺りにいるのか、サッパリ分からなくなってしまった。

「広谷さん!広谷さん!?」

 呼びかけても答える声は無い。シンと嫌な耳鳴りが聞こえるほどに、空間は静まり返っていた。

コツン

 不意に、背後から音が聞こえる。「広谷さん!?」慌てて振り返るも、そこには暗闇が広がるだけで、音はもう続かない。またも静寂が広がる中、ゴクリと私の喉が鳴る音だけが聞こえた。耳を澄ます──

コツンコツン

 心臓が大きく跳ねる。
 聞こえた!今、確かに聞こえた。音が──足音が、聞こえる。ただ、それは広谷さんではなかった。走って行った広谷さんの靴音ではなかった。
 では誰なのか。思い当たるのは霧崎だが、それもまたこんな音では……軽い音ではないと感じた。
 そう、聞こえる足音は軽いのだ。それはまるで子供の……
 そこまえ考えてハッとなった。

「健太君?」

 そっと呼びかける。だが応える声は無い。ただ足音はコツコツと続き、そしてそれは確実に近付いている。手が震える。携帯を持つ手が。それを前方に掲げれば、足音の主が見えるだろう。それくらい足音は近くまで来ていた。だが出来ない、恐ろしくて……足音の主が誰かを見る勇気を出せず、私はただ震えて携帯を握り締めていた。
 直後、視界が変わる。いや、正確には突如明かりが灯され、廊下が照らし出されたのだ。

「え──!?」

 突然の事に驚いて周囲に目をやる。どうやら気付かなかったが、石廊下の壁には、照明器具が設置されていたようなのだ。それを誰かがスイッチを見つけて入れたのだろうか?
 急に明るくなったことで目を細め、戸惑いながら壁を見ていた私は気付かなかった。

コツン

 足音が、私の目の前に来ていたことを。
 すぐそばで止まる足音に、ドクンとまた心臓が大きく鼓動した。ドクン、ドクンと外まで聞こえるようだ。
 顔は壁の照明を見上げたまま──下に向く勇気が出せない私は、眼球だけを下に向ける。

「ひ──」

 もう何度悲鳴を上げそうになったか。悲鳴を上げることもできない衝撃を、何度受けただろうか。
 目だけ下に向けた私と。
 私を見上げる目と。
 その視線がぶつかり合い、絡まる。
 私を見上げるその目の持ち主は──その少年は、私を見ても何の感情も見せない。私の存在を意に介すことなく、ただそこに居ると認識して。
 そして少年は歩き出した。

 少年は──桐生貴翔(きりゅうたかと)は、私を一瞥した後、表情を一切変えることなく正面を見据えて歩き出した。
 過去に存在したはずの少年が、今、私の目の前を歩いて行ったのだ。

 これはなんなのか、一体なんなのか。どうして貴翔がいる?この現代に、どうして過去に生きた者が存在する?
 戸惑い混乱する思考……だが直ぐに気付く。先ほどの暗闇の世界と、今ほんのり明るく照れし出された世界が微妙に異なる事を。
 明るくなったせいもあるのかもしれないが、石造りの廊下はまだ新しく綺麗に見えた。カビ臭さも無く、ところどころにあった欠けもヒビ割れもなく、ここが作られてまだ間もないと感じさせた。

「白昼夢──?」

 また私は眠ってしまったのだろうか。ひょっとして、最初から夢だったのだろうか。広谷さんの奥さんを追いかけてきたことも、霧崎に突き飛ばされたことも。だがそれに関しては違うと、どこかで理解している自分がいる。あれは現実のことだ、実際に経験している。
 そして今、私は気絶してないことも、何となく自分の体が発する痛みから理解出来た。
 ならばこれは白昼夢なのだろう。
 貴翔は私を見て認識したが、それはあくまで夢だから。これは貴翔の過去の映像なのだろうか。こんなものまで里奈は私に見せることが出来るのか。
 呆然としていたら、いつの間にか貴翔は随分前を歩いていた。そのゆっくりな足取りに、けれど生じた距離に焦りを感じた私は、慌てて彼を追いかけた。なぜって理由は分からない。ただ見るべきだと思ったのだ。貴翔がどこへ向かい、何をしようとしてるのか。
 この先に何があるのか。
 私は知るべきだと思った。

 結構な距離を歩き、だが結局目的地は現れず行き止まりになってしまった。無情な石壁が行く手を阻む。
 困惑している私をよそに、貴翔はしゃがみ込んで壁の下の方を何やらゴソゴソしだした。そして壁の一部にある、かけてるというより意図的に作られた小さな穴に、指を入れる。それを軽く引いた瞬間──ガコンと音を立て、壁が動いた。
 いや、そこに扉が現れ開いた。
 またも隠し扉が現れたのである。

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