18 / 41
18、
しおりを挟む無言でひたすら歩き続ける。正直オーバン様の歩幅に合わせるのは辛い。徐々に息が上がってきた頃。
「──あ!」
足がもつれる。こける!
そう思って目をギュッと閉じるも、衝撃はこなかった。
「──と……」
その代わりに、ふわりと包まれるような感覚。
「大丈夫ですか?」
そっと目を開ければ、そこはオーバン様の腕の中だった。
……腕の中!?
「あわわ、申し訳ありません!」
「いえ、貴女の事を考えずに早足になってしまいました。謝るのはこちらの方です」
そう言って謝ってくださった。
怒ってるような感じで少し怖くもあったけれど、今はとても優しい空気をまとってることに安堵する。
ホッとして、それから現在の状況に慌てるのだった。
「も、申し訳ありません!」
もう一度謝って慌てて体を離そうとしたのだけれど。
けれどそれは叶わなかった。
むしろギュッと力を入れて抱きしめられてしまう。
心臓の鼓動が信じられないくらいに早くなり、私はどうすれば良いのか分からなくなってしまった。
「あ、あの……?」
「もう少しだけ、このままで……」
どうしたものかと声をかければ、もう少しだけと言われてしまった。
──そんなことを言われて嫌だと言えましょうか!?いや言えない!
仕方ないのでされるがままジッとしていたら、ホウと吐息が聞こえた。
「大人げないと分かってるのですが……野蛮な自分を見せてしまった事を恥ずかしく思います」
「そんなことは……」
野蛮?そんな場面あったかな?と否定しつつ記憶を巡らせた。しいて言うならハリシアの事を『お前』呼ばわりしたところくらいだと思うのだけど。それで野蛮となってしまったら、我が家は野蛮人ばかりになってしまう。そんなこと言えないけど。
「柄にもなくイラついてしまいました」
「イラつく?」
「ええ。……あんな姉をもって、さぞや苦労されたでしょうね」
「──」
あの短時間でハリシアの本性は読み取れたのだろう。
そもそもハリシアは素を隠そうとしない。これまで侯爵家を仕切ってたのは自分だと言う割には、行動があまりに幼稚なのだ。下品なのだ。
「あれでは駄目だ。きっとすぐに自分の首を絞める事になるでしょうね」
それは私も思う。どう取り繕ってもすぐにボロが出そうな姉の姿が頭に浮かび、私は「そうでしょうね」とその腕の中で呟くように返事するのだった。
ところでいつまでこうしてれば良いのだろうか。人気は無いがここは一応王宮だったりする。騎士舎からの帰りだったから貴族は少ないかもしれないけど、いつ誰が通るともしれない。いい加減解放してほしいのが本音だ。
「あの、オーバン様。そろそろ離して……」
「先ほどの話ですが」
離してくださいませんか。そんな私の言葉にかぶせるようにオーバン様は言う。何となく抱きしめる腕の力も強まった気がするような。
「先ほど?」
「婚約云々の話です」
「ああ……。あんな嘘ついて大丈夫ですか?姉はすぐに噂を広めますよ」
手びれ尾ひれ一杯つけて広めますよ。
そう言えば、クスリと笑う気配を感じた。顔を見たいが頭を彼の胸元に押し付けられてる状態なので、それは出来なかった。
「オーバン様?」
「別にいいですよ。真実にすればいいだけですから」
「はい?」
彼が何を言いたいのか分からず、動かぬ頭をひねる。
真実にすればいいって……それは一体……。
「バルバラ嬢」
「──は、はい?」
もう呼び捨てにしてはくれないのだろうか。そんな一抹の寂しさを感じながら、頭だけ解放されたので返事をしながら顔を上げた。思ったより彼の顔が近くてドキリとする。
彼は私をジッと見つめていた。顔が赤くなるのを自覚して、思わず俯いた私の頭上に彼の言葉が降って来た。
「俺と結婚してくれませんか?」
「は──え、へ!?」
勢いで『はい』と言いかけて、すぐに言葉の意味が脳に浸透する。その瞬間出た間抜けな声と言ったら……恥ずかしすぎるくらいに間抜けで情けないものだった。
277
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
【短編】婚約破棄の断罪裁判を開いた王太子、証言で全て自分の首を絞める
あまぞらりゅう
恋愛
エドゥアルト王太子から「婚約破棄だ!」と断罪されるシャルロッテ侯爵令嬢。
彼は彼女の『悪行』を暴くため、証人を次々と呼び出す。
しかし、証言されるのは、全て『彼女が正しかった証拠』ばかり。
断罪裁判はいつしか、王太子自身の罪を暴く場へと変わっていき……?
※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています
★他サイト様にも投稿しています!
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
永遠の誓いをあなたに ~何でも欲しがる妹がすべてを失ってからわたしが溺愛されるまで~
畔本グラヤノン
恋愛
両親に愛される妹エイミィと愛されない姉ジェシカ。ジェシカはひょんなことで公爵令息のオーウェンと知り合い、周囲から婚約を噂されるようになる。ある日ジェシカはオーウェンに王族の出席する式典に招待されるが、ジェシカの代わりに式典に出ることを目論んだエイミィは邪魔なジェシカを消そうと考えるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる