虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール

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裏4-5、国にざまぁ(5)

 
 
「お、王子、なんということを!モリア、モリアぁぁ!!!!」
「いやあああ!モリア、私のモリア──!!」

 公爵とその妻の絶叫が響く。
 だがその叫びも虚しく、串刺しとなったモリアとベニートの目から光が徐々に失われるのだった。

「ひいいい!!」

 ベニートの両親も腰を抜かして、床に倒れ込む。

「い……嫌、もう嫌ぁっ!!」

 どうにか踏ん張ったのはカンナ。
 目の前の地獄絵図から逃げるべく、壁にしがみついてどうにか這うように移動する。
 ようやく処刑場を後にし、階段へと向かうのだった。

 だがその動きは直ぐにピタリと止まる。

「これはどういうことだ!?」

 父である公爵の叫びによって。

 何事かと振り返るカンナが目にしたものは。

 既に魂が抜けた姉とベニートの抜け殻。そして……見る見るうちにその髪色が変貌していく様、だった。

「ひい!モリアの美しい紫紺の髪が!髪があぁ!!」

 泣き叫ぶ母の目の前で、姉の紫紺の髪とベニートの金髪が変色していく。

 その色はどす黒い……いや、ミレナのような純粋な黒ではない。それは何とも形容しがたい汚らしい色。まるでドブのようなそれ。

「な、何てことだ……」

 王の呟きを耳にして視線を巡らすと、更なる変化にカンナは悲鳴を上げた。

「王太子様、髪が……!」
「──え?」

 カンナを始め、皆が驚愕の目で己を見るのを訝しげに思う王太子。己の服で血を拭った剣に、自身の顔を映し出すのだった。そして目を瞠る。

「!?な、なんだこれは!」

 そこには、モリア達同様に汚らしいドブ色に髪が染まっていく自身の姿が映し出されていた。

「馬鹿な!こんな馬鹿なことが……!」

 そこで初めて全員が気付く。
 それぞれが持つ髪色がどんどん変色していくことを。

 金に桃に青に赤、美しかった髪は変貌していき。
 行き着く先は全て同じ。

 全員、薄汚れたドブ色へと変じた。

 その結果によって、誰もが思い知らされる。嫌でも感じる。

 終わりなのだと。
 これこそが終わりの始まりなのだと。

 光の神の祝福は消えた。
 もう守護神は居ない。

 そう、気付かないわけにはいかなかった。

 理解せざるをえなかった。

「嫌!もう嫌よ!」

 混乱と恐怖で金切り声を上げ、カンナは階段を上る。だがそれを許さない者が居た。

「待てカンナ!モリアの身内であるお前も同罪だ!私を騙した罪、その命をもってあがな──」

 だが、振り上げられた剣はカンナに届くことは無かった。

ドオオオオンッッッ!!

 一際激しい揺れが襲い、剣を取り落とした王太子は床に倒れ込んだから。

 そして、ビシッと嫌な音がする。

「なんだ?」

 音の方向は上。
 怪訝な顔で天井を見上げた王太子は。

 天井一面に走る亀裂を目にし、直後。
 崩れた天井の一部が、自身の上に落ちてくるのを見ることとなる。

 それが王太子が見た最後の光景となった──



*****


「はあ、はあ、はあ!や、やっと出れた……!!」

 背後から聞こえる悲鳴や瓦礫の音を尻目に、ひたすら走った。動きにくいヒールに、ドレス。どれもが苛立たせる。
 いつの間にかヒールは折れ、ドレスはボロボロとなった。だがそんなものを気にする余裕など無い。

 とにかく外に出なければ!
 その一心で走り続けたカンナは、ようやくの事で外へと出られたのである。

 だが異変にすぐ気付く。

「???いやに暗いわね……」

 処刑は早朝からだったから、まだ昼近くのはず。だというのに随分暗い。
 雨でも降るのだろうか?

 そう思って空を見上げたカンナは、次の瞬間──

「──ひいいい!!」

 恐怖で腰を抜かすのだった。

 空が暗いのは、空を覆う『それ』の大群が居たから。

「な、なんで魔物が!?」

 魔物の大群。
 そう、それが空を占拠していたのだ。

 大きく翼を広げるドラゴンにワイバーン、得体の知れない魔物の数々。それらが無数に飛び交っているがため、空が暗かったのだ。

 そして地上。

 そこには阿鼻叫喚の図が繰り広げられていた。

 城の中庭はとても広い。
 だが、その地面を覆い尽くすのは、数えきれないほどの……

「ひい!き、騎士団は!?生きてる者は……」

 おびただしい数の死体、だった。
 武装した騎士団は元より、使用人達すらも……もう、生きてる者を探すのが困難であるほどに。

 血の川が流れる中。
 腰を抜かし、へたり込んだまま、カンナはふと空を見上げた。

 眩しいと感じたのだ。
 そこだけが明るいと感じて、知らずそちらに目をやって──

 そして飛び出しそうな程に目を見開く。

「お姉様!?」

 そこには輝く金の鱗をまとったドラゴンが居た。大きく美しい翼を広げ、優雅に空を飛んでいる。

 そしてその背に乗るのは──遠目で良く見えないが、それでも分かった。一応は妹であるカンナには直ぐに分かったのだ。

 金竜の背に乗るは、姉のミレナ。そしてシュタウト国王子のアーロン。

 二人を乗せたドラゴンが、飛んで行くのが目に入ったのだ。
 その瞬間、必死で足に力を入れて立ち上がり、カンナは大声で叫ぶ。

「待って!ミレナお姉様、待ってください!助けて!私を助けて!ごめんなさい、今までのこと本当にごめんなさい!謝るから!もう酷いことしないから!だからお願いお姉様、助けて!愛するお姉様、お願いだから私を助けて──!!」

 喉が裂けんばかりに叫ぶ。これほど大きな声を出したことなどない。もう二度と声を発する事が出来なくなるかもしれない。

 それほどに割れんばかりの大声で叫んだ。
 するとそのかいあってか、ミレナがこちらを見るのが分かった。

「──!!お姉様!!」

 助けて!!

 もう一度叫ぼうとして。
 けれど。

 直ぐに顔を背ける姉の姿に、声はもう出なかった。

 呆然と立ち尽くすカンナ。

 彼女が最後に見た姉の顔は──満面の笑みだった。





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