19 / 41
路地に消えた犯人
犯人隠避の容疑
しおりを挟む
被害者と誘導員の間には接点があった。それも金の貸し借りという。
警察の方針は決まっているようだ。案外、すぐに事件は解決するかもしれない。久能はそう考えていた。
久能と同じことを四季島も考えていたようで、「すぐに解決しそうだな」と呟く。
「犯人はこの名簿のなかの誰かで、夷藤と協力して宇島を殺したって感じですかね?」
「お粗末だなー。やるなら宇島との関係をにおわせるもんは処分しなきゃ」
四季島はパチンの指を鳴らす。
自身が疑われることはなさそうだと、架純には少しホッとした様子がうかがえる。
「メモにある『三銀』って、『三ツ葉第一銀行』のことですかね?」
「じゃねーの。この宇島ってやつぁー、元は行員なのかもしれねーな」
そこで睦美は、「はい、二人とも」と手を叩く。
「これ以上、自分たちで調べさせてくれなんていわないわよね?」
それに対して、架純は頷く。
睦美は思案顔の久能にも念を押すように、「久能くんもよ」といった。
「さあさあ、仕事に戻りましょう」
それを聞き、四季島は「それじゃ、私も帰りますか」と立ち上がる。
「四季島さん、ミカン、ありがとうございました」
「いいっていいって、一人じゃ食べきれないからよ。またなんか送られてきたら頼んます」
そういうと、四季島はひらひらと手を振り事務所を出てゆく。その背中に向かい、「またきてください」と架純はいった。
それから二時間ほど、久能と架純は書類の整理や今手掛けている依頼の情報収集、整理に取り組んだ。
けれど二人とも、頭のなかでは今日の殺人事件のことばかりを考えていた。
「睦美さん、テレビつけてもいいですか?」
椅子に座り、伊庭から貰った書類に目を通す睦美に向かい架純がいう。
睦美はちらりと時計を一瞥し、「いいわよ」といい、再び書類に目を落とす。
「久能くーん、テレビつけて」
「あいよ」
久能はリモコンを手に、テレビをつけた。
ちょうど七時のニュースの最中で、長野県のある村で不審死が続いているといっていた。
『次は、明日原市で起きた事件です』
タイミングよく、今日の事件についてのニュースが始まった。
久能と架純は同時に「おっ!」と声を漏らし、テレビ画面に釘付けとなる。
『警察は、現場近くで交通誘導をしていた男性を、犯人隠避の容疑で逮捕……』
予想通りに事は進んでいるようだった。
『次は全国のお天気です。小鳥遊さん、お願いします』
男性アナウンサーがそういうと、ピンク色のカーディガンを羽織ったいかにも女子大生といった感じの女性が画面に映る。
「明日、雨なんですね」
「みたいだね」
「コーヒー、飲みます?」
「いいの?」
「いいですよ。私も喉が渇いたんで」
そういい、架純は久能のカップを手に給湯室に入っていった。
久能は「ありがとう」といいながら、ちらりと睦美を盗み見る。
睦美は頬杖をつき、書類の束を読み進め、時折、メモ用紙になにやら書き込んでいる。
眉間に皺を寄せ、鋭い目をしている。いったい、なにを調べているのだろう。
「そんなに気になる?」
そんな久能の心のなかを見透かすように、睦美は書類を読み進めながらそう尋ねた。
それに久能の心はビクンと跳ねる。気づかれていた、そのことに頬が熱くなる。
「まあ、気になりますね」
「昔の事件よ」
「睦美さんの受けた依頼に関係することですか?」
「私の個人的なことよ」
そこで睦美は優しく微笑む。
これ以上はなにも聞けない。久能は直感的に思い、「そうですか」と引き下がる。
「どう、仕事には慣れた?」
「そうですね。事務関係には大分慣れましたけど、依頼となるとまだまだ難しいところです」
「そうね。そう簡単に慣れられたんじゃ、こっちの立場がないものね」
睦美は書類の束を机の上に置き、眉間を指で揉む。
「でも、ずいぶんと助けられてるわ。一週間でここまでできるようになるなんて、ちょっと予想してなかったかな」
その言葉に久能は俯き、「そういってもらえると、嬉しいです」と気恥ずかしそうにいう。
「なになに、久能くん」
ニヤニヤと笑いながら戻ってきた架純が、「褒められて照れてるんですか?」といい、カップを久能の前に置く。
「べ、別に照れては」
「顔、真っ赤ですよ」
架純は「お子ちゃまですね」と久能の背中をドンと叩く。
そのせいで前のめりなった久能の体が机のあたり、カップのなかでコーヒーが波打った。
警察の方針は決まっているようだ。案外、すぐに事件は解決するかもしれない。久能はそう考えていた。
久能と同じことを四季島も考えていたようで、「すぐに解決しそうだな」と呟く。
「犯人はこの名簿のなかの誰かで、夷藤と協力して宇島を殺したって感じですかね?」
「お粗末だなー。やるなら宇島との関係をにおわせるもんは処分しなきゃ」
四季島はパチンの指を鳴らす。
自身が疑われることはなさそうだと、架純には少しホッとした様子がうかがえる。
「メモにある『三銀』って、『三ツ葉第一銀行』のことですかね?」
「じゃねーの。この宇島ってやつぁー、元は行員なのかもしれねーな」
そこで睦美は、「はい、二人とも」と手を叩く。
「これ以上、自分たちで調べさせてくれなんていわないわよね?」
それに対して、架純は頷く。
睦美は思案顔の久能にも念を押すように、「久能くんもよ」といった。
「さあさあ、仕事に戻りましょう」
それを聞き、四季島は「それじゃ、私も帰りますか」と立ち上がる。
「四季島さん、ミカン、ありがとうございました」
「いいっていいって、一人じゃ食べきれないからよ。またなんか送られてきたら頼んます」
そういうと、四季島はひらひらと手を振り事務所を出てゆく。その背中に向かい、「またきてください」と架純はいった。
それから二時間ほど、久能と架純は書類の整理や今手掛けている依頼の情報収集、整理に取り組んだ。
けれど二人とも、頭のなかでは今日の殺人事件のことばかりを考えていた。
「睦美さん、テレビつけてもいいですか?」
椅子に座り、伊庭から貰った書類に目を通す睦美に向かい架純がいう。
睦美はちらりと時計を一瞥し、「いいわよ」といい、再び書類に目を落とす。
「久能くーん、テレビつけて」
「あいよ」
久能はリモコンを手に、テレビをつけた。
ちょうど七時のニュースの最中で、長野県のある村で不審死が続いているといっていた。
『次は、明日原市で起きた事件です』
タイミングよく、今日の事件についてのニュースが始まった。
久能と架純は同時に「おっ!」と声を漏らし、テレビ画面に釘付けとなる。
『警察は、現場近くで交通誘導をしていた男性を、犯人隠避の容疑で逮捕……』
予想通りに事は進んでいるようだった。
『次は全国のお天気です。小鳥遊さん、お願いします』
男性アナウンサーがそういうと、ピンク色のカーディガンを羽織ったいかにも女子大生といった感じの女性が画面に映る。
「明日、雨なんですね」
「みたいだね」
「コーヒー、飲みます?」
「いいの?」
「いいですよ。私も喉が渇いたんで」
そういい、架純は久能のカップを手に給湯室に入っていった。
久能は「ありがとう」といいながら、ちらりと睦美を盗み見る。
睦美は頬杖をつき、書類の束を読み進め、時折、メモ用紙になにやら書き込んでいる。
眉間に皺を寄せ、鋭い目をしている。いったい、なにを調べているのだろう。
「そんなに気になる?」
そんな久能の心のなかを見透かすように、睦美は書類を読み進めながらそう尋ねた。
それに久能の心はビクンと跳ねる。気づかれていた、そのことに頬が熱くなる。
「まあ、気になりますね」
「昔の事件よ」
「睦美さんの受けた依頼に関係することですか?」
「私の個人的なことよ」
そこで睦美は優しく微笑む。
これ以上はなにも聞けない。久能は直感的に思い、「そうですか」と引き下がる。
「どう、仕事には慣れた?」
「そうですね。事務関係には大分慣れましたけど、依頼となるとまだまだ難しいところです」
「そうね。そう簡単に慣れられたんじゃ、こっちの立場がないものね」
睦美は書類の束を机の上に置き、眉間を指で揉む。
「でも、ずいぶんと助けられてるわ。一週間でここまでできるようになるなんて、ちょっと予想してなかったかな」
その言葉に久能は俯き、「そういってもらえると、嬉しいです」と気恥ずかしそうにいう。
「なになに、久能くん」
ニヤニヤと笑いながら戻ってきた架純が、「褒められて照れてるんですか?」といい、カップを久能の前に置く。
「べ、別に照れては」
「顔、真っ赤ですよ」
架純は「お子ちゃまですね」と久能の背中をドンと叩く。
そのせいで前のめりなった久能の体が机のあたり、カップのなかでコーヒーが波打った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる