婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール

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 無言でひたすら歩き続ける。正直オーバン様の歩幅に合わせるのは辛い。徐々に息が上がってきた頃。

「──あ!」

 足がもつれる。こける!
 そう思って目をギュッと閉じるも、衝撃はこなかった。

「──と……」

 その代わりに、ふわりと包まれるような感覚。

「大丈夫ですか?」

 そっと目を開ければ、そこはオーバン様の腕の中だった。

 ……腕の中!?

「あわわ、申し訳ありません!」
「いえ、貴女の事を考えずに早足になってしまいました。謝るのはこちらの方です」

 そう言って謝ってくださった。
 怒ってるような感じで少し怖くもあったけれど、今はとても優しい空気をまとってることに安堵する。

 ホッとして、それから現在の状況に慌てるのだった。

「も、申し訳ありません!」

 もう一度謝って慌てて体を離そうとしたのだけれど。

 けれどそれは叶わなかった。

 むしろギュッと力を入れて抱きしめられてしまう。
 心臓の鼓動が信じられないくらいに早くなり、私はどうすれば良いのか分からなくなってしまった。

「あ、あの……?」
「もう少しだけ、このままで……」

 どうしたものかと声をかければ、もう少しだけと言われてしまった。

 ──そんなことを言われて嫌だと言えましょうか!?いや言えない!

 仕方ないのでされるがままジッとしていたら、ホウと吐息が聞こえた。

「大人げないと分かってるのですが……野蛮な自分を見せてしまった事を恥ずかしく思います」
「そんなことは……」

 野蛮?そんな場面あったかな?と否定しつつ記憶を巡らせた。しいて言うならハリシアの事を『お前』呼ばわりしたところくらいだと思うのだけど。それで野蛮となってしまったら、我が家は野蛮人ばかりになってしまう。そんなこと言えないけど。

「柄にもなくイラついてしまいました」
「イラつく?」
「ええ。……あんな姉をもって、さぞや苦労されたでしょうね」
「──」

 あの短時間でハリシアの本性は読み取れたのだろう。
 そもそもハリシアは素を隠そうとしない。これまで侯爵家を仕切ってたのは自分だと言う割には、行動があまりに幼稚なのだ。下品なのだ。

「あれでは駄目だ。きっとすぐに自分の首を絞める事になるでしょうね」

 それは私も思う。どう取り繕ってもすぐにボロが出そうな姉の姿が頭に浮かび、私は「そうでしょうね」とその腕の中で呟くように返事するのだった。

 ところでいつまでこうしてれば良いのだろうか。人気は無いがここは一応王宮だったりする。騎士舎からの帰りだったから貴族は少ないかもしれないけど、いつ誰が通るともしれない。いい加減解放してほしいのが本音だ。

「あの、オーバン様。そろそろ離して……」
「先ほどの話ですが」

 離してくださいませんか。そんな私の言葉にかぶせるようにオーバン様は言う。何となく抱きしめる腕の力も強まった気がするような。

「先ほど?」
「婚約云々の話です」
「ああ……。あんな嘘ついて大丈夫ですか?姉はすぐに噂を広めますよ」

 手びれ尾ひれ一杯つけて広めますよ。

 そう言えば、クスリと笑う気配を感じた。顔を見たいが頭を彼の胸元に押し付けられてる状態なので、それは出来なかった。

「オーバン様?」
「別にいいですよ。真実にすればいいだけですから」
「はい?」

 彼が何を言いたいのか分からず、動かぬ頭をひねる。
 真実にすればいいって……それは一体……。

「バルバラ嬢」
「──は、はい?」

 もう呼び捨てにしてはくれないのだろうか。そんな一抹の寂しさを感じながら、頭だけ解放されたので返事をしながら顔を上げた。思ったより彼の顔が近くてドキリとする。

 彼は私をジッと見つめていた。顔が赤くなるのを自覚して、思わず俯いた私の頭上に彼の言葉が降って来た。

「俺と結婚してくれませんか?」
「は──え、へ!?」

 勢いで『はい』と言いかけて、すぐに言葉の意味が脳に浸透する。その瞬間出た間抜けな声と言ったら……恥ずかしすぎるくらいに間抜けで情けないものだった。



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