=KBOC= 『セハザ《no1》-(1)- 』s

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第2記

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 それから1時間ほど、遠くにある空の青色と白い砂の切れ目が鮮明な広い砂漠の景色の中を、砂埃を立てて走るライトグレーの軽装甲車は未だ軽快に走り続けていた。
あれから日は傾き始め、地平線に触れる太陽は赤色が溶け始めるような景色を見せている。
4人が思い思いに過ごす車内では、自分の携帯を見ているミリアや、携帯のマンガを見ているケイジが時々笑い声を漏らしたり、静かに寝てるリースがいる。
ガイは運転席に座っているがハンドルを持つことなく、たまに自動走行がどこを走っているか地図を見て確認する程度だ。
そんな車内の様子へ何度か目を移した助手席のミリアは、また何気なく携帯から顔を上げて、前のガラスの外を眺めていた。
読みかけの読み物から切り替わる景色には、遠景に大きな切り立った崖が大空を切り取るように、乾燥した荒野に佇んでいる。
砂上を走る軽装甲車の中で、さっきから対して変わらない車外の景色を眺めて、それからまた携帯に目を戻すミリアで。
そんな風に思い思いに過ごしていた4人の中で、ガイが急に口を開いた。
「そろそろ到着する。周囲に異常が発生している様子はないな。警戒システム、標準プロトコルで走らせているが引っかからない。」
「安全確認できるまで続けておいて」
「了解。」
ミリアはそう指示をして、顔を前に向けても車外は相変わらず砂漠と荒野の景色であって、人が住む村があるような様子はまだ見えない。
「それで質問だが、」
たまの話題提供は、今回はガイの番のようだ。
「どうぞ?」
「ぁー・・・、戦闘の可能性ってことは『ディッグ』でも見つけたということか?」
『ディッグ』は、この補外区のどこかを住処にする野盗のことだ。
「マックスさんの話に具体性は無かったけど、『ブルーレイク』の人達が救援を申し立てたのなら、その可能性が大。」
「内部抗争とかきな臭い話じゃないよな?」
「それなら見てこいとは言わないかな。危険だし」
「じゃあ救援か」
「ん、そう、救援かもね。」
「俺らだけで?」
「んー・・・。」
「ウソついているとかは?」
「ウソ?」
「ほら、俺たちを罠に誘い込んで、」
「何のために。」
「そりゃぁ・・・あれだ、ディッグがもう村を制圧してて、」
「ドラマの見過ぎでしょう」
「最近、そんな話なかったか?なぁ?リース、」
「・・・」
「リース、びびってんのか?」
「どうだろう・・・?」
自分の事を聞かれてるのに不思議そうなリースだ。
「まあ、今回は実際、はっきりしないんだろ?」
「なんだかややこしいみたいなんだよね。説明も要領を得ないし。まあ、行ってから話を詳しく聞こう。」
「へぇ・・」
「はぁ・・・?」
ケイジとリースが要領を得てないけど。
「まあ警戒しとくに越したことはないさ。そろそろ着く、何か見えてきたぞ」
運転席から肩越しに後ろへ声をかけたガイだ。
それに反応して、助手席で携帯の読み物を読んでいたミリアが顔を上げる。
次いで、ガイの目に入ったのがうつ伏せになっていたケイジが「ぬぁ?」と変な声を出して顔を上げる所だ。
「着いたっつうの」
そんなケイジの姿を尻目に、ミリアは携帯をポケットに仕舞い、助手席から前方に広がった、フロントガラスの端から端を越えて更に横へと伸びる長い黒いフェンスの様なものを、前方の光景に見て取っていた。
車両が徐々に速度を落として停まった。
自動運転モードによる誘導が終了したようだ。
ガイは代わりにハンドルを手に取るが。
助手席のミリアは腰を浮かせて立ち上がり、それらの光景を良く見ようと前のめりになる。
乱雑に配置されたバリケードか、砂上には瓦礫や金網の塊のようなものが無秩序に散乱しているようだった。
戦後廃棄物を有効利用しているんだろう、まあそれらは結構ある光景だ。
「異状が発生しているようには見えないな」
「そうだね」
それよりも、その建造物に近づけば近づくほど巨大な、どこまでも長く続くその網目のフェンスは迫力がある。
砂漠に、『何かがいる』とその存在を、縄張りを強く主張しているようだ。
白い軽装甲車は徐行しながら、それら障害物を避けて侵入していく。
「無線が届く?」
「そうだな、アクセスできそうだ。今、村内と通信している。連絡用の規定チャンネルに通信と、識別信号をかけられるが、」
「まだいいや。向こうから通信が来たら応答して。伝える事は最低限でいいから、状況確認。」
「了解。」
ガイに伝えておいたミリアは・・・けれど、近づけば近づくほど、よくよく見てみるとその網目がぼろぼろに所々破けており、近づくにつれその粗さが目立ってくる。
遠目に黒く見えたのは、夕焼け色に染まってきているからとはいえ、錆ついているからだともわかる。
なにより、近くまで来ればフェンスの高さはそれほど高くない。
車がその柵の目の前まで来た時、柵の高さは車の鼻先ほど、つまりミリアの身長よりやや高いかくらいか。
それでも、そのフェンスの奥の方は障害物も多いし、よく見えない。
「バリケードが凄いみたいだね」
きょろきょろ見回すミリアがそう呟いていた。
「そうだな」
ガイも同意のようだ。
異常が起きているわけじゃないだろう、これがこんな場所では当たり前の光景だ。
「俺、こういう村に来たのは初めてなんだが。これ、どっから入るんだ?」
ガイが辺りを見回しても、フロントガラスの中からでは当然のように村を一望できない。
まあ、知識として補外区の村を知っていても、実際に来た事が無いのはみんなもだろう、とミリアは思っても心に留めておいたけど。
「地図に載ってないのか?」
ケイジが後ろから聞いてきた。
「出入口は無理だな。拠点内部は機密情報にあたる、」
「村も同じなのか。」
「そうね。漏洩するとまずいものばかりだし。私たちに権限はない。」
ミリアもそう答えながらだけど、窓の外を見回して入口を探しているようだ。
「なんで俺らが来たんだ?」
「さあ。」
ケイジの素朴な疑問にも淡白なミリアは、聞く耳を持つつもりも無いようだ。
「飛び越えて入っちまうか?」
ケイジが腕を伸ばして体のあちこちを、ぽきぽきと鳴らしている。
「行儀悪い。却下。周囲には何も引っかからないね?」
「異状なしだ。村内の管理中継機ともアクセスできた。完全に異常はない。一応、入村許可申請しておくか?」
「・・連絡は村にもいってるはず。もう少し様子を見たい。」
「う~っし、俺が見てくる」
そう言って、明らかに興味本位のケイジは、低い天井や座席を手で押さえながら中腰で、車のドアの前に歩いてく。
そのケイジの背中にミリアは声をかけた。
「ん-。注意はしてよ。どうなってるのかわからないんだから」
「わかってるって」
振り返らずに応えたケイジはそのまま車のドアを開けた。
ガシュっ、とドアの開く音と同時に車内とは違った温く暑苦しい空気が入ってくる。
「何かあったらすぐ走るからな。置いてかれるなよ」
「わぁかってるよ」
って、ガイの声にケイジはうるさそうに返事をしながら、車両のステップを降りて行った。

 砂の上に足を下ろしたケイジは気持ち新鮮な砂っぽい空気を吸い込んで、深く息を吐き出した。
焼くような熱射がとても熱い。
夕暮れだが、風は特に無く穏やかで、とても肌が焼ける。
ようやく長時間の座席から解放されたケイジだが、歩き出しても面白そうなものは特に見えない。
ケイジは降りる前から辺りを見回していたが、近くにはフェンスとそのフェンスの前で止まっている自分たちの軽装甲車があるだけだった。
手をかざしてみて眺めていると、立っている位置から見えるフェンスの向こう側には、やや離れた場所に民家らしき建物が幾つかある。
夕焼けに染まる敷地は薄暗い場所もあり、まだまだ広いようだが、そこに車両が行き着くにはこのフェンスの向こうに行かなくてはならない。
それに、遠くの遠く、このフェンスの先が繋がるような遥か向こうには巨大な岩の壁があって、村の敷地全体を遠くから見下ろしているようだった・・・。
自然にできたものなのかわからないが、その巨大な岩壁も村の一部のようだ。

目の前のフェンスの傍の地面には丁寧に有刺鉄線などが仕掛けられてるのが見えるし、村を守るための措置か、何も考えずに車が突っ込んだらタイヤがパンクするんだろう。
ケイジは歩き続けながらフェンスに沿って辺りをぐるっと見回していると、誰か、人影が・・・近づいてきていたのが目に入る。
その方向の奥には民家とはまた違った大型のテントが砂上にぽつんと張られているようだ。
この大型テントは、建物よりもフェンス近くに張られていて、瓦礫のようなものも見える。
ただそのテントをよく見れば、単純な布製ではなく、色々とごつい鉄板やら金属やらで補強していたり、設備らしきものも見える。
ただのその日を過ごすだけのものでもないようだ。

そんな場所からフェンスに近づいてきていた人影が、よく見える距離まで来ていた。
全身にローブを纏いフードも深く被った姿、砂漠の民にはよくある出で立ち、この村の住民だろうか。
こちらへまっすぐ一直線に歩いてくるその人物、近づいてきてわかったが、間違いなく小さい。
たぶんミリアよりも小柄で背が低いだろう。
・・子供かもしれない。
どう声をかけるかケイジが見つめていれば、フェンスに近づいてきたそいつはある程度離れたところで足を止めた。
しかし、警戒する様子を全く見せずに、被っていたフードをすっと後ろに下ろした。
同時に、ほつれた長い黒髪がローブの上にかかるのが見えた。
夕焼けの強い朱色に染まっているが、黒い目が光を溜める、褐色がかった肌の少女だとわかる。
とりあえず、危険は無さそうだった。
ケイジは、半ば無意識に握っていた右拳の力を抜いた。
そして、その少女はそのまま話しやすい距離までか近づいてくる。
足を止めた少女は、口を開いて声を出しているようだ。
だが、何を言っているのかまでは小さくて良く聞こえなかった。
「なに?なんだ?よく聞こえない」
ケイジはフェンスにもっと近づき身を乗り出すと、少女も近づいてきた。
ぼろぼろの網目フェンス一枚を挟んで、二人は相対した。
「貴方たちは、応援に来てくださった方々ですか?」
その黒目がくりくりと動く少女が、落ち着いた声でケイジの耳を擽った。
まだあどけなさがある、十代前半か半ば頃だろうか。
「ぁ~・・、そう、えーと『リリー・スピアーズ』から来た。」
「わざわざどうも、ありがとうございます」
朗らかに応えるその少女の瞳は穏やかに細まる。
こんな所にいるには不思議な、丁寧な物腰の少女だ。
はっきり言えば、年にそぐわないその仕草。
「ぁー、いえいえ。ここへはどうやって入るんすかね?」
「あ、そうですね。あちらの方へ真っ直ぐ行くと、入り口がありますから・・」
左手を上げて伸ばす仕草のいちいちの挙動が、目を惹き付けるというか。
それに、なかなか愛らしいその横顔は、目が合えば屈託無く目を細める。
ケイジは・・・なんとなく、もう少し見ていたかったが、誘われるままに少女の示す方向を見上げた。
フェンスが絶え間なく続くその先には、なるほど、たぶん1つ高くなった建物にずれがあるのが見える。
「そこからお入りください」
「あれか、ありがと」
「いえいえ~」
急に朗らかな笑顔の少女だ。
つられたケイジも、口端を引きつらせるようにするが。
そう微笑み合う2人だ。
ケイジが後ろを振り向きかけても、まだ屈託無く微笑んで見送る少女なので・・・。
「まぁ、俺たちがな、来たから。なんかあっても大丈夫だぜ」
少女の方へ、もう1度向き直ったケイジを、ややきょとんとした顔で見ていた少女はその言葉に穏やかな笑みではなく、嬉しそうな笑みを湛えて見せた。
「はいっ」
ようやく年相応の笑顔が見れた、そんな気がした。
ケイジは口端を持ち上げたいつもの笑みを浮かべて、ようやく寝ぼけ眼が醒めてきた、少々悪い目つきで車の方へと戻っていった。
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