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第1章 : 始まりの転生譚
06 : ロッキャさん
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「お腹が減ってるんだろう、ならこれを食べなよ。金はいいからさ。ただ、他の店でこんな食い逃げみたいな真似すんじゃないよ。」
「あの、でも...」
「いいんだよ、あんた嘘ついてるようには見えないから。その真っ白なカッコいい服装、あんた異国の人間だろ?なんでここに来たのか知んないけど、ちゃんと金を稼ぐアテくらいは作っときなよ」
大きな手から出された串を両手で受け取る。豪快な焼き目のついた肉はやっぱり美味しそうだ。
「あの、俺ついさっきこの国に来たばっかなんで、ここの事何にも知らなくて...。どっか、この国の情報とか知れる場所はありませんか?」
今はとにかくこの世界の情報が欲しい。
アテもなく歩き続けるよりは、この優しい店主に提示してもらった場所に行った方が良いだろう。
店主は顎に手を当てて少し悩んだ後、はっと思いついたように顔を上げた。
「あんた、酒屋は好きか?」
「ええ、まあ...」
未成年だから酒は飲めないが、あの雰囲気は好きだ。
「なら、まずこの道をまっすぐ行きな。5分ほど歩いたら、大っきな温泉宿が右に見える。でかい煙突があるからすぐわかるはずだ。その横にちょっとした路地があるんだが、そこをまっすぐ歩くと、突き当たりに、セルバの酒屋っていう店があるんだ。ドアが独特だから、見た瞬間に分かると思うよ」
そう言いながらくっくと笑う。よほど独特なドアなんだろう。
「あそこならどんな情報でも揃うはずだ。あそこは訳あり連中や怪しげな奴らが入り浸ってるからね」
「それは結構不安ですね...」
「安心しな、あそこにいるガラの悪そうな連中は、みんな根は優しい奴らばっかりだから。まあ、もし何かあったら、肉屋のロッキャの案内で来たって言いな。あいつらビビってあんたを丁重にもてなすと思うぜ」
「肉屋のロッキャ、ですか...」
「まあ、上手くいけば働き口とか寝床とか手に入るかもな。この国に来たばっかで大変だと思うけど、頑張りな。あとこれ、受け取ってくれ」
そう言って優しい店主、もといロッキャは俺に硬貨数枚を手渡す。
その硬貨はどれも鈍い光を放っていて、綺麗さも元の世界の硬貨とあまり遜色がない。
「1300マイトある、これだけあれば2日は食いつなげるだろう」
「そんな、話したばっかりなのに、悪いですよ」
「悪いだなんて、私の珍しい好意なんだ、受け取ってくれよ。受け取らないってんなら、食い逃げしようとしたって大声で叫んじまうぜ?」
日本人はつい謙虚になってしまうので、こういう時の対応に凄く困る。金が無くて困っているのは事実なので、店主の好意に甘えて、マイト硬貨を受け取った。
ロッキャはニカっと笑って、俺の頭をぽんぽんと叩いた。
「じゃあ行ってきな、くれぐれも怪我とかはすんじゃないよ」
「ありがとう、ロッキャさん!お金は、またいつか必ず返しますね!」
「さん付けなんてよせやい、呼び捨てでいいよ、恥ずかしい。まあ、あんたが無事に金を返してくれることを願ってるよ、あたしゃ守銭奴だからねぇ」
そう朗らかに笑うロッキャさんは、本当に楽しそうな顔をしていた。
俺はロッキャさんに手を振って、温泉宿の方向へと歩き出す。
とてもいい女性だった、陽気な感じで、それでいて接しやすい、まるでお母さんのような安心感があった。
ロッキャさんにもらった肉に、大きく口を開けてかぶりつく。噛むと同時に溢れ出す肉汁は、まさにワイルドさそのものといった力強いコクがある。噛むたびに溢れ出す旨味に、思わず頰が緩む。
「肉...うまいぃぃ」
またロッキャさんの肉を買いにこよう、と俺は心の中で決心する。次に買いに行く時は、お腹いっぱいになるまで注文してやる。そう思うと急にワクワクして、なんだがとても楽しくなってきた。つい気分が上がって、ステップを踏む。
そんな俺を眺めるロッキャさんが悲しい顔をしていたことは、俺にはまだ分からなかった。
「あの、でも...」
「いいんだよ、あんた嘘ついてるようには見えないから。その真っ白なカッコいい服装、あんた異国の人間だろ?なんでここに来たのか知んないけど、ちゃんと金を稼ぐアテくらいは作っときなよ」
大きな手から出された串を両手で受け取る。豪快な焼き目のついた肉はやっぱり美味しそうだ。
「あの、俺ついさっきこの国に来たばっかなんで、ここの事何にも知らなくて...。どっか、この国の情報とか知れる場所はありませんか?」
今はとにかくこの世界の情報が欲しい。
アテもなく歩き続けるよりは、この優しい店主に提示してもらった場所に行った方が良いだろう。
店主は顎に手を当てて少し悩んだ後、はっと思いついたように顔を上げた。
「あんた、酒屋は好きか?」
「ええ、まあ...」
未成年だから酒は飲めないが、あの雰囲気は好きだ。
「なら、まずこの道をまっすぐ行きな。5分ほど歩いたら、大っきな温泉宿が右に見える。でかい煙突があるからすぐわかるはずだ。その横にちょっとした路地があるんだが、そこをまっすぐ歩くと、突き当たりに、セルバの酒屋っていう店があるんだ。ドアが独特だから、見た瞬間に分かると思うよ」
そう言いながらくっくと笑う。よほど独特なドアなんだろう。
「あそこならどんな情報でも揃うはずだ。あそこは訳あり連中や怪しげな奴らが入り浸ってるからね」
「それは結構不安ですね...」
「安心しな、あそこにいるガラの悪そうな連中は、みんな根は優しい奴らばっかりだから。まあ、もし何かあったら、肉屋のロッキャの案内で来たって言いな。あいつらビビってあんたを丁重にもてなすと思うぜ」
「肉屋のロッキャ、ですか...」
「まあ、上手くいけば働き口とか寝床とか手に入るかもな。この国に来たばっかで大変だと思うけど、頑張りな。あとこれ、受け取ってくれ」
そう言って優しい店主、もといロッキャは俺に硬貨数枚を手渡す。
その硬貨はどれも鈍い光を放っていて、綺麗さも元の世界の硬貨とあまり遜色がない。
「1300マイトある、これだけあれば2日は食いつなげるだろう」
「そんな、話したばっかりなのに、悪いですよ」
「悪いだなんて、私の珍しい好意なんだ、受け取ってくれよ。受け取らないってんなら、食い逃げしようとしたって大声で叫んじまうぜ?」
日本人はつい謙虚になってしまうので、こういう時の対応に凄く困る。金が無くて困っているのは事実なので、店主の好意に甘えて、マイト硬貨を受け取った。
ロッキャはニカっと笑って、俺の頭をぽんぽんと叩いた。
「じゃあ行ってきな、くれぐれも怪我とかはすんじゃないよ」
「ありがとう、ロッキャさん!お金は、またいつか必ず返しますね!」
「さん付けなんてよせやい、呼び捨てでいいよ、恥ずかしい。まあ、あんたが無事に金を返してくれることを願ってるよ、あたしゃ守銭奴だからねぇ」
そう朗らかに笑うロッキャさんは、本当に楽しそうな顔をしていた。
俺はロッキャさんに手を振って、温泉宿の方向へと歩き出す。
とてもいい女性だった、陽気な感じで、それでいて接しやすい、まるでお母さんのような安心感があった。
ロッキャさんにもらった肉に、大きく口を開けてかぶりつく。噛むと同時に溢れ出す肉汁は、まさにワイルドさそのものといった力強いコクがある。噛むたびに溢れ出す旨味に、思わず頰が緩む。
「肉...うまいぃぃ」
またロッキャさんの肉を買いにこよう、と俺は心の中で決心する。次に買いに行く時は、お腹いっぱいになるまで注文してやる。そう思うと急にワクワクして、なんだがとても楽しくなってきた。つい気分が上がって、ステップを踏む。
そんな俺を眺めるロッキャさんが悲しい顔をしていたことは、俺にはまだ分からなかった。
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