探偵の作法

水戸村肇

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三ツ葉第一銀行現金強奪事件

傑と過

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 壁に並んだ本棚には、びっしりと本が並んでいる。畳の上には万年床を除いて本の山ができ、獣道のように空いた一本道が廊下へと伸びている。
 廊下や台所にも本棚が並び、できた獣道の脇には本の山ができている。
 ハードカバー、文庫本、マンガ本から週刊誌、女性誌までとそのジャンルは幅広い。
 そんな本たちに囲まれて万年床に寝転がるのは、この部屋の主である椚木くぬぎすぐる
 傑は目を閉じ、耳にイヤフォンをはめ、MDウォークマンで音楽を聴いていた。
『そろそろバイトの時間じゃないのか?』
 椚木すぎるが問いかける。
「ん? もうそんな時間か……」
 傑は目をこすりながら、枕元にある時計を見た。
 時刻は午後四時十分。家を出るまで後三十分。シャワーを浴びれば、ちょうどいい時間だろう。
 傑はイヤフォンを外し、汗で湿ったシャツを脱ぎ、浴室へと向かった。
すばるは?」
『寝てるよ。昨日はだいぶ疲れたみたいだからな』
「そうか」
『ま、そろそろ起きてもらわないと困るんだけどな』
 傑は脱いだシャツを洗濯カゴに放り、鏡に映った自分の身体を見た。
 太りすぎもせず、痩せすぎてもいない、平均的な十七歳の肉体だった。
『そろそろ髪切れよ』
 その言葉に、傑は伸びた前髪を掻き上げて、「それは昴に任せてあるから」と返す。
『バイト終わったら、夜野やのんとこにいくんだろ?』
「そうだね。検査の結果が出たみたいだから」
『あのマッドサイエンティストのいうことなんて、ほんとに信頼できんのかねー』
 傑はズボンのベルトを外しながら、「そんなこというなよ」と笑った。
『昴は、どうしてあんな奴がいいんだか』
「それには同意する」
『だろ。ちょっと釘を刺した方がいいんじゃねーのか?』
「いくら兄妹とはいっても、惚れたれたのことにいちいち口を出すのはよくないよ」
 傑は軽く過をたしなめると、一糸まとわぬ姿になり浴室へと入ってゆく。
 それでも過は納得がいかないといった様子で、『いやいや、兄妹だからこそ』とくいさがった。
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