探偵の作法

水戸村肇

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路地に消えた犯人

犯人隠避の容疑

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 被害者と誘導員の間には接点があった。それも金の貸し借りという。
 警察の方針は決まっているようだ。案外、すぐに事件は解決するかもしれない。久能はそう考えていた。
 久能と同じことを四季島も考えていたようで、「すぐに解決しそうだな」と呟く。
「犯人はこの名簿のなかの誰かで、夷藤と協力して宇島を殺したって感じですかね?」
「お粗末だなー。やるなら宇島との関係をにおわせるもんは処分しなきゃ」
 四季島はパチンの指を鳴らす。
 自身が疑われることはなさそうだと、架純には少しホッとした様子がうかがえる。
「メモにある『三銀』って、『三ツ葉第一銀行』のことですかね?」
「じゃねーの。この宇島ってやつぁー、元は行員なのかもしれねーな」
 そこで睦美は、「はい、二人とも」と手を叩く。
「これ以上、自分たちで調べさせてくれなんていわないわよね?」
 それに対して、架純は頷く。
 睦美は思案顔の久能にも念を押すように、「久能くんもよ」といった。
「さあさあ、仕事に戻りましょう」
 それを聞き、四季島は「それじゃ、私も帰りますか」と立ち上がる。
「四季島さん、ミカン、ありがとうございました」
「いいっていいって、一人じゃ食べきれないからよ。またなんか送られてきたら頼んます」
 そういうと、四季島はひらひらと手を振り事務所を出てゆく。その背中に向かい、「またきてください」と架純はいった。
 それから二時間ほど、久能と架純は書類の整理や今手掛けている依頼の情報収集、整理に取り組んだ。
 けれど二人とも、頭のなかでは今日の殺人事件のことばかりを考えていた。
「睦美さん、テレビつけてもいいですか?」
 椅子に座り、伊庭から貰った書類に目を通す睦美に向かい架純がいう。
 睦美はちらりと時計を一瞥いちべつし、「いいわよ」といい、再び書類に目を落とす。
「久能くーん、テレビつけて」
「あいよ」
 久能はリモコンを手に、テレビをつけた。
 ちょうど七時のニュースの最中で、長野県のある村で不審死が続いているといっていた。

『次は、明日原市で起きた事件です』

 タイミングよく、今日の事件についてのニュースが始まった。
 久能と架純は同時に「おっ!」と声を漏らし、テレビ画面に釘付けとなる。

『警察は、現場近くで交通誘導をしていた男性を、犯人隠避の容疑で逮捕……』

 予想通りに事は進んでいるようだった。

『次は全国のお天気です。小鳥遊たかなしさん、お願いします』

 男性アナウンサーがそういうと、ピンク色のカーディガンを羽織ったいかにも女子大生といった感じの女性が画面に映る。
「明日、雨なんですね」
「みたいだね」
「コーヒー、飲みます?」
「いいの?」
「いいですよ。私も喉が渇いたんで」
 そういい、架純は久能のカップを手に給湯室に入っていった。
 久能は「ありがとう」といいながら、ちらりと睦美を盗み見る。
 睦美は頬杖をつき、書類の束を読み進め、時折、メモ用紙になにやら書き込んでいる。
 眉間に皺を寄せ、鋭い目をしている。いったい、なにを調べているのだろう。
「そんなに気になる?」
 そんな久能の心のなかを見透かすように、睦美は書類を読み進めながらそう尋ねた。
 それに久能の心はビクンと跳ねる。気づかれていた、そのことに頬が熱くなる。
「まあ、気になりますね」
「昔の事件よ」
「睦美さんの受けた依頼に関係することですか?」
「私の個人的なことよ」
 そこで睦美は優しく微笑む。
 これ以上はなにも聞けない。久能は直感的に思い、「そうですか」と引き下がる。
「どう、仕事には慣れた?」
「そうですね。事務関係には大分慣れましたけど、依頼となるとまだまだ難しいところです」
「そうね。そう簡単に慣れられたんじゃ、こっちの立場がないものね」
 睦美は書類の束を机の上に置き、眉間を指で揉む。
「でも、ずいぶんと助けられてるわ。一週間でここまでできるようになるなんて、ちょっと予想してなかったかな」
 その言葉に久能はうつむき、「そういってもらえると、嬉しいです」と気恥ずかしそうにいう。
「なになに、久能くん」
 ニヤニヤと笑いながら戻ってきた架純が、「褒められて照れてるんですか?」といい、カップを久能の前に置く。
「べ、別に照れては」
「顔、真っ赤ですよ」
 架純は「お子ちゃまですね」と久能の背中をドンと叩く。
 そのせいで前のめりなった久能の体が机のあたり、カップのなかでコーヒーが波打った。
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