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しおりを挟む「な、によ、これは……」
あまりの衝撃に言葉が出てこなかった。呆然とした私は呟くことしか出来ない。
手にするは、とある書類。
私が家を出てから現在までの侯爵家の状況と、経済状況に関する報告書だ。これまで侯爵家の執務を行っていた私と関わって来た人たちは、皆が私に協力的だ。調べればすぐに分かる。
そして侯爵家の今は悲惨でしかなかった。
当然のように滞る執務。領民が困り果てているとの報告が山積みだ。他貴族からの当たりも強い。
そして経済状況も──
「どうして勝手に使用されてるの!?出来ないようにして出てきたのに!」
侯爵家には会計・経理担当者が当然いる。担当者に私が使用目的等の詳細を記した書類を申請したうえで、財政状況を確認し、大丈夫なら許可が下りるシステムとなっている。切羽詰まった問題に当たった時、費用が足りなければ私財を投入、それでも厳しい時は王家に打診するのが通常だ。
税金を好き勝手使うなんて絶対出来ない。勿論会計・経理担当者は複数だ。一人に任せてしまうのは危険だから。
そして侯爵家を出る時、まず真っ先にしたのがお金の事についてだった。彼らに文を書き、絶対に馬鹿父や馬鹿姉に好き勝手使わせるな、侯爵命令だとしても絶対に!と強くしたためた。そして彼らはたとえ相手が主人たる侯爵であっても、私利私欲を目的とした用途には首を縦には振らない。
だからこそ、これまで父も姉も好き勝手お金を使えなかったのだ。使わせなかったのだ。
きっと彼らなら大丈夫だと安心していた。
だというのに。
目の前に羅列された数字を目にして、私の目の前は真っ暗になる。
ごっそりと。
そう、ごっそりと減っていたのだ!
百歩譲って侯爵家の私財ならまだいい。
だがそうではなかった。
領民の血税が。
汗水流して必死の思いで収めてくれた彼らからの税金が。領民全てに還元すべく存在するものが、恐ろしい程にごっそりと減っている。
知らず書類を持つ手が震えた。
バンッと荒々しく書類を机に叩きつけて、私は立ち上がる。
「リラ、外出の用意を!」
「どちらへ?」
「アロイス達に会いに行くのよ!」
※ ※ ※
「これはバルバラ様。ご無沙汰しております」
「そうね、本当に久しぶりね」
アロイスにカルカム、ブッソにetc……私は会計管理の者達が勤める事務所へと足を踏み入れた。
ここは侯爵家と近い。私は家を出されただけで、別に侯爵領から追い出されたわけではない。どこにだって自由に行ける。
一応前触れは出しておいたけど、誰一人拒絶することなく私を受け入れてくれた。
久しぶりだなあ。ほぼ毎日のように訪れたり、屋敷に来てもらったりしてたのにな。
「早速で悪いのだけど、これは一体どういうこと?」
挨拶もそこそこに差し出した書類。れいの血税ごっそり減っちゃってる書類だ。
代表のアロイスがそれを受け取り眉を潜めた。
「これは一体……」
その表情から察するに、彼も知らなかったということだろう。だがそんなこと、ありうるのだろうか?
彼らの目を盗んでお金を使用なんて出来ないことは、私が一番よく知っていた。
国庫に預けた領地のお金は、彼らが何枚も作成した書類を申請してようやく使用できる。
難しい書類は私でもよく理解出来てない。
そんな書類を勝手に作成できる者なんて……。
となれば。
「これについて説明出来る者はいるか?」
裏切者──父や姉についた者がいると考えるのが妥当。
だがそんなこと馬鹿正直に答える者などいるはずもなかった。
「ではこの書類を作成したのは誰だ?」
「あ、それは自分です」
挙手したのはブッソ。事務所の一番若手だ。若手と言っても私よりよっぽど年上だけれど。
「バルバラ様がお知りになりたいとの事でしたので、急ぎ調べて作成しました。作成しながら私も驚いたのですが……」
「間違いではないのか?」
「それはありません。確かな事実です。先輩方のどなたかが、何時の間にか手続きされてたのかと思ったのですが……」
「調べたのなら用途は分かるだろう。直近で使用された用途は?」
「──ハリシア様の結婚式資金、です」
嫌な予感が大当たり。
私は頭を抱えてその場に蹲り。
この場に居る者全員が、盛大な溜め息をつくのだった。
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