探偵の作法

水戸村肇

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三ツ葉第一銀行現金強奪事件

整備工の友人

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 カチン、カチンと街灯の明かりが点滅している。
 その下にある自動販売機には、光に誘われ、大小様々な虫が寄ってくる。
 一匹の蛾が、地面すれすれを飛んでゆく。それを過はコーラの缶を傾けながら眺めていた。
 午後十時十分。
 バイトも終わり、やっと目が覚めてきた。今日は夜野のところにいく予定もないので、自由に過ごせる。
「すまん、遅れた」
 そんな過の元に、灰色のつなぎ服をきた青年、みなと正嗣まさつぐが小走りにやってくる。
「んな待ってねーよ」
「そうか、そりゃよかった」
 湊は膝に手を突き、乱れた呼吸を整える。
 その切れ長の鋭い目が過の手にある物を捉え、「俺も買お」とポケットから百円硬貨を取り出した。
「それ、美味い? 見たことないやつだけど」
「いたって普通のコーラだな」
「じゃ、サイダーにしよ」
 湊はボタンを押し、自動販売機に手を突っ込み、出てきた缶を手に取った。そしてそれを頬にあて、「ああ、つめてぇ~」と間抜けな歓声を上げた。
「どうする、すぐうちにくる? あれだったら、ちょっと飯でも食ってからにすっかい?」
 湊は明るく染めた髪を掻き上げる。
「そうするか」
「だったら、うちの近くにいい定食屋があるんだよ」
「定食屋? こんな時間にやってるのか?」
 そういうと、湊はポケットからスマートフォンを取り出して画面を見た。
「やってるやってる。そこ、近くに飲み屋があるからって、十二時くらいまでやってんのよ」
「へぇ、珍しいな」
「そこの生姜焼きがまた格別なわけ。もうね、茶碗三杯、いや五杯はいけるね」
「ほう、そりゃ楽しみだ」
 そこで湊の動きがピタリと止まる。
 そしてマジマジと過を見て、「昴ちゃん、今どうしてる?」と尋ねた。
「昴? 疲れて寝てる」
「ああ、なら問題ないか」
 安心したように、湊は一人頷いた。
 けれど過にはそれが理解できないようで、「ん?」と一人首をかしげる。
「いや、女性は気にするんじゃないのかなと思ってさ」
「気にする? なにを?」
「そりゃ、深夜に生姜焼きで飯五杯だで。年頃のレディにしてみたら、ちょっち待ちなとならないかい?」
 そこでようやく合点がてんがいったようで、「あいつなら気にせんだろ」と過は笑う。
「ちょっとくらい太ってる方がいいんだよ」
『過、それはお前の好みだろ』
「なんだ傑、起きてたのか。ずっと黙ってるから、寝てるもんかと思ってたぜ」
『起きてたよ。でも、バイクのことは過の方が得意だろ』
 一人呟く過に湊はぐいと近づいて、その顔を覗き込む。そして「傑だろ?」と問いかけた。
「久しぶり」
 傑は頭を掻きながら右手をあげる。
「そうだな、そういや傑とこうしてはなすのは久しぶりか」
「そうなるね。過は君と話が合うみたいだから、普段は僕は遠慮してるのさ」
「ああ、どうりでね」
 湊は頷き、「でも、たまには顔出せよ」といった。
『そうだぞ。たまには顔出せよ』
「まあ、考えておくよ。それより、バイクの方はいくら用意すればいいのかな?」
「金の話ね。それだったら、傑の方がいい」
『にゃろうめ』
 湊は手にしたスマートフォンを指でなぞり、「あったあった」と画面を傑に向けた。
 傑は発光する画面に顔を近づけ、「いかついな。昴でもちゃんと乗れるのか?」と顎を撫でる。
「SR400。慣れれば問題ないと思うぞ」
『厳つくねーぞ。これなら、昴にもよく似合う』
 湊はスマートフォンをポケットにしまい、整備工らしい人差し指と中指を立てた。
「中古だけど状態はいい。過がうちの常連というのも考慮して、このくらいでどうだろう?」
 傑は口座残高とバイトで得られるであろう月収、家賃、光熱費等を考慮して、月の収支を計算する。
『現物を見てみねーとなんともいえんが、これでその値段ならいいと思うぞ。湊の目と腕はピカイチだからな』
 傑は頷き、「その値段だったら問題ないよ」といった。
「生で見てから決めればいいさ。整備もばっちし、できれば昴ちゃんにも見てから決めてほしいんだがな」
「その時になったら起こすよ。それじゃ、過に変わって僕は休むことにする。またお金の話になったら出てくるよ」
「おう、ごゆっくり」
 傑が引っ込み、「変わんねーだろ、あいつ」と笑った。
「そうだな。いい意味で堅物だ」
「そのくせけっこういい加減なんだぜ」
「らしいけど、そんなとこ見たことねーな」
 湊は空になった缶をゴミ箱に捨て、欠伸あくびをしながら肩を揉む。
「そりゃ、猫かぶってるからな」
「それだけ、お前ら兄妹には心を開いてるってことだろうよ。それじゃあ、いきまっか」
 湊が先に立って歩きだす。「定食屋って、ごはんのおかわりってできるんか?」と過が並ぶ。
「できる。それもタダ」
 湊はビシリと親指を立て、白い歯を見せた。
 それに過は歓声を上げ、「助かるぜ。今月の小遣い、もう少ないんだよ」と腹を撫でた。
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