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櫻花荘に吹く風~201号室の夢~ (20)
しおりを挟むセックスするよりオナニーで十分とかって、俺、男としてヤバイ?
この若さで、枯れちまった?
いやいやいやいや、そんな事は……決して、無い、と、思う。
「……そういやそもそも、ホリさんて恋愛結婚なんすか?」
「唐突だな、おい」
不意に頭に浮かんだ事を言葉として口に出せば、ホリさんが大口を開けて笑い出す。唐突、だったかな? 俺としてはそこのところも重要だったりするんだけど。
「俺は恋愛結婚さ、女房に惚れて口説きまくったぜ?」
「うっそ、ホリさんが? よく逃げられなかった……イてッ!」
やっと笑いを収めたホリさんからの答えに、俺は余程驚いた顔をしていたのだろう。軽いゲンコツを頂いてしまった。
「自分でも言うのも何だけど、見た目がこうだからよ。俺の場合自分からガンガン行かなきゃ、外見だけで判断されちまうだろ」
「あー……」
「あーって、お前なあ」
確かに強面のホリさんは、初対面の印象ではどうしたって良い印象を持ってはもらえないだろう。自分でもそれを分かっているらしいホリさんの言葉に、慮る視線を向けてやれば、俺の視線を受け止めたホリさんががっくりと項垂れた。
自分で言ったんじゃん、とも思うけれど、さすがにそこまでは口には出さない。
「へへ、悪ぃっす! で? 惚れたって、どうしてそう思ったんすか? 何で自分が惚れてるって事が分かったんすか?」
「んー……改めて聞かれると、よく分かんねえなあ――」
「ちょ、分かんないって」
「最初はな、優しい奴だなって思っただけだったんだ。だけどよぉ、見てるうちに、何だか可愛く思えて来ちまって……こいつとずっと一緒にいてえなって、俺のもんにしちまいてえって思うようになってな」
よく分からない、の台詞に肩を落とすより早く、続いたホリさんの言葉。
ほんの少し照れ臭そうに鼻を擦りながら、彼の瞳はとても優しくて。まるで目の前に奥さんがいるかのような、愛情溢れる温かな眼差しだった。
「切っ掛けなんてもんは忘れちまったが、俺があいつを離したくねえって思ったからな……こいつしかいねえって思ったから、一緒になった。理屈じゃねえんだよ」
「理屈じゃない、かあ……ホリさん、今幸せそうだもんな」
「おうよ! 幸せだぜ? そりゃたまに喧嘩もするけどよ、愛が無けりゃ喧嘩にもならねえだろ?」
「奥さんは? 奥さんも、ホリさんと結婚して幸せ?」
「お前も言いやがるなあ……万が一あいつが今幸せじゃねえって言うなら、これから幸せにしてやる。っつーよりまあ、二人で幸せになりゃいいのさ」
突っ込んだ俺の言葉にキッパリと言い切ったホリさんは、男の俺から見ても格好良かった。
奥さんもきっと、こういう人だから好きになったのだろう。
いつ会っても幸せそうに笑ってるのを、俺も何度も見て来た。さっきホリさんが浮かべたのと同じ慈しみの籠もった瞳で、ホリさんのことを見ているのだから。
「なあ良太、こいつだって思う相手が現れたんなら、躊躇うんじゃねえぞ?」
「え?」
幸せをお裾分けしてもらえたような気がして、一人こっそりとほっこりしていたところに、予想外の言葉を投げ掛けられた。
「人間なんていつどうなるか分かんねえんだ。だったらしねえでする後悔より、行動起こしての後悔の方がよっぽどいい。てめえの人生掛けられる相手を見つけたなら、思い切ってぶつかってみろ。お前はまだ若いんだしな、色んな経験しといて損はねえぞ?」
「ホリさん」
「理屈で抑えが効くんなら、そいつは本気の恋愛じゃねえんじゃないかと、俺は思う。抑えが効かなくなるから、恋は盲目って言うんだろうな……」
「本気の恋愛――」
思い掛けないほど真摯に、そんな言葉を掛けてくれたホリさんが、照れを隠すようにわざとらしい咳をひとつ残して立ち上がった。
「さぁてっ、残りもやっつけちまうぞ!」
「――はいっ」
柄にも無いことを言っちまった……と頭を掻きながら歩き出すホリさんの背中に、心の中でそっと頭を下げた。
理屈じゃ押さえが利かないからこその、恋愛。その言葉は今の俺にとってはものすごく大きなものだった。
「でもなあ……」
俺もまーくんも、同じ男だってことが、心にブレーキを掛けてしまう。これで相手が女性だったなら、俺だってこんな風にもやもやと考えたりはしなかったはずなんだ。
大輔や春ちゃん達の事を教えた時のまーくんの反応を見れば、一方的な気持ちの押し付けは逆効果な気もする。
「大輔か……」
男同士での恋愛経験なんて、今までの俺には無いスキルだ。だったらスキルを持ってる奴の話も聞いてみれば良いんだよな。
ホリさんの話を俺なりの解釈でまとめれば、多分俺はまーくんに対して、そういう感情を抱いている。
人を愛するってことにも、愛されるってことにも不慣れな俺だけど、同じような環境で育ったはずの大輔だって、今じゃ立派なバカップルだ。自分で考えても答えが出ないなら、その道を辿って来た大輔にアドバイスを求めてみようと、やっとそこまで考え付いた。
大輔だったら、絶対馬鹿にしたりからかったりなんかしない。ちゃんと俺の話を聞いてくれる。
「良太―! 日が暮れちまうぞ!」
「今行きます!」
飲みかけだったスポーツドリンクを飲み切り、梯子を上る。
ずっと霧が立ち込めていた心の中に、ほんの少しだけ、細い糸のような光が差し込んだ気がした。
「ただいまー! 大……じゃなかった、北斗は? まだいる?」
「良くん? お帰り、北斗くんなら今日は――」
肩で息をしながら駆け込んだ俺を、夕飯の支度をしていた春ちゃんが、ぽかんとした表情で出迎えてくれた。
現場仕事を終えた俺は、大急ぎで櫻花荘へと戻った。
今の現場はちょっと遠いから、普段の帰宅時間と比べると、どうしても遅くなってしまう。普段でさえ北斗とは擦れ違う事の方が多いだけに、擦れ違ってしまったらと気が焦る。
ここでまた日を置いて改めて……なんて事になったら、折角の決心が鈍ってしまいそうだったから。北斗がこれから仕事だっていうなら、その前に話を聞いてもらうという約束だけでも取り付けたかった。
「今日は?」
「今日はお休みで、ついさっきコンビニに行ったところ」
言葉を遮る形で詰め寄れば、俺の勢いに押されながらも、春ちゃんが教えてくれた。
「休み……か――良かったぁ」
「どうかしたの?」
「何でもないっ! あ、弁当美味かったよ。俺シャワー浴びてくるね!」
みっちゃんは確か今日はラストまでって言ってたから、それまでの時間に話を聞いてもらう事が出来そうだ。疑問の表情を浮かべる春ちゃんに、手にしていた空の弁当箱を渡した俺は、逃げるように台所を後にした。
同性同士での恋愛という事であれば、春ちゃんだって先輩にはなるんだけど……何ていうか、春ちゃんと由野さんの二人に相談するのは、何か違う気がするんだよね。
一日の汗と汚れをシャワーで落としスッキリとして出てくれば、既に北斗は戻って来ているようだった。
声のする台所を覗けば、夕飯支度をする春ちゃんに話し掛けながら、買って来たらしい雑誌をテーブルの上に広げてペラペラと捲る北斗の姿があった。
「北斗っ」
「あ? 何だ、風呂入ってたの良太だったのか。どうした?」
「ちょっとさ、話あんだけど……」
北斗の足元にしゃがみ込みながら小声でお伺いを立ててみる。
普段の俺とは様子が違っていたのだろう。怪訝な顔をして首を傾げながらも、北斗が立ち上がった。
「春ちゃん、俺達上に行ってるから、飯出来たら呼んでねー」
「はーい」
行くぞ、と目線で促され、どう切り出したら良いかと悩みながら、その背に続いた。
「入れよ」
「うん、お邪魔しまーっす」
生活時間帯が違うせいもあって、俺が櫻花荘に来てから1年が過ぎたけれど、こうして北斗の部屋に入る機会はあまり多くなかった。
太い突っ張り棒を使ってクローゼット風に改造した押入れや、部屋の隅に寄せられているハンガーラックには、仕事着のスーツがビッシリ。押入れの空いているスペースには、下駄箱に入り切らない靴が大量に積み重ねてある。
けれど、それらを除けば至ってシンプルな北斗の部屋。
モノクロで纏められた部屋には、ベッドとテレビ、ローテーブルとノートパソコンがある位で、贅沢な物はそう多くない。
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