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第2章 - Sec 2
Sec 2 - 第15話
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―――――ちょっとした騒ぎがあった、と――――――そこの衆目に紛れ込んでいた遠目の視線が。
その小さな揉めごとへ、傍の仲間と目配せして、彼らがまた目を向けていた。
「あいつら元気有り余ってんのかな、」
「知り合いだって?マシュテッド、」
「いや、あいつらとは話したことはないよ。トレーニングで見かけたぐらいかな」
話しながら向こうへまた目をやる彼らは、ただ少し退屈な時間を過ごしているだけだ。
顔を上げた1人が手持ち無沙汰に、椅子やテーブルに置いていた手を離したり。
「なんだ?なんかあったのか?」
仲間と会話して暇をつぶしをしていた1人や、飲み物のボトルのラベルから顔を上げたり、テーブルの縁に寄り掛かっていた身体を起こして向こうを覗き込んだり。
「俺らとそう変わらないよな?なあセイガ、」
1人は、テーブルのスポーツドリンクを手に取って喉を一口湿らす。
「あれ、なんだよ?なぁ?」
「『C』の奴らじゃねぇかな、それっぽい格好だしさ、」
「やっぱそう?」
「プチ暴れたのか?」
「そんな感じか?」
「『C』の知り合いなんているヤツいる?」
「いるか?この中に、」
「外組より、内部組のヤツの方が知ってるんじゃねぇの?」
「なぁなぁ、やり合ったらどっちが勝つと思う?」
「ルールは?」
「とうぜん、フルでの殲滅戦、撃ち合いつったらそれだろ?」
「『C』の奴らって、お守りつきなんだな。」
「『C』は撃ち合いは素人って聞いたじゃんか?」
「なら余裕じゃん?」
「ガーニィ、お前もなんか知らんの?」
「あん?」
そこで別の話を仲間としてたガーニィが、こっちへ振り返っていた。
「ここって、いろんなことが起きて楽しい」
近づいてくる間にも好い笑顔をしてるが。
「人が多くてワクワクすのはわかる、」
「で、あいつらって?」
「見た事はあるな。でも、あいつらあんなに仲が悪かったかなぁ、」
「んなの緊張してるからだろ、わかるわかる、」
って、セイガの横のデンが1人で納得した風に頷いていた。
それを見た彼らは少し顔を見合わせたりするわけだが。
「それでも『優秀な奴らの、』なんだろ?『C』の奴らの、」
「実戦投入の試験って話だぜ、きっと」
「マジで?」
「噂だろ?どっかで聞いたよ」
「テストなんか、ここじゃあみんな、いつもやってるじゃんかさぁ、」
「あいつら、戦闘のプロじゃないんじゃなかった?」
「訓練は受けてるらしい。」
「へぇー」
「マッシュ、勝てんのか?」
「なんだよ、その呼び方、」
「どう思ってんだよ?『B』の顔として比べたくなるじゃんか、」
「なんだそれ?俺が?」
「『機動系』は花形だしな」
「・・そういう言い方は好きじゃないな、」
「なんで?」
「そういうもんじゃね、」
「一目置かれやすいってのは確かだけどな、」
「一目っつったら、あのクロって奴―――――
―――――『3分。3分後だ、ツアーの説明を始める。それまで・・・』
「逆に待ちくたびれてんだよ、」
「早ぁやく始めろよぉおぉおおー」
大柄の男たちが太い声で、子供のように野次る彼らもいるようだ。
『大人しく待ってろ、つってるだろ。3分以内には始める、本当だ』
知り合い同士のノリなのか、よくはわからないが。
「罵声とかこわくね?俺もあいつらんとこ行かなきゃだ、」
ガーニィが少しわざとらしくブルっと震えて、クルっと踵を返した。
「『クロ』ってヤツがなんだ?」
呼び止められたガーニィが、顔だけで。
「クロ、あぁ、あいつ、『C』内ではちょっと注目されてる1人って聞いた、」
「マジか、」
「それ以上はよく知らん、っじゃ、」
「そういう情報、ワクワクする、」
それを聞いて、にっと笑って見せたガーニィがちょっと急いで、小走りに離れて行くわけで。
「クロ?」
「あいつか?」
「あの女、クロ、」
「ぁあ、髪短いほう?」
「でも、あいつってこの前のトレーニングじゃ、運動面は大したこと無さそうだってさ?」
「見たのか?」
「前の合同訓練で。ちょっとだけ、まず『機動系』じゃねぇな、」
「あ、『金色』のヤツか」
「金色?」
「なんだそれ?」
「マシュテッド、見たのか?」
「訓練終わりに、ちょっと人だかりができてたんだ、」
「戦えんのか?」
「さあ?」
「そんなのわかんねぇし、」
「そもそも、それを確かめに来てんだろ?ここに、」
「それな、」
「だ、」
「俺らだってそうだしな」
「ははは、だな。」
「いま笑ってる奴は余裕、認定した、」
「『果たして、ご馳走を『C』に取られてしまうのかぁあ・・・?』」
「なんだそれ、へへ、」
「ヤベェ、そーなったら姉御にどやされる、」
「お、デンたちんとこの担当、かなり厳しいって――――――
――――――――ぁぁあ・・?お前らの仕事だろうがぁあよぉおおぉ・・・」
地響きのような声が突然、響いたのだから。
ビクッと震えた彼らは、周りをきょろきょろ見回していた―――――――
――――――――うゎぉ?」
「なんだ?・・?・・」
大きな腹からの声に周りが反応する、そんな中をガーニィも小走りの間に、びくっとしていたのだが。
「バークの野郎。相変わらず声がでけぇ、」
周りから聞こえた舌打ちついでの文句にピンと来て、ちょっと目を凝らす。
「バーク・・?・・・」
ガーニィが人知れず、にっと笑って、その声がした向こうを覗こうとしつつ。
「ガーニィ、」
「どこ行ってたんだよ、」
すぐそこにいた仲間たちに呼ばれたので。
「もう始まるってよ」
「おー、・・あ。あっちにマシュテッドとかロアジュたちがいるぞー」
「知ってるよ、」
仕方なく、軽いステップでくるっと仲間の彼らへと合流する――――――
――――――――お前らに言ったんだぜぇ、おい・・」
・・・ねめつける様な低音の声で彼は、中年のいかつい顔を、少し無精な髭面で、むさくるしい印象の顔を歪めて凄む・・・。
「つったってなぁ、こいつが勝手に・・」
「ぁああぁ、めんどくせぇ・・、マージュ、やれよ・・・」
「ぁあん?」
呼ばれた彼女、大柄の筋骨隆々のマージュは、めんどくさげに不機嫌そうに、その椅子に腰かけているまま、大きく肩を動かして不満を見せた。
「おい、聞けよ」
「『めんどくせぇ』が本音だろ、先に漏れてるぞ、」
「うるせぇ、ゴドー、」
ゴドーに横柄な大きな図体の彼は、ぶっきらぼうなしゃがれ声が独特な響きでもある。
無関係な周囲の彼らも、顔見知りだが、慣れたはずのその大きな声の抑揚に、たまに振り返るくらいだ。
「ヤダよ。あたしの仕事じゃねぇっつってんだろ、バーク。」
マージュは、太くて逞しい脚を組み、椅子の上でそのタンクトップの腕に盛り上がる上腕筋を動かし、口に運ぶ黒い『ライスボール』、黒い海苔で巻かれた、『オニギリ』とも言うんだったか、それを齧った。
中身は白くて柔らかい米粒、甘味さえ感じる米が詰まっている、その中には塩漬けの魚の味のペーストらしきものが入っていて、独特の香りも悪くはない。
「リーダーの俺が言ってんだぞっ・・」
バークが不満を懇願しているようだが。
「そりゃ信頼だろ、」
「ぶっ、信頼、」
「笑うんじゃねえぇえよ、ゴドー。・・はぁ~、俺は恵まれねぇなぁ、部下になぁ、ぜんぜんなぁあ・・・」
バークが大きな図体でため息を吐く、その様がわざとらしいのだが、そのやる気を失くした目線は『そこ』に留められていた。
さっきから言い合っている彼らの横で、マージュの横で、大柄な彼らに囲まれていても、気にも留めずに腰掛けてオニギリを頬張っている、特に小柄なロヌマがいる。
というか、食べていてご機嫌な様子は、話もぜんぜん聞いちゃいないようだ。
さっき、どこからかそのオニギリを持って戻ってきてから、美味しそうに口に詰め込んでいる。
連れ帰ってきたゴドーとシンに話を聞いていたので大体わかったが、ちなみに、マージュが齧っている『それ』も、ロヌマが持ってきたヤツを半分コしたものである。
それは、シンたちに『食い過ぎだ』と言われたからだが。
「そもそもゴドーの所為なんだろ・・?」
マージュがそう、言ってきた。。
「おぉおっと、マージュおまえぇ、」
「ゴドーっ!」
甲高い声のロヌマが急に、とりあえず元気にご飯粒を飛ばしたが、みんなの注目を集めるくらい邪魔してきたのは、ただ、反射的に名前に反応しただけのようで、口元を拭うロヌマは、話の内容をやっぱりそんなに聞いちゃいないと思う。
「・・あぁん?どういうことだ?」
もうそんなものも慣れてきているバークがゴドーへ、ジロりと眉を寄せれば、ゴドーは顔を背けて、宙に浮いてるゴミでも探しに、目があらぬ方へ泳いでいた。
「・・・・」
「・・っ・・・」
それでも、バークとバッチリ目が合ってしまったゴドーが、慌てて取り繕うようだ。
「ちげーよ、ちげーよ、俺だけの所為って言うなよな?」
「あぁん?」
「待てよ、その言い方も良くねぇな。だってそうだろ?おかしな噂を流す連中なんてのはそこら中にいるんだぞ?そりゃあ俺も注意しようとはしたんだけどな・・言うだろ?『冗談は真に受けたヤツが、バカを見る』ってな?・・・・な?」
歯を見せてウィンクするゴドーが、言い切れていなかったそれを。
「あぁぁんだとぉお・・・?」
バークが、やはり低音を響かせた・・・腹に溜め込んだ衝撃を、次の瞬間にまで備えて・・。
「そりゃあ・・、そうだよなぁ・・・、」
低くてでかい声のバークが、心底、ため息のように・・納得したようだ。
「・・はぁ?」
マージュが、食べながら見てた顔を顰めていたが。
「だろぉ?」
ゴドーとバークがわかり合ったようだ、笑みを見せてジェスチャーで指をビっとお互いに差し合い通じ合った。
『お前、なかなか言うじゃねぇか』とでも伝え合ったようだ。
「んなわけねーだろ、」
マージュが文句を言っていたが。
「おぉい、ロヌマぁああ・・!!遊んでんじゃねぇぞぉ・・!」
それは聞こえないのか、バークがロヌマを腹の底から震わせるように𠮟っていた。
「はぁ・・、」
それでマージュが頭が痛そうなため息を吐いた、・・オニギリをその口に全部押し込んだが。
「ふゎあ・・?」
ちょっと遅れて気が付いたロヌマが、口を大きく開けたまま、バークたちにきょとんとしてた。
「勝手にどっかに行くんじゃねぇえぇよぉお、お前はよお?しかもさっきから食ってばっかりだろうがよぉお・・」
「ふぁあ、ッフん・・っ・・」
モグっと、それでも、言われながらも食べたロヌマがオニギリをモグモグしながら、バークを。
「聞ぃけえよおぉおお、」
バークが文句だが。
「しかもお前、似合ってなかったぜ、ロヌマ。あのいびりキャラ、はっはぁ、イかした悪役ぽかったぜ、」
ゴドーが既に調子が戻って、ニヤっと、悪戯げに親指上げをロヌマへ見せてた。
「ふぁがー・・・なぬっ!」
ロヌマがオニギリを食べようとして、驚愕してた。
「ぁ、くやクっ・・!っ・・?」
「あぁ?なんだぁ?どうしたぁ?」
「ぶははっ、」
バークが不思議そうで、ゴドーはロヌマを笑ってたが。
「ははぁ~ん・・?カマしにでも行ったのかぁ?」
バークは自分で納得したようだ。
「ロヌマ・・、オレたちゃ舐められたら終わりの稼業だぜ?・・前も言ったかぁ?いいか・・?戦いってのはなぁ・・・?」
「あくやくじゃないぞぉ!・・・!」
「『ハッタリが大事なんだぜぇっ』、聞けよ、俺の話をよぉお、」
「ったく。ロヌマ、いい加減覚えな。こいつらは悪い奴らだ、って。」
「・・ふぁぐっ、」
って、ロヌマが返事なのか、それよりも、オニギリを齧っているけれど。
「お前ら静かにしてろ、もう始まるって言ってんだろ。特にバーク、ったくよ」
ステージの上から注意された、スピーカーは通ってないが。
「あん?おぉっと、すいやせん、」
「ロヌマもな、」
「オう!」
「・・声が大きいんだよ、お前らは」
「いやーすいやせん、なんつっても、部下に恵まれないもんでぇ、へっへっへ・・」
「ナニなすりつけようとしてんだよ、」
「本当の事だろうがよお、」
「ぁああぁんん?」
「ったく、お前らはいっつも・・」
「あたしはなんもしてないんだけどねぇ、」
眉間に皺を寄せて頭を掻くマージュは、明らかに不満そうな、とばっちりなのだが。
ついでに、横を見れば近くに立っているシンは、相変わらず、別に表情も無いのだが。
マージュは折り曲げた脚の上で、頬杖を突いて。
「はぁ・・っ、ったく・・・。」
・・横目の端に見えた、自然と視界に入るロヌマが、オニギリを全部頬張った、ご機嫌な様子だ。
「・・にしても、あんた、いつになくテンション高いね、」
「むふーっ・・!」
「なにかあったのかぃ、」
そんなロヌマに、少しはつられたマージュもほんの少しばかりか、口端を上げていた。
「おいマージュ、ロヌマを甘やかすんじゃねぇえぞ」
「あんたらだろ・・!」
「ぁあん?どこがだ??」
――――――動きがあったのに気が付いて、その顔を上げた。
振り返るマージュも、気が付く。
ロヌマが笑う、そのステージへ向ける横顔から・・目を離す――――――――
―――――あー、アぁァ・・・。・・・・・いけるか?ちゃんと通じてる。あぁ、OKだ。ごほん。・・さて、全員集まってるな。』
そうして、ステージの上で全ての彼らの注目を少なからず集めていた彼が、一歩進み出た。
「とっくに集まってるからな、」
「お前らを待ってやってたんだろうが、」
周りは慣れたもののようで、すかさず野次などが飛んで来てるが。
その動きに他に気が付き始める彼らが、次第に注目をさらに集めていく。
『――――あぁ。あぁ、言いたいことはわかる。もう始めるとするか』
――――――ぉー、やっと始まるっっぽいってよ、ラッド
―――――ぉぁー、やっとだなぁ?めっちゃ待たされたよなぁ?バッキバキだろ?ロアジュ?
―――――――ん?ああ、・・どういう意味だ?
―――――わかるだろ?待ちすぎて身体がバッキバキ。なぁ?フィジー?
――――あは、それはあるかも、
「今日はただの立食パーティーじゃなかったのかよ?」
「はは、」
会場にいるほぼ全ての人が、仲間へ声をかけ、前に立つ彼の動きへ注意を向けていく。
『あー。納得していない奴らもいそうな気がするんで、いちおう理由を言わせてもらうとだな。
こっちで機材関係のトラブルがあったわけだ、』
―――――ぅわ、も、もう始まるって、
―――――――・・・緊張だ、
―――――そう、き、緊張ね。うん、楽しまないとね、・・楽しもう、楽しもう、
―――――うん、
――――はい、
『・・の要件が無いとか、プログラムが禁止されてるとか、俺にも詳しいことはわからんが、用意してきたものがそのまま使えなかったらしい。
まあその、なんだ。
作業してくれた専門家たちには感謝をしたい。』
――――――・・っはっハぁ・・、はっハぁ・・・
――――・・・?・・どうした?
――――――――緊張してるんだろ。
―――――――ばっか、してねぇえよ・・っ
―――――お前に言ったわけじゃ・・お前もか?ミモ?
――――――――――・・・してねぇけどな?ルガリ?大丈夫か?なにしてんだ?
――――はぁ・・・だるぃ・・深呼吸・・・
『話が長くなりそうだ。お前たちを待たせたら何が起きるかわからないから、もう始めるぞ。』
「自分から始めたんだろうがよ、」
「はやくしろよー」
―――お、あれ見ろよ、隊長たちがいるっぞぅ、セイガ、
―――――現役の人たちばっかりだ
―――――――やっぱりヤベぇメンツだ
―――――おいデン、手ぇ振るとこじゃないだろ、目ぇつけられないか・・?
――――――姉御に張っ倒されるぞ
―――――やっぱ、マジでなるべく目立ちたくねぇな・・・
――――なに言ってんだよ、ガーニィ、
―――俺らが普通にやってても目立つわけないだろ
――――それな、
―――――――それな、
『じゃあ、まずは紹介から・・・』
「前置きが長くねぇか?」
「遅いんだよ、もったいつけやがってー」
『ぁあん?』
「もう始めていいんじゃねぇかー、」
「そうだぞ、おっそいぞー」
「おそいんだよ、」
―――――――オっそいゾぉーー!
―――――うおいバッカ、ヤめろロヌマ、だまれ、本気で乗っかんじゃねえ。シン、こいつの口をふさいどけよお、
――――――だっはっは、
――――笑ってんじゃないよ、ゴドー。シン、しっかり掴まえときな、
『バークたちの声が、よく聞こえるな?』
って、集まった人たちからは笑いが漏れてたり、何のことかわからずに周りを見回した人たちもいるが。
『ごほん・・・。
さて。
これは俺たちの、『EAU』の新しい試みの1つでもある。
特別なものになることを期待している。
・・スペシャルなトレーニングだ。
初めてなので、俺たちも慎重になっている。』
落ち着いて伝えたその声で、その場の誰もが口を閉じていく。
彼らそれぞれがステージの上を、『EAU』たちが立つそこを見上げていた。
表情が動いて、わずかに何かが浮かんで、それらはなにかに消えて。
それすらわずかに滲み出した者もいる。
『・・真面目に話すのは良くないか?』
って。
・・笑う人達がいて、誰かが手を叩く。
そうすると、拍手が増える。
大きくなってくると、指笛を鳴らす人もいた。
それらを受け取った彼は、くしゃっと、短く笑顔を見せて、一呼吸を置いた。
――――――好い雰囲気、だな」
って、隣で拍手も送っていたガイが、言って寄越した。
ガイは、そんなノリが気に入ってるようで、笑ってるけど。
彼らを眺めていたミリアが、横目にそんなガイを見たけれど。
それから、サンドイッチをまた小さく、はむっと食べて、モグモグする。
「そうか?スベってんじゃね?」
って、傍でケイジが、ひねくれたようなことを言ってる、斜めに立っているし。
まあ、ちょっと意地悪く笑ってるのも、ケイジのいつものことだ。
その斜め後ろのリースをちょっと覗けば、特にこれといった感情は持ち合わせていないようだけど。
少し瞬くような仕草で、周りの人たちの様子と状況を平和に眺めているようだ。
ただの我関せず、かもしれないけど。
「楽しそうじゃんか?なあ?」
またガイに聞かれたミリアは、振り返って目が合ったので、肩を軽く竦めておいた。
ガイが微妙な顔で、同じくらいに竦めて返してきたけど。
『紹介が要るかどうか考えたが、』
それから、スピーカーを通した声に反射的に、ミリアはステージの彼らを見上げた。
・・サンドイッチを、小さな口ではむっと食べて。
「不慣れなヤツらもいるんだ。やはり顔だけでも紹介しておこう。
今回、帯同したエンジニアの人たちだ。
ここにいない人もいるが、裏でいろいろやってくれている。
そして『EAU』の、ある意味、最も怖いボスたちだ、』
彼が大きく手で示すのは、少し後ろに控えていたり、端にいる責任者らしき人たちで。
『ちょっとは愛想を見せてくださいよ、』
言われたからか、中には演技ぶったような礼をして見せたりする人もいたり。
手を上げて挨拶にする人がいる中で。
知っている人、アイフェリアさんの姿もあった。
アイフェリアさんは、小さく手を上げて見せたようで、少し苦笑いしているようにも見えた。
急に言われたから、戸惑ったのかもしれない。
その他にも何人か知っている。
『みんな優しい隊長さんたちだ。
顔を覚えておけよ?』
――――――ミリアは、サンドイッチを喉を小さく鳴らして、飲み込んだ。
・・・・それから。
少し大きく息を、吸って。
胸を、少し膨らませた。
『
『EAU』にいる限り、忘れてはいけない顔だ。
さて、挨拶は終わりだ。
始めよう。
』
―――――静かな、胸の中に、鼓動が聞こえた、ような――――――
・・ふぅ・・・と、長く。
ミリアが、息を、ゆっくりと吐いていく。
その小さな揉めごとへ、傍の仲間と目配せして、彼らがまた目を向けていた。
「あいつら元気有り余ってんのかな、」
「知り合いだって?マシュテッド、」
「いや、あいつらとは話したことはないよ。トレーニングで見かけたぐらいかな」
話しながら向こうへまた目をやる彼らは、ただ少し退屈な時間を過ごしているだけだ。
顔を上げた1人が手持ち無沙汰に、椅子やテーブルに置いていた手を離したり。
「なんだ?なんかあったのか?」
仲間と会話して暇をつぶしをしていた1人や、飲み物のボトルのラベルから顔を上げたり、テーブルの縁に寄り掛かっていた身体を起こして向こうを覗き込んだり。
「俺らとそう変わらないよな?なあセイガ、」
1人は、テーブルのスポーツドリンクを手に取って喉を一口湿らす。
「あれ、なんだよ?なぁ?」
「『C』の奴らじゃねぇかな、それっぽい格好だしさ、」
「やっぱそう?」
「プチ暴れたのか?」
「そんな感じか?」
「『C』の知り合いなんているヤツいる?」
「いるか?この中に、」
「外組より、内部組のヤツの方が知ってるんじゃねぇの?」
「なぁなぁ、やり合ったらどっちが勝つと思う?」
「ルールは?」
「とうぜん、フルでの殲滅戦、撃ち合いつったらそれだろ?」
「『C』の奴らって、お守りつきなんだな。」
「『C』は撃ち合いは素人って聞いたじゃんか?」
「なら余裕じゃん?」
「ガーニィ、お前もなんか知らんの?」
「あん?」
そこで別の話を仲間としてたガーニィが、こっちへ振り返っていた。
「ここって、いろんなことが起きて楽しい」
近づいてくる間にも好い笑顔をしてるが。
「人が多くてワクワクすのはわかる、」
「で、あいつらって?」
「見た事はあるな。でも、あいつらあんなに仲が悪かったかなぁ、」
「んなの緊張してるからだろ、わかるわかる、」
って、セイガの横のデンが1人で納得した風に頷いていた。
それを見た彼らは少し顔を見合わせたりするわけだが。
「それでも『優秀な奴らの、』なんだろ?『C』の奴らの、」
「実戦投入の試験って話だぜ、きっと」
「マジで?」
「噂だろ?どっかで聞いたよ」
「テストなんか、ここじゃあみんな、いつもやってるじゃんかさぁ、」
「あいつら、戦闘のプロじゃないんじゃなかった?」
「訓練は受けてるらしい。」
「へぇー」
「マッシュ、勝てんのか?」
「なんだよ、その呼び方、」
「どう思ってんだよ?『B』の顔として比べたくなるじゃんか、」
「なんだそれ?俺が?」
「『機動系』は花形だしな」
「・・そういう言い方は好きじゃないな、」
「なんで?」
「そういうもんじゃね、」
「一目置かれやすいってのは確かだけどな、」
「一目っつったら、あのクロって奴―――――
―――――『3分。3分後だ、ツアーの説明を始める。それまで・・・』
「逆に待ちくたびれてんだよ、」
「早ぁやく始めろよぉおぉおおー」
大柄の男たちが太い声で、子供のように野次る彼らもいるようだ。
『大人しく待ってろ、つってるだろ。3分以内には始める、本当だ』
知り合い同士のノリなのか、よくはわからないが。
「罵声とかこわくね?俺もあいつらんとこ行かなきゃだ、」
ガーニィが少しわざとらしくブルっと震えて、クルっと踵を返した。
「『クロ』ってヤツがなんだ?」
呼び止められたガーニィが、顔だけで。
「クロ、あぁ、あいつ、『C』内ではちょっと注目されてる1人って聞いた、」
「マジか、」
「それ以上はよく知らん、っじゃ、」
「そういう情報、ワクワクする、」
それを聞いて、にっと笑って見せたガーニィがちょっと急いで、小走りに離れて行くわけで。
「クロ?」
「あいつか?」
「あの女、クロ、」
「ぁあ、髪短いほう?」
「でも、あいつってこの前のトレーニングじゃ、運動面は大したこと無さそうだってさ?」
「見たのか?」
「前の合同訓練で。ちょっとだけ、まず『機動系』じゃねぇな、」
「あ、『金色』のヤツか」
「金色?」
「なんだそれ?」
「マシュテッド、見たのか?」
「訓練終わりに、ちょっと人だかりができてたんだ、」
「戦えんのか?」
「さあ?」
「そんなのわかんねぇし、」
「そもそも、それを確かめに来てんだろ?ここに、」
「それな、」
「だ、」
「俺らだってそうだしな」
「ははは、だな。」
「いま笑ってる奴は余裕、認定した、」
「『果たして、ご馳走を『C』に取られてしまうのかぁあ・・・?』」
「なんだそれ、へへ、」
「ヤベェ、そーなったら姉御にどやされる、」
「お、デンたちんとこの担当、かなり厳しいって――――――
――――――――ぁぁあ・・?お前らの仕事だろうがぁあよぉおおぉ・・・」
地響きのような声が突然、響いたのだから。
ビクッと震えた彼らは、周りをきょろきょろ見回していた―――――――
――――――――うゎぉ?」
「なんだ?・・?・・」
大きな腹からの声に周りが反応する、そんな中をガーニィも小走りの間に、びくっとしていたのだが。
「バークの野郎。相変わらず声がでけぇ、」
周りから聞こえた舌打ちついでの文句にピンと来て、ちょっと目を凝らす。
「バーク・・?・・・」
ガーニィが人知れず、にっと笑って、その声がした向こうを覗こうとしつつ。
「ガーニィ、」
「どこ行ってたんだよ、」
すぐそこにいた仲間たちに呼ばれたので。
「もう始まるってよ」
「おー、・・あ。あっちにマシュテッドとかロアジュたちがいるぞー」
「知ってるよ、」
仕方なく、軽いステップでくるっと仲間の彼らへと合流する――――――
――――――――お前らに言ったんだぜぇ、おい・・」
・・・ねめつける様な低音の声で彼は、中年のいかつい顔を、少し無精な髭面で、むさくるしい印象の顔を歪めて凄む・・・。
「つったってなぁ、こいつが勝手に・・」
「ぁああぁ、めんどくせぇ・・、マージュ、やれよ・・・」
「ぁあん?」
呼ばれた彼女、大柄の筋骨隆々のマージュは、めんどくさげに不機嫌そうに、その椅子に腰かけているまま、大きく肩を動かして不満を見せた。
「おい、聞けよ」
「『めんどくせぇ』が本音だろ、先に漏れてるぞ、」
「うるせぇ、ゴドー、」
ゴドーに横柄な大きな図体の彼は、ぶっきらぼうなしゃがれ声が独特な響きでもある。
無関係な周囲の彼らも、顔見知りだが、慣れたはずのその大きな声の抑揚に、たまに振り返るくらいだ。
「ヤダよ。あたしの仕事じゃねぇっつってんだろ、バーク。」
マージュは、太くて逞しい脚を組み、椅子の上でそのタンクトップの腕に盛り上がる上腕筋を動かし、口に運ぶ黒い『ライスボール』、黒い海苔で巻かれた、『オニギリ』とも言うんだったか、それを齧った。
中身は白くて柔らかい米粒、甘味さえ感じる米が詰まっている、その中には塩漬けの魚の味のペーストらしきものが入っていて、独特の香りも悪くはない。
「リーダーの俺が言ってんだぞっ・・」
バークが不満を懇願しているようだが。
「そりゃ信頼だろ、」
「ぶっ、信頼、」
「笑うんじゃねえぇえよ、ゴドー。・・はぁ~、俺は恵まれねぇなぁ、部下になぁ、ぜんぜんなぁあ・・・」
バークが大きな図体でため息を吐く、その様がわざとらしいのだが、そのやる気を失くした目線は『そこ』に留められていた。
さっきから言い合っている彼らの横で、マージュの横で、大柄な彼らに囲まれていても、気にも留めずに腰掛けてオニギリを頬張っている、特に小柄なロヌマがいる。
というか、食べていてご機嫌な様子は、話もぜんぜん聞いちゃいないようだ。
さっき、どこからかそのオニギリを持って戻ってきてから、美味しそうに口に詰め込んでいる。
連れ帰ってきたゴドーとシンに話を聞いていたので大体わかったが、ちなみに、マージュが齧っている『それ』も、ロヌマが持ってきたヤツを半分コしたものである。
それは、シンたちに『食い過ぎだ』と言われたからだが。
「そもそもゴドーの所為なんだろ・・?」
マージュがそう、言ってきた。。
「おぉおっと、マージュおまえぇ、」
「ゴドーっ!」
甲高い声のロヌマが急に、とりあえず元気にご飯粒を飛ばしたが、みんなの注目を集めるくらい邪魔してきたのは、ただ、反射的に名前に反応しただけのようで、口元を拭うロヌマは、話の内容をやっぱりそんなに聞いちゃいないと思う。
「・・あぁん?どういうことだ?」
もうそんなものも慣れてきているバークがゴドーへ、ジロりと眉を寄せれば、ゴドーは顔を背けて、宙に浮いてるゴミでも探しに、目があらぬ方へ泳いでいた。
「・・・・」
「・・っ・・・」
それでも、バークとバッチリ目が合ってしまったゴドーが、慌てて取り繕うようだ。
「ちげーよ、ちげーよ、俺だけの所為って言うなよな?」
「あぁん?」
「待てよ、その言い方も良くねぇな。だってそうだろ?おかしな噂を流す連中なんてのはそこら中にいるんだぞ?そりゃあ俺も注意しようとはしたんだけどな・・言うだろ?『冗談は真に受けたヤツが、バカを見る』ってな?・・・・な?」
歯を見せてウィンクするゴドーが、言い切れていなかったそれを。
「あぁぁんだとぉお・・・?」
バークが、やはり低音を響かせた・・・腹に溜め込んだ衝撃を、次の瞬間にまで備えて・・。
「そりゃあ・・、そうだよなぁ・・・、」
低くてでかい声のバークが、心底、ため息のように・・納得したようだ。
「・・はぁ?」
マージュが、食べながら見てた顔を顰めていたが。
「だろぉ?」
ゴドーとバークがわかり合ったようだ、笑みを見せてジェスチャーで指をビっとお互いに差し合い通じ合った。
『お前、なかなか言うじゃねぇか』とでも伝え合ったようだ。
「んなわけねーだろ、」
マージュが文句を言っていたが。
「おぉい、ロヌマぁああ・・!!遊んでんじゃねぇぞぉ・・!」
それは聞こえないのか、バークがロヌマを腹の底から震わせるように𠮟っていた。
「はぁ・・、」
それでマージュが頭が痛そうなため息を吐いた、・・オニギリをその口に全部押し込んだが。
「ふゎあ・・?」
ちょっと遅れて気が付いたロヌマが、口を大きく開けたまま、バークたちにきょとんとしてた。
「勝手にどっかに行くんじゃねぇえぇよぉお、お前はよお?しかもさっきから食ってばっかりだろうがよぉお・・」
「ふぁあ、ッフん・・っ・・」
モグっと、それでも、言われながらも食べたロヌマがオニギリをモグモグしながら、バークを。
「聞ぃけえよおぉおお、」
バークが文句だが。
「しかもお前、似合ってなかったぜ、ロヌマ。あのいびりキャラ、はっはぁ、イかした悪役ぽかったぜ、」
ゴドーが既に調子が戻って、ニヤっと、悪戯げに親指上げをロヌマへ見せてた。
「ふぁがー・・・なぬっ!」
ロヌマがオニギリを食べようとして、驚愕してた。
「ぁ、くやクっ・・!っ・・?」
「あぁ?なんだぁ?どうしたぁ?」
「ぶははっ、」
バークが不思議そうで、ゴドーはロヌマを笑ってたが。
「ははぁ~ん・・?カマしにでも行ったのかぁ?」
バークは自分で納得したようだ。
「ロヌマ・・、オレたちゃ舐められたら終わりの稼業だぜ?・・前も言ったかぁ?いいか・・?戦いってのはなぁ・・・?」
「あくやくじゃないぞぉ!・・・!」
「『ハッタリが大事なんだぜぇっ』、聞けよ、俺の話をよぉお、」
「ったく。ロヌマ、いい加減覚えな。こいつらは悪い奴らだ、って。」
「・・ふぁぐっ、」
って、ロヌマが返事なのか、それよりも、オニギリを齧っているけれど。
「お前ら静かにしてろ、もう始まるって言ってんだろ。特にバーク、ったくよ」
ステージの上から注意された、スピーカーは通ってないが。
「あん?おぉっと、すいやせん、」
「ロヌマもな、」
「オう!」
「・・声が大きいんだよ、お前らは」
「いやーすいやせん、なんつっても、部下に恵まれないもんでぇ、へっへっへ・・」
「ナニなすりつけようとしてんだよ、」
「本当の事だろうがよお、」
「ぁああぁんん?」
「ったく、お前らはいっつも・・」
「あたしはなんもしてないんだけどねぇ、」
眉間に皺を寄せて頭を掻くマージュは、明らかに不満そうな、とばっちりなのだが。
ついでに、横を見れば近くに立っているシンは、相変わらず、別に表情も無いのだが。
マージュは折り曲げた脚の上で、頬杖を突いて。
「はぁ・・っ、ったく・・・。」
・・横目の端に見えた、自然と視界に入るロヌマが、オニギリを全部頬張った、ご機嫌な様子だ。
「・・にしても、あんた、いつになくテンション高いね、」
「むふーっ・・!」
「なにかあったのかぃ、」
そんなロヌマに、少しはつられたマージュもほんの少しばかりか、口端を上げていた。
「おいマージュ、ロヌマを甘やかすんじゃねぇえぞ」
「あんたらだろ・・!」
「ぁあん?どこがだ??」
――――――動きがあったのに気が付いて、その顔を上げた。
振り返るマージュも、気が付く。
ロヌマが笑う、そのステージへ向ける横顔から・・目を離す――――――――
―――――あー、アぁァ・・・。・・・・・いけるか?ちゃんと通じてる。あぁ、OKだ。ごほん。・・さて、全員集まってるな。』
そうして、ステージの上で全ての彼らの注目を少なからず集めていた彼が、一歩進み出た。
「とっくに集まってるからな、」
「お前らを待ってやってたんだろうが、」
周りは慣れたもののようで、すかさず野次などが飛んで来てるが。
その動きに他に気が付き始める彼らが、次第に注目をさらに集めていく。
『――――あぁ。あぁ、言いたいことはわかる。もう始めるとするか』
――――――ぉー、やっと始まるっっぽいってよ、ラッド
―――――ぉぁー、やっとだなぁ?めっちゃ待たされたよなぁ?バッキバキだろ?ロアジュ?
―――――――ん?ああ、・・どういう意味だ?
―――――わかるだろ?待ちすぎて身体がバッキバキ。なぁ?フィジー?
――――あは、それはあるかも、
「今日はただの立食パーティーじゃなかったのかよ?」
「はは、」
会場にいるほぼ全ての人が、仲間へ声をかけ、前に立つ彼の動きへ注意を向けていく。
『あー。納得していない奴らもいそうな気がするんで、いちおう理由を言わせてもらうとだな。
こっちで機材関係のトラブルがあったわけだ、』
―――――ぅわ、も、もう始まるって、
―――――――・・・緊張だ、
―――――そう、き、緊張ね。うん、楽しまないとね、・・楽しもう、楽しもう、
―――――うん、
――――はい、
『・・の要件が無いとか、プログラムが禁止されてるとか、俺にも詳しいことはわからんが、用意してきたものがそのまま使えなかったらしい。
まあその、なんだ。
作業してくれた専門家たちには感謝をしたい。』
――――――・・っはっハぁ・・、はっハぁ・・・
――――・・・?・・どうした?
――――――――緊張してるんだろ。
―――――――ばっか、してねぇえよ・・っ
―――――お前に言ったわけじゃ・・お前もか?ミモ?
――――――――――・・・してねぇけどな?ルガリ?大丈夫か?なにしてんだ?
――――はぁ・・・だるぃ・・深呼吸・・・
『話が長くなりそうだ。お前たちを待たせたら何が起きるかわからないから、もう始めるぞ。』
「自分から始めたんだろうがよ、」
「はやくしろよー」
―――お、あれ見ろよ、隊長たちがいるっぞぅ、セイガ、
―――――現役の人たちばっかりだ
―――――――やっぱりヤベぇメンツだ
―――――おいデン、手ぇ振るとこじゃないだろ、目ぇつけられないか・・?
――――――姉御に張っ倒されるぞ
―――――やっぱ、マジでなるべく目立ちたくねぇな・・・
――――なに言ってんだよ、ガーニィ、
―――俺らが普通にやってても目立つわけないだろ
――――それな、
―――――――それな、
『じゃあ、まずは紹介から・・・』
「前置きが長くねぇか?」
「遅いんだよ、もったいつけやがってー」
『ぁあん?』
「もう始めていいんじゃねぇかー、」
「そうだぞ、おっそいぞー」
「おそいんだよ、」
―――――――オっそいゾぉーー!
―――――うおいバッカ、ヤめろロヌマ、だまれ、本気で乗っかんじゃねえ。シン、こいつの口をふさいどけよお、
――――――だっはっは、
――――笑ってんじゃないよ、ゴドー。シン、しっかり掴まえときな、
『バークたちの声が、よく聞こえるな?』
って、集まった人たちからは笑いが漏れてたり、何のことかわからずに周りを見回した人たちもいるが。
『ごほん・・・。
さて。
これは俺たちの、『EAU』の新しい試みの1つでもある。
特別なものになることを期待している。
・・スペシャルなトレーニングだ。
初めてなので、俺たちも慎重になっている。』
落ち着いて伝えたその声で、その場の誰もが口を閉じていく。
彼らそれぞれがステージの上を、『EAU』たちが立つそこを見上げていた。
表情が動いて、わずかに何かが浮かんで、それらはなにかに消えて。
それすらわずかに滲み出した者もいる。
『・・真面目に話すのは良くないか?』
って。
・・笑う人達がいて、誰かが手を叩く。
そうすると、拍手が増える。
大きくなってくると、指笛を鳴らす人もいた。
それらを受け取った彼は、くしゃっと、短く笑顔を見せて、一呼吸を置いた。
――――――好い雰囲気、だな」
って、隣で拍手も送っていたガイが、言って寄越した。
ガイは、そんなノリが気に入ってるようで、笑ってるけど。
彼らを眺めていたミリアが、横目にそんなガイを見たけれど。
それから、サンドイッチをまた小さく、はむっと食べて、モグモグする。
「そうか?スベってんじゃね?」
って、傍でケイジが、ひねくれたようなことを言ってる、斜めに立っているし。
まあ、ちょっと意地悪く笑ってるのも、ケイジのいつものことだ。
その斜め後ろのリースをちょっと覗けば、特にこれといった感情は持ち合わせていないようだけど。
少し瞬くような仕草で、周りの人たちの様子と状況を平和に眺めているようだ。
ただの我関せず、かもしれないけど。
「楽しそうじゃんか?なあ?」
またガイに聞かれたミリアは、振り返って目が合ったので、肩を軽く竦めておいた。
ガイが微妙な顔で、同じくらいに竦めて返してきたけど。
『紹介が要るかどうか考えたが、』
それから、スピーカーを通した声に反射的に、ミリアはステージの彼らを見上げた。
・・サンドイッチを、小さな口ではむっと食べて。
「不慣れなヤツらもいるんだ。やはり顔だけでも紹介しておこう。
今回、帯同したエンジニアの人たちだ。
ここにいない人もいるが、裏でいろいろやってくれている。
そして『EAU』の、ある意味、最も怖いボスたちだ、』
彼が大きく手で示すのは、少し後ろに控えていたり、端にいる責任者らしき人たちで。
『ちょっとは愛想を見せてくださいよ、』
言われたからか、中には演技ぶったような礼をして見せたりする人もいたり。
手を上げて挨拶にする人がいる中で。
知っている人、アイフェリアさんの姿もあった。
アイフェリアさんは、小さく手を上げて見せたようで、少し苦笑いしているようにも見えた。
急に言われたから、戸惑ったのかもしれない。
その他にも何人か知っている。
『みんな優しい隊長さんたちだ。
顔を覚えておけよ?』
――――――ミリアは、サンドイッチを喉を小さく鳴らして、飲み込んだ。
・・・・それから。
少し大きく息を、吸って。
胸を、少し膨らませた。
『
『EAU』にいる限り、忘れてはいけない顔だ。
さて、挨拶は終わりだ。
始めよう。
』
―――――静かな、胸の中に、鼓動が聞こえた、ような――――――
・・ふぅ・・・と、長く。
ミリアが、息を、ゆっくりと吐いていく。
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