探偵の作法

水戸村肇

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trace and theorize

見習い探偵の受難

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 市道をホンダ・トゥデイが駆け抜けてゆく。
 ハンドルを握るのは久能で、その隣には朱鷺田がじっと前を見据えて座っている。
 重い沈黙。ラジオすらも聞く気にならない。
 急いで平らげたチャーシューメンやらが胃からせり上がってくる感覚に、久能の額には脂汗がにじんでいる。
「探偵さん、まずはどこにいくのですか?」
「その、久々利さんの大学にいってみようかと」
「それだったら、私が一度いきましたよ」
 朱鷺田は顔だけを久能に向けて、「それでいいんですか?」とハイライトの消えた目でいう。
「いや、まあ、ひょっこり戻ってるかもしれませんし……」
 頼む久々利くん、彼女が諦めるか俺に愛想を尽かすまでその姿を現さないでくれ。
 久能はもっともらしく、「可能性は潰しておきたい主義なので」という。
「そうですか、わかりました。それじゃあ、大学の次はどこにいきますか?」
「アパート、バイト先、さすがにバイトを無断欠勤することはないと思うんですよ。ちなみに、彼はどこでバイトを?」
「家庭教師をしています」
 へぇ、家庭教師か……
「ん? 確か、バイト先にもいったって……。それは……、教え子さんの家という……」
「はい、そうですけど」
 さも当然である、そういった顔で朱鷺田は頷く。
「あ、そうですか……。で、どうでした?」
「短期の休暇を取ったらしくて、別の女の講師がきてました」
 ふっと朱鷺田の拳に力が入る。
「じゃあ、バイト先にいくのはよしておきましょうか」
「それがいいと思います」
「ですよね」
 もし久々利くんが本当に浮気をしているのだとしたら、その女のところに逃げ込んんだか。
 それとも別のどこか遠いところ、それこそ海外にでもいってしまったか。
 いずれにせよ、今のところ、久々利くん飛んだ説が濃厚かな。まあ、この状況なら当然か。
「ちなみに、朱鷺田さんは久々利さんを見つけたらどうするんです? 仲直りするつもりなんですか?」
「もちろんです。秤くん、ちょっと抜けてるところがあるから、私がいないと駄目なんです」
 嘘偽りのない心からの朱鷺田の言葉。
 いやいや茜さん、あなたも色々なところが抜けていますよと思いながらも、久能は「はぁ」と頷くことしかできない。
「ちなみに、二人の出逢いとかって聞いてもいいですか?」
「ええ、かまいません。出逢いは、秤くんが私の高校に教育実習にきたことです」
「教育実習っていうと、朱鷺田さんはまだ高校生?」
「高校三年の頃です。秤くんは大学の四年生でした」
 教育実習生と生徒。
 事務所で久々利くんの写メを見せてもらったが、今風の大学生らしいモテそうな容姿をしていた。
 これは久々利くん、ちょっとまずいんじゃないのかね。
 爽やかな笑みを浮かべた画像の久々利、その姿に向かい、身から出たさびかなと久能は笑う。
「というと、出逢って一年ちょいくらい?」
「そうですね。でも、付き合い始めたのは私が大学に入ってからですから、あの、その、誤解しないでくださいね!」
 朱鷺田は頬を赤くして、身振り手振りで「違いますから!」と主張する。
「本当ですか?」
 その朱鷺田の年相応の反応を見て、ここぞとばかりに久能は攻め込む。
「うー、本当ですよ……。探偵さんは、イジワルですか?」
 朱鷺田は指先をイジイジしだす。意外だが、しおらしい一面もあるようだ。
 確かにルームミラー越しに見る朱鷺田の姿は、法学部ということから裁判官を連想させる格好をしているが、清楚で可愛らしい見た目をしている。
 あの内面の激しさと嫉妬深さ、それらに伴う行動力と判断力がなければ、実に魅力的な女性に映ることだろう。これもすべて愛の仕業ということか。
「そういうイジワルは、よくないと思います。秤くんなら許せますけど、探偵さんは……」
 その後に非常によろしくない言葉が続いたので、「以後気をつけます!」と久能は背筋を正した。
 そうこうしていると背の高いビルが増え始め、目的地である秀和理科大学のキャンパスが見えてきた。
「筒井研究室でしたっけ? 場所はわかりますか?」
「はい、何度かいったことがあるので」
「なら、いけば話を聞けるかもしれないですね」
「でしたら、いつも真上さんという方がいらっしゃるので、その方にお話を伺ったらいいと思います」
 朱鷺田はそういうと、「非常にいい方なので」と初めて相手を褒める言葉を続けた。
 久能は「真上さんですね」とそれを記憶し、大学近くにあるコンビニの駐車場に向かいハンドルを切った。
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