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婚約者令嬢vs聖女vsモブ令嬢!?(前編)
しおりを挟む「勝負ですわ、ワインリス様!」
「望むところですわ!たとえ聖女である貴女相手でも、負けませんことよ!!」
……わーお、熱血ぅ~~~
「「ネルフィアナ、貴女にも絶対負けませんわ!!」」
ビシィッッッ!!!
揃って指を指して宣言してくる二人の美人を前にして、私が発することが出来た言葉は
「え~~~~面倒くさー」
だった。
※※※※※※
何でこうなった。
バチバチと火花を散らす二人ーー王家に匹敵する権力を持つ公爵家令嬢と、聖なる力をもって世界を守る聖女。
どちらも半端ない存在感を放っている。
その二人が!
なんで!
「さあネルフィアナ、勝負ですわあぁ!!!」
何で私を勝負に巻き込む!?
「もー、面倒くさい……二人とも落ち着いてください」
「面倒くさいとは何ですか!これが落ち着いていられますか!」
私の言葉に真っ赤な顔で叫び返すのは、クルクル縦ロール金髪美人の公爵令嬢。
「そうですわ、殿下に相応しいのはわたくしです!貴女なんかに負けませんわ!」
『なんか』って……!サラッとひどいこと言ってくれるね、聖女様!
腰まで届くサラサラストレートの黒髪を振り乱し、目に涙を浮かべて毒舌吐くのは聖女様。
……聖女がそんなこと言っていいんかい!
呆気にとられる私を尻目に、二人の美女はどんどんヒートアップしていく。あったま痛~。
「あはは、みんな仲いいなあ」
頭を抱えてたら、ムカつくほどノンビリした声がその場に響いた。
ギンッと声の主を睨みつけてやるが動じる様子もない。
それもそのはず。声の主は向かうところ敵無し、この国最高権力者の国王ーーになる予定の王太子だった。
完全に他人事、と決め込んで床に座り込んで傍観してる王太子にイライラが増す。
てか何でちゃっかり床に敷いたシートの上に座ってんの!?どこから出てきた、そのサンドイッチと紅茶らしき飲み物は!!
「おま、ふざけんなよ!」
不敬罪とか気にしてらんないし!そもそも王太子も気にしてないし!
思っきし怒鳴ってやった。
でも相変わらず、あはは~と笑ってやがる。
むっかつくわあ!!
そんな私達のやり取りを見た美女二人が怒り心頭の顔で
「「ちょっとネルフィアナ!抜け駆けしてんじゃないわよ!!!」」
と怒鳴ってきたのである。
こっわ!
見事にハモったね、こっわ!
王太子の言うとおり、実は貴女たち仲いいんじゃない!?
※※※※※※
事の発端は、二人の美女と一人の王太子による三角関係であった。
幼い頃に親同士で決められた、王太子の婚約者、ワインリス公爵令嬢。
二年前、突如異世界からやってきた聖女。
ワインリス様は十分優秀な方だけど、やはり聖女の血を王家に入れたいのも本音。王家はどちらを王太子の真の婚約者とするか大いに悩み……結果、王太子に選ばせることにした。好きな子選んでいいよ~と……つまりは丸投げだ。何ていい加減な!
問題はそこからだ。
美女二人が王太子にどちらを選ぶのか迫ったところ、なんと!!!
「え~私はネルフィアナがいいな~(ヘラヘラ)」
と、のたもうたのだ!
なんつー爆弾発言してくれるんじゃあ!!
私の身分は貴族の中では普通の普通、普通の伯爵令嬢だ。伯爵家にもピンキリあるが、うちは格下の方になる。とんでもなく優秀で無い限り、まず王太子の嫁になることなんてない。
ハッキリ言ってモブなんだよモブ!
な・の・に!!
なぜかこの王太子は私の事が気に入っていた。
15歳で王家が運営する学園に入学し、そこそこの貴族を結婚相手としてゲットしようとしてたのに!そんな私の目論見は木っ端微塵に砕かれたんだ!……このバカ王太子によって。
キッカケなんてもう忘れた。
ただ、王太子だろうと誰だろうとあまり遜らない私は、かなり異色だったんだと思う。
チヤホヤされ甘やかされるのが当然となっていた王太子に、「ダメ人間」とか言っちゃうような輩はいない。……王太子どころか人にそういうこと言うやつって……あんまいないよな、うん。
が、ここに居ました。それが私です。
いや~だってさあ、知力体力時の運、ぜーんぶ持ってても人格崩壊してちゃ国王は務まらないでしょ。
甘ったれ腐りきった根性直してもらわにゃ、国民は安心して眠れんし。
だから誰も言わないなら私が言うぞ、の謎の正義心でアレコレ進言してしまったのだ。
下級生なうえに伯爵家の中では末端の、それも大して能力のない女、にダメ出しくらったら……下手すら首チョンだったかも知れないのに。
いや~私も若かった。17歳になった今、当時の自分をぶん殴ってやりたい。
何を後悔って、言ったことにではない。王太子に関わったことそのものに後悔してるんだ。
「関わるべきじゃなかった……」
後悔先に立たず。
気付いて悔いたところで何も変わらない。
そうだ、これからは関わらないよう注意しよう。王太子がどれだけ人間的にバカでも能力はあるんだし、どうにかなるだろー。
そう思って距離を取ろうとしたときには既に遅かった。
王太子から一歩離れると二歩近付いてくる。また距離をとると詰められる!
そんな攻防を繰り返すも、全て無駄に終わった。
『ネルフィアナ、次の休日どこか一緒に行かないか?』
『ネルフィアナ、このケーキ美味しいよ』
『ネルフィアナ、明日は晴れるかなあ?』
『ネルフィアナ、面白い顔してるね』
だーーーーーっ!!!
ネルフィアナネルフィアナうっさいわ!
何じゃ最後のは!面白い顔だよそうだよ羨ましいか!
そうやってキレるのも楽しいらしくて。私と王太子の賑やかコント(何でやねん)は、学園内でも有名になっていた。
そんなことになれば……まあ、他の女性陣にもバレるわなあ。
ワインリス様の激しい質問攻めに遭い。
聖女からの厳しい圧を受け。
血の涙を流しそうになりつつも、どうにか笑ってかわしてたんだけどさ。
結局逃げることを許されなかった私は、二人に闘技場……じゃない。魔法や実技戦闘の訓練場に呼び出され。
無駄に広いグラウンドで……冒頭のバトル勃発が開始されたのである。
カーンッ
バトル開始の鐘の音が聞こえたような気がするのは気のせいだろうか。
誰だよ「fight!」とか言ってんのは!
お前だよ王太子!お前が元凶なのに、楽しく観戦する気満々じゃねーか!
どうすんだよこの状況!
お前が「私のお嫁さんになるなら、強い人でないと駄目だよ。王妃って思ってる以上に危険なんだから」なんて言うからだろうが!
無責任決め込んでるんじゃないわよ!
頭を殴ってやろうと思って王太子の方を向いたら
「火の精霊!そいやぁ!!」
「ぬおっ!?」
火の玉が飛んできた。
何すんだ公爵令嬢!火の魔法とかありえねーわ!しかも何だその適当な詠唱は!もっと格好よかったはずだろ、ちゃんと言えよ!精霊もそんな適当に言われて応えんな!
か弱い一般人に攻撃すんな!
「か弱いって誰のこと~?」
王太子うるさい。
心を読むな。声に出てましたか、そうですか。
「油断する方が悪いんですわ!」
言葉は丁寧。でもやること乱暴。いいの!?公爵令嬢がそれでいいの!?
「我は命ず。光の加護の元、闇の眷属を打ち滅ぼせ!」
お、まともな詠唱!ってちょっと待て。
「なんでよぉぉ!!??」
向かい合う私と公爵令嬢に、眩い光の玉が飛んできた!
打ち滅ぼす闇の眷属って私らかーい!
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思ったより長くなったので前後編に分けます。
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