《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』

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第2章 - Sec 2

Sec 2 - 第9話

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 「フォーぉーん?おまえがミリアかー・・・!」
ジロジロとその少年のような子がまだまだ睨《にら》んでくるような、ミリアの目の前でなにかを怪《あや》しんでいるように見てくるから・・・。

ミリアは、ちょっと息が吹《ふ》きかかるくらいには近くて、それがちょっとくすぐったくもあって、その子がさっきと同じことを繰《く》り返しているだけなようなのが、ちょっと顔を背《そむ》けたくなる感じもしているけれど。

でも、この子が手を出してくる気配《けはい》は無いようだし、なんだかこっちから直接《ちょくせつ》に手で押し返したり突っぱねるのも違う気がするので。
だから、ちょっと警戒《けいかい》はしつつも、変な重圧《プレッシャー》を感じつつも見返《みかえ》して観察《かんさつ》はしている。
でもそうしている内に、もう自分でも、顔が勝手にむにむに動き始めてるのもわかってた。

この子は急に最初に大声出したり、勢《いきお》いが『すごい』けど、悪意《あくい》を持っている、という感じが不思議とあまり感じられない、気がする。
それより、さっきからジロジロ見てくるのは興味津々《きょうみしんしん》なだけかもしれない・・・とさえ思えてきた、わからないけど。
まあ、変な顔をして因縁《いんねん》をつけてきてる様な感じもあって、結局は何を考えているのかはよくわからない。

今もこっちを怪《あや》しんでいたり不機嫌《ふきげん》そう、風《ふう》な顔をしたりは、なんていうか、表情が動き過《す》ぎで読みづらいのだ。
ちなみに、この子が、小さく口元をむにむにさせているのもなんとなく見つけた。

「近すぎじゃねぇか?」
ってそう、ケイジが傍《そば》で言ってた。
『そうだよね』、と心の中で私も素直《すなお》に思ったくらいだ。

距離《きょり》の近いその子が顔を上げれば、私との鼻先《はなさき》がだいぶ近かった。
ので、私はちょっと避《よ》けるように、顔を背《そむ》けたけれど。

そもそも、急になんで話しかけてきたのかも、まだわかっていないのだ。
それに、これ以上付き合う必要も無いし、相手にしないという選択肢《せんたくし》もあるにはある。
けど、このまま立ち去るのもなんか、良くないと思うし、気が引けるというか、しつこそうな気もするといえばするけど、そもそも、この子はなにか用があるから近づいてきたんじゃないだろうか。
何を考えているのかが、何も言わないのでよくわからないけど。

とりあえず、待っている間もこの子の距離感《きょりかん》がまったく変わらないので。
「・・あの、」
「ぬ?」
ミリアが声をかけてみると、ケイジをじっと見てたこの子はまたこっちへ顔を向けた、・・また近い・・鼻先を掠《かす》めそうにになる近さだと逆に口を開きにくくなる・・・。
むしろ、その子が距離《きょり》を全然気にしていない、みたいなのでどう伝えるべきかを考えて、ミリアは口をちょっと開きそこなった。

果《は》たして、『距離《きょり》が近すぎです。』って、初対面《しょたいめん》の人にはっきり言って良いものか・・・いや、マナーとしても、悪い事は無いとは思うんだけど、物理的にお互《たが》いが邪魔《じゃま》なわけだし。
わざとやってきているわけじゃない、と思うし、でもなぜか言うタイミングが取りづらい・・。

それで、そう・・改《あらた》めて、なんとか頭を動かして、よくよくその子を見てると。
さっきから顔を近づけてくるこの子は、ショートヘア短い髪が、おでこが出るくらいの長さで。
だから最初は男の子かな、と思ったけど。
少し褐色肌《かっしょくはだ》は日焼けの跡《あと》なのか、みんなと同じトレーニングウェアの格好の、少年・・・いや、声の感じとかふとした雰囲気《ふんいき》は、女の子、かもしれないって思った。

その活発《かっぱつ》に動く表情に一番に目が行く、印象的《いんしょうてき》によく動く瞳《ひとみ》が溌溂《はつらつ》としてるからで。
一瞬でもずっとでも、爛々《らんらん》と輝《かがや》く感じも、そういう所のどこかに女の子っぽい雰囲気《ふんいき》がある気はするし。
それに鼻先と私の鼻の距離《きょり》が、近過ぎるけど、決して危険《きけん》だとかとは、あまり感《かん》じなくなってきてる。
最初は、まあびっくりしたんだけど。
とりあえず、とても悪い子には、というか、とてつもなく悪い子にはあまり見えない、という感じだ。
すごい強引《ごういん》というのは間違いなさそう・・・というか、すごい目の前に入ってくるけど。

今だって、睫毛《まつげ》の感じまでよく見えるくらい、目と目も近過《ちかす》ぎるんだけれども、この子、彼女が、目つき悪い風《ふう》なのを、・・ぷる、・・ぷる・・・と頑張っている様にも見えてきたわけで・・それが、何故《なぜ》そんな事しているのかがわからないんだけど。

「おい、おい、無視すんな、」
ケイジが横で言ってるのを、その子は聞いてないみたいだけど。

ふむ。
つまり整理すると、私が・・見ず知らずの子に声をかけられて。
そして、ジロジロ見られている。
そして、この子が、こんなに元気で活発な子で。
・・以上だ。

結局《けっきょく》、『この子は何なんだろう?』と。
『前に会ったことあったかな?』って思ってみても、全然覚えてないし。
こんなに特徴《とくちょう》がある子を忘れるわけない、とは思う。
でも、どこかで見た事がある気もしなくもない?どこでだっけ・・・?

そんな事を考えいている間も、同じくずっとこっちを、全身をジロりジロりと、遠慮《えんりょ》なく見てきているこの子は、まだ私を見飽《みあ》き足《た》りないらしい。
もう理由は本人に聞いた方が早そうだし、そういえばちゃんとした会話をまだしていないのにも今気づいた。

「フォーん?・・ミリアかぁ~?」

って、また何度目かの同じことを言った、その子だから。
唇《くちびる》をむにっとしたミリアは、瞬《またた》きつつ。

まあ・・口を開こうにも、変なプレッシャーがあって・・・長い、ジロジロ見てくる時間がずっと・・・―――――
ねめつけてくる視線が、相変《あいか》わらず近かったりで、気になるけど、仕方ないので、私はちょっと言葉を選《えら》んで聞いてみる。

「どこかで、会った?」
って、そしたらその子は、ぴくっと、そしてその大きな目でジロリとこっちを見た、今度はちゃんと聞いてくれたらしく、そして、口を大きく開いて―――――

「ない!」

って―――大っきな声で――――・・ミリアがちょっと目を瞑《つむ》り気味《ぎみ》に、びくっとしてたのは、至近距離《しきんきょり》だからで、とても元気な返事だったからだ。

そう、この子は声の調整《ちょうせい》を全然してくれないんだな・・・というか、はっきりとその子が答えた、『会った事ない』と。
やっぱり、初対面《しょたいめん》だ・・・・え、じゃあなんで声をかけてきた・・?

「―――――あんあ?こいふ?」
って、後ろからケイジと。
「友達《ともだち》になりたいんじゃないか?」
「はぁ?ほうか?」
って、ケイジとガイの会話は聞こえてて、ケイジが無遠慮《ぶえんりょ》なのとモユモユ、口になにか入れながらなのか、ガイはなんだか適当《てきとう》なことを思いつきで言ってるみたいだ。
『友達《ともだち》に・・・』って、そんな風には全然見えないから。
「からまれてんのか?」
ガーニィがそう聞いたみたいで、そしたら・・みんなが無言《むごん》になったみたいだった。
たぶん、みんなは顔を見合わせているんだろうけど、私の後ろで、誰もその答えがわからないんだと思う。
私もわからないのだから。

その答えを知っているべきなこの子は、まだまだ、こっちを気遣《きづか》って話をする、という気が無いみたいだ。

そんな事を考えながら、ミリアがちょっと微妙《びみょう》な顔になってるまま、目をちょっと振《ふ》ったついでに見えた―――――。

――――その子の右手にあった『ジェリポン』、よく見る栄養補給《えいようほきゅう》用のスポーツドリンクを握《にぎ》っていて。
その逆の左手には、お菓子の箱のような、いや、これもよく見るブロックバー『モッキュー・メイト』という、齧《かじ》りかけのクッキーバーの頭も見えた。
栄養満点《えいようまんてん》の美味《おい》しいそれらは健康補助《けんこうほじょ》食品や行動食《こうどうしょく》などとしても、お店で売られているようなメーカー品だ。

そこにあるケータリングコーナーに置いてるものか、用意された軽食《けいしょく》たちはこのイベントに集まるEAU隊員たちにとって、添《そ》えられて嬉《うれ》しい小腹《こばら》のお供《とも》のようだ。
いくつかの味や種類があっても基本的には甘かったりするし、パクパク食べ放題《ほうだい》なのは子供などにとっては嬉《うれ》しいはずだ、この子みたいに。
・・あと、ケイジとかも含《ふく》められる、と思う―――――。

『――――っぷぅ、うはははははははっ・・!』
って、ミリアがビくんっ・・って震《ふる》えた、のは目の前で急に笑ったその子の声が大き過《す》ぎて甲高《かんだか》かったからだ。
耳の奥から裏まで声が響《ひび》いたような気がするくらい、声の勢《いきお》いがほんとに凄《すご》い―――――え、なんで今笑ったんだろう・・?

ミリアはちょっと体を強張《こわば》らせて警戒《けいかい》しつつだけど、目の前のその子は、笑顔だ。
・・とても笑顔に歯を見せて、ニッカリした素直《すなお》な、とてつもない満面《まんめん》の笑顔で。
「お前、なんなんだ・・・?」
って、ケイジが呆《あき》れるようには訝《いぶか》しげな、不思議《ふしぎ》さも表《あらわ》れてるその気持ちを、代わりに率直《そっちょく》にその子に言ってくれた・・。
ただ可笑《おか》しかっただけで、笑っただけみたいなんだけども。

「ナアっあってンっ!?」
急に、その子が奇声を発した。
いや、何か言葉を言って、伝えようとしてるんだろうけど・・・えっと、なんて言ったのかがちょっと考えてみても、よくわからない。

顔の表情は、怒《おこ》ってるようなその子で、ケイジに言っているようでいて、そのケイジの動きが止まっているようだ。

もしかして、酔《よ》っぱらってるような、呂律《ろれつ》が回っていないのかも、とも思ったけど。
「・・あん?」
ケイジの訝《いぶか》しげな反応がけっこう遅《おく》れてて。
『ジェリポン』はノンアルコール飲料《いんりょう》のはずだから酔《よ》うはずが無いと思う、いや、そうじゃなくって。

「さいんパっからって、クォ?くお、するんってぇわけないく、けれどネ?そレるんるってぇっ、そいぃタイどきぃオっ!スきぬんじゃナいぃっするぅ、らカんラ!?・・ネらーー!」

―――――その子は、長い言葉を、怪《あや》しい呂律《ろれつ》の内《うち》に言い切った。

・・言い切ったんだと思う、たぶん。
・・・何を?
言い切ったのはわかった。
なぜなら、この子がそうと言わんばかりに、とても誇《ほこ》らしげに堂々と胸を張《は》っているのだから。
少なくとも、この子は満足していて。
・・・そうそれは、私が今、疑問《ぎもん》を口にしたらこの子の機嫌《きげん》がすぐ崩《くず》れてしまいそうな、それほど危《あや》うい均衡《きんこう》・・・。
あと、『ともだちになりましょう』というような単語《たんご》は聞こえなかったし、ガイの予想《よそう》は外《はず》れだと思う。

そして、ついにはこの子が胸の前で腕組《うでぐ》みをして、ケイジへ勝ち誇《ほこ》る、ピークの笑い顔に達《たっ》してたみたいだった。

「ぬぁっ、はっはっはぁ!」

・・何が起きてるのか、よくわからないんだけど。
えっと・・・?

ちょっと頭をフル回転させているのが、さっきからな・・ミリアが、隣に来てたケイジにふと気が付いて、見ればケイジが眉《まゆ》を寄せている横顔が、不可解《ふかかい》そうな微妙《びみょう》な表情であの子を見下ろしていた。
ミリアは横目に見つけてたけども。
たぶん、自分も同じような顔をしていたとしてもおかしくはない、ともちょっと思った。

「お前なぁ、まず偉《えら》そうにすんな、」
って。
「・・ぬガ?」
その子はきょとんとしてたけど。

なので、だから、ミリアは、あんまり考えがまとまってないまま、仕方ないので口を開いた。

「いったい私たちに・・・―――――」
「『お前』だよ、おまえがなんだってんだよ、」
って、私とケイジの声が被《かぶ》った。
って、ケイジはまさか、この子と『会話』できている・・・?
「ぬぁあー??」
まさか・・・、ケイジが前へ出て、訝《いぶか》しげにその子の顔を覗《のぞ》き込むように、・・威嚇《いかく》し返している・・・。
「っンぬ、なんだオまえ?」
「お前がなんだ?ああ?」
ていうか?2人の会話が成立《せいりつ》し始めて来ている、気がする。
「ぬ!アタシが聞いてンダロ!」
「俺が先に聞いてんだろ・・っ、」
けれど、なんか余計《よけい》にめんどくさいことになりそうなのは、ミリアにももうわかってた。
「タシんがっ、っらァ!」
「俺だっつってんだろ、るぁ・・っ!」
ケイジも、やり過ぎな気はするけれど。
正直、どっちが先かはどうでも良くて、『この子が誰なのか』っていう話を早く進めてほしい。

でも、そんな願《ねが》いとは裏腹《うらはら》に、ケイジがその子と正面から睨《にら》み合っているわけで。
・・・。
この子がこっちを見てないので。
とりあえず、・・すっと、ようやく、一歩はなれられたミリアだ。

・・ようやく、離《はな》れられた・・・。
この子がケイジしか見てないおかげで・・・。
・・・離れられたのだ・・・・―――――――――
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