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探偵の門
助手は女子高生
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久能は一人、事務所へと続く階段を上る。
両手に飲み物やお菓子の詰まったビニール袋を持ち、その足取りは、疲労からかいくぶん重い。
相変わらずの薄暗い廊下を抜けて、事務所の前で、睦美から渡された鍵を取り出した。
時刻は午後三時四十分。めまぐるしい一日だ。そういえば、今日は何時までの勤務なのだろう。
久能はぼんやりとそんなことを考えながら、鍵を差し込み右に回す。そしてノブを回すが、動かない。
あれ、開けっ放しだったのか。いや、確かに出るときに鍵はかけたはず。
もう一度、ノブを回そうとするが結果は同じ。ガチャガチャという音が、廊下に響く。
「はーい、少々お待ちをー」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、快活な女性の声とドタバタという足音だった。
そして久能がそれに答える前に、ドアが勢いよく開き、制服姿の少女が姿を現した。
「どうもどうも」
少女はペコリと頭を下げると、「どうぞこちらへ」と久能の背を押した。
「どうぞお掛けになってください。コーヒー、紅茶、緑茶、ほうじ茶、ミルク、どれにします?」
ソファに腰かけた久能の顔に、少女はぐいと顔を近づけた。
「あ、じゃあ、ミルクで」
「わっかりました。少々お待ちを」
少女はそういうと、小走りに給湯室へと姿を消した。午前と同じことが、午後にも起きているようだ。
久能は手にしたビニール袋を床に置き、ふっと肩の力を抜く。まだ見慣れぬ事務所だけれど、妙に落ち着く。
「どぞどぞ、ミルクですよー」
トレイに二つのグラスを載せた少女が、おたおたとこちらに戻ってきた。
「わたくし、こういう者でございます」
少女はミルクの入ったカップを久能の前に置くと、制服のポケットから一枚の名刺を取り出して、両手で差し出す。
「あ、はぁ……」
久能はその圧に押されながら、両手で名刺を受け取った。
『朝霧探偵事務所 助手 架純栞』
そこには、そうあった。
「……助手」
久能は呟き、自信ありげに立つ少女を見上げた。
どんぐりのような瞳に、丸い顔、サイドでまとめた黒髪がふわりと揺れる。どこかハムスターを連想させる少女だった。
「はい、探偵ではありません。あいにく、所長兼探偵は留守にしております」
架純はソファに腰を下ろすと、グラスを手に取り、ミルクを飲んだ。
「ですが、お気になさらずに。依頼内容をおはなしください」
架純は厳かな表情で、それでいて鼻の下にはひげのようにミルクをつけて、久能を見る。
そのまっすぐな視線にやられながら、久能は「ち、違います」と消え入りそうな声でいった。
「大丈夫です、安心してください。学生ですけど、守秘義務は厳守します」
架純はグッと拳を握り、身を乗り出した。その瞳は、驚くほどに輝いている。
架純栞。見たところ高校生のようだが、この娘が睦美のいっていた優秀な子なのか。
「さあ、さあさあ」
「あ、いや、本当に、依頼人じゃないんです」
久能が困ったようにそういうと、「へ?」と架純は拳を下げた。
「ん? そういえばその顔、どこかで見覚えが……」
架純はそういうと急いで事務机に駆け寄り、一枚の履歴書を手に取った。
「ふむふむ」
履歴書と久能の顔を見比べながら、架純が唸る。
「うむうむ」
架純は久能の前で腰を屈め、じっと顔を覗き込んだ。
険しい顔で目を細める架純に向かい、「ど、どうも、久能連三郎と申します」と久能は歪な笑みを作った。
「あ、いた」
架純はそう久能の顔を指さして、「なんだ」と残念そうにソファに戻る。
「そうなら、早くいってくださいよー」
架純はミルクを一気に飲み干すと、頬を膨らませた。
いおうとしたさ。久能はその言葉を呑み込んで、「いやあ、すいません」と頭を掻いた。
両手に飲み物やお菓子の詰まったビニール袋を持ち、その足取りは、疲労からかいくぶん重い。
相変わらずの薄暗い廊下を抜けて、事務所の前で、睦美から渡された鍵を取り出した。
時刻は午後三時四十分。めまぐるしい一日だ。そういえば、今日は何時までの勤務なのだろう。
久能はぼんやりとそんなことを考えながら、鍵を差し込み右に回す。そしてノブを回すが、動かない。
あれ、開けっ放しだったのか。いや、確かに出るときに鍵はかけたはず。
もう一度、ノブを回そうとするが結果は同じ。ガチャガチャという音が、廊下に響く。
「はーい、少々お待ちをー」
ドアの向こうから聞こえてきたのは、快活な女性の声とドタバタという足音だった。
そして久能がそれに答える前に、ドアが勢いよく開き、制服姿の少女が姿を現した。
「どうもどうも」
少女はペコリと頭を下げると、「どうぞこちらへ」と久能の背を押した。
「どうぞお掛けになってください。コーヒー、紅茶、緑茶、ほうじ茶、ミルク、どれにします?」
ソファに腰かけた久能の顔に、少女はぐいと顔を近づけた。
「あ、じゃあ、ミルクで」
「わっかりました。少々お待ちを」
少女はそういうと、小走りに給湯室へと姿を消した。午前と同じことが、午後にも起きているようだ。
久能は手にしたビニール袋を床に置き、ふっと肩の力を抜く。まだ見慣れぬ事務所だけれど、妙に落ち着く。
「どぞどぞ、ミルクですよー」
トレイに二つのグラスを載せた少女が、おたおたとこちらに戻ってきた。
「わたくし、こういう者でございます」
少女はミルクの入ったカップを久能の前に置くと、制服のポケットから一枚の名刺を取り出して、両手で差し出す。
「あ、はぁ……」
久能はその圧に押されながら、両手で名刺を受け取った。
『朝霧探偵事務所 助手 架純栞』
そこには、そうあった。
「……助手」
久能は呟き、自信ありげに立つ少女を見上げた。
どんぐりのような瞳に、丸い顔、サイドでまとめた黒髪がふわりと揺れる。どこかハムスターを連想させる少女だった。
「はい、探偵ではありません。あいにく、所長兼探偵は留守にしております」
架純はソファに腰を下ろすと、グラスを手に取り、ミルクを飲んだ。
「ですが、お気になさらずに。依頼内容をおはなしください」
架純は厳かな表情で、それでいて鼻の下にはひげのようにミルクをつけて、久能を見る。
そのまっすぐな視線にやられながら、久能は「ち、違います」と消え入りそうな声でいった。
「大丈夫です、安心してください。学生ですけど、守秘義務は厳守します」
架純はグッと拳を握り、身を乗り出した。その瞳は、驚くほどに輝いている。
架純栞。見たところ高校生のようだが、この娘が睦美のいっていた優秀な子なのか。
「さあ、さあさあ」
「あ、いや、本当に、依頼人じゃないんです」
久能が困ったようにそういうと、「へ?」と架純は拳を下げた。
「ん? そういえばその顔、どこかで見覚えが……」
架純はそういうと急いで事務机に駆け寄り、一枚の履歴書を手に取った。
「ふむふむ」
履歴書と久能の顔を見比べながら、架純が唸る。
「うむうむ」
架純は久能の前で腰を屈め、じっと顔を覗き込んだ。
険しい顔で目を細める架純に向かい、「ど、どうも、久能連三郎と申します」と久能は歪な笑みを作った。
「あ、いた」
架純はそう久能の顔を指さして、「なんだ」と残念そうにソファに戻る。
「そうなら、早くいってくださいよー」
架純はミルクを一気に飲み干すと、頬を膨らませた。
いおうとしたさ。久能はその言葉を呑み込んで、「いやあ、すいません」と頭を掻いた。
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