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キスからの距離 (47)
しおりを挟む後ろに反り気味になっていた上半身を起こし、片腕を内海の方へと伸ばしてくる。
ふっと微笑んだ顔がとても優しくて。瞳の中に内海へと寄せる想いの深さが見えるほど、温かな眼差し。けれどその奥には、内海への情欲の色がはっきりと浮かんでいた。
橘川に誘われて、立ち止まったままだった内海の足が、ゆっくりと動き始める。
「うわっ!」
「智久……」
「急に、引っ張るなよ――」
あと一歩で触れられる距離まで近付いた瞬間だった。
内海へ向けて伸ばされていた橘川の腕に捕まり、勢いを付けて引き寄せられる。バランスを崩して橘川の胸元へすっぽりと包み込まれれば、鼻腔を満たす愛しい男の香りに身体の力が抜けていくようだった。
「……さっき、何、見てたんだ?」
「空――今日は満月だったんだな、って思って」
その言葉に首だけを捻って窓を見れば、澄んだ夜空にはまん丸の月が優しい輝きを放っていた。ベッドの上を照らすように伸びる明かりが、とても綺麗で。
「ありがとう、智久」
「え?」
「帰って来てくれて……ありがとう」
呟かれた言葉と共に、内海を抱き締める腕に力が籠もった。
部屋着に着替えていた橘川の薄手のシャツ越しに、内海に負けないほど早い鼓動を刻む橘川の心臓の音が聞こえて来る。
「またこうやって、お前を抱き締められるとは思ってなかった。一人で見てた時の月は冷たくてさ――それなのにお前がここにいるだけで、こんなに温かく感じるなんてな」
「……俺も、ありがとう。ずっと待っててくれて……諦めずにいてくれて。逃げ出した俺が、悦郎の隣にこうして戻ってこれたのも、お前のおかげだよ」
「智久」
「ん……」
橘川の真摯な言葉が全身に染み渡っていく気がして、内海の口からも、するりと素直な気持ちが唇から零れる。密着していた二人の間に少しだけ距離を空けた橘川が、そっと唇を重ね合わせた。
「抱くぞ?」
触れるだけですぐに解かれた唇が、内海の気持ちを確かめる言葉を紡いだ。
「うん、俺も――抱かれたい」
「智久っ」
「ん、ぁっ」
開いていた距離が再びゼロになる。荒々しく咥内を犯していく橘川の動きに翻弄されるうちに、いつの間にか内海の身体は懐かしい寝具の上へと押し倒されていた。
「は、あっ」
歯列を辿り上顎を擽る舌先に、負けじと内海も舌を絡めて応戦する。その動きに煽られたのか、抱き締めていた腕を解いた橘川は、下肢にバスタオルを巻き付けただけの内海の上半身へと、その手を伸ばした。
熱い手の平が、冬の気温に幾分冷えた内海の胸を這い回る。上に乗り上げた橘川の重みが心地好く、固く張り詰めた屹立同士が動きに合わせて時折擦れ合う感触に震えが走る。
悪戯な指先に、つんと立ち上がった胸の尖りを弾かれれば、鼻に掛かった甘い声が漏れた。
「智久、智久っ」
「ふぁっ、んんぅ」
熱の籠もった橘川の、掠れた声に名前を囁かれただけで、内海の熱もじわじわと高まっていく。
色付いた胸の粒を唇で挟み込まれ、悪戯な舌先に擽られる。甘くもどかしい刺激に身を捩れば、今度は歯を立てられて、刺激に身体が跳ねる。
「あ……悦…っ」
ジンとするほどの痛みの後に、痒みにも似た疼きが広がる。
ちゅぱちゅぱと音を立てながら両の尖りを交互に舐めしゃぶられて、指先に捏ね回された内海の下肢は、既に半分肌蹴てしまっているタオルを内側からくっきりと押し上げていた。
「胸ばっか、嫌だ……んっ」
「智――俺、興奮し過ぎてやばい」
胸に顔を埋める橘川の髪を両手で掻き回すようにして訴える。
胸の突起を摘ままれる度、吸い立てられる度に内海の芯には熱が集まり、じわりと溢れる先走りにタオルが濡れていく。もぞもぞと腰を揺らして刺激を求める内海の可愛い訴えに、橘川が息を詰める。
堪える為の大きな息を吐き出した橘川が、部屋着の中で窮屈そうに張り詰めた自身の昂ぶりを内海の屹立へと擦り付けた。
「悦郎…も、ちゃんと……」
「ん――でも、何か、勿体無くて」
同じ男同士だ。
育ち切って熱の解放を求める欲望を堪えることの辛さは、互いに痛いほど知っている。
それでも橘川は内海とやっと抱き合えるこの瞬間を、焦って終わらせたくは無いと荒い息の合間に言葉に乗せた。
「俺は、俺……お前を、もっとちゃんと…感じたいっ」
「ッ……くそ! 人が必死に我慢してんのに、あんま煽んなよ」
「ふ、ぅっ、ん」
組み敷かれた苦しい姿勢から首を起こし、橘川の顔を覗き込みながら口にする。
ずっと待っていたのは橘川だけでは無いのだと。内海もまた、こうして愛を確かめ合うことの出来るこの時を待っていた。期待と緊張に酒が過ぎてしまうほど、愛しい男の腕の中に戻ってこれた事を早く実感したいと、心も身体も橘川のことを求め続けていたのだ。
内海の本心からの声を聞いた橘川が、音が聞こえるかと思うくらい奥歯を噛み締め、次の瞬間内海の唇を激しい勢いで塞いでくる。
橘川の咥内へと舌を吸い込まれ、ねっとりと絡ませ合いながら押し戻されては咥内を掻き回される。キスだけで達してしまいそうになるくらい、挿入を連想させるほどの荒々しさだった。
「んぅっ! ひ…あっ、あ……悦…ああっ」
「冷たかったか? 悪い……でもお前も悪い。優しくしたいと思ってたのに」
眉根を寄せた橘川が早口に捲くし立てる。
キスに乱されている間にいつの間にか準備されていたローションが、熱く猛った屹立へと垂らされた。
中心を押し付け合っていた時に外れたのだろう、タオル越しでは無い直接の冷たい刺激に、内海からは悲鳴にも似た甘え声が上がる。
「余裕無くてごめんな」
「ん、いいっ、いい――悦郎っ」
宥めるように軽く唇を重ねた橘川が、余裕が無いという言葉通りに忙しなく指先を内海の後ろへと伸ばしてくる。
滑りを纏った指にカリカリと数度入口を引っかかれて、襞に塗り込めるように滑りを広げられれば、それだけで内海の蕾はヒクヒクと蠢く。もっと、早く、奥に……そんな想いを代弁する動きに誘われながら、橘川の指が内海の内部へと忍び込んできた。
「はあっ、ん……んっ」
「痛いか?」
「大、丈夫――ぁあ、あ」
いきなり二本の指をまとめて押し込まれて、急な動きに内海の身体が一瞬強張った。心配げに気遣う橘川に首を横に振ることで答えれば、内側の柔らかさに驚いたのか、橘川が小さく喉を鳴らした。
「……お前、自分で解してきたのか?」
「言った、だろ……抱かれたい、って――」
「智久」
熱の籠った内側に感じる橘川の指を嫌でも意識する。
自分の指でさえも受け入れるのが辛いほど狭くなっていたその場所が、長く待ち侘びた男の指を喜んで迎え入れていることが、内海自身にも良く分かった。
橘川の指をもっと奥へ導こうと貪欲に蠢く内壁の動き。羞恥を感じないわけでは無いけれど、それ以上に求める気持ちの方が大きかった。
「悦郎……悦――んっあ、あ!」
「これ以上、煽るなっ……頼むから」
眉根を寄せた橘川から、苦しそうな声が漏れる。同時に内部に埋め込まれた指が、急いたように動き出した。
二本の指を開きながら出し入れさせたかと思うと、入口を広げるようにバラバラと動かされる。合間合間に掠められる弱みに、内海からも嬌声が上がる。
(ヤバい、こんなの……気持ち、いい)
最後に身体を繋ぎ合わせたのはどれほど前の事か。
内海がこの部屋を出るより前から、キスすらしていなかったというのに、橘川は内海の弱点を忘れてはいなかった。
「ャ、や…だっ、悦郎、悦郎っ」
「何で嫌? 気持ちいいだろ?」
「ひっ、ああっあっ」
すげえ溢れてるし……囁きながら、橘川は空いている方の手を使い、放出を強請って震える屹立を撫で上げる。 そっと触れる優しい動きに内海の腰は揺らめき、昂ぶりの先端からはとろりと滑った蜜が竿を滴り落ちる。
「も……頼む、からぁ」
「もうちょい我慢……まだ、早い」
お前を傷付けたくは無いと、荒い呼吸を縫うような橘川の声が耳に届く。気付けば橘川も身に付けていた着衣を脱ぎ捨て、内海の腿には火傷しそうなほど熱く滾った橘川の灼棒が擦れていた。
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