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路地に消えた犯人
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「どうやって路地から犯人が消えたのか、そんなことを考える必要なんてない。犯人は元から路地になんていなかった」
架純はそういうと、ゆったりと脚を組む。
「おそらく、犯行現場は路地のすぐ側であることに間違いはないでしょう。あの悲鳴は、確かに路地の奥から聞こえました」
「路地のすぐ側ってーと……」
四季島は壁に立てかけてあったパイプ椅子を広げ、そこに腰を下ろし、だらしなく脚を組む。
そしてミカンを口に放り込み、愉しそうに「現場は路地じゃねーってことだな」と架純を見た。
「そうです。路地の両サイドには壁がありました。峰樹刑事の身長から推測するに、二メートル以上はあると考えられます」
「壁の材質は?」
「コンクリートだと思われます」
「抜けられるところはなかったのかい?」
「私たちが入ったところから、もう一方の誘導員のいたところまでに抜け道はありません」
それを聞き、「おーけー」と四季島は頷く。
そんな二人の問答法を、睦美と久能はコーヒーを啜りながら聞いている。
「犯行は壁の向こう側で起こった、そう考えたら、犯人が消えたということは解決です」
「んじゃ、刺された男は、犯人に投げられて壁を越えたってことかい? 壁は二メートル以上、一人じゃ無理だろ」
「複数犯の可能性が高いでしょうね。踏み台なんかをあらかじめ用意しておいたんです」
そういうと、架純はミルクを飲んだ。興奮のためか、その頬は赤く火照っている。
「複数犯に踏み台ね。で、どう思う?」
四季島は久能を見る。
急に話を振られた久能は「俺ですか!?」と背筋を伸ばし、架純を見た。
「そうですね。複数犯という可能性は十分にあると思います」
久能はカップを置くと、唇を指先でなぞりだす。
「架純くん、君が悲鳴を聞いてから、被害者を発見するまで何分くらいあったかな?」
「えーっと……、五分くらい」
「犯人、まあ、複数としようか、そいつらが被害者を背負うなり踏み台を使うなりして壁の向こうにやった、そういうんだね?」
「できないことはないと思います」
「その理屈なら、犯人は路地で被害者を刺して、壁を越えたっていうのも可能じゃない?」
「うーん……。峰樹刑事も試してたけど、あの壁の高さは、ちょっと難しいんじゃないのかなと」
事情聴取の際、峰樹もそれを試みていたが、なかなかに難しいようだった。
「それこそ、踏み台があったらいいんじゃない? 踏み台に縄を結んでその先を持ち、壁を越える。それで向こう側にいったら縄を手繰る。そうすれば現場に踏み台は残らない。単独犯でもいけるわけさ」
そこで久能は言葉を切ると、「でも、そんな面倒なことをする目的も理由もないんじゃない?」と微笑んだ。
「元々、俺と架純くんの存在は、犯人にしてみたらイレギュラーなわけじゃんか。道路工事をしている方から逃げられないんなら、もう一方、俺たちがきた方から逃げればよかった。突発的にしろ計画的にしろ、壁の存在なんてどうでもいい」
久能の言葉に、架純はちょっと俯き、「まあ、そうですね」と唇を噛んだ。
「じゃあ、犯人はどうやって現場から消えたんだ?」
しょげた架純を横目に、四季島が尋ねる。
久能はコーヒーで舌を湿らせ、「単純に道路工事をしていた方から出ていった、それだけのことだと思います」といった。
「でも、誘導員は誰も見てないっつーんだろ?」
「それは誘導員が目を離していたのか、もしくは誘導員が共犯だったのか、その可能性の方が十分にありえる話だと思います」
「だそうだ、むっちゃん」
四季島の言葉に、目を閉じて聞いていた睦美は、「二人とも、長いわよ」と笑みを作る。
それと同時に、事務所のドアが叩かれた。新たなる訪問者。四人の視線がドアへと向けられた。
架純はそういうと、ゆったりと脚を組む。
「おそらく、犯行現場は路地のすぐ側であることに間違いはないでしょう。あの悲鳴は、確かに路地の奥から聞こえました」
「路地のすぐ側ってーと……」
四季島は壁に立てかけてあったパイプ椅子を広げ、そこに腰を下ろし、だらしなく脚を組む。
そしてミカンを口に放り込み、愉しそうに「現場は路地じゃねーってことだな」と架純を見た。
「そうです。路地の両サイドには壁がありました。峰樹刑事の身長から推測するに、二メートル以上はあると考えられます」
「壁の材質は?」
「コンクリートだと思われます」
「抜けられるところはなかったのかい?」
「私たちが入ったところから、もう一方の誘導員のいたところまでに抜け道はありません」
それを聞き、「おーけー」と四季島は頷く。
そんな二人の問答法を、睦美と久能はコーヒーを啜りながら聞いている。
「犯行は壁の向こう側で起こった、そう考えたら、犯人が消えたということは解決です」
「んじゃ、刺された男は、犯人に投げられて壁を越えたってことかい? 壁は二メートル以上、一人じゃ無理だろ」
「複数犯の可能性が高いでしょうね。踏み台なんかをあらかじめ用意しておいたんです」
そういうと、架純はミルクを飲んだ。興奮のためか、その頬は赤く火照っている。
「複数犯に踏み台ね。で、どう思う?」
四季島は久能を見る。
急に話を振られた久能は「俺ですか!?」と背筋を伸ばし、架純を見た。
「そうですね。複数犯という可能性は十分にあると思います」
久能はカップを置くと、唇を指先でなぞりだす。
「架純くん、君が悲鳴を聞いてから、被害者を発見するまで何分くらいあったかな?」
「えーっと……、五分くらい」
「犯人、まあ、複数としようか、そいつらが被害者を背負うなり踏み台を使うなりして壁の向こうにやった、そういうんだね?」
「できないことはないと思います」
「その理屈なら、犯人は路地で被害者を刺して、壁を越えたっていうのも可能じゃない?」
「うーん……。峰樹刑事も試してたけど、あの壁の高さは、ちょっと難しいんじゃないのかなと」
事情聴取の際、峰樹もそれを試みていたが、なかなかに難しいようだった。
「それこそ、踏み台があったらいいんじゃない? 踏み台に縄を結んでその先を持ち、壁を越える。それで向こう側にいったら縄を手繰る。そうすれば現場に踏み台は残らない。単独犯でもいけるわけさ」
そこで久能は言葉を切ると、「でも、そんな面倒なことをする目的も理由もないんじゃない?」と微笑んだ。
「元々、俺と架純くんの存在は、犯人にしてみたらイレギュラーなわけじゃんか。道路工事をしている方から逃げられないんなら、もう一方、俺たちがきた方から逃げればよかった。突発的にしろ計画的にしろ、壁の存在なんてどうでもいい」
久能の言葉に、架純はちょっと俯き、「まあ、そうですね」と唇を噛んだ。
「じゃあ、犯人はどうやって現場から消えたんだ?」
しょげた架純を横目に、四季島が尋ねる。
久能はコーヒーで舌を湿らせ、「単純に道路工事をしていた方から出ていった、それだけのことだと思います」といった。
「でも、誘導員は誰も見てないっつーんだろ?」
「それは誘導員が目を離していたのか、もしくは誘導員が共犯だったのか、その可能性の方が十分にありえる話だと思います」
「だそうだ、むっちゃん」
四季島の言葉に、目を閉じて聞いていた睦美は、「二人とも、長いわよ」と笑みを作る。
それと同時に、事務所のドアが叩かれた。新たなる訪問者。四人の視線がドアへと向けられた。
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