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第3記
しおりを挟む砂地の上から軽装甲車のドアを開けて中へと入ったケイジを迎えた3人の視線、・・いや、リースだけは窓の外を見ていた。
「向こうにあるってよ、」
ケイジがドアをくぐりながら入ってくれば、ガイが声を掛けてくる。
「今の、村の娘か?」
「ぁー、そうみたいだ」
車中からもあの娘とのやり取りが見えていたらしい。
「おかえりぃ~」
ミリアも次いで出迎えの言葉をくれる、ドリンクのストローから口を離して。
「おう」、とケイジは応えるとほぼ同時にミリアの質問が足される。
「大丈夫そうだった?」
「・・あぁ。あっちの方から入れるみたいだ」
指を差すケイジは。
「そう、ガイよろしくー」
何かミリアのテンション上がってるな?と、ちょっとケイジは思ったが、気にせずいつもの後方座席へと動こうとする。
「りょうかい、ドアを閉めてくれよ」
そう言われて、半開きだったドアに気が付き、ケイジは手を伸ばして最後まで閉めた。
それを見届けて、ガイは軽装甲車のハンドルを切り始めた。
「うぉっと」、とケイジは声を漏らしつつ、少し揺れ始めた後方座席の前でどっかり座り込む。
その時に隣のリースと目が合ったが、リースは何気なく再び視線を前に戻す。
元々、愛嬌のある奴では無いので、別に気にせずにケイジはそのまま前方へ、これから向かう村の景色を眺め始めた。
前方のフロントガラスの景色を見ていると、探検しているみたいだ。
年季の入った錆色の網とボロボロの木板のフェンスが視界の端に流れていく、その先にある、こぢんまりとしたコンクリートの建物が近づいてくる。
フェンスよりは高いが、ずっと続いていた網フェンスはそこで道を開き、車両が通れるくらいの幅を空けていた。
さっきの少女が言っていた入口とはここだろう、その横に車を停めたガイは。
・・・運転席のガイは何度か首を回し、・・・辺りを見回していたが。
「・・・だれも出てこねぇな」
と呟いた。
「ここ検問所だよな?」
「うーん・・、見てくる?」
ミリアが車から降りようと助手席から軽い腰を上げた。
「気を付けろよ。」
車中のガイからの返事を聞く前にもさっさと両手で踏ん張りドアを開け、熱気のもやる外へと出て行き、砂上に飛び降りた。
片手でドアを閉めたその振動が車に響いて、座席に深々と座っていたケイジはそれを目で追っていた。
何気なく身体を起こし腰を上げる。
ガイが肩越しに視線を寄越したが特に何も言わなかった。
ケイジがドアを開けた視界の中にミリアはおらず。
後ろ手にドアを閉めつつ顔を上げると、ミリアは既にその検問所らしきコンクリート造りの小屋の近くに歩いていっていた様で、こちらを見ていた。
ケイジは・・・のんびり歩いて、・・ミリアの後を追い横に並ぶ。
「まったく誰も見えない。なんだろ、おかしいな?」
ミリアは奇妙な状況に瞬いているようだ。
「メシでも食ってるんじゃね?」
「ケイジじゃあるまいし」
「なんでだよ」
2人並んで歩き出してるが、ミリアは周囲を注意して見回している。
ケイジは、気になった所を数か所、見つめているが・・・、その小屋、見るからに人気が無く、ぼろフェンスのおまけといった感じだ。
所々が欠けて壊れかけた廃屋の様相だ。
側に近づいていっても、見た目以上の簡単な構造だとわかる。
2人ともガラスも無い窓から中を覗き込んでみても、誰もおらず、簡素なぼろぼろの鉄パイプ椅子が1つあるだけだった。
というか、右横の壁一面が倒壊したのか破壊されたのか無くなっていて、風通しだけは良さそうだ。
「・・検問所でもなさそうだね・・・」
「もう無視して車、中に入ってもいいんじゃね?」
「うーん、そうするか・・、・・・?」
ミリアの語尾が変な風に上がったので、つい顔をしかめたケイジだ。
ミリアの視線がこちらの後方を見ているのに気づいて、ケイジも視線のその先を追う。
夕焼け色の、フェンスの内側の家屋が建つ方面から来る数人のローブを被った集団、5人くらいが近づいてくるのに目を留めた。
「・・小さいのもいるな」
「そう、ね・・」
ミリアは、無意識にゆっくりと腰のホルスターに手を、拳銃に置いていたが。
そう、彼らの中には明らかに等身が低い者もいる。
一番高いのでもミリアと同じかそれより少し高いくらいか。
そして、そのでこぼこな小さな集団がこちらに真っ直ぐ歩いてくる。
「・・子供か?」
「こども・・」
ケイジの疑問にも、ミリアは繰り返す・・・。
「ここにゃ小さいのしかいねぇのかよ・・・」
横のケイジは呆れたようだ。
その小さい集団は、2人の前に充分な距離を開けて立ち止まった。
「やい!お前ら!!」
若い男の大きな声が響いた。
声変わりしている最中の独特な響きだ。
ローブに隠れているが、たぶん、一番前に立つ彼の声だろう。
「何者っ!何しに来たーっ!」
良く通る青年の声。
「・・子供よね?」
「子供だな」
確認し合ったミリアとケイジは、彼らから目を離しはしないが。
「ここにゃこんなのしかいねぇのか・・・?」
ケイジは呆れたようだった。
ミリアは困っている様子で、少し思案したようだが。
「とりあえず・・、聞いてみるしかないよな・・」
ミリアが一歩前へ進み出る。
相手の1番前に立つ若者は身動きしなかったが、後ろの方、特に小さい子が身じろぎして、他の子の後ろに隠れたのはローブを着ていてもわかった。
「あの、私たちは呼ばれてきました。ここの偉い人たちに会えないですか。大事な話があるから。」
「・・・」
彼は黙ってこっちを見ていたが。
「うそっぽい!」
「うそ!」
と、後ろに控えている甲高い声が届いてくる。
若者が後ろを向いて、仲間となにやら話し始めていた。
よほど小さい子も混じっているのか。
「生意気だな」
ケイジがはっきり言ってた。
「ふーむ・・・」
ミリアは少し考えたが。
「ガイに言ってきて、このまま徒歩で入ろう。」
「いいのか?」
「危険はない、と思う。あの子たちは村の人間だよ、きっと。」
ケイジは向こうを見てたが、まあ歩き出す・・・。
2人が動いたのに気づいた最前の若者が大きな声を上げる。
「動くな!」
制止に気が付くミリアが振り返る、その傍でケイジが振り返った。
ケイジはにっと口元を歪めて笑う。
「からかってやるか・・?」
って、ケイジの声に、響きを聞いた。
ミリアが振り返り、やや前傾になるケイジが見えた。
「ちょ・・」
ミリアが何か声を出す前に、ケイジは・・屈んだ瞬間、一歩を、自分の背丈を飛び越えるほどの、距離を・・・既に、宙へ跳んでいた。
「ケイジ!」
その背中があの若者たちの方へ行くのをミリアは振り返って目で追う、一瞬で距離を詰めたのを――――ケイジが意識を注いでいたのは、目の前に立ちはだかる少年ども、びびって動けなくなっていたのは、目の前に行くまでによく見える。
つうか、ケイジの跳躍する2歩目、充分離れていたはずのケイジが、足に力を入れるその瞬間から、そいつは上半身を前傾して動き始めていた――――懐に忍ばせた何かを取り出す動きも滑らか。
その一連の行動は明らかに、意志を持っている。
――――常識的な射程距離外の位置から一瞬の距離の間、目の前に立っている奴の反応だけがケイジの意識は向いていた――――。
『ケイジっ!!!―――――!!・・・・」
耳を劈く鋭い声が届く――――
砂の上に着いてケイジの動きがゆらりと停止した瞬間に、ミリアの怒気を孕み掛けた声、それが後ろから発せられ響いてきた。
目の前の青年の身体がびくんっと震えるほどの、まさに耳を劈いた鮮烈な衝撃のような――――。
「――――ピョンピョンっピョンピョンっ、無闇に跳ぶな!」
ケイジはその耳にくる声に口端を歪めながら、手のひらを前に出して見せる、青年へ何もしねぇよ、と体で表現して見せておく・・・ミリアに振り返る前の横目に、若者がローブの懐から取り出した物が目に引っかかった。
それは、見た目、只の手ごろな大きさの人を殴れそうな木の棒。
それは、ただのくすんだ木の棒にしか見えなかったが・・その形は玩具のライフルか。
・・さすがに警戒し過ぎたようだ。
「ケイジ!!」
後ろで怒っているミリアへ、ケイジは口端を引きつらせてた。
「わかったっって、いうほどわかってるって」
まだケイジから、普通なら歩いて5歩ほどの距離にいる若者たちを、流し見してから、にやっと口元を歪めた。
青年はそれを見て顔を歪めたようだが。
ケイジは小走りで近づくミリアの元へ、のんびり歩いていく。
「別に、何もしねぇって」
ミリアが何か言う前にケイジが言っていた。
「銃殺もんだからね」
「・・・・・・」
睨んでくるミリアに、ケイジは閉口してた。
「わかった?」
「・・俺らは軍部じゃねぇぞ?」
「命令は絶対です。返事は?」
「・・・へい」
「返事は『はい』」
「・・はい」
それきり何も反論しなくなったケイジは面白くなさそうだけど、それを尻目にミリアは若者たちの方を見る。
さっきの動き、ミリアにも遠目に見えていた。
一瞬でケイジが距離を詰めた際、あの青年の動きから近距離の接触を意識したものを感じ取った。
ケイジが一瞬の前傾の急加速から足踏み無く跳んだのと、一瞬で距離を跳んだ後に、目の前で急停止した身のこなしも明らかにおかしいのだが。
青年の後ろで何人かが後ろに仰け反って転んでいたが、彼だけは対応しようとしていた。
それは、訓練されている動きだったか―――――?
「こ、『コァン・テャルノァ・・・」
青年が、呟いた言葉が聞こえた・・なにかの言葉、彼ら独自の言語かもしれない。
「ごめんなさい、部下が勝手な行動をしました。危害を加えるつもりはありません。どうか気を悪くしないでください」
共通語はさっきから話しているし通じてると思う、たまにイントネーションが甘い声は小さな子からも聞こえるが。
「あ、あ悪魔、お前たちか・・!・・?」
だが、青年は目を見開いて、恐れているみたいだった。
後ろの小さな子たちも、怖がっている。
――――『悪魔』って・・宗教・信仰の言い回しだろうか・・?
ケイジが驚かせ過ぎた・・いや、それだけじゃない気もしたが・・―――――
「あくま・・?いいえ、私たちは・・」
「ニぃ、」
と、小さい子がその若者の裾を引っ張る。
ん?と彼は耳を寄せつつ彼らと少し相談タイムに入ったようだった。
とりあえず・・・彼らが落ち着くなら、待つしかない。
無理に言って聞かせるよりは、相手が聞く準備ができてからが良い。
ミリアも振り返り、少しケイジと、それから後方の車中にいるはずのガイたちと目を合わせたりした。
ついでに、車中へは左肩を竦めて、ケイジの事を伝えて見せたりもしたのだが。
合図を出すまでガイたちは見守ってるだろう。
目を戻せば、と、目の前の青年が振り返ってこちらへ向き直る、また堂々と佇もうとしているようだ。
「何しに来た?」
「・・・えっと、」
・・おーい!」
と、村の方から誰かが走ってくる。
成年の男性のようで、ローブを着ていないシャツとズボンの、少し着古しているが日常の格好のようだ。
その男性は少年たちの前まで走ってくると、少し息を弾ませながらミリア達に声をかけてきた。
「貴方達はドームの方から来た人達ですか?」
「はい、そうです。領外補区警備のものです。」
「この子達が失礼しました?だとしたら、すいません」
「ぁぁ、いいえ・・」
「ほら、あっち行ってろドーアン。お前らも」
「こ、こいつらおかしいぞ!」
「村が呼んだ客人だよ。無礼なことはするな」
「で、でもさ、」
「『ヒミャコァン、ルタリバ・・っ』」
「『ゲシっシっ、ディシっクラルボっ』」
「き、聞いてって、ルッソ」
「この人達と用があるんだよ、ほら行ってろ」
しっしと散らす仕草をするルッソという彼だ。
言われて仕方なさそうに、ドーアンと呼ばれた青年とその後ろにいた小さいでこぼこの6人は村のどこかへ、しぶしぶ歩いていく。
「ほんと、変な事してたらすいません」
「あぁ、いいえ。特には何もなかったですので」
まあ、威嚇行動したのはこちらのケイジなのだけれど、そこは言わない方が良いだろう、とミリアは思った。
「こちらへどうぞ。村長方が待っておられます」
「はい、では」
ミリアは、くいくいっと後ろでずっと待っていた軽走行車に手でジェスチャーを送る。
それに反応したガイの軽装甲車がゆっくり動き始め、ブブンッと砂を踏んでこちらへと進みだす。
強烈な朱色の夕暮れに染まる軽装甲車のその凛々しが可愛くもある姿は、ミリアのお気に入りである。
「車、どこに停めればいいです?」
「あぁ、そのまま村に入る手前で一旦停めておいてください。後で誘導させます。」
「わかりました。」
歩き出すミリアとケイジは並んで、ようやく村の中に侵入することができたようだった。
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