新米ギルダーの異世界転生譚 

山猪口 茸

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第1章 : 始まりの転生譚

05 : 焼肉屋

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 異世界の活気に圧倒されながら、通りを歩いていると。

「おっと邪魔だニイちゃん、そんなとこにボーっと立ってっと危ねぇぞ」

そう言って、俺の横をオークらしき大男が通る。大きな体に立派な髭と体毛を生やしており、相撲取りとは比べものにならないほどの威圧感がある。額に堂々と生えた一本角が、人間ではないことを語っている。

この道がこの街一番の大通りなのだろう、東京のスクランブル交差点並みに人通りが多い。突っ立っているだけで、誰かにぶつかりそうだ。
不意に、芳ばしい焼いた肉の匂いが鼻を触った。

そうだ、俺腹が減ってたんだった。

俺は空腹感を思い出して、周りの出店を見渡す。どこも変なものを売っていたが、唯一焼き肉屋だけがまともそうだった。
そこへ近づくと、店主もこちらに気づいたのか、木のトングを持った手で手招きをした。
その店の店主は、茶髪に大きな体をした、ドワーフらしき女性だった。何がとは言わないがあれも大きい。

「らっしゃいニイちゃん、何が欲しいんだい?羊の肉や豚の肉、バロメッツァやワーウルフなんてのもあるよ!」

よく通る声で店主がそう叫ぶ。

「じゃあ豚の肉一切れ、こんがりで」

「あいよー!豚切れ1つーー!!」

後半の2つが分からなかったので、安定の豚を頼む。

店主は木製の箱から厚切り肉を取り出すと、カンカンに熱くなった鉄板の上に豪快に置く。その上から胡椒らしき黒い粉をまぶし、持っていたトングで押さえつける。
胡椒の香ばしい匂いと肉の焼ける匂いとが、俺の鼻をくすぐる。肉が焼ける音と油が爆ぜる音とが相まって、俺の腹をこれでもかと刺激する。

「あいよっ!豚肉いっちょ!」

木の串に刺したそれを俺の前にかざす。
俺が受け取ろうとすると、店主は急に腕を引っ込めた。

「あんた、まず金を出しなよ、金。食い逃げは御免だよ」

店主が手を皿にして俺の前に出す。
俺はそれを聞いて冷や汗をかいた。
そういえば、俺の持っている金は元の世界の通貨だ。この世界が、元の世界と同じ通貨を使っているわけがない。
俺は震える手で財布を覗く。千円札が3枚と、小銭が数枚。お札なんて出してもただの紙同然なので、一番価値のありそうな、ぴかぴかの百円玉を出す。

「あの、これ...」

途端に、店主は顔をしかめた。

「なんだいこりゃ、一体どこの通貨だい?うちはマイト硬貨しか使えないよ!ほら、冷やかしなら帰った帰った!」

気の強そうな店主にそう言われれば、反論する気にもなれない。
俺はがっくりして肩を落とす。空腹感に襲われながら踵を返そうとすると、不意に店主が声をかけた。

「あんた、もしかしてこの国のお金を持ってないのかい?」

「そうなんです、この国に来たばっかりで...」

そう言うと店主はため息をついて、手に持った串を俺の前に出した。

 異世界の人は……どうやら優しいようだ。
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