《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』

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第2章 - Sec 2

Sec 2 - 第16話

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 『ず、『ここ』は特殊な施設しせつだ。』

小さなステージ上壇上の彼がマイクを通して話す言葉をく人たちから、少し小声こごえの会話がれてくる。

『気になっていたんじゃないか?ここはどこだ?って。俺も、お前らをすっきりさせてやりたいところだが、・・まあ、どう言ったらいいか、』
少し歯切はぎれの悪くなった彼へ、く人たちの反応はそれぞれで。
近くの人と短い言葉をわしたり、じっと彼を見つめている人もいたり、それでも彼らは今はみんなだまって待っている。

そんな中でミリアも、説明を始めようとしている彼を見ながら、サンドイッチの包みを持ってるままに、もぐもぐと咀嚼そしゃくしていた。

――――――なにかの異音いおんがそんな雑音ざつおんの中に聞こえ始めていた、のに気が付いて。
顔を上げたミリアが、横へ視線を移すと、檀上だんじょうの彼らの後ろ、壁の一面が動いたのか、穴が開いたような隙間すきま下側したがわから広がっていくように。
動いている、ゆっくりとシャッターのような構造こうぞうが、壁の広い面から広がる穴のような向こうがわに見えてくる。

『お、もういいのか』

とても大きな窓なのか、複層ふくそうのスムーズなモーター音がちょっとだけ耳に残るような中で壁が開いていくと、大窓になっていく向こう側には外の景色が、まるで一望いちぼうできるような光景に変わっていく。
「ぉお・・?」
「なんだあれ・・・?・・」
『ヌぁ・・・!?』
周囲が戸惑とまどう中で、ちょっと聞き覚えのある声、大きくて甲高かんだか興奮こうふんした声も聞こえた気がするけれど。

「マジかよ、」
「わー、」
それより、気がついていく周りの人たちが、おどろ歓声かんせいこぼれ始めているみたいだった。

『ちょうどいいな。
お前ら、直接ちょくせつ見てくれ。
手間てまはぶける、移動していいぞ、よく見える方へ』

彼の言葉が出る前にも足を向ける彼らがいる、向こうの壁へ、き通るガラス窓のような、天井のはしまでも開いていく向こう側の光景へ、一斉いっせいに歩みり始めている。
「ぅわーう!」
「おい、走るんじゃねぇ、ロヌマ・・おぉ、なんっだ?」
「ぅお、すっげぇ、」
すぐった人たちもいたけれど、ミリアも一歩目の足を出して、ちょっと気が付いてとなりへ顔を上げた。
向こうを見ていたガイが気が付いて自分と目が合って、って右目でウィンクしてきたガイの意思も同じようで、ミリアも一緒に、周りの人の流れと同じく窓の方へ歩き出した。

それから、ちらっとミリアは、ケイジとリース達も付いて来てるのを、一瞬だけでも確かめながら歩き出していた。

向かう先は人が集まるその大きな窓の、白い壁の景色があるようだった。
普通のベランダのそれよりも大きな窓ガラスか、と遠目とおめには思ったけど。
ガラスの表面に走るホログラムのようなあわい光の欠片かけらが一瞬だけ、端から移動したような、ほころぶように淡い光の反射はんしゃが窓から見えた気がした、けれど。

その向こう側の、外の景色は想像していたよりも白いのか。
屋外の景色じゃない・・それ以上に、はるかに広くて遠くが見えない、もっと白の景色だった。

『ひゅぅ・・♪』って、隣のガイが口笛くちぶえいたようで、おどろいたようだ。
「ぉぉ・・?」

『それ』は白色ベースの壁に天井も囲まれた、巨大な建造物の内側らしき景色で。
ゆかには緑色の・・木々?が生えている一部のエリアも見えるが、目をらせばかなり遠くの遮蔽物しゃへいぶつも、建造物けんぞうぶつもあるので見えないが。

 『俺たちは、この場所で訓練をする予定だ。』

・・壁の広さは何百mもありそう、なのか・・?

『広いだろ?
調整に時間を食ったのが、納得なっとくしてもらえて何よりだ。』
ステージ上の彼が話していたのに気が付くのに、少し時間がかかってミリアは振り返った。
周りでは、まだ窓の外を見ている人たちも多いけれど。
「わぁーっはっ!!っはぁ・・!」
「なんっっだぁこりゃぁあ?」
周りの興奮こうふんまじえた声に、ミリアもまたそっちの窓の外を見てしまう。

「ぉお、すっげぇ、」
「わー・・、」
「すご・・・なんだろ、あれ、ねぇクロ、アレアレ、」
「なんだこれ?なんでこんな所に、こんな・・?」

・・そう、そもそも、こんな人工的でシンプルな光景の施設内に、緑の木々が生えていたり、建造物があるのも、異様いようだ。


もっとかぶりついてもいいぜ、はっは。

こいつは最新さいしんのMR(複合現実ふくごうげんじつ訓練施設くんれんしせつだ。
名前は『STRA+Dストラ プラス ディー』、『STRADストラ ディー』とか言うらしい。
多分なにかのりゃくだな。
それ以外は知らん。

俺たち・・、ぁー、『EAU』と、協力きょうりょく関係にある他の組織とで共同きょうどうあつかいになってるけどな。

「それって、軍部が関係してるのか?」
『ん?・・まぁ。
・・・おたがいに詮索せんさくしない方がいい相手だろうが。
まぁ、一枚んでるかもな?とだけは言っておこうか、常識的じょうしきてき範囲はんいでの話だよな、』

そんなやり取りを片耳かたみみにしつつ、ミリアが窓の上を、天井の端の一部の向こうを見上げてのぞき込めば。
まるで、シェルターか、壁だった場所が高くまで上がっていき、照明しょうめいも見づらいが、天井全体が明るい複雑ふくざつ機構きこうになっているようだ。
鉄骨てっこつのような骨組ほねぐみが重なり合っているかげも多少は見える気がする。
・・って、窓にっぺたがちょっと付いたので、窓に片手をちょっとえたけど。
指先に無機質むきしつかたいガラスの、ひんやりした感触かんしょくがして、すると、ふと光の波紋はもんのような、わずかならぎが透明とうめいなそれの表面ひょうめん内側うちがわに見えた気がした。
さっきもだけど、これはただの窓じゃなくて機械的きかいてき機能きのうが付いているものみたいだ。


おっと、忘れてた。
お前らが今見てるのは高度の機密きみつあつかいでもある。
ベラベラしゃべるバカもこの中にはいないと思うが、あとで各自の責任者せきにんしゃから注意されるぞ。
必要ならあらためて誓約書せいやくしょも書かされるかもな、ぜったいバックレるなよ?

「え、マジ・・?・・・」
「そんなもん勝手に見せんなよ、同意どういが・・・」
「おいおい、いつもサインしてるだろ」
「あ、そういやそんなんあったヤツだった、」
自覚じかくがねぇやつらも混じってるみたいだな。こりゃちゃんといろいろ説明した方が良さそうだ。』

まあ、そう、今回もトレーニングだからと、事前にいくつかの書類しょるいにサインを私もしたけれど。
いくつかの同意どうい書・確認かくにん書やらの中に『任務にんむ中に見聞きしたことを他言たごんしないこと』っていう、いつもの基本的きほんきな、そんな主旨しゅし条項じょうこうもあって、今回のこれにも当てはまるのは当然とうぜんなわけで。
そもそも、ここへバスで向かう時も行き方はかくされていたし。


ちなみに『こいつ』は、実際じっさいには『MR(複合現実ふくごうげんじつ)』でもあるし、『RA環境再現シミュレーター』と言う分類ぶんるいでも正しいらしいが。

こいつは、そのハイブリッド掛け合わせ拡張アップグレード版みたいなもんだ。
『EAU』の施設しせつにもあるヤツ、知ってるだろ?あれがMR(複合現実ふくごうげんじつ)シミュレータだ、ほぼな。
まぁ、この辺はめんどくせぇなら、忘れてもいいが。


―――――窓の向こうの景色は見渡す限りの、最初は白いと思ったけど。
よく見れば灰色に近い色が混ざるような景色が陰影いんえいを作って、地形ちけいのまだらな輪郭りんかくを作っている。
多少はまゆせるくらい遠い床も壁も、巨大な灰色の素材でできているようだ。
シェルターみたいなもの、なのか・・・?
人工的じんこうてきな、そんな光景に少し不自然ふしぜんさを感じるのは、小屋こやか、それ以上に大きな建造物けんぞうぶつもいくつか、遠くに見えているからか。
あれらが、『環境再現かんきょうさいげん』に重きを置いている、と彼の言った機能に関係はあるんだろう。


俺もここで模擬戦もぎせんをやったことが数回ある。
ひかえめに言って、かなりたかぶる。

全体の広さは・・、俺も知らされていないが。
極秘事項ごくひじこうってヤツだ。
今回は70万平米程度ていどのエリアが俺らに割り当てられている。


「マジかよ・・?」
「こんなでっかいシミュレーター・・聞いた事ねぇ・・・」
「70万平米って、4ブロックぐらいの広さか?」
「そんくらいか?」
「広すぎるし殺風景さっぷうけいだな・・・、」
「よく見ろよ、いろいろあるじゃんか、」

そんな広さのシミュレータが・・?・・・そんなの・・・・そもそも、そんな広い訓練施設くんれんしせつや、軍部の基地なんて、リリー・スピアーズの中にあったのか・・・。
聞いた事無いけれど・・・。
確かに、ドームのリリーには密集みっしゅうした建物が多いから、外観がいかんでは中がわからない施設はたくさんあるし、フロアで管理されたり、別の建物が中でくっついているものもある。
特に、軍部が利用する区画にはいろいろ秘匿ひとくされているものもある、って聞く。
だから、ここも研究用の、訓練用の・・?・・・特殊な施設・・・ふむ。
なんだか、本当に、『EAU』や『リプクマ』も、私たちに秘密ひみつにしてる事が他にももっとありそうだ。
もしかして、ここはリリーのドームの外まではみ出しているんじゃ・・?っていうのは考えすぎか。

あと、今気が付いたけど、ステージの後ろのモニタディスプレイがいつの間にか消えている。
というか、向こう側の景色を映す壁一面の、窓の一部に変わっていたようだ。
ぎ目が無いフレームレス(ベゼルレス)だからディスプレイのあとも無くなっている。

「これは、あれか?もしかして、『EPF』用のヤツなのか?」
そう、大きな声を上げて質問しつもんする誰かがいた。
それで、周りの人たちの視線がステージから降りて来ていた彼へ集まる。

『ぁあ。いまのは、いい質問だ。

ここは、特能力者とくのうりょくしゃ、に向けた調整ちょうせいをするためのものでもある。』

「ぉお・・?」
特能力者とくのうりょくしゃ用の試験場シミュレーター・・・?」
「そんなの作ったのかよ、すげぇな」

『訓練場は広けりゃ広いほどいい、ってモノでもある。
特に、特能力者にはな。
少なくとも俺はそう思っている。
でもそれ以上に、面白い機能もたくさんあるぞ。』

―――――窓の向こう。
その向こうにある広大で灰色がかったフィールド、・・ちょっと違和感いわかんがあったのだ、最初から。
動いているのだ、少しずつ、建物のようなシルエットが。
ほぼ音も無くモニタしなのかわからないけど。
メンテナンスなのか作業をする人が数人は、歩いているのも見える。
目をらさないと、彼らはほんの小さなシルエットにしか見えない。

ここは本当に、以前、『リプクマ』の方でやった合同訓練の施設よりもかなり大きいだろう。
この壁の窓も大きく開いたように最初は見えたけれど、よく見れば強化ガラスっぽい窓のようで、実際にはこの部屋のスペースを色んな想定そうていから、こちらをまもっているようだ。

『高級な『模擬戦《シミュレーター》』にさわれるんだ。
お前たちはラッキーだな。

技術的な説明ははぶくが、使い勝手は俺たちが普段ふだんから使用している訓練施設と大体同じだ。
ガジェット、ライフル長銃の各種デバイスに、IIS(連統合システム)や、そのほかのガジェットの互換ごかんもある。

ここまで言えばわかるよな?
でっかい広場を用意した。
楽しそうな公園に来たら、やる事は1つだな?


「マジか・・?」
「はぁっはっはっは、」
「えっ、なに!?」

模擬戦もぎせんをやるぞ。』

おおぉおおお・・・と、周囲のみんなからいろんな声があふれてきた。
ぴゅぅ~♪っと指笛ゆびぶえらす人もいるし。
みんな楽しい事は好きなようだ。

『よし、じゃあぁ・・、後はたのんます、』

と、彼が、ステージの上を振り返れば、次に前に出てきた彼がいた。
また身体のがっしりした人で、大きな風格ふうかくのある人だ。

さっきまで説明してた彼よりも年上っぽいし、あつ胸板むないたに二の腕の筋肉が盛り上がっていて、シンプルなTシャツのすそがはち切れそうな、見るからに身体をとてもきたえている人だ。
それに、ふかいしかめっつらで、強面こわもてで強そうな、軍人のような人だ。
彼は口元のマイクを通して、その落ち着いた様子でこちらを見回した後、口を開いた。

ゆっくりと。

『EAUは死ぬ、可能性かのうせいがある。』

そう。

・・・マイクを通した低い声は静かで、落ち着いた・・、物静ものしずかな、でも存在感そんざいかんがあるから。

周りの人たちが振り返る。
ひゅぅ~♪、って誰かが軽い口笛くちぶえいたけれど。

みんなの前に立ち、場を受け取った彼は、その威圧いあつするような強い目を私たちに向ける。
全員を見ているようで、私とも目が合っているかのような、そんな存在感そんざいかんなのか・・。
・・彼は決してにらんでいるわけじゃない、とは思う。
けれど、みんなも静かになっていった。


・・俺は、『ライダン・ケプロ』だ。
今回の仕切しきりを任されている1人。
訓練のコーチもたまにやっている。
知っている奴らもいるだろう。
よろしく。

本題ほんだいに入ろう。

お前らが今回は訓練をするという事だが・・・。
模擬戦もぎせんをやる前に、俺から言いたいことが1つある。

EAUは、特務協戦とくむきょうせんだ。
特殊な仕事である。
戦う事だ。

普段からうんざりするほど言われ続けていると思うが。

特能力者と相対あいたいする、特能力者じゃない奴との場合もある。
お前たちは銃を持つ。
目の前のヤツを制圧せいあつするため、じゅうかまえる。
お前たちには特能力者の仲間もいる。
世間せけんでは・・特能力者が何でもできる、危険だ、うらやましい、・・ああだこうだ、毎日のように、妄想もうそうれ流されているが。

しょせん特能力者なんて、もろいもんだ。

アサルトライフルを用意しろ。
俺がつ。
その弾は身体を貫通かんつうする。
即死そくしだ。

特能力者だろうと、非特能力者だろうと、そこに大きな差は無い。
だが、兵士に差はある。
熟練じゅくれんした兵士には、なにが差を作るか?

『差』は特能力の有無うむだけじゃない。

技術ぎじゅつる。
あらゆる技術が、人間の生死せいしを分ける。

そう教え込まれているはずだな?


・・彼が一旦いったん、口を閉じた。
息をついた、のかもしれない。
誰かの息をむ音も聞こえた気がした。


・・だが、何度も聞いたその言葉をり返すだけじゃ、げいが無い。
だろう?
俺が常日頃つねひごろ、思っていることだ。

訓練くんれんができると、今日は。

『これ』の世話になる。


彼は、そのシミュレータ・・、『STRADストラディ・・』だったか、窓の向こう側へ親指を立てた。


観測かんそくもできる、優れものだ。

ギミックも、いくつかある。
俺もしたギミックをげるなら。

死ぬことを含めた訓練ができる。



・・そう・・・・―――――――

『実際に体感してみろ、と言いたかった。
なかなか、衝撃的しょうげきてき体験たいけんができるだろうな、・・はは、』

・・って、初めて彼が笑った気がする。
みしめたように、口端こうたんを持ち上げて、ニヤリと。

・・・。
周囲がちょっと、静かになっているけれど。

・・・むぅ。
彼のふくみ笑いのような様子も、ちょっと引っかかるけど。
ただ・・・『死ぬことも含めた訓練』って、なんだろうか?

『ケプロ、あんまりおどかし過ぎるなよ?』
『・・そんなつもりじゃないですよ、隊長。
でも、全員|賛成さんせいしましたよね?』
ステージの上と、向こうで見守っている隊長の誰かか、が軽く声を掛けてた。

『それで・・、』
「質問していいですか?」
と、聴いていた中で、軽く手を上げた彼がいて。
『なんだ?』
「それは、どういう意味ですか?」
『・・死ぬ訓練が?』
「はい、シミュレータっすよね?怪我けがまでやるんですか?」
『・・まぁ、そういうようなことだ』
「マジかよ、どうやって?」
『やってみりゃわかる』
「・・・」
「・・頭おかしいよな、」
近くで誰かがつぶやいたようなのが聞こえた。

『少し、補足ほそくをしたい』
と、りんとした女性の声、聞き覚えのある・・向こうで、アイフェリアさんが動くのが見えて、マイクを通して伝えてきた。
周囲のみんなも少し、さわっとしたけれど。

『ああ。』


ここでは『RA環境再現』の技術を用いた訓練が可能だ。
それに加えて、特殊装備とくしゅそうびを用いる事による疑似的ぎじてきな感覚を作ること、体験するというような事が可能かのうだ。

ケプロが言ったのは、たれれば、それなりに痛い。
そういったようなことだ。


アイフェリアさんは、そう、・・って、事も無げにすっと言ってたけど。

「はぁ・・?」
「ちょ、怖いんですけど・・」
「どういうことだ・・・?」

『安心してくれ。
安全性は確認してある。
実戦に近い経験にまさる訓練は無いということだ。』

って、アイフェリアさんが追加で補足ほそくして、口を閉じたようだけど。
ちょっと、えっと・・・今の説明だと、・・・どういうことだろう?

『事故が無ければな、』
って、低い声が、言ったのは壇上だんじょうの彼か。
『・・ケプロ、』
冗談じょうだんだ、』
あきれたような声と、ぜんぜん、笑えない冗談だけど。

「オレ、いたいのいやなんだけど。」
「オレもだよ、つうか好きっていうヤツいねぇだろ」
って、周りの人たちのは素直すなおだ。
「なんなんだろうな、一体・・」
怪我けがすんのか?」
「どうやって・・?」
「やばいのか・・・?」
「頭おかしいって、」
なんだか、ざわめき始めている。

ミリアは、傍のガイをちょっと見上げれば。
ガイも向こうをじっと見ていて、浮かべた表情も無い、真顔まがおなのかもしれない、少なくとも、いつものように、柔和にゅうわな感じじゃなくって。
ミリアは少し・・窓から離れつつ、周りをもう一度、さり気なく見回してみる。
ちょっとずつ、周りの人たちの顔つきも変わってきているような気がして。


楽しいサバイバルゲームだぞ?俺が保証ほしょうする。

って、最初に説明してた彼が、横から、だいぶ軽い調子ちょうしで言ってたけど。

『ここは待合室まちあいしつみたいなものだ。』
って、ケプロさんは。

『そして、向こうは戦場だ。』
それは、窓の外を言っているようだ。
ふむ。
・・待合室まちあいしつにしては広くて、すごく洗練せんれんされているから、VIPルームとかそんな感じの居心地いごこちの良さだと思ってたけど。

『安心しろよ、無理強むりじいはしないぞ?
見学者なんかもいるんだ。
強制きょうせい参加なんかやったら後で、こっちがえらい人に文句を言われちまうからな、』
って対して、軽い彼がそう言ってるけど。

ふむ・・・。

『だが、これだけは言っておく。
お前たちが目指すのは、訓練トレーニングを完ぺきにこなす事じゃあない。
現場に出る、えきる実動隊としてのちからだ。
技術、特能力とくのうりょくうん、何でもいい。
何が起きても対応できる能力が、何を差し置いても優先ゆうせんされる。

俺たちは死ぬことはできない。
自分と、救助者きゅうじょしゃと、関わるいのちすべて生かして戻る事が本懐ほんかいだ。


そう、低い声で、彼は静かに大切な事を伝えてくる。

本番ほんばんならな。』
って。

ここに来たからには、何度でも死ねる。
仕留しとめられる感覚をしっかり覚えろよ。


・・彼の言っている事は。
「・・・・」
そんなに間違いはないと思う。
「・・そのために訓練をしてきたんだろう?日ごろの訓練の成果を見せてみろ」
「ここでびびるのは無しだぜ?へっへっへ、」
「誰がびびってるって?ぁあ?」
周りの声が、熱が徐々じょじょに上がってきているみたいだ。

ミリアは、その少し戸惑とまどいもまだある、まわりにある異様いようあつも感じながら・・また少し窓から離れる。
コーチからそのステージへ、冷静な目を向けて、周りの施設しせつの様子や、天井なども見回していた。


今から希望した者たち、あるいは選ばれた者たちで、実戦にそくした模擬戦モックバトルをやる。
最初に出られる希望者きぼうしゃを今からつのる。


「いきなり模擬戦もぎせんかよ・・っ?」
「手を上げないのか?」
「お前が行けよ」


ルールは、殲滅戦フルシューターだ。
プレイヤーは混合、その場でチームを入れ替える、人数は先ず10人ってところか。

今日はたっぷりと時間がある。


「10 VS 10?多いな・・?・・・」
「あの広さだぜ?ぜんぜんだろ、」
「機動系の事も考えてるんじゃないか?」
「さっき誰がやるって言った?やらねぇのか?」

『・・先ずはやってみて実感する方が早いだろう。

または、こちらが予定した者達がやる模擬戦を見てからでもいい。
希望者きぼうしゃがいれば、優先ゆうせんして組み込もう・・・―――――、』

――――――周りが少しざわめいたのに、ミリアは気が付いて、辺りを見回していた。

その理由はすぐにわかった、ステージ下の、そこに立ってる人が、最初に手を高く上げていたからだ。

『・・判断はんだんが早いな。
希望者きぼうしゃだな?
所属しょぞくと名前を言え、』
そうたずね終える前にも、挙手きょしゅをした彼の周りの、おそらく同年代どうねんだいの青年たちも、3人、全員で4人がまばらに、彼ら自身のタイミングで手を上げ始めていた。

「・・ディー ・・ ハロゥ = ギッパ。『Class - C』、だ」
「俺も同じく、ミリュモ = ル = サラマン、で~す、」
「オルビ = マイヤーです、同じく、『C』」
「ガリナ・・ エルポ、同じ・・・、」
「俺らもやりたいんすけど~、いけるんすかー?」

『ほう。4人だな。希望者は歓迎かんげいだ。』
ステージ上では向こうのスタッフへ目配めくばせをして、携帯けいたい用のデバイスでチェックや手続きを始めているようだ。

――――――なんだか、言動とか雰囲気に、それぞれくせがちょっとありそうな彼らだけど。
周囲の中でミリアも、彼らを横目にながめている分には、別に気にする必要もない・・・。

「Cのやつらか・・」
そう・・・。
「おいおい、大丈夫かぁ?そんな細くてよぉ、」
なんだか、野次やじっぽい何かも出てるみたいなのが耳に入ってくるけれど。

彼らは聞こえているのか、いないのか、気にするそぶりも見せずに振り返らない。
ニヤニヤ笑っている横顔も見える。

『他には、いないか?』

・・そんな感じから、その声で、ミリアはふと思い出して。
手に持ってた食べかけのサンドイッチ、残りあともうちょっとのそれをかじった。

まだやわらかくて美味おいしいタマゴサンドイッチをモグモグ、咀嚼そしゃくし始めて。

顔を上げ、動きがありそうな周りの様子にその目を移す――――――
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