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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第10話
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「ぬぁあぁあン・・っ??」
睨《にら》み合う、あの子を。
「おぁ、なんだ?お?」
見下ろすケイジで。
正対《せいたい》してる2人は、お互《たが》い譲《ゆず》らない睨《にら》み顔でも張《は》り合っていて、お互いが気に入らないようだ。
―――――ふむ。
と、今はちょっと傍観者《ぼうかんしゃ》なミリアが、小さく鼻を鳴《な》らして、改《あらた》めて数歩離れたところで2人を観察《かんさつ》していても。
「ぁあぁあんっ?」
「おまえ、そればっかしだなぁ?」
「おマえもナーっ!」
甲高《かんだか》く響《ひび》く声で、何度もそう威嚇《いかく》し合うこの2人には、自己紹介《じこしょうかい》をするという段階《ステップ》がないようだ。
そしてずっと、こっちに目もくれずに睨《にら》み合ってる、むしろ、2人とも言葉を主《おも》に必要としないタイプなんじゃないかとも思えてもきた。
数歩離れたおかげで、距離《きょり》的にも、ミリアはちょっと冷静《れいせい》になれたかもしれない。
休んだのは、たぶん1分も経《た》ってないけど。
観察《かんさつ》してても、この2人からは何も得《え》るものが無さそうだ、ともう正直《しょうじき》に思ってはいる。
「お、そういや持ってきたんだ。飲むか?」
って、そこのガイがジェリポンをこっちに渡《わた》そうと持ち上げて見せてきたので。
「いい、」
ミリアが首を振ったら、ガイはそのジェリポンを開けて自分で飲み始めてた。
どうやら、そこの傍《そば》のテーブル・・、の傍《そば》でリースがソファで目を瞑《つむ》って寝ているんじゃないか、っていう気の抜《ぬ》けようが、目に余《あま》る気がしないでもないけど。
それより、そのリースの傍のテーブルの上に、いくつかの飲み物や食べ物があって、それらがケータリングからもらってきたガイたちの戦利品《せんりひん》のようだ。
さっきケイジが食べていたサンドイッチもそうだろう。
まあ、向こうのケータリングがある場所もちょっと、わーわー騒《さわ》がしいみたいだし、みんな楽しんでなにかやってるみたいだけど。
顔を戻《もど》せば、この2人は変わらずで。
お互いを威嚇《いかく》し合うたびに、徐々《じょじょ》に距離《きょり》が近づいていってるから、それが体当たりか、額《ひたい》を擦《こす》り合わせそうな勢《いきお》いになりかけているようだし。
「んんんだ・・っ?」
「んんっ?ぬぁあーっ?」
お互《たが》い、威嚇《いかく》のような独自《どくじ》の文化《ぶんか》で会話している、そんな光景《こうけい》は昔のドキュメンタリー番組で見た事あるかもしれない。
ミリアは、『えっと・・、これどうする?』って、後ろのガイやガーニィを振《ふ》り向いて、目線《めせん》だけで聞いてみるけど。
気が付いたガイが、ふむ、と顎《あご》に左手を当ててちょっと考え始めたみたいで。
隣のガーニィは、『ん?』って顔をしたみたいだった。
そもそも、私たちがずっと最初に求めているあの疑問《ぎもん》、『私たちは、どうしてこの子に声をかけられたんだろうか?』というものの答えも未《いま》だにわかってないわけで。
既《すで》にもう、宇宙《うちゅう》の彼方《かなた》へ飛び去った謎《ミステリー》のような。
「んぁぁあぁン・・っ・・?・・」
「ァあンんん・・?・・・・?」
ああやって2人が睨《にら》み合っているけど。
今も、見下ろすようなケイジに、その子は見上げるように対抗《たいこう》していて、一歩も引かないし。
とっても負《ま》けん気《き》が強く、そして、この子はとても気丈《きじょう》なのかもしれない。
・・・もしかして――――――
―――――この子は実《じつ》は、私たちと話がしたかったんじゃなく・・、迷子《まいご》とか?
そうか、だから人が多くて不安《ふあん》で錯乱《さくらん》していて、突拍子《とっぴょうし》もないことを私たちに・・・?
いや、そんなわけない。
そんなに幼《おさな》くないだろうし。
私と同じくらいの背丈《せたけ》だし。
――――――ふむ。
そんな風に、2人の様子を眺《なが》めていながら考えていも。
妄想《もうそう》めいた想像《そうぞう》が横から飛びついてきて、愉快《ゆかい》にしようと邪魔《じゃま》してくるので。
星が綺麗《きれい》な宇宙《そら》は・・・って、そんな瞼《まぶた》の裏《うら》に一瞬見えた景色《けしき》は、どこかで見た写真のように星々《ほしぼし》が煌《きら》めいている――――――
――――――今はあまり意味の無い想像《そうぞう》は、やめることにして。
それよりも、目の前のこの子が、きっと宇宙《うちゅう》よりも掴《つか》みどころがないことを。
どうにかしようと・・・って、ミリアがちょっと気が付くと、周《まわ》りの人たちもこっちを見ていた。
「ぁああっん・・?」
「ぁアぅっぬぁああンっ?」
って、この子たちのお腹からの大きな声やパワーが、人の目を呼ぶみたいだ。
ケイジもたいがい付き合い過ぎだけど。
周りでこっちを見てる彼らは、戸惑《とまど》ってたりきょとんとしてるようで、当然、一緒《いっしょ》にいる自分たちも、同じような目で見られてるだろう。
正直《しょうじき》、ここで目立ったり騒《さわ》ぎを起こすのは良くない。
だってそれは、単純《たんじゅん》に印象《いんしょう》が悪いだろうし、EAUの集まりの最中に問題を起こすなんて、ガーニィが言ってたことじゃないけど、みんなに『問題児《もんだいじ》』と認定《にんてい》されてしまう。
そう、それに、『今朝《けさ》呼び出された』ばっかりだし。
『呼《よ》び出された』、『ばっかり』だし。
「ぉまえ、このままいったら頭突《ずつ》きいくぞ・・っ?おい?」
「ぬぁああんっ?へっ、ぬぁんっっくぁあんっ?」
「ぁあ?なに言ってんだぁあ?」
不穏《ふおん》な言葉に、凄《すご》んでるケイジたちが、何やってんだか・・・。
そう、『呼《よ》び出された』『ばっかり』だし、・・仕方ない。
止《と》めよう。
で、どうやって2人を止めるかだけど、ずっと意地《いじ》の張り合いみたいな事をやってるわけで・・首を回してガイを見たら、目が合って、こっちへ肩をちょっと竦《すく》めてきた。
「2人とも、ケンカすんなって、」
ガイへ言いたいことが伝わったのか、真っ当な事を言ってくれた。
2人とも、こっちを見ないで唸《うな》り合いながら睨《にら》み合っているままなんだけど。
本当にヘッドバットしそうなくらい近くなってる。
「おんなじEAUだ、お互い仲良くしような?」
良い事を言ってくれる、爽《さわ》やかなガイに続いて、ミリアもこほん、と小さく咳払《せきばら》いをした。
「そうだね。とりあえず離《はな》れよう、2人とも。」
ちゃんとなるべく冷静《れいせい》に。
2人の間《あいだ》に入ろうとしたけど。
「ケンカじゃねぇよ、」
って、ケイジが。
「ぬ?」
「ちゃんと挨拶《あいさつ》したら仲良くしてやんよ?・・!・・」
「おまエがナぁあー!・・!」
ケイジとその子、おでこをこすり合わせたくなってしまってるような2人とも、こっちの声をまるで聞いてないみたいだった。
まあ、ケイジなら、本当にヘッドバットくらいしそうだなって思う。
放《ほう》っておけば本当に少しずつ、じりじりとお互いのおでこを少しずつぶつけあいそうだけど。
手を出そうとはしていないのが、2人とも偉《えら》いというか・・意地《いじ》なんだろうか、ケンカじゃないって言ってたし。
でも、このままだと最終的《さいしゅうてき》には頭突きで本気の決着《けっちゃく》がつくのかもしれない。
・・・。
ちょっと、ケイジがおでこを押さえて蹲《うずくま》っているところ、想像したら、ふっ・・とちょっと笑いそうだけど。
そうなったら、まずいんだけど。
「じゃあな、俺そろそろ行くよ?」
って、ガーニィがそんな事を言うから、ガイがガーニィの肩をがっしり捕《つか》まえてた、逃《に》がさないみたいだ。
「まあ待てって、」
「オレ、関係ないだろぉー?」
ガーニィは、逃《に》げたいようだ。
「情報通《じょうほうつう》だろ?」
「今は関係ないだろー・・?」
ガーニィが言うのもまあ、そうなんだけど。
「話のネタになるんじゃないか?」
「ふざけ合ってるだけでおもしろ話になるか?」
まあ、誰も聞きたがらないと思う。
ミリアは、いちおう念のため。
「言いふらさないでね、」
って、さりげなく、静《しず》かにガーニィへ言っておいたけど。
「あー、まぁ、」
ガーニィがこっちへ、こくこく頷《うなず》いていたのは確認して。
ミリアがガイと目が合ったら、ガイは困ったような笑顔で肩を竦《すく》めたみたいだった。
もうお手上げってことだろうか・・?諦《あきら》めが早いとは思うけど・・・。
まあ、おでこをぶつけ合いそうなこの2人・・・どうしようかな・・・?力ずくで止めても面倒《めんどう》くさそうだし、どっちも簡単《かんたん》には言う事を聞かなさそうだし。
・・あ、この子がおでこを痛《いた》がる姿《すがた》は、さすがに止《と》めないとまずいか。
もし、この子がケンカしたとなったり、EAU隊内《たいない》で暴力行為《ぼうりょくこうい》があったってなると・・・まためんどくさい・・。
もう『呼び出されない』ためには・・。
ケイジなら別に良いんだけど。
私と同じチームだし、大抵はケイジが悪いし。
まあ、このケンカ自体《じたい》が子供っぽいので、罰《ばっ》せられない気もするんだけど―――――
―――――って、ちょっと、はっとするミリアは。
なんか色々考えすぎてて、自分のペースが乱《みだ》されている気がする、さっきから。
えっと・・―――――
――――――だから、ミリアは息を吸って、胸《むね》を少し膨《ふく》らませて、少し深呼吸《しんこきゅう》した。
「ケンカは、ほどほどになー、」
って、ガイが暢気《のんき》そうな声で、ジェリポンに口を付けて飲んでた。
・・・。
「そいや、ジェリポンに新しい味出たの知ってるか?」
「なに味《あじ》?」
「マカダミアナッツ&ココナッツ、」
「美味《うま》いのか・・?・・お、あの子、かわいいな、」
「知らないなぁ、『A』かな?」
って、ガイはガーニィと関係《かんけい》のない話をしているし・・・。
・・やっぱり、私が自分が止めるしかないようだ――――――
「―――――ケイジ、」
ミリアが声をかけて。
「ガン飛《と》ばしてきたのは、お・ま・えが先だろ・・!」
「ア・タ・シ・じゃナイー・・!お・ま・え・ダァー!」
全然、こっちを見ない2人のやり合いが、更《さら》にどうでもよくなってるけど。
他に2人は話すことがあると思うんだけど。
名前を呼んだのにこっちを見ない2人に、また、ちょっと小さくため息を吐《は》くミリアだ。
――――――話を聞かないんだから仕方ない・・こういう場合の対処法《たいしょほう》は決まってる。
なるべく穏《おだ》やかに止《と》めよう、とは思ってる、けど。
こっちを見ていないケイジに歩み寄って―――――ケイジの服の上から、鳩尾《みぞおち》辺《あた》り――――――左手をすっと当てるように―――――握《にぎ》り拳《こぶし》は硬《かた》く1個分で。
「ぉまえがつっかかってぁ・・、ん?」
遅《おく》れて気が付くケイジのわき腹に、ぐっと押し込めた拳《こぶし》・・・は、丁寧《ていねい》に力《ちから》も込《こ》め・・抜《ぬ》こうかと、少し逡巡《しゅんじゅん》はした―――――
「いででっ・・!?」
ぐりぃゅ・・っ――――と、『やめなさい』の心《こころ》を込《こ》めて捩《ね》じったので――――――
「・・っどぅは・・っ・・」
って、ケイジが変な声を出して、よろけるように、それから悶絶《もんぜつ》してた。
そんなケイジを見てて・・。
・・なんだか虚《むな》しさでも感じる。
なんでこんなことをしなきゃいけないのか。
まあ、握《にぎ》り拳《こぶし》は途中で止めたし、痛がるケイジは大袈裟《おおげさ》だとは思う。
私は、ちょっと拳《こぶし》をぐっぱぐっぱして、力の入れ具合《ぐあい》を確かめ直してみてる。
はりきり過ぎたわけじゃないと思うけど。
あっちへ押し出されるようによろけたケイジが、わき腹を押さえていて、こっちを恨《うら》みがましく見てきてる。
「いってぇ、ミリア・・」
大袈裟《おおげさ》だとは思うんだけど、ケイジの気分が最下層《さいかそう》みたいなので良いと思う。
「おまぇ・・――――」
「―――ケ・イ・ジ、」
だから、強めに言い返すように被《かぶ》せたら、ケイジはきゅっと口を閉じてた。
不満《ふまん》そうな顔が、まだこっちに向いてるけども。
ケイジもどっちが悪《わる》いかはわかってると思うし。
まあ、ほんのちょっと、急所《きゅうしょ》に入り過ぎたのかもしれないので、手加減《てかげん》をもうちょっとすべきだったかもしれない、という反省《はんせい》は、ちょっとだけ心に留《とど》めておくことにして。
それより。
「ぬっ?」
私と目が合った、対面《たいめん》で睨《にら》んでたその子は、まだ不機嫌《ふきげん》そうなようだ。
でも、何が起こったのかよくわかってないようだから、ケイジを見たりのこの子が口を大きく開ける前に――――その隙《すき》に、私が右腕をまっすぐに伸《の》ばして、ぱっと手の平を突《つ》き出して見せた。
その子の顔の前へ、牽制《けんせい》のためのものだ。
私の指の隙間《すきま》から、その子の爛々《らんらん》とする瞳《ひとみ》はくりっと覗《のぞ》いて。
引きはがしたケイジを追う事もなく、不機嫌《ふきげん》そうなままだけど、こっちをきょとんと瞬《またた》いてもいた。
だから、聞いてくれる感じがして。
「・・ケイジが、ごめんね、」
もう一度、話しかけてみて・・・。
「俺じゃなくてそっちだろ、んぐぁ、」
文句を言いたそうなケイジは、ガイに捕《つか》まったみたいだ。
と、ぴく・・っ、と目の前のその子が何かに気づいたのか、じぃーっと私のその手の平を見てたり、こっちの顔を交互《こうご》に見てたりで、なにやらいろいろ考えているのか、落ち着きもあまり無い。
――――――・・・そんな様子を見てて、脳裏《のうり》によぎったシーンが―――――『すごい格闘家《かくとうか》が、今まさに猛獣《もうじゅう》を相手に!』――――――っていう。
なんか、アナウンス付きで、ドキュメンタリー映像《えいぞう》が脳裏《のうり》を不意《ふい》に、気まぐれに駆《か》け抜《ぬ》けていった気がする。
緊迫《きんぱく》・・してるわけじゃないんだけど。
でも、もっと小さくてかわいい動物《どうぶつ》とじゃれ合う・・・いやダメだ、忘《わす》れよう。
どんなものでも、この子になんか失礼《しつれい》な想像《イメージ》になりそうだし。
「なにしてんだ?」
「困《こま》ってるんじゃないか・・?もしくは挨拶《あいさつ》か、」
「なんだそれ、笑える」
・・後ろで好き勝手《かって》言っているケイジやガイや、ガーニィの声が耳から入って来てた――――――・・・ので、私はちょっと眉《まゆ》を寄《よ》せたけど。
睨《にら》み合う、あの子を。
「おぁ、なんだ?お?」
見下ろすケイジで。
正対《せいたい》してる2人は、お互《たが》い譲《ゆず》らない睨《にら》み顔でも張《は》り合っていて、お互いが気に入らないようだ。
―――――ふむ。
と、今はちょっと傍観者《ぼうかんしゃ》なミリアが、小さく鼻を鳴《な》らして、改《あらた》めて数歩離れたところで2人を観察《かんさつ》していても。
「ぁあぁあんっ?」
「おまえ、そればっかしだなぁ?」
「おマえもナーっ!」
甲高《かんだか》く響《ひび》く声で、何度もそう威嚇《いかく》し合うこの2人には、自己紹介《じこしょうかい》をするという段階《ステップ》がないようだ。
そしてずっと、こっちに目もくれずに睨《にら》み合ってる、むしろ、2人とも言葉を主《おも》に必要としないタイプなんじゃないかとも思えてもきた。
数歩離れたおかげで、距離《きょり》的にも、ミリアはちょっと冷静《れいせい》になれたかもしれない。
休んだのは、たぶん1分も経《た》ってないけど。
観察《かんさつ》してても、この2人からは何も得《え》るものが無さそうだ、ともう正直《しょうじき》に思ってはいる。
「お、そういや持ってきたんだ。飲むか?」
って、そこのガイがジェリポンをこっちに渡《わた》そうと持ち上げて見せてきたので。
「いい、」
ミリアが首を振ったら、ガイはそのジェリポンを開けて自分で飲み始めてた。
どうやら、そこの傍《そば》のテーブル・・、の傍《そば》でリースがソファで目を瞑《つむ》って寝ているんじゃないか、っていう気の抜《ぬ》けようが、目に余《あま》る気がしないでもないけど。
それより、そのリースの傍のテーブルの上に、いくつかの飲み物や食べ物があって、それらがケータリングからもらってきたガイたちの戦利品《せんりひん》のようだ。
さっきケイジが食べていたサンドイッチもそうだろう。
まあ、向こうのケータリングがある場所もちょっと、わーわー騒《さわ》がしいみたいだし、みんな楽しんでなにかやってるみたいだけど。
顔を戻《もど》せば、この2人は変わらずで。
お互いを威嚇《いかく》し合うたびに、徐々《じょじょ》に距離《きょり》が近づいていってるから、それが体当たりか、額《ひたい》を擦《こす》り合わせそうな勢《いきお》いになりかけているようだし。
「んんんだ・・っ?」
「んんっ?ぬぁあーっ?」
お互《たが》い、威嚇《いかく》のような独自《どくじ》の文化《ぶんか》で会話している、そんな光景《こうけい》は昔のドキュメンタリー番組で見た事あるかもしれない。
ミリアは、『えっと・・、これどうする?』って、後ろのガイやガーニィを振《ふ》り向いて、目線《めせん》だけで聞いてみるけど。
気が付いたガイが、ふむ、と顎《あご》に左手を当ててちょっと考え始めたみたいで。
隣のガーニィは、『ん?』って顔をしたみたいだった。
そもそも、私たちがずっと最初に求めているあの疑問《ぎもん》、『私たちは、どうしてこの子に声をかけられたんだろうか?』というものの答えも未《いま》だにわかってないわけで。
既《すで》にもう、宇宙《うちゅう》の彼方《かなた》へ飛び去った謎《ミステリー》のような。
「んぁぁあぁン・・っ・・?・・」
「ァあンんん・・?・・・・?」
ああやって2人が睨《にら》み合っているけど。
今も、見下ろすようなケイジに、その子は見上げるように対抗《たいこう》していて、一歩も引かないし。
とっても負《ま》けん気《き》が強く、そして、この子はとても気丈《きじょう》なのかもしれない。
・・・もしかして――――――
―――――この子は実《じつ》は、私たちと話がしたかったんじゃなく・・、迷子《まいご》とか?
そうか、だから人が多くて不安《ふあん》で錯乱《さくらん》していて、突拍子《とっぴょうし》もないことを私たちに・・・?
いや、そんなわけない。
そんなに幼《おさな》くないだろうし。
私と同じくらいの背丈《せたけ》だし。
――――――ふむ。
そんな風に、2人の様子を眺《なが》めていながら考えていも。
妄想《もうそう》めいた想像《そうぞう》が横から飛びついてきて、愉快《ゆかい》にしようと邪魔《じゃま》してくるので。
星が綺麗《きれい》な宇宙《そら》は・・・って、そんな瞼《まぶた》の裏《うら》に一瞬見えた景色《けしき》は、どこかで見た写真のように星々《ほしぼし》が煌《きら》めいている――――――
――――――今はあまり意味の無い想像《そうぞう》は、やめることにして。
それよりも、目の前のこの子が、きっと宇宙《うちゅう》よりも掴《つか》みどころがないことを。
どうにかしようと・・・って、ミリアがちょっと気が付くと、周《まわ》りの人たちもこっちを見ていた。
「ぁああっん・・?」
「ぁアぅっぬぁああンっ?」
って、この子たちのお腹からの大きな声やパワーが、人の目を呼ぶみたいだ。
ケイジもたいがい付き合い過ぎだけど。
周りでこっちを見てる彼らは、戸惑《とまど》ってたりきょとんとしてるようで、当然、一緒《いっしょ》にいる自分たちも、同じような目で見られてるだろう。
正直《しょうじき》、ここで目立ったり騒《さわ》ぎを起こすのは良くない。
だってそれは、単純《たんじゅん》に印象《いんしょう》が悪いだろうし、EAUの集まりの最中に問題を起こすなんて、ガーニィが言ってたことじゃないけど、みんなに『問題児《もんだいじ》』と認定《にんてい》されてしまう。
そう、それに、『今朝《けさ》呼び出された』ばっかりだし。
『呼《よ》び出された』、『ばっかり』だし。
「ぉまえ、このままいったら頭突《ずつ》きいくぞ・・っ?おい?」
「ぬぁああんっ?へっ、ぬぁんっっくぁあんっ?」
「ぁあ?なに言ってんだぁあ?」
不穏《ふおん》な言葉に、凄《すご》んでるケイジたちが、何やってんだか・・・。
そう、『呼《よ》び出された』『ばっかり』だし、・・仕方ない。
止《と》めよう。
で、どうやって2人を止めるかだけど、ずっと意地《いじ》の張り合いみたいな事をやってるわけで・・首を回してガイを見たら、目が合って、こっちへ肩をちょっと竦《すく》めてきた。
「2人とも、ケンカすんなって、」
ガイへ言いたいことが伝わったのか、真っ当な事を言ってくれた。
2人とも、こっちを見ないで唸《うな》り合いながら睨《にら》み合っているままなんだけど。
本当にヘッドバットしそうなくらい近くなってる。
「おんなじEAUだ、お互い仲良くしような?」
良い事を言ってくれる、爽《さわ》やかなガイに続いて、ミリアもこほん、と小さく咳払《せきばら》いをした。
「そうだね。とりあえず離《はな》れよう、2人とも。」
ちゃんとなるべく冷静《れいせい》に。
2人の間《あいだ》に入ろうとしたけど。
「ケンカじゃねぇよ、」
って、ケイジが。
「ぬ?」
「ちゃんと挨拶《あいさつ》したら仲良くしてやんよ?・・!・・」
「おまエがナぁあー!・・!」
ケイジとその子、おでこをこすり合わせたくなってしまってるような2人とも、こっちの声をまるで聞いてないみたいだった。
まあ、ケイジなら、本当にヘッドバットくらいしそうだなって思う。
放《ほう》っておけば本当に少しずつ、じりじりとお互いのおでこを少しずつぶつけあいそうだけど。
手を出そうとはしていないのが、2人とも偉《えら》いというか・・意地《いじ》なんだろうか、ケンカじゃないって言ってたし。
でも、このままだと最終的《さいしゅうてき》には頭突きで本気の決着《けっちゃく》がつくのかもしれない。
・・・。
ちょっと、ケイジがおでこを押さえて蹲《うずくま》っているところ、想像したら、ふっ・・とちょっと笑いそうだけど。
そうなったら、まずいんだけど。
「じゃあな、俺そろそろ行くよ?」
って、ガーニィがそんな事を言うから、ガイがガーニィの肩をがっしり捕《つか》まえてた、逃《に》がさないみたいだ。
「まあ待てって、」
「オレ、関係ないだろぉー?」
ガーニィは、逃《に》げたいようだ。
「情報通《じょうほうつう》だろ?」
「今は関係ないだろー・・?」
ガーニィが言うのもまあ、そうなんだけど。
「話のネタになるんじゃないか?」
「ふざけ合ってるだけでおもしろ話になるか?」
まあ、誰も聞きたがらないと思う。
ミリアは、いちおう念のため。
「言いふらさないでね、」
って、さりげなく、静《しず》かにガーニィへ言っておいたけど。
「あー、まぁ、」
ガーニィがこっちへ、こくこく頷《うなず》いていたのは確認して。
ミリアがガイと目が合ったら、ガイは困ったような笑顔で肩を竦《すく》めたみたいだった。
もうお手上げってことだろうか・・?諦《あきら》めが早いとは思うけど・・・。
まあ、おでこをぶつけ合いそうなこの2人・・・どうしようかな・・・?力ずくで止めても面倒《めんどう》くさそうだし、どっちも簡単《かんたん》には言う事を聞かなさそうだし。
・・あ、この子がおでこを痛《いた》がる姿《すがた》は、さすがに止《と》めないとまずいか。
もし、この子がケンカしたとなったり、EAU隊内《たいない》で暴力行為《ぼうりょくこうい》があったってなると・・・まためんどくさい・・。
もう『呼び出されない』ためには・・。
ケイジなら別に良いんだけど。
私と同じチームだし、大抵はケイジが悪いし。
まあ、このケンカ自体《じたい》が子供っぽいので、罰《ばっ》せられない気もするんだけど―――――
―――――って、ちょっと、はっとするミリアは。
なんか色々考えすぎてて、自分のペースが乱《みだ》されている気がする、さっきから。
えっと・・―――――
――――――だから、ミリアは息を吸って、胸《むね》を少し膨《ふく》らませて、少し深呼吸《しんこきゅう》した。
「ケンカは、ほどほどになー、」
って、ガイが暢気《のんき》そうな声で、ジェリポンに口を付けて飲んでた。
・・・。
「そいや、ジェリポンに新しい味出たの知ってるか?」
「なに味《あじ》?」
「マカダミアナッツ&ココナッツ、」
「美味《うま》いのか・・?・・お、あの子、かわいいな、」
「知らないなぁ、『A』かな?」
って、ガイはガーニィと関係《かんけい》のない話をしているし・・・。
・・やっぱり、私が自分が止めるしかないようだ――――――
「―――――ケイジ、」
ミリアが声をかけて。
「ガン飛《と》ばしてきたのは、お・ま・えが先だろ・・!」
「ア・タ・シ・じゃナイー・・!お・ま・え・ダァー!」
全然、こっちを見ない2人のやり合いが、更《さら》にどうでもよくなってるけど。
他に2人は話すことがあると思うんだけど。
名前を呼んだのにこっちを見ない2人に、また、ちょっと小さくため息を吐《は》くミリアだ。
――――――話を聞かないんだから仕方ない・・こういう場合の対処法《たいしょほう》は決まってる。
なるべく穏《おだ》やかに止《と》めよう、とは思ってる、けど。
こっちを見ていないケイジに歩み寄って―――――ケイジの服の上から、鳩尾《みぞおち》辺《あた》り――――――左手をすっと当てるように―――――握《にぎ》り拳《こぶし》は硬《かた》く1個分で。
「ぉまえがつっかかってぁ・・、ん?」
遅《おく》れて気が付くケイジのわき腹に、ぐっと押し込めた拳《こぶし》・・・は、丁寧《ていねい》に力《ちから》も込《こ》め・・抜《ぬ》こうかと、少し逡巡《しゅんじゅん》はした―――――
「いででっ・・!?」
ぐりぃゅ・・っ――――と、『やめなさい』の心《こころ》を込《こ》めて捩《ね》じったので――――――
「・・っどぅは・・っ・・」
って、ケイジが変な声を出して、よろけるように、それから悶絶《もんぜつ》してた。
そんなケイジを見てて・・。
・・なんだか虚《むな》しさでも感じる。
なんでこんなことをしなきゃいけないのか。
まあ、握《にぎ》り拳《こぶし》は途中で止めたし、痛がるケイジは大袈裟《おおげさ》だとは思う。
私は、ちょっと拳《こぶし》をぐっぱぐっぱして、力の入れ具合《ぐあい》を確かめ直してみてる。
はりきり過ぎたわけじゃないと思うけど。
あっちへ押し出されるようによろけたケイジが、わき腹を押さえていて、こっちを恨《うら》みがましく見てきてる。
「いってぇ、ミリア・・」
大袈裟《おおげさ》だとは思うんだけど、ケイジの気分が最下層《さいかそう》みたいなので良いと思う。
「おまぇ・・――――」
「―――ケ・イ・ジ、」
だから、強めに言い返すように被《かぶ》せたら、ケイジはきゅっと口を閉じてた。
不満《ふまん》そうな顔が、まだこっちに向いてるけども。
ケイジもどっちが悪《わる》いかはわかってると思うし。
まあ、ほんのちょっと、急所《きゅうしょ》に入り過ぎたのかもしれないので、手加減《てかげん》をもうちょっとすべきだったかもしれない、という反省《はんせい》は、ちょっとだけ心に留《とど》めておくことにして。
それより。
「ぬっ?」
私と目が合った、対面《たいめん》で睨《にら》んでたその子は、まだ不機嫌《ふきげん》そうなようだ。
でも、何が起こったのかよくわかってないようだから、ケイジを見たりのこの子が口を大きく開ける前に――――その隙《すき》に、私が右腕をまっすぐに伸《の》ばして、ぱっと手の平を突《つ》き出して見せた。
その子の顔の前へ、牽制《けんせい》のためのものだ。
私の指の隙間《すきま》から、その子の爛々《らんらん》とする瞳《ひとみ》はくりっと覗《のぞ》いて。
引きはがしたケイジを追う事もなく、不機嫌《ふきげん》そうなままだけど、こっちをきょとんと瞬《またた》いてもいた。
だから、聞いてくれる感じがして。
「・・ケイジが、ごめんね、」
もう一度、話しかけてみて・・・。
「俺じゃなくてそっちだろ、んぐぁ、」
文句を言いたそうなケイジは、ガイに捕《つか》まったみたいだ。
と、ぴく・・っ、と目の前のその子が何かに気づいたのか、じぃーっと私のその手の平を見てたり、こっちの顔を交互《こうご》に見てたりで、なにやらいろいろ考えているのか、落ち着きもあまり無い。
――――――・・・そんな様子を見てて、脳裏《のうり》によぎったシーンが―――――『すごい格闘家《かくとうか》が、今まさに猛獣《もうじゅう》を相手に!』――――――っていう。
なんか、アナウンス付きで、ドキュメンタリー映像《えいぞう》が脳裏《のうり》を不意《ふい》に、気まぐれに駆《か》け抜《ぬ》けていった気がする。
緊迫《きんぱく》・・してるわけじゃないんだけど。
でも、もっと小さくてかわいい動物《どうぶつ》とじゃれ合う・・・いやダメだ、忘《わす》れよう。
どんなものでも、この子になんか失礼《しつれい》な想像《イメージ》になりそうだし。
「なにしてんだ?」
「困《こま》ってるんじゃないか・・?もしくは挨拶《あいさつ》か、」
「なんだそれ、笑える」
・・後ろで好き勝手《かって》言っているケイジやガイや、ガーニィの声が耳から入って来てた――――――・・・ので、私はちょっと眉《まゆ》を寄《よ》せたけど。
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