探偵の作法

水戸村肇

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路地に消えた犯人

警部と探偵

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 腹にナイフの刺さった男は、駆け付けた救急車によって運ばれていった。
 現在、路地の入口には規制線が引かれ、野次馬たちが立ち入らないように制服警官が見張っている。
 久能と架純は『金井商店』の軒下で、二人並んで炭酸飲料の缶を傾けていた。
 するとそんな二人の目の前に、白のインテグラが勢いよく止まった。
 中から降りてきたのは、白スーツ姿の睦美だった。睦美は二人に近づくと、「大丈夫?」と優しくいった。
「はい」
 架純の声は震えていた。けれどその顔に不安はなく、目の輝きは失われてはいなかった。
「事情聴取は?」
「これからです」
 眉間に皺を寄せ、なにやら考え込んでいた久能がいう。
「被害者の方は?」
「発見した時には、まだ息がありました」
 その時、一人の制服警官が近づいてきて、「こちらでお話を聞かせてほしいそうです」といった。
「ちょうど始まるようね。お兄さん、私も一緒にいいかしら?」
「いや、部外者の方は……」
「そう。なら、峰樹みねきくんいるかしら?」
 その言葉を聞き、制服警官の目が鋭くなる。
「峰樹警部ですか?」
「ええ、そうです。今、いますでしょう?」
「いますけど……」
「『朝霧探偵事務所』の睦美といえば通じると思います。お願いします」
 普段とは異なる睦美の覇気のある声に、制服警官は「わかりました。ちょっと待っていてください」と路地に消えた。
「睦美さん、すごいです」
 羨望せんぼうの眼差しを、架純が向ける。
 睦美はそれを柔和な笑みで受け止めて、「昔取った杵柄きねづかよ」と架純の頬を両手で挟んだ。
 それから、すぐに制服警官は戻ってきた。
「大丈夫だそうです」
「ありがとう」
 制服警官は、この人物はいったいんなんなんだという顔で睦美を見ながら、「こちらへ」と三人を路地へと案内する。
 薄暗い路地には、鑑識や刑事と思しき人々の姿があり、三人へと奇異きいの視線を送っている。
 突き当りで右に折れると、男性のいた場所、そこに立っていた童顔の男が、睦美を見つけ頭を下げた。
「お久しぶりです」
「出世したわね、峰樹くん」
「そんなことないですよー」
 照れたように、峰樹みねきしげる警部は頭を掻いた。
「で、どうして睦美さんが?」
「この二人、私の仕事仲間なの」
「仕事仲間てっーと、探偵さん?」
 峰樹は興味深そうに、久能と架純の顔を見る。
「助手兼事務員の架純栞です」
「久能です」
 どうみても、峰樹の容姿は十代後半から二十代前半。普通に考えればキャリアだろう。
 けれど睦美は『出世した』といっていた。ということは、ノンキャリアの可能性もある。
 そんなことを考えながら、久能も伏し目がちにだが、峰樹を見ている。
「若いですな」
「そんなことより、二人から話を訊くんでしょ?」
「ええ、第一発見者ですからね。ん? ちょっと失礼」
 峰樹はスーツのポケットから携帯電話を手に取ると、三人から少し距離を置いた。
「お知り合いなんですか?」
 架純が、睦美にささやいた。
「そうなるわね」
「あの人こそ、若いですよね」
「見た目はね」
 そういうと、イタズラに睦美は片目を閉じる。
「いやいや、すいません」
 すぐに通話は終わったようで、峰樹は携帯電話をしまいながら戻ってくると、「被害者、亡くなったそうです」といった。
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