探偵の作法

水戸村肇

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探偵の門

探偵とMT車

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 そうやって、奇妙な入りで面接は始まった。
 女性は青年の持参した履歴書を手に、「私は睦美姫子むつみひめこ、ここの所長をしています」と切り出した。
「ていっても、私の他には、事務員が一人だけなんだけどね」
「そうなんですか」
 青年、久能連三郎くのうれんざぶろうは指先を合わせ、人差し指をくるくると回しながら話をする癖があるようだった。
「久能くんは、どうして探偵に?」
「昔から、探偵に憧れてまして」
「ドラマとかの?」
「はい。乱歩とか正史とか、海外だとクイーンかな、推理小説が好きでして」
 久能の言葉に、ほのかに熱の混じるのがわかった。
 睦美はそれを聞きながら、久能のくるくると回る人差し指をちらりと見た。
「今は、大学生か」
「そうですけど、休学中でして」
「どうして?」
「なんか、そう理由もないんですけど……」
「じゃ、辞めちゃうの?」
「そんな気がします」
 睦美は「そう」と呟いた。これといって特に気に留めている様子もない。
「現実の探偵って、どんなイメージ?」
「浮気調査ばっかしてるって感じ、ですかね」
「まあ、そうか」
 睦美は履歴書になにやら書き込みながら、「そんなことも、ないんだけどね」と呟いた。
「免許はありと。オートマ、マニュアル?」
「マニュアルです」
「マニュアル車の運転は?」
「大丈夫だと思います。今の車が、マニュアル車なんで」
「お、お、なに乗ってんの?」
 車に興味があるのか、睦美はちょっと身を乗り出した。
「アコードです」
「ユーロR?」
「あ、いえ、違いますけど。確か……、6代目だったと思います」
「私も、トルネオに乗ってたよ。学生時代の頃だったかな」
 睦美はくるりとペンを回す。
 それとは対照的に、久能は動きを止めて、ちょっと押され気味の様子だった。
「うちの社用車、マニュアルなの。ホンダ・トゥデイ。ちょっと古いし、ガタもきてるけど、まだまだイケるから」
「その、尾行とかで使うんですか?」
「使う使う。運転とかって得意かな?」
「人並みには、大丈夫かと……」
 睦美はそれを聞き、「ならよし」と嬉しそうだ。
「身体は丈夫? バイトといっても肉体的、精神的にキツイのには変わらないから」
 それに対して、久能は「こう見えて、そういうのには自信があります」と自信ありげのようだった。
「勤務時間はマチマチね。早朝、深夜関係なし。まあ、可能な限り週二日は休めるようにはするけどね」
「はい、大丈夫です」
「いっても、依頼がなけりゃ暇だから」
「はぁ」
「安心しなさい、事務仕事もあるんだから。お給料はちゃんと払います。能力に応じて色も付けます」
 睦美はドンと胸を叩いた。
 女一人で事務所を切り盛りするだけあってたくましい。その様が久能には眩しく映った。
「よしよし。じゃあ、探偵実務の経験は?」
「……、ない、です」
 そこは妙に歯切れが悪い。
 睦美もそれが気にはなったようだが、「わかったわ」とそれ以上つっこんで話を訊くことはなかった。
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