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櫻花荘に吹く風~103号室の恋~ (1)
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とある街の片隅に、昔からあるその建物。
瓦屋根の2階建て、木造作りの古い家屋。
広々とした庭の一角には、その建物の名称の由来となった大きな桜の木が一本。
この建物がいつからあったか?
そんな昔の事はもう忘れましたよ。
思い返せば私がまだ若木の頃でしたでしょうか。
あれから幾歳月……。
春の訪れと共に、ここに暮らす住人は幾度も変わり行き。
その度に、旅立つ者を送り出し、新たな住人を迎え入れ。
建物の持ち主も、もう何度変わった事でしょう。
それでも唯一変わらないもの。
それは、ここに集う人々の温かな心。
私はこの身が朽ちるまで、その光景を静かに見守っていきましょう。
春には枝一杯の花を付け、交わす盃の御供となりましょう。
夏には生い茂る葉陰で茹だる暑さを遮り、一服の清涼を届けましょう。
秋には色鮮やかなキャンパスとなり、その葉で暖を与えましょう。
冬には小さな氷柱を枝先に垂らし、光のダンスを見せましょう。
建物の名は 『 櫻花荘 』
共同の玄関
各部屋畳敷きの6畳間
磨き上げられた光る床
軋む階段はご愛嬌
今日もまた、一日の始まりを告げる賑やかさが
もうすぐ聞こえてくるはず――
庭に聳える桜の木の葉が、風にさわさわと揺れ動く。
―― 下宿処『櫻花荘』
ただ今満員御礼 空き室無し ――
【 103号室の恋 】
築年数など計算したくも無いほどの、古い木造作りの二階建て物件。共同の玄関を潜って直ぐ左にある階段を上れば長い廊下にぶち当たる。
片側に並ぶ6畳一間の畳敷きの部屋は、全室庭のある面に窓を取った南向き。二階には全部で4部屋と、共用の手洗い場にトイレとシャワールームがひとつずつ。
一階には2部屋と、洗濯機が2台置かれた洗面所。広めのお風呂にトイレと台所。台所は共用のリビングダイニングと繋がって造られており、住人全員が揃って食事をしたとしても狭苦しさを感じさせることはない。
広い庭には家庭菜園用の畑が少々と物置小屋。その脇には、この建物をずっと見守って来たであろう桜の大樹が一本聳え立っている。
それら全てをひっくるめたこの場所が、下宿処『櫻花荘』だ。
「――よし、今日もボクの勝ち…ふ、ふぁあ」
枕元に電子音が鳴り響く直前にスイッチを切り、大きな欠伸と共に布団から身を起こす。
寝惚け眼を擦りながら開け放ったカーテンの向こう、桜の木の上に広がる青空から明るい光が窓越しに差し込んでくる。
「んー……今日もいい天気」
起床時間は毎朝5時半。目覚ましが鳴るのが早いか、男が起きるのが先か。ちょっとした勝負を楽しみながらの一日の始まり。
Tシャツの上にネルシャツを羽織り、下はノーブランドのジーンズ。ぼさぼさの頭を手櫛で直しながら、壁に引っ掛けた衣文掛けから戦闘着を抜き取り静かに部屋を出る。
洗面所でざっと顔を洗うと、男は鏡の中の自分に向けてにっこりと微笑んだ。
「おはよう、今日も一日頑張りましょう!」
戦闘着を身に付け、後ろ手に紐をキュッと引き締める。
鼻歌交じりにリビングダイニングのカーテンを開くと、男は自室の隣に位置する広々とした台所に立った。
「さぁて、今朝のお味噌汁は何にしよう?――昨日の煮物に使った大根が残ってるから、それとお揚げと、豆腐もあったな。あれも入れちゃおうかな」
建物自体は古いながらも、使い勝手良くリフォームがなされた台所。大きな冷蔵庫の前をたっぷり時間を掛けてうろつきながら、ようやく決まった具材にひとつ頷く。
男の名前は三島春海。家政婦でも無ければ主夫でも無い。そんな彼が何故こんなに朝早くから台所に立っているのかというと……。
「お早う、管理人さん。今朝も早いね」
「由野さん、お早うございます。由野さんこそ随分早いんじゃ無いですか? あっ、ていうか、ボクの事管理人さんって呼ぶの止めて下さいって何度もお願いしてるのに!」
「ははは、春ちゃん突っ込みが遅過ぎるよ」
背後から掛けられた朝の挨拶に、包丁を持つ手を止めた春海が唇を突き出して抗議の声を上げれば、由野と呼ばれた無精髭に眼鏡の男がぷっと吹き出す。そのにこやかな笑顔を見ているうちに、春海も膨れっ面を引っ込めてつられるように笑顔を浮かべた。
「朝ご飯まだなんですけど、お茶でも煎れましょうか?」
「あぁいいよ、自分でやるから。お湯はもうポットに入ってる?」
「っ! お湯沸かすの忘れてた!」
待ってて下さい、と慌ててヤカンを手にする春海の後姿を眺めながら、由野が再びくすくすと笑みを洩らす。
由野譲 。今年三十路の声を聞こうかという、ここ 『櫻花荘』 という名の下宿処では一番の古参住人だ。
由野の職業は売れない物書き。
高給取りでは無いけれど、自分独りが食べて行ける程度の稼ぎと、雨露を凌げて寝起きの出来る場所があればそれでいいという考えの基、学生時代から変わらずここに住み続けている変わり者。
以前ここを去って行った輩の一人に、お前は櫻花荘を出る気は無いのかと問われた事がある。
『朝晩の飯付きでこの家賃だぞ? 俺は一生ここに住んでもいいよ。一人暮らしなんてしたら飢え死ぬこと間違いないからね。それに、今更引越しなんて面倒だ』
部屋の壁一面どころか床にまで並ぶ書籍を思い描き、あれらを全て運び出すなんてと顔を顰めながら答えた由野に、お前らしいよと苦笑いされたのだった。
そう、ここ櫻花荘は朝晩の賄いが付く下宿屋なのだ。
元々が大家の趣味で営まれていたような形だった為、個人で普通にアパートを借りるよりもずっとお得な家賃で住まわせてもらっている。由野はその恩恵にずっと与って来たというわけだ。
水道料は毎月折半、管理費が月5千円。電気だけは各部屋毎に係数計が設置されていて個人持ち。昼飯も欲しい時には、事前申告で一食300円という安さで用意してもらえる。風呂とトイレは共同だけれど、男の寡暮らしには今時何とも有り難い話である。
沸かして貰い立てのお湯で、自分用のマグカップへ濃い目の緑茶をたっぷり注ぎ入れた由野は、欠伸を噛み殺しながらダイニングテーブルへと腰を落ち着けた。
(朝からホント、楽しそう……可愛いよなあ)
視界に飛び込んで来るちょこまか動くエプロン姿をぼんやりと追い駆ければ、口の端にくすりと笑みが浮かぶ。
(春ちゃんを初めて紹介された時には、大丈夫なのかと心配だったけど――)
カチャカチャと聞こえる朝餉の支度の音に混じって聞こえて来る鼻歌が、時折音を外しているのが何ともいえず良い味を出している。
もう2年ほど前になるだろうか? 彼と初めて会ったのは。
「何だ? ウルサイな……」
軋む階段を何度も往復する足音と、それに付随して聞こえて来る賑やかな声に眉を寄せた由野が、そっと自室から顔を覗かせた。
「引越しか。こんな朝早くから勘弁してくれよ」
時計を見れば朝の9時を回ったところ。
言うほど早い時間なわけでは無いのは分かっていたけれど、今日の由野はすこぶる機嫌が悪かった。
年に数度の小説雑誌への掲載が決まり、浮かれていたのは数日前まで。昨日担当から連絡があり、出したプロットが全てポシャッたばかりだった。先のスケジュールを考えれば、近日中に新たなプロットを提出し直す必要があるのだが、さっぱりアイディアの神様は降りて来てくれない。
昨晩も古いノートパソコンに向き合いながら、真っ白いままの画面に溜息を吐くだけで時間が過ぎていき……カーテンの隙間から光が差し込んできた所で、諦めて画面を閉じたのは今からたった数時間前。
書いては消し、消しては書き。そんな作業を続けていると、自分には才能なんてありゃしないといつも思う。
第一、そもそも、男の自分にこんな仕事を依頼してくる出版社側がどうかしているのだ。そんな事を思っては、切っ掛けを作ったのは自分自身だという事実に行き当たり、結局は頭を掻き毟りたくなる。
若い頃は必死だった。手当たり次第に書きまくっては、その時その時に投稿出来る雑誌社に原稿を送る生活に、いい加減見切りを付けるべきなのかと悩んでいた頃だった。
『徳川出版の太田と申しますが、この先デビューへ向けて私と一緒に頑張っていかれるおつもりはありますでしょうか?』
現在由野の担当となっている太田から掛かって来た電話に、大きな声で 「勿論です!」 と答えた事が、まるで幻のようにさえ感じる。
あの頃の由野は、純文学・ミステリー・官能小説・ライトノベル、目に付いた募集要項にはジャンルを問わず作品を投稿していた。
当然書き殴りのような作品への評価は選外ばかり。バイトとの二重生活にも疲れ果て、本格的に就職活動を行った方が良いのでは無いかと落ち込みまくっていた。
そんな由野に才能を感じて(かどうかは定かでは無いが)声を掛けてくれたのは、俗に言うところの腐女子の友、BLというジャンルをを扱う出版社、この1社だけだったのだ。
自分の性癖は至ってノーマルだと思っている由野には、勿論男性との恋愛経験はこれまで一切無かった。
投稿作に関しても、内容的には小学生の恋愛か? と聞きたくなるほどのもの。書き出すに当たって巷で売られている商業誌を何冊か買い込んではみたものの、由野にはどうしても性的な描写までは書けずに終わった。勿論太田からはそこを厳しく指導され、今現在も注意を受ける部分である。
ゲイセックスのハウトゥー本も購入してみたけれど、そこに書いてあるような下準備の過程やスキンの装着といった事は、暗黙の了解として作中には余り登場させないものらしい。
書いては駄目だということは無いが、読者へ届けたいのは実際のゲイ同士のセックスとも違う、所謂 『ファンタジー』 な世界がどうとか……はっきり言って、未だに由野にはその辺りのラインが良く分かってはいない。
『男女の恋愛や営みごとが、男同士になるだけですよ。異性間ではありえない同性間だからこその葛藤なんかは大歓迎です! その上で、あくまで綺麗な面を前面に押し出して下さい。読者は自分には起こり得ない仮定の恋愛を楽しみたいんです。購入層の殆どが女性である事を忘れないように!』
太田からは何度もそんな指摘を受け、そういうものかと無理に納得して書いているような状態。とは言え、やはり想像には限界がある。男を恋愛対象として 『可愛い』 だとか 『守ってやりたい』 だとか、そういった感情自体が由野にとっては想像が付かない世界だ。
そんな状況で描いているから、余計に文章も上滑りを起こし易く、その度にまた指摘を受ける。性描写のシーンなどは言わずもがな、である。
それでも太田が見出してくれた事を切っ掛けに、年に数度は雑誌へも掲載させてもらえるようになった。
有り難い事に、他所の出版社からも極稀にではあるけれど、声を掛けてもらえる程度には名前も浸透してきたと自負している。
無論それだけで食べて行けるほどの甘い世界では無いのが現状で。伝を頼りにエッセイや商品紹介記事を書いてみたり、文章起こしのアルバイトも続けていた。
そんな中での久々の雑誌掲載の話に、由野は張り切った。
理解し切れない世界ながらも、頑張ったつもりだった。昨日駄目出しを受けたプロットも、学生の話を中心に書き進めて来た由野にとっては全く以て意味不明な世界の話。
『アラブ物とか、花嫁物とか……この辺りで先生の作品イメージの転換を図りたいんですよね。チャレンジしてみませんか?』
ずっと二人三脚でやって来た太田からの後押しに 「アラブ物?」 「花嫁物?」 と頭を捻りながらも、それぞれプロットを起して送ってはみたのだけれど。蓋を開けてみれば全てボツ。
『もっとオリジナリティが欲しいっていうか、先生の持ち味である庶民的な感覚は無くして欲しくはないんですよねぇ』
そんな事を言われても、である。
結果として、朝方までパソコンの画面と睨めっこをする事になってしまった。
さっぱり進まない原稿を諦めて潜り込んだ布団の中でも、意識が妙に尖ってしまっていてなかなか眠る事が出来なかった。それでもようやくウトウトとし掛けた矢先に聞こえて来た引越し作業の物音に、苛々とした気分を抱えたまま部屋から顔を覗かせたのだった。
「おや由野くん、おはよう」
「おはようございます……引越し、ですか?」
「そうなんだよ。私に代わって管理人を引き受けてくれる子でね。まあ当面、慣れるまでは一緒に切り盛りして行く事になるから、よろしく頼むよ」
「はあ……え? 代わりって、管理人さん辞めちゃうんですか?」
玄関脇に佇む老人に声を掛けられ、中途半端に覗かせていた身体を扉から全て出し、由野はその人のもとへと歩み寄った。
「息子夫婦がそろそろ引退しろって煩くてなあ。暫く渋ってたんだが、まあいい機会かとも思ってね」
「そう、なんですか……」
「まだもうちょっと先の話さ。家賃や何かはそのままの予定だから、心配はいらないよ?」
「そういう事じゃなくて、えーと、その……すみません、助かります」
家賃を払い切るだけでも一杯一杯な由野の不安は、この飄々とした管理人の杉田にはお見通しだったらしい。素直に頭を下げた由野に対し、杉田は快活に笑って見せてくれた。
「みっちゃん、荷物ってこれで最後?」
「うん、ラスワン! 俺先にトラック返して来ちゃうから、部屋に運んでだけおいてくれるか? 春海は自分の荷物先に片付けちゃえよ?」
「分かった、行ってらっしゃい」
玄関先で言葉を交わしていた二人の若者の内の一人が、道路に沿って止めてあった軽トラックへと駆け寄って行く。
残されたもう一人の若者が荷物を中へと運び入れるのを眺めながら、由野は浮かんだ疑問を口に出した。
「引越しって……一人じゃないんですか?」
「ああ、私の孫もね、ここに住むんだって言って引かなくて。今トラックを返しに行ったのが孫の観月だ、よろしく頼むよ由野くん」
「はは、長くお世話になってるってだけで、僕なんか役には立たないですって」
苦笑しつつも本心を述べる由野の背を、杉田が笑顔のままでぽんと叩く。
「私がいなくなったら、由野くんが一番ここの事に詳しいのは確かなんだ。そう謙遜する事も無いさ。それにまあ、新しい場所での暮らしは、戸惑う事もあるかもしれないしね――二人の事を気に掛けて見ていてもらえれば、それだけで十分だから」
「……そうですね――建て付けの悪い雨戸を閉めるコツ位は、教えて上げられるかな?」
由野の答えに再び笑い、向こうでお茶でも飲むかとダイニングスペースへと向かう杉田の後に続いて歩き出すと、丁度ダンボールを抱えた青年が玄関を潜ってくるところだった。
「あっ、お早うございます。今日からこちらでお世話になる三島です、三島春海。宜しくお願いします!」
「こちらこそ……って、君さ、大丈夫? 手伝おうか?」
「いえ、キミさんじゃなくて三島で――」
「キミさん……くくっ、はははっ、いやそうじゃなくて、荷物、重そうだけど大丈夫かなと思ってさ、三島くん」
「へ? あ、すみません! 大丈夫です」
何が詰まっているのか知らないけれど、重そうなダンボールをよたよたと運ぶ姿に心配になって声を掛けた由野に対し、青年が真顔で答えたのが妙に可笑しくて。
青年の受け答えに一瞬ぽかんとなった由野が、意味を理解した途端に声を上げて笑い出す。
そんな由野の様子に、ようやく自分の聞き間違いに気付いた春海が顔を真っ赤に染めながら、大きく首を横へと振った。決して体格が良さそうには見えない青年の首が振り切れてしまうのではないかと、由野は違った心配までしてしまう。
「やれやれ、春ちゃんは本当、小さい頃から変わって無いなぁ――取り敢えず荷物を置いて来なさい、観月が戻って来るまでちょっと休憩にしよう」
「うん、今置いて来る――えーと……」
「ああゴメンね、僕は由野譲。管理人室の隣の103号室です、よろしくね」
「はい! じゃあ後でまた」
杉田から視線を移した春海が、由野を見て言葉に詰まる。そう言えば自己紹介がまだだったと自らの名を告げた由野に対し、春海はにこやかな笑顔で応えてくれた。
ペコリと頭を下げて階段へと向かう姿を、由野は目尻に浮かんだ涙を拭いつつ目線で追い駆ける。
不思議な子だな、と思った。ひと言ふた言言葉を交わしただけだというのに、由野の中にその存在を刻み付けてしまった。つい先ほどまで苛付いた気分で引越し作業を眺めていた事が嘘のように、今は晴れやかな気持ちになっている。
「おーい由野くん、お茶とコーヒーどっちにするかね?」
「じゃあ、お茶の濃いところを一杯……ッ!」
共用ダイニングの方向から聞こえて来た声に答えようとした瞬間だった。
荷物を抱えて階段を上り始めていた春海の身体が不意に傾いだ。目の端に映ったその光景に、危ないと声を発する間も無く、細身の身体が後ろへと反り返る。
「―――ヒッ…!」
次の瞬間、床を揺らすほどの衝撃と大きな音が、木造の櫻花荘に鳴り響いた。
「……あ、あれ? 痛く、ない?」
「――大丈夫? どこか打ったりしてない?」
「うわぁ! あっ、由野さ……すみませんっ、あの、由野さんこそ怪我は?」
「良かったぁ。僕は平気……うん、腕も動くし。ちょっとぶつけただけだから」
由野の上に乗り上げた体勢のまま慌てる春海に、怪我が無いことを確認してほっとする。
「今の音は何だい、由野くん? 春ちゃん、何があったんだい?」
「源じいー……」
「……落ちたのか?」
大きな音に驚いてダイニングスペースから飛び出して来た杉田が、目の前に広がる光景に目を丸くし、一拍置いて大きく息を吐き出した。杉田の顔を見た春海が、泣き出しそうな顔をして声を上げるのを眺めながら、由野は苦笑いを浮かべる。
(そっか、そういえば杉田さんの下の名前って、源一だっけ?)
そんな暢気な事を思う由野の下半身は階段上に、上半身は廊下へと投げ出されるように、足を高くして寝そべっている。由野の上には重なるように、その腕に包まれたままの春海の姿。
床には階段から滑り落ちた際に手から放れたダンボール箱が、角を潰された無残な姿で転がっていた。
「怪我が無くて良かったよ」
「由野さん……本当にすみません、あの、ありがとうございました」
「ここの階段滑り易いんだよね、気を付けて」
身を起こしながらの由野の言葉に、春海がこくこくと頷きを繰り返す。
建築されてから既に何十年もの時が流れている櫻花荘。
木造の味でありながら難点でもあるのが、木は削れていくという事だろう。何十人、何百人が上り下りしたか知れない階段は、滑り止め用に彫られた溝も既に役目を果たし終え、端の方に僅かに名残があるだけの状態。頻繁に行き来のある中ほどは、角の部分すら丸みを帯びている。
その形状に慣れていない人間が、足元も見えないような荷物を持って上り下りするのは、やはり危険だったようだ。
「……後で滑り止め用のゴムか何か、付けて置くことにするよ」
溜息と共に呟く杉田の様子に、管理人修行の行先を思い描いた由野もまた、申し訳無いと思いながらも笑いを抑える事が出来なかった。
「あはは、それがいいですね。取り敢えず、この荷物は僕が運んでおくから、三島くんは杉田さんと一緒にお茶の準備しておいてくれるかな?」
「え、あ……はい――」
衝撃でずれた眼鏡を掛け直して微笑む由野を、春海は座り込んだまま呆けた表情でぼんやりと見つめるばかり。
「えーと、三島くん、腰でも抜けた? おーい、春ちゃーん? 何号室に入れておけばいいの?」
「あっ、すみません! ええと、それは、観月の荷物なので、203号室にお願いしますっ」
「了解した」
春海の頭をぽんと撫でた由野が、転がっていた荷物を抱えて軽々と階段を上っていく。その後姿を見上げる春海の顔が仄かに色を帯びていた事に、前を向いたままの由野は気付かなかった。
言われた通りに203号室へと箱を持ち込んだ由野は、所狭しと置かれた荷物で足の踏み場も無いほどの惨状に目を丸くした。
壁に立てかけられた丸めたラグマット、組み立て式と思しきパイプペッドに布団袋。服のギッシリ詰まった衣装ケースが数個に、テレビやパソコン等の電機機器。それらを置く為の物と思われる組み立て式の棚や突っ張り棒等の小物類、そしてダンボール箱が大小合わせてパッと見ただけでも6~7個はあるだろうか。
「うっわあ……これ片付けるって、容易じゃないよなあ」
他人事ながら、片付けに掛かる労力を考えただけで寒気がすると顔を顰め、取り敢えず持っていた荷物を手近なダンボール箱の上へと重ね置きし扉を閉めた。
序でに開きっ放しになっていた隣の202号室の扉も閉めてやるかと手を伸ばし掛け、隣の部屋とは随分と差がある荷物の量に、これはこれで驚いた。
「衣装ケースひとつに、ダンボールが3箱と、布団…カラーボックスひとつ……って、これだけ?」
由野自身も、部屋の大半を占めている書籍を除けば似たようなものではあるのだが、それにしても少ない。
今時の若者ならば、もっとアレコレと、そう、隣の部屋のせめて半分位の荷物があっても良さそうなものなのに。
「まぁ、人それぞれか」
座り込んだまま呆けていた春海の様子を思い出し、口元へと知らず笑みが浮かぶ。あの調子で無事にやっていけるのだろうか? 杉田から宜しく頼むと声を掛けられた事にも頷ける。
「由野くん、お茶が入ったよ」
「はーい、今下ります!」
ひと月ほど前に就職が決まってここを去った大学生が二人いた。同時期に結婚が決まって出て行ったのが一人。
それ以来貸し室5部屋の櫻花荘で、店子は由野ともう一人の下宿人の二人だけ。管理人の杉田と三人で、急にガランとなったこの場所で過ごして来た。
階下からの呼び掛けに答えながら静かに部屋の扉を閉めた由野は、今夜からの賑わいに思いを馳せつつ唇を綻ばせた。
「ほら春ちゃん、お茶の準備でもしようか」
「うん――」
由野が荷物を持って階段を上っていた頃、杉田に声を掛けられた春海がようやく立ち上がった。
「全くもう、あまり驚かせないでおくれ。本当に怪我がなくて良かった。由野くんに感謝しなくちゃ駄目だよ?」
「うん……ねえ源じい、由野さんって何してる人?」
「ん? 由野くんか? 彼は確か、物書きさんだったはずだよ」
「へーそうなんだ、物書きさんかぁ」
観月から託された重い箱に気を取られ、足元が覚束無かった先程。十分気を付けていたつもりだったのだけれど……と、春海は小さく溜息を吐いた。
小さい頃から通信簿ではそそっかしさを注意されていた事を思い出し、春海は更に重い気持ちになる。
これからお世話になるこの櫻花荘で、初めて出会った住人。その人に、出会い頭に掛けてしまった大迷惑。
(あーあ、由野さん、呆れただろうなあ)
手伝おうかと気に掛けてくれた言葉を、大丈夫だと断ったのは自分なのに。言った矢先の階段落ちである。踏み出した先にあると思っていた段差が、微妙にずれていた。背が後ろへと反った瞬間、春海自身が大怪我を覚悟した。
(由野さん、かあ……)
春海の失敗を怒るでもなく、ただ心配する言葉を掛けてくれた由野。抱き止めてもらった腕の中は妙に居心地が良くて、身体の痛みを感じないと思った瞬間、天国に来てしまったのかと思ったほどだった。
ぽんと頭に置かれた手の平の感触と眼鏡の奥の優しそうな瞳が、何故か忘れられなくなりそうだった。
由野がダイニングスペースへ顔を覗かせると同時に、春海が勢い良く椅子から立ち上がる。
「さっきは本当にありがとうございました!」
「え……」
「来て早々に迷惑を掛けちまったって、反省してるんだよ。な、春ちゃん?」
深々と頭を下げる春海の突然の行動に面食らう由野へ、杉田が穏やかに微笑みながら行為の意味を伝えてくれる。
「そんな畏まらないで。僕も春ちゃんも、怪我が無くて良かったよ、ね?」
「でも、本当に、ご迷惑をお掛けしちゃって」
「良いから良いから。それより春ちゃん、それ以上頭下げると、湯飲みに髪の毛が浸かっちゃうよ?」
「へ? ああっ、早く言って下さいよ! もう濡れてるしっ」
「おいおい、春ちゃん……」
櫻花荘に響く久々に賑やかな笑い声。腰を下ろしながら、ああそうか、と由野は思う。
古い木造の下宿。
ご飯が付くのと安い家賃は勿論魅力のひとつではあるけれど、自分はこの雰囲気が好きだからこそ、ここに住み続けているのだと。他人との交流が煩わしいという人も多いのだろうけれど、いつも何処かに自分以外の存在を感じられて、こんな風に笑い合って話が出来る。
この居心地の好さが好きなのだと。
「そう言えば、お茶なのにマグカップなんですか?」
「ん? ああそうか、春ちゃんにはまだ説明してなかったな」
「ここではほら、食器棚のスペースにも限りがあるだろ? だから、お客さん用の湯呑み以外はお皿も全部共用なんだ」
「へえー」
由野の分のお茶を淹れる杉田の手元へと、春海の視線が興味深げに注がれる。視線を受け止めた杉田が、これから徐々に教えていくけども、と前置きしつつ背後の食器棚を指してにこやかに微笑んだ。
「ここに置いてある以外のグラスや食器が使いたい場合は、各自部屋で管理してもらってるんだよ。うっかり破損させちまったら大変だろう?」
「なるほど」
「でもまあ、マグカップ位はね。皆でお茶飲んだりする事もあるから、各自で気にいった物をひとつだけ置かせてもらってるんだ。誰が誰のかひと目で分かるから便利なんだよ」
こくこくと頷きながら聞き入る春海の幼い仕草に、思わず由野も口を挟んでしまう。すると春海が、閃いたとばかりに杉田の顔を見遣る。
「だから源じいの湯飲みは大きいんだ! それでコーヒーとかも飲んじゃうの?」
「ははは、いやいや、コーヒーは滅多に飲まんがね」
お茶を啜りながら、そんな他愛も無い話に花が咲く。
朝方までずっとムシャクシャとしていたのが嘘のように、由野の気分も晴れやかになっていた。気持ちが和めば忘れていた疲労を身体が思い出す。
「ふ、ふわぁあ」
「随分大きな欠伸だな。昨日も遅かったのかい?」
「ええ、ちょっと詰まってて、寝たの明け方なんですよ」
「もしかしてボク達が煩くて起しちゃいました?」
堪えきれずに飛び出した大欠伸に、杉田が心配そうに声を掛けて来る。杉田の問いに苦笑いで答える由野に、それを聞いた春海がしゅんと項垂れた。
コロコロと変わる表情が見ていて飽きない。
(はは、可愛いな……って、そうか、これがそうなのかもしれない)
由野にはずっと理解出来ずにいた、同性を可愛いと思う感情や守ってやりたいと思う気持ち。
けれど春海を見ていると、目を離すと心配になるような危なっかしさがあって。可愛いと感じる想いは、幼な子や動物に対する庇護欲に近いのかもしれないけれど。
(今ならもしかして、書けるかも――)
薄ぼんやりと浮かんで来た細い糸を辿る由野に向かって、正面に座っていた春海が思い出したかのように口を開いた。
「そういえば由野さんって物書きさんなんですよね? どんなお話書いてるんですか? ボク読書は好きだから、読んだ事あるかもしれないです!」
「え……ああ、いや、多分、無いと思うよ……そんな売れてる作家じゃないし、ね」
瞳を輝かせての春海からの問い掛けには、思わず目線が泳いでしまう。自分の作品を恥じている訳ではないけれど、堂々と披露出来るほどの心の余裕は、由野にはまだ無かった。
瓦屋根の2階建て、木造作りの古い家屋。
広々とした庭の一角には、その建物の名称の由来となった大きな桜の木が一本。
この建物がいつからあったか?
そんな昔の事はもう忘れましたよ。
思い返せば私がまだ若木の頃でしたでしょうか。
あれから幾歳月……。
春の訪れと共に、ここに暮らす住人は幾度も変わり行き。
その度に、旅立つ者を送り出し、新たな住人を迎え入れ。
建物の持ち主も、もう何度変わった事でしょう。
それでも唯一変わらないもの。
それは、ここに集う人々の温かな心。
私はこの身が朽ちるまで、その光景を静かに見守っていきましょう。
春には枝一杯の花を付け、交わす盃の御供となりましょう。
夏には生い茂る葉陰で茹だる暑さを遮り、一服の清涼を届けましょう。
秋には色鮮やかなキャンパスとなり、その葉で暖を与えましょう。
冬には小さな氷柱を枝先に垂らし、光のダンスを見せましょう。
建物の名は 『 櫻花荘 』
共同の玄関
各部屋畳敷きの6畳間
磨き上げられた光る床
軋む階段はご愛嬌
今日もまた、一日の始まりを告げる賑やかさが
もうすぐ聞こえてくるはず――
庭に聳える桜の木の葉が、風にさわさわと揺れ動く。
―― 下宿処『櫻花荘』
ただ今満員御礼 空き室無し ――
【 103号室の恋 】
築年数など計算したくも無いほどの、古い木造作りの二階建て物件。共同の玄関を潜って直ぐ左にある階段を上れば長い廊下にぶち当たる。
片側に並ぶ6畳一間の畳敷きの部屋は、全室庭のある面に窓を取った南向き。二階には全部で4部屋と、共用の手洗い場にトイレとシャワールームがひとつずつ。
一階には2部屋と、洗濯機が2台置かれた洗面所。広めのお風呂にトイレと台所。台所は共用のリビングダイニングと繋がって造られており、住人全員が揃って食事をしたとしても狭苦しさを感じさせることはない。
広い庭には家庭菜園用の畑が少々と物置小屋。その脇には、この建物をずっと見守って来たであろう桜の大樹が一本聳え立っている。
それら全てをひっくるめたこの場所が、下宿処『櫻花荘』だ。
「――よし、今日もボクの勝ち…ふ、ふぁあ」
枕元に電子音が鳴り響く直前にスイッチを切り、大きな欠伸と共に布団から身を起こす。
寝惚け眼を擦りながら開け放ったカーテンの向こう、桜の木の上に広がる青空から明るい光が窓越しに差し込んでくる。
「んー……今日もいい天気」
起床時間は毎朝5時半。目覚ましが鳴るのが早いか、男が起きるのが先か。ちょっとした勝負を楽しみながらの一日の始まり。
Tシャツの上にネルシャツを羽織り、下はノーブランドのジーンズ。ぼさぼさの頭を手櫛で直しながら、壁に引っ掛けた衣文掛けから戦闘着を抜き取り静かに部屋を出る。
洗面所でざっと顔を洗うと、男は鏡の中の自分に向けてにっこりと微笑んだ。
「おはよう、今日も一日頑張りましょう!」
戦闘着を身に付け、後ろ手に紐をキュッと引き締める。
鼻歌交じりにリビングダイニングのカーテンを開くと、男は自室の隣に位置する広々とした台所に立った。
「さぁて、今朝のお味噌汁は何にしよう?――昨日の煮物に使った大根が残ってるから、それとお揚げと、豆腐もあったな。あれも入れちゃおうかな」
建物自体は古いながらも、使い勝手良くリフォームがなされた台所。大きな冷蔵庫の前をたっぷり時間を掛けてうろつきながら、ようやく決まった具材にひとつ頷く。
男の名前は三島春海。家政婦でも無ければ主夫でも無い。そんな彼が何故こんなに朝早くから台所に立っているのかというと……。
「お早う、管理人さん。今朝も早いね」
「由野さん、お早うございます。由野さんこそ随分早いんじゃ無いですか? あっ、ていうか、ボクの事管理人さんって呼ぶの止めて下さいって何度もお願いしてるのに!」
「ははは、春ちゃん突っ込みが遅過ぎるよ」
背後から掛けられた朝の挨拶に、包丁を持つ手を止めた春海が唇を突き出して抗議の声を上げれば、由野と呼ばれた無精髭に眼鏡の男がぷっと吹き出す。そのにこやかな笑顔を見ているうちに、春海も膨れっ面を引っ込めてつられるように笑顔を浮かべた。
「朝ご飯まだなんですけど、お茶でも煎れましょうか?」
「あぁいいよ、自分でやるから。お湯はもうポットに入ってる?」
「っ! お湯沸かすの忘れてた!」
待ってて下さい、と慌ててヤカンを手にする春海の後姿を眺めながら、由野が再びくすくすと笑みを洩らす。
由野譲 。今年三十路の声を聞こうかという、ここ 『櫻花荘』 という名の下宿処では一番の古参住人だ。
由野の職業は売れない物書き。
高給取りでは無いけれど、自分独りが食べて行ける程度の稼ぎと、雨露を凌げて寝起きの出来る場所があればそれでいいという考えの基、学生時代から変わらずここに住み続けている変わり者。
以前ここを去って行った輩の一人に、お前は櫻花荘を出る気は無いのかと問われた事がある。
『朝晩の飯付きでこの家賃だぞ? 俺は一生ここに住んでもいいよ。一人暮らしなんてしたら飢え死ぬこと間違いないからね。それに、今更引越しなんて面倒だ』
部屋の壁一面どころか床にまで並ぶ書籍を思い描き、あれらを全て運び出すなんてと顔を顰めながら答えた由野に、お前らしいよと苦笑いされたのだった。
そう、ここ櫻花荘は朝晩の賄いが付く下宿屋なのだ。
元々が大家の趣味で営まれていたような形だった為、個人で普通にアパートを借りるよりもずっとお得な家賃で住まわせてもらっている。由野はその恩恵にずっと与って来たというわけだ。
水道料は毎月折半、管理費が月5千円。電気だけは各部屋毎に係数計が設置されていて個人持ち。昼飯も欲しい時には、事前申告で一食300円という安さで用意してもらえる。風呂とトイレは共同だけれど、男の寡暮らしには今時何とも有り難い話である。
沸かして貰い立てのお湯で、自分用のマグカップへ濃い目の緑茶をたっぷり注ぎ入れた由野は、欠伸を噛み殺しながらダイニングテーブルへと腰を落ち着けた。
(朝からホント、楽しそう……可愛いよなあ)
視界に飛び込んで来るちょこまか動くエプロン姿をぼんやりと追い駆ければ、口の端にくすりと笑みが浮かぶ。
(春ちゃんを初めて紹介された時には、大丈夫なのかと心配だったけど――)
カチャカチャと聞こえる朝餉の支度の音に混じって聞こえて来る鼻歌が、時折音を外しているのが何ともいえず良い味を出している。
もう2年ほど前になるだろうか? 彼と初めて会ったのは。
「何だ? ウルサイな……」
軋む階段を何度も往復する足音と、それに付随して聞こえて来る賑やかな声に眉を寄せた由野が、そっと自室から顔を覗かせた。
「引越しか。こんな朝早くから勘弁してくれよ」
時計を見れば朝の9時を回ったところ。
言うほど早い時間なわけでは無いのは分かっていたけれど、今日の由野はすこぶる機嫌が悪かった。
年に数度の小説雑誌への掲載が決まり、浮かれていたのは数日前まで。昨日担当から連絡があり、出したプロットが全てポシャッたばかりだった。先のスケジュールを考えれば、近日中に新たなプロットを提出し直す必要があるのだが、さっぱりアイディアの神様は降りて来てくれない。
昨晩も古いノートパソコンに向き合いながら、真っ白いままの画面に溜息を吐くだけで時間が過ぎていき……カーテンの隙間から光が差し込んできた所で、諦めて画面を閉じたのは今からたった数時間前。
書いては消し、消しては書き。そんな作業を続けていると、自分には才能なんてありゃしないといつも思う。
第一、そもそも、男の自分にこんな仕事を依頼してくる出版社側がどうかしているのだ。そんな事を思っては、切っ掛けを作ったのは自分自身だという事実に行き当たり、結局は頭を掻き毟りたくなる。
若い頃は必死だった。手当たり次第に書きまくっては、その時その時に投稿出来る雑誌社に原稿を送る生活に、いい加減見切りを付けるべきなのかと悩んでいた頃だった。
『徳川出版の太田と申しますが、この先デビューへ向けて私と一緒に頑張っていかれるおつもりはありますでしょうか?』
現在由野の担当となっている太田から掛かって来た電話に、大きな声で 「勿論です!」 と答えた事が、まるで幻のようにさえ感じる。
あの頃の由野は、純文学・ミステリー・官能小説・ライトノベル、目に付いた募集要項にはジャンルを問わず作品を投稿していた。
当然書き殴りのような作品への評価は選外ばかり。バイトとの二重生活にも疲れ果て、本格的に就職活動を行った方が良いのでは無いかと落ち込みまくっていた。
そんな由野に才能を感じて(かどうかは定かでは無いが)声を掛けてくれたのは、俗に言うところの腐女子の友、BLというジャンルをを扱う出版社、この1社だけだったのだ。
自分の性癖は至ってノーマルだと思っている由野には、勿論男性との恋愛経験はこれまで一切無かった。
投稿作に関しても、内容的には小学生の恋愛か? と聞きたくなるほどのもの。書き出すに当たって巷で売られている商業誌を何冊か買い込んではみたものの、由野にはどうしても性的な描写までは書けずに終わった。勿論太田からはそこを厳しく指導され、今現在も注意を受ける部分である。
ゲイセックスのハウトゥー本も購入してみたけれど、そこに書いてあるような下準備の過程やスキンの装着といった事は、暗黙の了解として作中には余り登場させないものらしい。
書いては駄目だということは無いが、読者へ届けたいのは実際のゲイ同士のセックスとも違う、所謂 『ファンタジー』 な世界がどうとか……はっきり言って、未だに由野にはその辺りのラインが良く分かってはいない。
『男女の恋愛や営みごとが、男同士になるだけですよ。異性間ではありえない同性間だからこその葛藤なんかは大歓迎です! その上で、あくまで綺麗な面を前面に押し出して下さい。読者は自分には起こり得ない仮定の恋愛を楽しみたいんです。購入層の殆どが女性である事を忘れないように!』
太田からは何度もそんな指摘を受け、そういうものかと無理に納得して書いているような状態。とは言え、やはり想像には限界がある。男を恋愛対象として 『可愛い』 だとか 『守ってやりたい』 だとか、そういった感情自体が由野にとっては想像が付かない世界だ。
そんな状況で描いているから、余計に文章も上滑りを起こし易く、その度にまた指摘を受ける。性描写のシーンなどは言わずもがな、である。
それでも太田が見出してくれた事を切っ掛けに、年に数度は雑誌へも掲載させてもらえるようになった。
有り難い事に、他所の出版社からも極稀にではあるけれど、声を掛けてもらえる程度には名前も浸透してきたと自負している。
無論それだけで食べて行けるほどの甘い世界では無いのが現状で。伝を頼りにエッセイや商品紹介記事を書いてみたり、文章起こしのアルバイトも続けていた。
そんな中での久々の雑誌掲載の話に、由野は張り切った。
理解し切れない世界ながらも、頑張ったつもりだった。昨日駄目出しを受けたプロットも、学生の話を中心に書き進めて来た由野にとっては全く以て意味不明な世界の話。
『アラブ物とか、花嫁物とか……この辺りで先生の作品イメージの転換を図りたいんですよね。チャレンジしてみませんか?』
ずっと二人三脚でやって来た太田からの後押しに 「アラブ物?」 「花嫁物?」 と頭を捻りながらも、それぞれプロットを起して送ってはみたのだけれど。蓋を開けてみれば全てボツ。
『もっとオリジナリティが欲しいっていうか、先生の持ち味である庶民的な感覚は無くして欲しくはないんですよねぇ』
そんな事を言われても、である。
結果として、朝方までパソコンの画面と睨めっこをする事になってしまった。
さっぱり進まない原稿を諦めて潜り込んだ布団の中でも、意識が妙に尖ってしまっていてなかなか眠る事が出来なかった。それでもようやくウトウトとし掛けた矢先に聞こえて来た引越し作業の物音に、苛々とした気分を抱えたまま部屋から顔を覗かせたのだった。
「おや由野くん、おはよう」
「おはようございます……引越し、ですか?」
「そうなんだよ。私に代わって管理人を引き受けてくれる子でね。まあ当面、慣れるまでは一緒に切り盛りして行く事になるから、よろしく頼むよ」
「はあ……え? 代わりって、管理人さん辞めちゃうんですか?」
玄関脇に佇む老人に声を掛けられ、中途半端に覗かせていた身体を扉から全て出し、由野はその人のもとへと歩み寄った。
「息子夫婦がそろそろ引退しろって煩くてなあ。暫く渋ってたんだが、まあいい機会かとも思ってね」
「そう、なんですか……」
「まだもうちょっと先の話さ。家賃や何かはそのままの予定だから、心配はいらないよ?」
「そういう事じゃなくて、えーと、その……すみません、助かります」
家賃を払い切るだけでも一杯一杯な由野の不安は、この飄々とした管理人の杉田にはお見通しだったらしい。素直に頭を下げた由野に対し、杉田は快活に笑って見せてくれた。
「みっちゃん、荷物ってこれで最後?」
「うん、ラスワン! 俺先にトラック返して来ちゃうから、部屋に運んでだけおいてくれるか? 春海は自分の荷物先に片付けちゃえよ?」
「分かった、行ってらっしゃい」
玄関先で言葉を交わしていた二人の若者の内の一人が、道路に沿って止めてあった軽トラックへと駆け寄って行く。
残されたもう一人の若者が荷物を中へと運び入れるのを眺めながら、由野は浮かんだ疑問を口に出した。
「引越しって……一人じゃないんですか?」
「ああ、私の孫もね、ここに住むんだって言って引かなくて。今トラックを返しに行ったのが孫の観月だ、よろしく頼むよ由野くん」
「はは、長くお世話になってるってだけで、僕なんか役には立たないですって」
苦笑しつつも本心を述べる由野の背を、杉田が笑顔のままでぽんと叩く。
「私がいなくなったら、由野くんが一番ここの事に詳しいのは確かなんだ。そう謙遜する事も無いさ。それにまあ、新しい場所での暮らしは、戸惑う事もあるかもしれないしね――二人の事を気に掛けて見ていてもらえれば、それだけで十分だから」
「……そうですね――建て付けの悪い雨戸を閉めるコツ位は、教えて上げられるかな?」
由野の答えに再び笑い、向こうでお茶でも飲むかとダイニングスペースへと向かう杉田の後に続いて歩き出すと、丁度ダンボールを抱えた青年が玄関を潜ってくるところだった。
「あっ、お早うございます。今日からこちらでお世話になる三島です、三島春海。宜しくお願いします!」
「こちらこそ……って、君さ、大丈夫? 手伝おうか?」
「いえ、キミさんじゃなくて三島で――」
「キミさん……くくっ、はははっ、いやそうじゃなくて、荷物、重そうだけど大丈夫かなと思ってさ、三島くん」
「へ? あ、すみません! 大丈夫です」
何が詰まっているのか知らないけれど、重そうなダンボールをよたよたと運ぶ姿に心配になって声を掛けた由野に対し、青年が真顔で答えたのが妙に可笑しくて。
青年の受け答えに一瞬ぽかんとなった由野が、意味を理解した途端に声を上げて笑い出す。
そんな由野の様子に、ようやく自分の聞き間違いに気付いた春海が顔を真っ赤に染めながら、大きく首を横へと振った。決して体格が良さそうには見えない青年の首が振り切れてしまうのではないかと、由野は違った心配までしてしまう。
「やれやれ、春ちゃんは本当、小さい頃から変わって無いなぁ――取り敢えず荷物を置いて来なさい、観月が戻って来るまでちょっと休憩にしよう」
「うん、今置いて来る――えーと……」
「ああゴメンね、僕は由野譲。管理人室の隣の103号室です、よろしくね」
「はい! じゃあ後でまた」
杉田から視線を移した春海が、由野を見て言葉に詰まる。そう言えば自己紹介がまだだったと自らの名を告げた由野に対し、春海はにこやかな笑顔で応えてくれた。
ペコリと頭を下げて階段へと向かう姿を、由野は目尻に浮かんだ涙を拭いつつ目線で追い駆ける。
不思議な子だな、と思った。ひと言ふた言言葉を交わしただけだというのに、由野の中にその存在を刻み付けてしまった。つい先ほどまで苛付いた気分で引越し作業を眺めていた事が嘘のように、今は晴れやかな気持ちになっている。
「おーい由野くん、お茶とコーヒーどっちにするかね?」
「じゃあ、お茶の濃いところを一杯……ッ!」
共用ダイニングの方向から聞こえて来た声に答えようとした瞬間だった。
荷物を抱えて階段を上り始めていた春海の身体が不意に傾いだ。目の端に映ったその光景に、危ないと声を発する間も無く、細身の身体が後ろへと反り返る。
「―――ヒッ…!」
次の瞬間、床を揺らすほどの衝撃と大きな音が、木造の櫻花荘に鳴り響いた。
「……あ、あれ? 痛く、ない?」
「――大丈夫? どこか打ったりしてない?」
「うわぁ! あっ、由野さ……すみませんっ、あの、由野さんこそ怪我は?」
「良かったぁ。僕は平気……うん、腕も動くし。ちょっとぶつけただけだから」
由野の上に乗り上げた体勢のまま慌てる春海に、怪我が無いことを確認してほっとする。
「今の音は何だい、由野くん? 春ちゃん、何があったんだい?」
「源じいー……」
「……落ちたのか?」
大きな音に驚いてダイニングスペースから飛び出して来た杉田が、目の前に広がる光景に目を丸くし、一拍置いて大きく息を吐き出した。杉田の顔を見た春海が、泣き出しそうな顔をして声を上げるのを眺めながら、由野は苦笑いを浮かべる。
(そっか、そういえば杉田さんの下の名前って、源一だっけ?)
そんな暢気な事を思う由野の下半身は階段上に、上半身は廊下へと投げ出されるように、足を高くして寝そべっている。由野の上には重なるように、その腕に包まれたままの春海の姿。
床には階段から滑り落ちた際に手から放れたダンボール箱が、角を潰された無残な姿で転がっていた。
「怪我が無くて良かったよ」
「由野さん……本当にすみません、あの、ありがとうございました」
「ここの階段滑り易いんだよね、気を付けて」
身を起こしながらの由野の言葉に、春海がこくこくと頷きを繰り返す。
建築されてから既に何十年もの時が流れている櫻花荘。
木造の味でありながら難点でもあるのが、木は削れていくという事だろう。何十人、何百人が上り下りしたか知れない階段は、滑り止め用に彫られた溝も既に役目を果たし終え、端の方に僅かに名残があるだけの状態。頻繁に行き来のある中ほどは、角の部分すら丸みを帯びている。
その形状に慣れていない人間が、足元も見えないような荷物を持って上り下りするのは、やはり危険だったようだ。
「……後で滑り止め用のゴムか何か、付けて置くことにするよ」
溜息と共に呟く杉田の様子に、管理人修行の行先を思い描いた由野もまた、申し訳無いと思いながらも笑いを抑える事が出来なかった。
「あはは、それがいいですね。取り敢えず、この荷物は僕が運んでおくから、三島くんは杉田さんと一緒にお茶の準備しておいてくれるかな?」
「え、あ……はい――」
衝撃でずれた眼鏡を掛け直して微笑む由野を、春海は座り込んだまま呆けた表情でぼんやりと見つめるばかり。
「えーと、三島くん、腰でも抜けた? おーい、春ちゃーん? 何号室に入れておけばいいの?」
「あっ、すみません! ええと、それは、観月の荷物なので、203号室にお願いしますっ」
「了解した」
春海の頭をぽんと撫でた由野が、転がっていた荷物を抱えて軽々と階段を上っていく。その後姿を見上げる春海の顔が仄かに色を帯びていた事に、前を向いたままの由野は気付かなかった。
言われた通りに203号室へと箱を持ち込んだ由野は、所狭しと置かれた荷物で足の踏み場も無いほどの惨状に目を丸くした。
壁に立てかけられた丸めたラグマット、組み立て式と思しきパイプペッドに布団袋。服のギッシリ詰まった衣装ケースが数個に、テレビやパソコン等の電機機器。それらを置く為の物と思われる組み立て式の棚や突っ張り棒等の小物類、そしてダンボール箱が大小合わせてパッと見ただけでも6~7個はあるだろうか。
「うっわあ……これ片付けるって、容易じゃないよなあ」
他人事ながら、片付けに掛かる労力を考えただけで寒気がすると顔を顰め、取り敢えず持っていた荷物を手近なダンボール箱の上へと重ね置きし扉を閉めた。
序でに開きっ放しになっていた隣の202号室の扉も閉めてやるかと手を伸ばし掛け、隣の部屋とは随分と差がある荷物の量に、これはこれで驚いた。
「衣装ケースひとつに、ダンボールが3箱と、布団…カラーボックスひとつ……って、これだけ?」
由野自身も、部屋の大半を占めている書籍を除けば似たようなものではあるのだが、それにしても少ない。
今時の若者ならば、もっとアレコレと、そう、隣の部屋のせめて半分位の荷物があっても良さそうなものなのに。
「まぁ、人それぞれか」
座り込んだまま呆けていた春海の様子を思い出し、口元へと知らず笑みが浮かぶ。あの調子で無事にやっていけるのだろうか? 杉田から宜しく頼むと声を掛けられた事にも頷ける。
「由野くん、お茶が入ったよ」
「はーい、今下ります!」
ひと月ほど前に就職が決まってここを去った大学生が二人いた。同時期に結婚が決まって出て行ったのが一人。
それ以来貸し室5部屋の櫻花荘で、店子は由野ともう一人の下宿人の二人だけ。管理人の杉田と三人で、急にガランとなったこの場所で過ごして来た。
階下からの呼び掛けに答えながら静かに部屋の扉を閉めた由野は、今夜からの賑わいに思いを馳せつつ唇を綻ばせた。
「ほら春ちゃん、お茶の準備でもしようか」
「うん――」
由野が荷物を持って階段を上っていた頃、杉田に声を掛けられた春海がようやく立ち上がった。
「全くもう、あまり驚かせないでおくれ。本当に怪我がなくて良かった。由野くんに感謝しなくちゃ駄目だよ?」
「うん……ねえ源じい、由野さんって何してる人?」
「ん? 由野くんか? 彼は確か、物書きさんだったはずだよ」
「へーそうなんだ、物書きさんかぁ」
観月から託された重い箱に気を取られ、足元が覚束無かった先程。十分気を付けていたつもりだったのだけれど……と、春海は小さく溜息を吐いた。
小さい頃から通信簿ではそそっかしさを注意されていた事を思い出し、春海は更に重い気持ちになる。
これからお世話になるこの櫻花荘で、初めて出会った住人。その人に、出会い頭に掛けてしまった大迷惑。
(あーあ、由野さん、呆れただろうなあ)
手伝おうかと気に掛けてくれた言葉を、大丈夫だと断ったのは自分なのに。言った矢先の階段落ちである。踏み出した先にあると思っていた段差が、微妙にずれていた。背が後ろへと反った瞬間、春海自身が大怪我を覚悟した。
(由野さん、かあ……)
春海の失敗を怒るでもなく、ただ心配する言葉を掛けてくれた由野。抱き止めてもらった腕の中は妙に居心地が良くて、身体の痛みを感じないと思った瞬間、天国に来てしまったのかと思ったほどだった。
ぽんと頭に置かれた手の平の感触と眼鏡の奥の優しそうな瞳が、何故か忘れられなくなりそうだった。
由野がダイニングスペースへ顔を覗かせると同時に、春海が勢い良く椅子から立ち上がる。
「さっきは本当にありがとうございました!」
「え……」
「来て早々に迷惑を掛けちまったって、反省してるんだよ。な、春ちゃん?」
深々と頭を下げる春海の突然の行動に面食らう由野へ、杉田が穏やかに微笑みながら行為の意味を伝えてくれる。
「そんな畏まらないで。僕も春ちゃんも、怪我が無くて良かったよ、ね?」
「でも、本当に、ご迷惑をお掛けしちゃって」
「良いから良いから。それより春ちゃん、それ以上頭下げると、湯飲みに髪の毛が浸かっちゃうよ?」
「へ? ああっ、早く言って下さいよ! もう濡れてるしっ」
「おいおい、春ちゃん……」
櫻花荘に響く久々に賑やかな笑い声。腰を下ろしながら、ああそうか、と由野は思う。
古い木造の下宿。
ご飯が付くのと安い家賃は勿論魅力のひとつではあるけれど、自分はこの雰囲気が好きだからこそ、ここに住み続けているのだと。他人との交流が煩わしいという人も多いのだろうけれど、いつも何処かに自分以外の存在を感じられて、こんな風に笑い合って話が出来る。
この居心地の好さが好きなのだと。
「そう言えば、お茶なのにマグカップなんですか?」
「ん? ああそうか、春ちゃんにはまだ説明してなかったな」
「ここではほら、食器棚のスペースにも限りがあるだろ? だから、お客さん用の湯呑み以外はお皿も全部共用なんだ」
「へえー」
由野の分のお茶を淹れる杉田の手元へと、春海の視線が興味深げに注がれる。視線を受け止めた杉田が、これから徐々に教えていくけども、と前置きしつつ背後の食器棚を指してにこやかに微笑んだ。
「ここに置いてある以外のグラスや食器が使いたい場合は、各自部屋で管理してもらってるんだよ。うっかり破損させちまったら大変だろう?」
「なるほど」
「でもまあ、マグカップ位はね。皆でお茶飲んだりする事もあるから、各自で気にいった物をひとつだけ置かせてもらってるんだ。誰が誰のかひと目で分かるから便利なんだよ」
こくこくと頷きながら聞き入る春海の幼い仕草に、思わず由野も口を挟んでしまう。すると春海が、閃いたとばかりに杉田の顔を見遣る。
「だから源じいの湯飲みは大きいんだ! それでコーヒーとかも飲んじゃうの?」
「ははは、いやいや、コーヒーは滅多に飲まんがね」
お茶を啜りながら、そんな他愛も無い話に花が咲く。
朝方までずっとムシャクシャとしていたのが嘘のように、由野の気分も晴れやかになっていた。気持ちが和めば忘れていた疲労を身体が思い出す。
「ふ、ふわぁあ」
「随分大きな欠伸だな。昨日も遅かったのかい?」
「ええ、ちょっと詰まってて、寝たの明け方なんですよ」
「もしかしてボク達が煩くて起しちゃいました?」
堪えきれずに飛び出した大欠伸に、杉田が心配そうに声を掛けて来る。杉田の問いに苦笑いで答える由野に、それを聞いた春海がしゅんと項垂れた。
コロコロと変わる表情が見ていて飽きない。
(はは、可愛いな……って、そうか、これがそうなのかもしれない)
由野にはずっと理解出来ずにいた、同性を可愛いと思う感情や守ってやりたいと思う気持ち。
けれど春海を見ていると、目を離すと心配になるような危なっかしさがあって。可愛いと感じる想いは、幼な子や動物に対する庇護欲に近いのかもしれないけれど。
(今ならもしかして、書けるかも――)
薄ぼんやりと浮かんで来た細い糸を辿る由野に向かって、正面に座っていた春海が思い出したかのように口を開いた。
「そういえば由野さんって物書きさんなんですよね? どんなお話書いてるんですか? ボク読書は好きだから、読んだ事あるかもしれないです!」
「え……ああ、いや、多分、無いと思うよ……そんな売れてる作家じゃないし、ね」
瞳を輝かせての春海からの問い掛けには、思わず目線が泳いでしまう。自分の作品を恥じている訳ではないけれど、堂々と披露出来るほどの心の余裕は、由野にはまだ無かった。
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