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第一部
18、吸血鬼と心配性
しおりを挟む「ふわああぁ……き、気持ちいい」
「う……重い」
大きな狼にまたがれば。
ふわっふわの毛に包まれて。
ふおおお!とふわふわの幸せを噛みしめていたら。
狼に重いと言われて傷つく18歳。多感な(?)お年頃。
「嘘ですよ、軽すぎです。ちゃんと食べてますか」
言い直されてホッとする。
そうよねえ、お金のない実家での好物は卵かけご飯でしたから。それこそお肉なんてレアすぎて滅多と食べれませんでしたよ。
……のはずなのに。たまに肉が焼ける匂いがして覗いたら、庭でBBQやってる馬鹿ハゲとピンク頭親子を見かけたことあったっけな。
あのピンク頭を刈り取って綿菓子にしてやれば良かった。
そんな私が太ってるわけがない!
……こっちに来てから結構まともな食事をしたせいで、以前よりはふくよかになった気がしないでもないが。
にしても。
狼ってこんなにふわふわなの?ってくらいにフワフワな毛に包まれた私は、思わずヨシュであることを忘れて狼に抱きついてしまった。
「はあ……気持ちいい」
「んぶぅっっ!!」
「ぎゃあ、ゼルストア様!何鼻血出してんですか!!」
ヨシュの叫びで目を開けると、鼻血ボタボタ流してる公爵が目の前にいた。
「ちょっと何やってるんですか、ゼル様。血が勿体ないですよ、戻してください」
「も、戻すのはさすがに無理……」
エミリーが慌ててタオル持ってきてくれて、公爵は鼻を押さえた。何やってんのこの人は。
「血を飲みすぎたんですか?」
週に一度じゃないの?
結局一度も私は侯爵に血を提供したことないまま今に至る。
かたくなに、私の手に傷をつけるのは~とか言ってるんだもん。
でも鼻血出すなんて……ひょっとしてどこかで大量摂取したんじゃないでしょうね?
そんなはずはないと分かってるけれど、それでも思わず聞いてしまったら。
ブンブンと力強く首を横に振られてしまった。
「大丈夫ですよ、フィーリアラ様。この鼻血はそういうのじゃないですから」
と、ヨシュが何かを分かってるような言い方してきた。
そういうのじゃないってどういうのだろう?
首を傾げても教えてもらえそうになかった。
「まあいいですわ。それではゼル様、行って参りますわね」
「う、うむ……気をつけてな」
心配そうに眼を伏せて、そしてギュッと手を握られてしまった。
「ゼル様?」
「何かあれば私を呼べ。どこへでも駆け付けよう」
吸血鬼クオーターの公爵は。太陽なんて全くもって平気だとのことで。
今も陽がサンサンと照り付ける中で私を見送りに出てきている。
そっと手に口づけられて、頭がボンっと噴火しそうになる。
け、結構大胆だなあ……。
「大丈夫ですよ、ヨシュが居ますから」
「それでも、万が一がある。だから……」
これは頷くまで納得しないだろうな。
心配性の吸血鬼への愛しさが込み上げて。
私はニッコリ微笑んで
「ええ、必ず。何かあれば必ずゼル様を呼びますわ」
と告げた。
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