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婚約者令嬢vs聖女vsモブ令嬢!?(後編)
しおりを挟むうっそ!これ当たるとどうなるの!?聖女が人に危害加えていいのー!?
「それに当たると麻痺しますわ!」
ご丁寧に説明してくれる。動けなくなる=負けってことかあ!
なるほど、そうか!
なら
「三十六計逃げるに如かず!!!」
大した魔力のない私が受け止められるわけがない!麻痺したくない!
が、今回の件で公爵令嬢や聖女の取り巻きに様々な嫌がらせを受けてきた身。
逃げ足だけは早くなった!……嫌がらせとは別に、迫りくる王太子からも逃げまくってたからな。
超速で近づいてくる光の玉を、けれど私は一瞬もかからず判断してバッと飛びのいた。
「ふえ!?」
私の背後から迫っていた光の玉。
よく見えてなかったのか、公爵令嬢の動きが遅れる。
そして。
「きゃああぁぁ!?」
バリバリーっという音と共に公爵令嬢に直撃した。
うへ、痛そう……。
実際はそんなに痛くないのかもしれないが。
光の玉が消えて横たわる屍……もとい、ちゃんと息してる公爵令嬢はビリビリするのか痙攣していた。
むごいな、これ。えげつないな、聖女。
「わ、ワインリス様?大丈夫ですか~?」
恐る恐る問いかけてみるが。
返事はない、どうやら死んでるようだ――違う、痺れてるようだ。
魔物相手でも殺さずを貫く聖女らしい攻撃だが、これは嫌だ。意識があるだけにプライドズタズタになりますやん。
こわ。聖女怖っ!
そーっと聖女の方を見やると……黒髪に似合った黒い笑みを浮かべていた。おまえそれ聖女の笑みじゃねーよ。
「よく避けましたわね、ネルフィアナ。でも次は外しませんわよ!」
んぎゃあ!次の光の玉準備してるー!
みんなに元気でも分けてもらったの?何その頭上に浮かぶ巨大な玉!
ちょっとくらい逃げても当たるようにか、先ほどとは比にならない特大の光が浮かんでいた。
それを両手に掲げて……
「死ねえぇぇ!!!!!」
「いや待て、死ねとか言ってるしーーーーーーーーー!!!」
おかしいだろそれ!
うわ、飛んできた、特大光玉が飛んできた!
やばい、これはさすがに避けれない!
……と、そこでふと気付いてしまった。
いやこれ……避けない方がいいんじゃね?
だってそうすると聖女の勝利で……必然的に聖女が王太子の新たな、そして正式な婚約者となるわけで。
それって私としては願ったり叶ったりなんじゃないの?
そうだよ、何か雰囲気で負けたくないとか思っちゃってたけど、これ勝つって事は王太子の婚約者になるわけじゃないか!なんて重要な事が抜けてたんだ、私!
ちょっと痛そうだし、痺れる姿は間抜けだけど(ワインリス様ごめん)、別に怪我するわけじゃないし、怪我しても聖女が治してくれるだろうし(多分)
どんどん近づいてくる光の玉を目にしながら、瞬時にその結論に至った私は、素直にそれを受け止めることにした。どうせ逃げても無駄だし。
よっしゃこい、どんとこい!
聖女の気持ち、受け止めてやろうじゃないかーーーーー!!
思いながらも特大光玉が眼前にくると、「わ~やっぱこえ~」と呟いてしまったのは許して欲しいと思う。
※※※※※※
「…………あれ?」
来るべき瞬間を覚悟してギュッと目を閉じていたのだが。
一向に衝撃が来ない。
それどころか、何か……柔らかい感触が……。
んんん?
これって抱きしめられてる!?
「大丈夫?ネルフィアナ」
「んん!?」
慌てて目を開けると
「近っっっ!!!」
目の前に王太子の顔があった。
無駄にイケメン、残念王子だけどイケメン!そのイケメンが眼前に!どうやら王太子に抱きしめられてるようだった。
王太子は右手で私を抱きしめ、左手で――
「で、殿下……」
聖女の呆然とした声。
そりゃ驚くだろう。王太子が左手一本で特大光玉を受け止めたのだから。
王太子がバッと前に左掌を突き出し、その前で光の玉が止まっている。
そしてギュッと掌を握り締める。
その瞬間。
パアンッッッ!!!
光の玉が霧散してしまった。
キラキラと光の残留が王太子に降り注ぎ……
「綺麗……」
思わず呟いてしまった。
ハッ!何言ってるんだ、私は!
私の呟きが聞こえたのかどうか分からないが、王太子はスッと私の顔を見て、ニコリと微笑んだ。
「で、殿下!どうして!これは神聖な勝負なのですよ!それに強い女性が良いとおっしゃったではありませんか!」
聖女が慌てて言い募る。まだ痺れてるが少し動けるようになったのか、公爵令嬢も驚いた顔でコチラを見ている。
そんな二人を見やってから、王太子はまたニッコリと微笑んで「だって」と言葉を紡ぐ。
「だってネルフィアナが痛い思いするの嫌だから」
「!?」
さらっとイケメン台詞出てきた!
「それに、『強さ』ってのは別に魔法や戦術に長けてるだけではないだろう?魔物よりも恐ろしい腹黒な魑魅魍魎が徘徊する王宮で、どんな嫌がらせにも負けない鋼の心を持ってるのも、強さだと言えると私は思うよ」
それは何か。私は魑魅魍魎の腹黒大臣どもより上をいくということか。
素直に喜べないのはなんでかな。
「物理的魔法的攻撃はこうやって私なり騎士団なりが守ってあげれるけど、心に向けた攻撃は……なかなか守れないよね」
君たちは心が弱い。
暗にそう言って美女二人を見やり、スッと視線を私に戻した。
ふおおお、イケメンが優しく微笑んでるうぅ!
どうした私、なんでこんなダメ王子にときめいてるんだ!
ないないないない!
ときめきなんてない!恋心なんてない!ない……はずなんだ。
「王家も神殿も私の意見を尊重するって言ってるんだ。それはつまり、君たち二人のうちのどちらかを選ばなくてもいいってことなんだから、好きにさせてもらうよ」
「そ、そんな……」
「それとも、聖女様は私の妻となれない限り、この世界を守ってくれないの?その程度なの?」
「そ、そんな事はありません!」
「ならいいよね」
ニッコリ微笑まれては、もう聖女は何も言えない。
次に王太子はワインリス様を見やる。
「親同士が決めたとはいえ、婚約者として色々励んでくれたワインリスには申し訳ないけど……共にいたなら私の気持ちには気付いていただろう?私は君を幸せにしてあげれない」
それはお互い望まないだろう?
少し悲し気な顔で王太子にそう言われては……ようやく起き上がったワインリス様も何も言えず。ため息をついて、かぶりを振った。
※※※※※※
聖女がワインリス様の痺れを完全に取り除いた後、二人は王太子に退室の礼をとり、無言でその場を後にした。
残されたのは、私と王太子のみ。
えーーーーっと……
ものっそ視線を感じるが。
見ない!私は断じて王太子の顔を見ない!
私も退室していいですか?むしろ退室したい。
「ネルフィアナ」
ビクーッ!
考えが読まれたのかと思うようなタイミングに、無意識に肩が揺れた。
「え、え~っと殿下、私もそろそろ……」
「ネルフィアナ」
退室、できませんね、駄目ですか、そうですね。
王太子に呼ばれては顔を見ないわけにはいかない。
見上げると、予想外に心配そうな顔で覗き込まれていた。
「で、殿下?」
「怖くなかった?」
「え、あ~まあビックリしましたが、怖いとは違ったかな。あ、でもバトルはともかく、あの二人は確かに怖かったですね」
美人の鬼の形相……あれぞ鬼女、なんて言ったら怒られそうだ。
そう答えたらニッコリ微笑まれた。
「そっか、ごめんね怖い思いさせて。こうでもしないと、あの二人も納得してくれないと思ったからさ。特にワインリスは……こうやって暴れて発散でもしない限り、ずっと悶々としそうだったから」
ちょっと優しいじゃないか、王太子。
何も考えてないと思ってたわ。
「ネルフィアナなら大丈夫だと思ったんだ、あの二人よりずっと心が強いから。普通なら泣き出すか失神するのに、さすが私が見込んだだけのことはある。あの光の玉もネルフィアナなら気合一発で消し去るかなと思ったんだけど」
余計なことしちゃったかな?
ニヤリとして覗き込んでくるその目は、私がわざと当たろうとしてたこと……絶対気付いてるよね!気付いてたから助けてくれたんだよね!
「できますか、んなこと。私を何だと思ってるんですか」
「あはは~」
フォローしろよ。
あーでも。
王太子の態度にムカつきつつも、とても心地よいと思ってしまう自分がいる。
とても気楽で、素の自分でいられるのを嬉しく思える。だいぶほだされてるなあ。
王太子も気楽だと思ってるのかな。だから私を選んだのかな。王妃くらいは素の自分を見せたいと思ったのか。分からないけどそうなら嬉しいな。
「ネルフィアナ、今日から君は私の婚約者だ。正確にはもうすぐ私の妻となるけど……いいかな?」
受け入れてくれるかい?
そう問いかける言葉と表情は。
卑怯だ、なんでそんなに不安そうなの。
捨てられるかもしれない恐怖に怯えきった目を見て、否やと言える自信はないじゃないか。
ずるいずるいずるい。
なのに断れない――断りたくない自分がいる。
「と、とりあえずですね」
おい、なんか顔が近づいてないか?
全力で押し返そうとするものの、ビクともしない。くそう。
「とりあえず!」
「うん?」
「私も殿下の名前を呼ぶところから始めたいと思います!」
どんどん近付いてくる顔に恥ずかしさMAXで叫ぶと。
一瞬キョトンとした後、はじけるような笑顔を返してくれた。
繰り返される甘い口づけの後
何度も王太子の名前を呼ばされたのは
また別のお話――
~fin.~
=========================
あれ、こんな甘い終わり方になる予定なかったんだけど(苦笑
余談ですが、公爵令嬢と聖女は互いに慰め合い親交を深め、親友となりました。そして後に王妃となるネルフィアナと三人、よく女子会を開くことになったそうです。お互いの旦那さんの愚痴とか色々と盛り上がったそうですよ。
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ドロドロ関係の話が多いですが、仲良くなるのもいいなと思ったんです(*´ω`)o
感想ありがとうございました!