探偵の作法

水戸村肇

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探偵の門

元検事の探偵

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 白のホンダ・トゥデイが、快調に田園風景を抜けてゆく。
 眉間みけんしわを寄せた久能がハンドルを握り、その隣では、サングラスをかけた睦美が外の景色を眺めている。
「ずいぶん、呆気ない初依頼だったわね」
「そうですね」
 睦美は、ふっと笑いを漏らした。それにつられて、久能もくっと口角を上げた。
 依頼があって、事務所を出たのが午後一時十分。依頼人宅についたのが、午後一時半。そして現在、午後二時三分。
 目的であったみゃーちゃんは、依頼人宅につくなり、軒下にて発見。その間、十分もない。
 その後、依頼人のきくおばあちゃんの勧める和菓子と麦茶をいただき、帰路についた。
「移動時間のが長いですよ」
「ま、そういうこともあるわよ。こういうことをコツコツやるのが大事なの」
 睦美は人差し指を立て、もっともらしくそういった。久能は「了解です」と素直に頷く。
「そういえば、昼のニュースでやってた変死体の身元、わかったんですかね」
 脇を流れる瀬乃伊川を見て、久能は思い出したように話題を振った。
「遺体の状態によるんじゃない」
「睦美さんは、その、変死体とか見たことあるんですか?」
「あるわよ」
「あ、あるんだ」
 久能の声は、若干上ずっていた。
 推理小説やミステリードラマが好きな久能だが、血や死体の描写は苦手という、並な感性の持ち主だった。
「私、昔は検事だったの」
「検事!?」
 久能には珍しい大きな声だ。
「なによ、意外?」
「あ、そういうわけじゃ……」
 久能はミラー越しに睦美の姿を見るが、サングラス越しに視線が合い、急いで逸らす。
「なんで、辞めて探偵に?」
 検事ということは、あの司法試験に受かったということだ。なのに今は弁護士でもなく、探偵という職にある。久能の知りたい欲がふくらんでゆく。
 けれど睦美は、「色々とあったのよ」としか答えてくれない。触れられたくないのか、触れてほしいのかわからない。久能はしぶしぶ撤退を決めた。
「ラジオでも聞きますか」
 妙な雰囲気を振り払うように、久能はラジオの音量を上げた。
 聞こえてきたのは、流行りのJーPOP。ドライブにはぴったりの曲だった。
「ごめんね、気使わせちゃって」
「いえ、そんなことないですよ」
 久能はへらりと笑う。この瞬間も嫌ではない。
 働き始めてから数時間ほどしか経っていないが、久能はこの職場を気に入りだしていた。
 そこからはラジオから流れる曲や、DJの軽妙なトークに耳を傾けた。いい時間だ、久能は思う。
 そんな至福な時間を邪魔するように、車内にバイブレーション音が低く響いた。
「あ、電話だ」
 睦美はポケットからスマートフォンを取り出すと、相手を確認し耳にあてた。
「うい、どした?」
 砕けた口調だ。いったい相手はどんな人物なのだろう。親、兄弟姉妹、友人、それとも恋人か。
 久能は静かにブレーキを踏み、赤信号で停止した。
 ギアを抜きシフトレバーを左右に振る。このホンダ・トゥデイとも仲良くなれそうだ。そんなことを思いながら。
「はあ!?」
 穏やかな笑みを浮かべた久能の身体が、その大声にびくんと跳ねた。
 な、なんだ。気になりながらも、信号が青になったので、久能はギアを入れ、アクセルを踏んだ。
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