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第19記
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―――――ケイジは、むしゃくしゃした気持ちでずんずん村の中を歩いていた。
もやもやした気持ちは何がか、いくらでも湧いてくる・・気に入らないのが、世の中には気に入らないことはたくさんあるが―――――その進行方向上にある、視界には入っていたその家畜の柵の上の姿たちへ目を留める、腰掛けていたようなメレキを見つけた。
それ以外に、メレキは誰か同じくらいの背丈の、服装からして女の子の友達といたようだ。
その子もメレキも、ケイジを見つけていたようでこっちを見ていたが、ケイジが気が付いたときに、メレキが柵を降りてぱたぱたと小走りに駆け寄ってきた。
目の前で立ち止まって、ケイジは立ち止まってメレキを・・・。
「あの、さっきはすいませんでした。」
「・・・何を謝ってんだ?」
「・・さっき、変な事言って、邪魔しちゃったみたいだから・・」
「・・お前は悪くないぞ」
「・・はい・・・、でも・・機嫌、悪そう・・」
「あぁ゛?」
「ご、ごめんなさい」
「・・・・・・はぁ、・・ちげえ、ちげえ」
「・・はい・・?」
「別にお前の事じゃないから」
「そう、ですか・・?」
「あぁ、・・・はぁ」
ケイジは頭をがりがりと掻く。
それから、びしっとメレキを指差して。
「別にお前の所為じゃないからな。」
「はぁ・・・」
あまり納得のいってない様子のメレキではあったが。
ケイジは大きく溜め息をついた後、顔を上げて辺りを見回す。
柵の傍にいた・・もう1人の女の子か。
「あれ友達か?」
「あ、はい。ダメだよ、って言われて・・・」
「・・そか。」
・・・ケイジはそして、柵で囲まれた中にいる羊で視線を止めた。
「・・・ここは羊なんだな」
「いえ、山羊です。」
ケイジはヒツジと山羊の見分けなどつかないが、はっきりと否定されたからか、何故か少し清々しい気分になった。
恥ずかしさも少しはあるが、やっぱり知らないもんは知らんから、どうしようもない。
「・・や、山羊な、あれ食べたりすんの?」
「いえ、あ、はい、食べる時もあるけど、普段はお乳をもらうんです」
「ミルクか」
「そうです。飲みます?」
「いま?飲めるの?」
「はいっ、こっちこっち」
メレキが手を振って呼ぶ方へ、ケイジは軽く溜め息をついて、苦笑い交じりに追いかけた。
――――なんだ、俺だけ仲間はずれな気分」
近くの家屋の壁に背中を預けながら、日陰で2人のやり取りを遠目に見ていたガイだ。
彼はそう誰にでもなく苦笑いで小さく愚痴ると、空を見上げ・・・、そのまま快晴の空を見上げている事にした。
「ジョッサさんに会いに行こうかな?」
と、ぼそっと言ったけども。
・・・まあ、その前にミリアの顔が思い浮かんでた。
―――――大丈夫?」
静かな部屋の中で、リースがそう・・・。
「・・うん」
ベッドの上に座るミリアと、リースは自分のベッドの上でミリアを見つめていた。
ちょうど隣でもない、対角にあるお互いのベッドだけれど。
さっきよりはいくぶん、ミリアの感情は落ち着いてきた様だった。
それから、ミリアは静かにその口を開こうともしていて・・・。
「・・えっとね・・その・・・私は、」
ミリアが、なにか言いかけて・・・。
「・・・なんか、・・・。」
言いかけて、止めるけれど・・・。
「・・・ダメだったかな・・・、私の・・・・、・・・」
リースへ、伝える言葉は・・俯く。
自嘲気味に見える笑みを、ミリアは・・・。
それでも、冷静なリースの声は、静かな室内でミリアの耳へ届く。
「ダメ、かはわからないけど、当然の事を言ったと思う、隊長は。ケイジが怒ったのは、・・不可解・・一理あるっぽいけど。」
「・・一理あるのかな・・・?」
「たぶん?常識の範囲内で?」
「・・・・、」
「ケイジは難解すぎる。いつも。」
リースの声は柔らかく。
「説明されなきゃ、わからない。」
それは、ミリアには優しかった。
「・・・そっか」
それが、ミリアには・・・未だ微妙に入っていた肩の力を抜くきっかけを与えてくれる・・・。
―――――生暖かくて乳臭い山羊のミルクは、独特の臭いとコクがある。
「どうですか?」
「・・あー・・・」
「気持ち悪いですか?」
「・・・」
コップの白い液体を見つめるケイジは、黙ってうなずく。
たぶん既に顔に出ている、メレキにはバレているだろう。
メレキはいたずらっ子の様に笑ってた。
「全部飲めます?」
「無理だ」
即答してたケイジだ。
「ふふっ」
可笑しそうなメレキが手を差し出したので、ケイジがコップを手渡したら、メレキはそれへ口を、・・・近づけて・・くんくん、乳の臭いを嗅いでみたみたいだった。
一瞬、飲むのかと思ってどきっとしたケイジだが、まあ恥ずかしい勘違いだったみたいで、メレキと目が合ったらケイジは顔を逸らしてた。
「キラエロさん、ありがとーございます」
「おうー」
メレキはコップをそこに置いてて。
「おや、飲めなかったか?」
「すいません」
「うん、まあ仕方ねぇ。」
って、言ったと思ったらそのおじさんがコップを持って、ぐびーっと一杯飲みほした。
ケイジは・・・いや、いいんだが、そのワイルドなおっさんは悪くないんだが、なんだか気持ちがそんなの見たくないと言っていたので、逆の向こうを振り返ってた。
自分の飲みかけの破壊力はヤバイ。
かなり勇気を出して、初めて舐めてみたんだが。
と、そこで遠巻きに女の子らしい2人がフードを目深にした、メレキと同じ年頃か、こっちを見ていた子と一瞬目が合ったかもしれない。
すぐ顔を逸らされたが。
「ちょっと山羊見てくるね?」
「おうよ。イタズラすんなよ」
「子供じゃないから」
笑うおじさんとメレキだ。
「こっち、」
歩き出すメレキに連れられて、ケイジは歩き出していた。
「山羊とか牛ってエサによってもミルクの味も変わるらしくて」
「へー」
「ドームから輸入したエサを使ってるのに、それでいろいろやってるけど、美味しかったり美味しくなかったりするんです」
「・・・へー」
まあ、環境の厳しい村だからかもしれない。
安定して美味いってのは難しいんだろうな、たぶん。
「美味しくなかったらチーズが多めに出来上がったりして、」
メレキが村の裏事情を教えてくれる。
まあ、それはそれで心地いい、メレキがその声で話してくるのは。
「散歩にいい時間だね」
って、そこで農具の作業をしていた女の人に声をかけられた。
「そうですね」
メレキがにこやかに返事をしてた。
村をメレキと歩くケイジは、1人呟く。
「知らない人から用も無いのに声をかけられるってのは変な感じだな」
「え、なんですか?」
「いや、何でも」
今は、メレキが一緒にいるから近くを通る人が声を掛けやすいのかもしれないのだが、時折ケイジ1人でも声を掛けられる。
『よ、散歩かい、』なんて。
その度にケイジはなんて返せばいいのか、わからないのだが。
知り合いじゃないのに街で声かけられるなんて、ドームではまずあり得ない習慣だ。
「そういや、友達か?」
メレキからも離れた後ろで追って歩いてきてる少女2人はこそこそ、フードを目深に被って、顔もよく見えないが。
「あ、はい。」
メレキは、苦笑いをしていた。
まあ、あれは怖がってるのかもしれないが。
「モミェ ルホトァー?」
あっちに声をかけるメレキは。
ぷるぷる首を横に振る彼女たちなので、ケイジに苦笑いを向けてた。
ケイジでも、メレキに通訳されなくても彼女たちが嫌がったのはわかった。
あんなに怖がることないと思うんだけどなぁ、ってケイジは思ってはいたが。
逆に、メレキが変わってるのかもしれない、と少しメレキの少し楽しそうな横顔を見ていた。
というか、さっきから臭いが強くなるにつれ近づくその建物、メレキに連れられた厩舎の中の柵には、山羊が沢山いた。
そして、柵の外のメレキを見つけた途端に、何匹かがメレキに集まってきた。
それを楽しそうに、メレキは鼻をつついたり頭を撫でたりしている。
「山羊ねぇ」
「なんですか?」
結構な地獄耳らしい、小さく呟いただけのつもりだったのだが。
「実物見るのは初めてだな」
「あ、そうなんですか?可愛いでしょ」
「うーん・・まぁ」
動物は臭いと聞いていて、その通り、鼻をつく・・動物の異臭というしかない臭い。
当の山羊を見ても、まあ、可愛いといえば可愛いって言えなくもない。
が、やっぱり変な顔だ。
「変な顔してる」
「あはは」
メレキは何故かケイジの答えに笑った。
・・・まあ、ペットで飼うとかなら見たことあるんだが。
「・・・なぁ、一つ気になるんだけど」
「はい?」
「ぁあ・・こいつら動物ってさ、山羊でも、可愛いって言うよな」
「可愛いですよ?」
「でもこいつらを喰うんだよな?」
「・・はい。」
「そういうの、どう思ってんだ?」
ケイジはメレキから、山羊の群れる方を見ていた。
「・・山羊は食べます、その時の山羊は御馳走ですから・・・」
暫く、2人は無言だった。
変な事言ったかと思い、ケイジはメレキの横顔を見るが、メレキは穏やかに微笑んでいて、山羊の背中を撫でている。
「えと・・ですね。可愛いです。そして、そのときは悲しいですよ、多分。昔、ちっちゃかった頃、わんわん泣きましたもん」
「・・はは、そりゃそうか」
「そして、また可愛いんです。美味しかったり、悲しかったり、そしてまた可愛い。そういうの、逆らえないって・・」
「ん」
「逆らわなくていい、って。父に教えてもらいました」
「・・・?」
「逆らえないものがあるんだって。逆らわなくていい、って。心に在れって。」
「・・逆らえない、か」
「そうです、だから、可愛いけど、食べて、忘れないようにして」
「・・ふーん」
「絶対に、元気に生きていくんです。・・そんなこと考えながら食べる時が、ふとあったら、やっぱり変な感じなんですけどね」
困ったような顔で笑うメレキだ。
そしてもう1匹、今度は子山羊が寄ってきた。
「でも、やっぱり、可愛いんです」
メレキは手を伸ばして、その子山羊の鼻をおでこを優しく撫でる。
にこにこ、その笑顔は可愛いものを見ている清新な笑顔だった。
「ふーん。そういうもんか・・」
「それって、私が思った事なんですけど・・、変ですか?」
あはは、と照れたように山羊に向かって笑うメレキ。
「・・いいんじゃないか、と思う」
「そうですか?あなたは・・・」
「ん-・・・」
ケイジは少し考えているようだった。
それから、山羊を見つめているまま、ケイジは口を開いた。
「俺な、山羊を殺したことがないんだよな。」
そう・・・。
「で、どんなもんか、って思ったんだ。」
メレキはちょっとケイジを見上げ、ケイジと数瞬か、それとも数秒間か、見詰め合った。
・・ケイジが、口端を上げて見せていた。
メレキは・・・笑って。
それから、花が咲いたような満面の笑顔になった。
山羊の鼻を右人差し指でつんつんと、つつくメレキ。
「・・ね、」
そう話しかけて、山羊に触れている穏やかな笑みを浮かべるメレキを、・・・見ているケイジも、知らずに穏やかな笑みを湛えていた。
もやもやした気持ちは何がか、いくらでも湧いてくる・・気に入らないのが、世の中には気に入らないことはたくさんあるが―――――その進行方向上にある、視界には入っていたその家畜の柵の上の姿たちへ目を留める、腰掛けていたようなメレキを見つけた。
それ以外に、メレキは誰か同じくらいの背丈の、服装からして女の子の友達といたようだ。
その子もメレキも、ケイジを見つけていたようでこっちを見ていたが、ケイジが気が付いたときに、メレキが柵を降りてぱたぱたと小走りに駆け寄ってきた。
目の前で立ち止まって、ケイジは立ち止まってメレキを・・・。
「あの、さっきはすいませんでした。」
「・・・何を謝ってんだ?」
「・・さっき、変な事言って、邪魔しちゃったみたいだから・・」
「・・お前は悪くないぞ」
「・・はい・・・、でも・・機嫌、悪そう・・」
「あぁ゛?」
「ご、ごめんなさい」
「・・・・・・はぁ、・・ちげえ、ちげえ」
「・・はい・・?」
「別にお前の事じゃないから」
「そう、ですか・・?」
「あぁ、・・・はぁ」
ケイジは頭をがりがりと掻く。
それから、びしっとメレキを指差して。
「別にお前の所為じゃないからな。」
「はぁ・・・」
あまり納得のいってない様子のメレキではあったが。
ケイジは大きく溜め息をついた後、顔を上げて辺りを見回す。
柵の傍にいた・・もう1人の女の子か。
「あれ友達か?」
「あ、はい。ダメだよ、って言われて・・・」
「・・そか。」
・・・ケイジはそして、柵で囲まれた中にいる羊で視線を止めた。
「・・・ここは羊なんだな」
「いえ、山羊です。」
ケイジはヒツジと山羊の見分けなどつかないが、はっきりと否定されたからか、何故か少し清々しい気分になった。
恥ずかしさも少しはあるが、やっぱり知らないもんは知らんから、どうしようもない。
「・・や、山羊な、あれ食べたりすんの?」
「いえ、あ、はい、食べる時もあるけど、普段はお乳をもらうんです」
「ミルクか」
「そうです。飲みます?」
「いま?飲めるの?」
「はいっ、こっちこっち」
メレキが手を振って呼ぶ方へ、ケイジは軽く溜め息をついて、苦笑い交じりに追いかけた。
――――なんだ、俺だけ仲間はずれな気分」
近くの家屋の壁に背中を預けながら、日陰で2人のやり取りを遠目に見ていたガイだ。
彼はそう誰にでもなく苦笑いで小さく愚痴ると、空を見上げ・・・、そのまま快晴の空を見上げている事にした。
「ジョッサさんに会いに行こうかな?」
と、ぼそっと言ったけども。
・・・まあ、その前にミリアの顔が思い浮かんでた。
―――――大丈夫?」
静かな部屋の中で、リースがそう・・・。
「・・うん」
ベッドの上に座るミリアと、リースは自分のベッドの上でミリアを見つめていた。
ちょうど隣でもない、対角にあるお互いのベッドだけれど。
さっきよりはいくぶん、ミリアの感情は落ち着いてきた様だった。
それから、ミリアは静かにその口を開こうともしていて・・・。
「・・えっとね・・その・・・私は、」
ミリアが、なにか言いかけて・・・。
「・・・なんか、・・・。」
言いかけて、止めるけれど・・・。
「・・・ダメだったかな・・・、私の・・・・、・・・」
リースへ、伝える言葉は・・俯く。
自嘲気味に見える笑みを、ミリアは・・・。
それでも、冷静なリースの声は、静かな室内でミリアの耳へ届く。
「ダメ、かはわからないけど、当然の事を言ったと思う、隊長は。ケイジが怒ったのは、・・不可解・・一理あるっぽいけど。」
「・・一理あるのかな・・・?」
「たぶん?常識の範囲内で?」
「・・・・、」
「ケイジは難解すぎる。いつも。」
リースの声は柔らかく。
「説明されなきゃ、わからない。」
それは、ミリアには優しかった。
「・・・そっか」
それが、ミリアには・・・未だ微妙に入っていた肩の力を抜くきっかけを与えてくれる・・・。
―――――生暖かくて乳臭い山羊のミルクは、独特の臭いとコクがある。
「どうですか?」
「・・あー・・・」
「気持ち悪いですか?」
「・・・」
コップの白い液体を見つめるケイジは、黙ってうなずく。
たぶん既に顔に出ている、メレキにはバレているだろう。
メレキはいたずらっ子の様に笑ってた。
「全部飲めます?」
「無理だ」
即答してたケイジだ。
「ふふっ」
可笑しそうなメレキが手を差し出したので、ケイジがコップを手渡したら、メレキはそれへ口を、・・・近づけて・・くんくん、乳の臭いを嗅いでみたみたいだった。
一瞬、飲むのかと思ってどきっとしたケイジだが、まあ恥ずかしい勘違いだったみたいで、メレキと目が合ったらケイジは顔を逸らしてた。
「キラエロさん、ありがとーございます」
「おうー」
メレキはコップをそこに置いてて。
「おや、飲めなかったか?」
「すいません」
「うん、まあ仕方ねぇ。」
って、言ったと思ったらそのおじさんがコップを持って、ぐびーっと一杯飲みほした。
ケイジは・・・いや、いいんだが、そのワイルドなおっさんは悪くないんだが、なんだか気持ちがそんなの見たくないと言っていたので、逆の向こうを振り返ってた。
自分の飲みかけの破壊力はヤバイ。
かなり勇気を出して、初めて舐めてみたんだが。
と、そこで遠巻きに女の子らしい2人がフードを目深にした、メレキと同じ年頃か、こっちを見ていた子と一瞬目が合ったかもしれない。
すぐ顔を逸らされたが。
「ちょっと山羊見てくるね?」
「おうよ。イタズラすんなよ」
「子供じゃないから」
笑うおじさんとメレキだ。
「こっち、」
歩き出すメレキに連れられて、ケイジは歩き出していた。
「山羊とか牛ってエサによってもミルクの味も変わるらしくて」
「へー」
「ドームから輸入したエサを使ってるのに、それでいろいろやってるけど、美味しかったり美味しくなかったりするんです」
「・・・へー」
まあ、環境の厳しい村だからかもしれない。
安定して美味いってのは難しいんだろうな、たぶん。
「美味しくなかったらチーズが多めに出来上がったりして、」
メレキが村の裏事情を教えてくれる。
まあ、それはそれで心地いい、メレキがその声で話してくるのは。
「散歩にいい時間だね」
って、そこで農具の作業をしていた女の人に声をかけられた。
「そうですね」
メレキがにこやかに返事をしてた。
村をメレキと歩くケイジは、1人呟く。
「知らない人から用も無いのに声をかけられるってのは変な感じだな」
「え、なんですか?」
「いや、何でも」
今は、メレキが一緒にいるから近くを通る人が声を掛けやすいのかもしれないのだが、時折ケイジ1人でも声を掛けられる。
『よ、散歩かい、』なんて。
その度にケイジはなんて返せばいいのか、わからないのだが。
知り合いじゃないのに街で声かけられるなんて、ドームではまずあり得ない習慣だ。
「そういや、友達か?」
メレキからも離れた後ろで追って歩いてきてる少女2人はこそこそ、フードを目深に被って、顔もよく見えないが。
「あ、はい。」
メレキは、苦笑いをしていた。
まあ、あれは怖がってるのかもしれないが。
「モミェ ルホトァー?」
あっちに声をかけるメレキは。
ぷるぷる首を横に振る彼女たちなので、ケイジに苦笑いを向けてた。
ケイジでも、メレキに通訳されなくても彼女たちが嫌がったのはわかった。
あんなに怖がることないと思うんだけどなぁ、ってケイジは思ってはいたが。
逆に、メレキが変わってるのかもしれない、と少しメレキの少し楽しそうな横顔を見ていた。
というか、さっきから臭いが強くなるにつれ近づくその建物、メレキに連れられた厩舎の中の柵には、山羊が沢山いた。
そして、柵の外のメレキを見つけた途端に、何匹かがメレキに集まってきた。
それを楽しそうに、メレキは鼻をつついたり頭を撫でたりしている。
「山羊ねぇ」
「なんですか?」
結構な地獄耳らしい、小さく呟いただけのつもりだったのだが。
「実物見るのは初めてだな」
「あ、そうなんですか?可愛いでしょ」
「うーん・・まぁ」
動物は臭いと聞いていて、その通り、鼻をつく・・動物の異臭というしかない臭い。
当の山羊を見ても、まあ、可愛いといえば可愛いって言えなくもない。
が、やっぱり変な顔だ。
「変な顔してる」
「あはは」
メレキは何故かケイジの答えに笑った。
・・・まあ、ペットで飼うとかなら見たことあるんだが。
「・・・なぁ、一つ気になるんだけど」
「はい?」
「ぁあ・・こいつら動物ってさ、山羊でも、可愛いって言うよな」
「可愛いですよ?」
「でもこいつらを喰うんだよな?」
「・・はい。」
「そういうの、どう思ってんだ?」
ケイジはメレキから、山羊の群れる方を見ていた。
「・・山羊は食べます、その時の山羊は御馳走ですから・・・」
暫く、2人は無言だった。
変な事言ったかと思い、ケイジはメレキの横顔を見るが、メレキは穏やかに微笑んでいて、山羊の背中を撫でている。
「えと・・ですね。可愛いです。そして、そのときは悲しいですよ、多分。昔、ちっちゃかった頃、わんわん泣きましたもん」
「・・はは、そりゃそうか」
「そして、また可愛いんです。美味しかったり、悲しかったり、そしてまた可愛い。そういうの、逆らえないって・・」
「ん」
「逆らわなくていい、って。父に教えてもらいました」
「・・・?」
「逆らえないものがあるんだって。逆らわなくていい、って。心に在れって。」
「・・逆らえない、か」
「そうです、だから、可愛いけど、食べて、忘れないようにして」
「・・ふーん」
「絶対に、元気に生きていくんです。・・そんなこと考えながら食べる時が、ふとあったら、やっぱり変な感じなんですけどね」
困ったような顔で笑うメレキだ。
そしてもう1匹、今度は子山羊が寄ってきた。
「でも、やっぱり、可愛いんです」
メレキは手を伸ばして、その子山羊の鼻をおでこを優しく撫でる。
にこにこ、その笑顔は可愛いものを見ている清新な笑顔だった。
「ふーん。そういうもんか・・」
「それって、私が思った事なんですけど・・、変ですか?」
あはは、と照れたように山羊に向かって笑うメレキ。
「・・いいんじゃないか、と思う」
「そうですか?あなたは・・・」
「ん-・・・」
ケイジは少し考えているようだった。
それから、山羊を見つめているまま、ケイジは口を開いた。
「俺な、山羊を殺したことがないんだよな。」
そう・・・。
「で、どんなもんか、って思ったんだ。」
メレキはちょっとケイジを見上げ、ケイジと数瞬か、それとも数秒間か、見詰め合った。
・・ケイジが、口端を上げて見せていた。
メレキは・・・笑って。
それから、花が咲いたような満面の笑顔になった。
山羊の鼻を右人差し指でつんつんと、つつくメレキ。
「・・ね、」
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